【どの面さげて】(01) 小保方晴子よ、手記より先に実験ノートを出せ

若山氏を悪役に仕立てて血祭りに。でもこれ、本当に貴女が書いているの? (フリーライター 小畑峰太郎)

20160320 10
「あの日に戻れるよ、と神様に言われたら、私はこれまでの人生のどの日を選ぶだろうか」(小保方晴子『あの日』冒頭)――。『あの日』(講談社)のページを開くと、劈頭からおセンチで紋切型な文章の波状攻撃に晒される。その陳腐の嵐に晒然としながらも、知らぬ間にこちらの理性が麻痺してくるといった按配。後味の甚だ宜しくない1冊である。何やら、虚と実の間を小突き回された感じなのだ。科学者として、他人の論文から実験データの数値まで、ありとあらゆる無断盗用で業績を創り上げ、一時は身を立てた小保方女史である。まさか、いくら何でもこの期に及んでゴーストライターの手を借りたとは考え難い。が、それにしてもこの業界にわんさか生息しているゴーストライタータッチの、内容空疎な美文調。その俗臭が鼻を衝く。“コピペ”と“捏造”で成り上がったものの、瞬く間に化けの皮を剥がされてサイエンス村から放逐された小保方の記念すべきフィクションデビューであるか? あ、以前のSTAP論文もフイクションだったから、デビューでもなかろうものだ。だが一読、ノンフイクションノヴェルでもSFでもない。その手の作品に必要な“事実”“科学的裏付け”“飛翔する想像力”は、STAP論文以上に希薄なのだ。まぁ、あの『ネイチャー』にアクセプトされた論文は、アンカーに笹井芳樹という本物の学者を得て、彼の筆に依るもので、起承転結から全体の構成・英語表現まで万全。大人の顔つきで立ち現れたから、大抵の人は信用したのである。こちらは強いて言うなら“私小説”だが、前述したように文章が駄目過ぎる。

一体、小保方は何が言いたくて、こんなシロモノを世に問う気になったのか? まさか、この程度の与太話で、若山照彦(山梨大学教授)にSTAP事件の全責任を転嫁させられると本気で考えた訳ではないだろう。若し、小保方が「世間というものはこんな話でも聞いてくれる」と思っているとしたら、科学者・評論家・マスコミ等の関係者が「そうだったのか!」と膝を打って立ち上がり、彼女の名誉回復に乗り出すとでも期待しているのなら、味噌汁で顔を洗って出直してきたほうがいいに決まっている。ここに小保方の戯言の詳細を書く気にもなれないので、一切省略するが、“若山主犯説”は事件発覚の当初からSNSには確かに存在した。恐らくは、小保方の出身大学や出身母体である研究所の関係者が作り出した“お話”であろうが、一顧だにされなかった。理化学研究所の調査報告が明らかにしたように、若山に幾分かの道義的責任は存しても(この点に関しては笹井も同罪だが)、捏造に関与した等と言われる道理は無い。従って、この本は小保方が過去のSNSに載った文章を大いに利用した気配が濃厚である。次第に自分ひとりを犯人に仕立て上げていく伏線が張られ、罠に落とし込まれていくというストーリー(同書第12章)自体も、特段に目新しいものではない。この本を読んだ読者の中には、「理研と山梨大学の若山が本当に小保方を生贄にして難を逃れた」と信じ込んでしまった善男善女もいるようだが、実際、小保方のマインドコントロールは馬鹿にはできない巧妙なところが厄介なのである。「虚と実の間を小突き回される感じがする」と先述したが、この本には、自分勝手な言い分を曖昧なディテールだけで何度も何度も重ねていくという独特な、というか特異な話法が際立っている。

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【裏切り・化血研処分】(下) 記録偽装、アメリカでは“犯罪”

20160118 04
「1980年代後半より前だったら、アメリカでも今回のような改竄は先ず見抜けなかっただろう」――一般財団法人『化学及血清療法研究所』が約20年間に亘り製造記録を偽装していたことについて、アメリカの査察事情に詳しい医薬品コンサルタントのジョン・リーさんは、こう指摘する。リーさんに依ると、アメリカでは1980年代後半、後発医薬品合社のスキャンダルが社会問題化した。『アメリカ食品医薬品局(FDA)』の承認を得る為に製造記録を偽装したが、査察を行うFDAは見抜けず、ライバル企業の告発で明るみに出た。以後、FDAは記録の改竄を“犯罪”と位置付け、膨大な記録から矛盾点を突き、改竄を見抜く査察技術を磨いてきたという。1997年にイタリアの製薬企業に依る製造記録の改竄が発覚した例では、罰金・追徴金計約3320万ドル(約39億円)が科せられた。FDA査察官の経験もあるというリーさんは、「データの改竄は現在、FDAが最も注視する査察項目の1つ。ヨーロッパもここ数年、追随しつつある」と分析する。アメリカ東部のメリーランド州に本部を置くFDA。広報担当のサラ・ペディコードさんは説明した。「(ワクチンや血液製剤を含む)生物製剤ですね。査察の対象は約5800施設。2014会計年度に実施した査察は国内約2000ヵ所、国外の施設は65ヵ所」。同会計年度に行った国外査察の1つが、カナダのインフルエンザワクチン工場だ。イギリスの製薬大手『グラクソ・スミスクライン』の北米向け製造拠点で、精製水を作る過程の細菌混入防止策が不適切等として、2014年6月にFDAの警告を受けた。

製薬企業の国際化が進む中、日本企業も例外ではない。『第一三共』は、買収したインドの会社がFDAの査察を受け、「衛生管理に問題がある」等としてアメリカへの輸出を禁止された。2014年に会社を手放し、インドからの撤退を余儀なくされた。「国際的な基準から逸脱すれば、経営に打撃を与えかねない」「現場に基準の順守を如何に徹底させるか、常に神経を尖らせている。(化血研の問題は)信じられない」。製薬大手の関係者は口を揃える。日本で製造記録を偽装しても、巨額の制裁金を科せられることはない。国の保護政策の下、日本の血液製剤とワクチンメーカーは、国際化に取り残された“特殊な業界”として存続してきた。規模が小さく、どこか1つに問題が起きれば、供給不足に陥る構造的間題を抱える。「国家レベルの危機管理が日本は遅れている」。先月24日、小児科医や患者団体が厚生労働省で記者会見を開き、口々に訴えた。厚労省は化血研製のワクチンの出荷を一旦差し止めたが、医療現場が混乱。今月8日、化血研に110日間の業務停止命令をしたものの、ワクチンは全て対象から除外せざるを得なかった。薬事行政の根幹を揺るがした化血研問題。厚労省は先月25日、血液製剤・ワクチン産業の在り方を見直す作業部会を急遽設置した。メンバーの1人である東京大学の渋谷健司教授(国際保健政策学)は、「ワクチン等の産業は国が関与する必要があるが、現在の“護送船団”では問題が繰り返されるだけだ」と指摘する。作業部会は14日に初会合を開き、今春を目途に結論を出す。国民の健康・安全を守る業界として再生できるか。失われた信頼を取り戻すのは容易ではない。


≡読売新聞 2016年1月11日付掲載≡


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【裏切り・化血研処分】(中) 国が依存、対応に矛盾

20160118 03
先月中旬、一般財団法人『化学及血清療法研究所』に厚生労働省から連絡が入った。「3月までに500万人分のワクチンを製造してほしい」。エジプトを中心に人への感染が急増している鳥インフルエンザの国内上陸に備え、国が備蓄するワクチンの製造依頼だった。発注額は20億円を超える。厚労省はその数日前、化血研に組織の見直しを求める異例の行政指導をしたばかり。化血研の元理事は、「厚労省は化血研に頼る一方で、『業務停止をしろ』と言う。対応は矛盾している」と疑問を投げかけた。同省側にも、止むに止まれぬ事情があった。他メーカーのワクチンは有効期限が1年なのに対し、化血研のワクチンは3年と長い。しかも、僅か3ヵ月で同じ品質の製品を納品できるメーカーは、国内には化血研以外に無かった。今月8日に出した業務停止命令で、厚労省が季節性インフルエンザワクチンを処分対象から外したのも、事情は同じだった。同ワクチンは年間3000万人が接種し、大きな利潤を生む。同省の担当者は「本来は製造停止にしたかった」と言うが、化血研の同ワクチンのシェア(市場占有率)は約3割。他の3メーカーに増産を打診したが、「生産が間に合わない」との回答を受けていた。同省幹部は、「処分の実効性が乏しいことはわかっているが、国民の健康に直結するワクチンや血液製剤を切らす訳にはいかなかった」とジレンマを口にした。

結局、同省は化血研の35製品のうち、8割近い27製品は業務停止の対象から外さざるを得なかった。血液製剤やワクチンの製造は公益性が極めて高い。しかも、需要が限られている為、新規参入し難い分野だ。不足すれば患者や国民の命に関わる一方で、外国製では有事に安定供給される保証が無い。ただ、国のジレンマは、ワクチンや血液製剤の安定供給を特定のメーカーに委ねてきたツケとも言える。「国の体質は昔から変わっていない」。患者団体『ポリオの会』代表の小山万里子さん(66)は指摘する。ポリオワクチンは2000年代以降、安全性の高い不活化ワクチン導入が世界的に広がったが、国内では稀に手足の麻痺等の副作用を起こす“生ワクチン”の使用が続いた。当時、ポリオワクチンの製造は1企業だけ。この企業に依る不活化ワクチンの開発が遅れたのが原因だったが、国は積極的な対策を講じなかった。結局、国内で不活化ワクチンが導入されたのは2012年になってからだった。小山さんは、「国は『化血研に薬を作る資格が無い』と言うが、国民は化血研の製品を使用せざるを得ない。こんな異常事態を招いたのは、メーカーに依存し過ぎた国の責任だ」と批判した。


≡読売新聞 2016年1月10日付掲載≡

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【裏切り・化血研処分】(上) 寡占の驕り、不正に甘く

20160118 02
厚生労働省の会議室の空気は張り詰めていた。血液製剤の安全性について議論する昨年9月9日の専門家委員会。不正発覚から3ヵ月以上が経過していたが、一般財団法人『化学及血清療法研究所』の内部調査報告書には、未承認の方法で血液製剤を製造した理由すら書かれていない。「いつ発覚したのか?」「客観的な調査と言えない」――委員らの厳しい指摘に、化血研の宮本誠二理事長(右写真)は謝罪を繰り返しつつ、強い自負心を覗かせた。「不謹慎かもしれませんが、如何にいい製品を作るかを検討しておりました」。血液製剤の国内メーカーは、化血研等の3法人に限られる。化血研はワクチンの国内シェア(占有率)も高い。専門家委員で日本薬科大学の山口照英客員教授は、「患者に必要な製剤を作っているという驕りから、法令違反に問われないと思っていたのだろう」と振り返る。 しかし、驕りは事勿れ主義となり、不正を正すチャンスを摘んでいた。元幹部は2007年、部下から相談を受けた。「血液製剤の製造工程で、国の承認を受けずに抗凝固剤の“ヘパリン”を添加しています」。不正を改めようとヘパリンを使わない製法を実験したが上手くいかず、結局、不正そのものに目を瞑った。

今月6日に取材に応じた元幹部は、「これほど大きな問題になると思っていなかった」と唇を噛んだ。別の幹部も2012年に不正の相談を受けたが、行動を起こすことはなかった。認識の甘さは、先月2日に自ら公表した処分案にも表れていた。理事全員が辞任又は降格することを発表して幕引きを図ったが、厚労省は同日、事業譲渡も含む組織の見直しを求める異例の行政指導を出した。不正や隠蔽を解消できなかった経営陣の一部が残ることへの強い不信感が大きく影響した。「何のチェックも利かない組織だ」――塩崎厚労相は、化血研の処分方針を発表した8日の閣議後の記者会見で、組織の体質を槍玉に挙げた。化血研の歴代常勤理事は内部出身者で固めてきた。評議員も、18人中10人を化血研やその関連法人のOBら“身内”が占め、外部の評議員も熊本県の医師会・薬剤師会の会長・熊本大学幹部・県内企業のトップらが慣例で就任してきた。年3回の評議員会は予算や決算を承認し、理事会の報告を受けるだけの事実上の追認機関となっていた。「覚悟しなければならない」。年の瀬が迫る頃、宮本理事長は従来の方針を変え、全理事に辞任を促した。


≡読売新聞 2016年1月9日付掲載≡
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【人口減時代・何が解決策なのか】(06) 少子化対策の第一歩は産婦人科医不足の解消だ

20151219 09
去年の出生数は、一昨年より約2万6000人減り、過去最少の100万3532人となった。1974年に比べ、40年間で半減という落ち込みぶりは、他の先進国に比べても類を見ない、まさにネガティブスパイラルの状況にある。長年の少子化に依り、性成熟期にある年代の女性の人口そのものが減少し、更に合計特殊出生率の低下が重なれば、子供の数は大きく減ることになる。一方、我が国の高齢化率は欧米諸国の2倍以上のスピードで上昇しており、少子化がこのまま進めば、労働人口の減少は極めて深刻な問題となる。このような超少子・高齢化が進む中、産婦人科医の減少は止まらない。その理由として、過酷な労働条件に依る勤務医の疲弊に加えて、病院における低水準の待遇、初期研修制度において産婦人科が必須でなくなったこと等が挙げられる。これは、非常に由々しき事態である。高齢化問題は社会的にも重要視され、多額の税金が投入されているが、少子化対策とその背景にある女性の健康問題は、これまで軽視されてきた。出生率を回復させる為には、高齢者への給付に偏っている社会保障財源の配分を見直し、女性の健康と子供の為の支援を充実させることを考えなければならない。産婦人科医は、女性の健康を全人的に支援し、その幸福を追求するプロフェッションであり、女性と子供への投資が将来の社会保障制度の支えを増やすことに繋がることを、国民に丁寧に説明する役割を担っている。女性が心健やかに子供を産み、安心して子育てや教育ができる成熟した社会の実現無くして、加速化する少子化の流れを断ち切ることはできない。

我が国の女性は、結婚しないと子供を産まない状況にある。経済的支援が得られず、女性が1人で子供を産んで育てられないような状況では、婚外子の養育は困難なことが多い。年間20万件に及ぶ人工妊娠中絶の中には、出産しても養育できない為に、止むを得ず中絶するケースがかなりの割合で含まれている。2009年には、出産育児一時金が38万円より42万円に増額され、妊婦健診は14回まで公的助成されるようになった。こうした妊娠・分焼時の経済的負担の軽減に依り、2005年に1.26と最低であった合計特殊出生率は微増し、2013年には1.43まで回復した。この事実は、妊娠・分娩時の経済的問題を含めた不安要因の解消に依り、出生率の低下をある程度阻止できることの証左たり得る。これまで、政府が取り組みを進めてきた待機児童解消加速化プランの推進等の子育て支援の充実に加え、地方から大都市への若者の流出に依る東京一極集中に歯止めをかけることが大切となる。若者の雇用対策・定住促進の為の関連政策との連携等、都市と地方の其々の特性に応じた少子化対策に、国・地方自治体・都道府県・基礎自治体が其々連携し、一体となって取り組む必要がある。その為には先ず、若者にとっての妊娠・分娩環境を整える為の地方独自の取り組みが必要となる。安心・安全な周産期医療の確立無くして、若者の定住を望むことはできない。結婚を希望し、「子供を持ちたい」と思う人が減少していないのに、未婚率は年々上昇している。若い男女の結婚や出産に対する希望を叶える第一歩は、女性にとって医学的に見て理想的な妊娠年齢が、25歳から35歳であることを知ることより始まる。結婚や妊娠を、望まない妊娠・避妊というネガティブな切り口で捉えるのではなく、如何にしたら妊娠できるか、妊娠することの素晴らしさといったポジティブな考え方で、思春期から教育することが大切となる。これまでの文部科学省に依る学校教育は、生殖に関する知識の啓発という観点からは十分とは言えず、若い男女が妊娠現象を考える上で有用な情報が得られる手段とは、必ずしも考え難い。生殖年齢にある女性が、この時期に分娩できるような社会や職場の環境作りが何よりも大切である。その為には、高齢妊娠の困難性や危険性を思春期より教育することが重要となり、その先導者たらん産婦人科医の役割は枢要なものとなる。

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ジャンル : 政治・経済

【裏切り・化血研不正】(04) 患者の不安重く…手術延期、他社製品使用も

20151213 04
「薬は患者の命に直結するもの。『重大な責任を負っている』という認識が欠けているとしか思えません」。患者の母親は今月上旬、『荻窪病院』(東京都)理事長の花房秀次医師(60)に訴えた。息子は、出血性疾患の『フォンヴィレブランド病』。今年7月に骨移植の手術を受けることが決まり、この病気に唯1つ止血効果のある、一般財団法人『化学及血清療法研究所』の血液製剤『コンファクトF』を手術中に使う予定だった。だが6月、化血研が未承認の方法で血液製剤を製造していたことを知らされ、手術を延期した。子供の成長を考えれば、手術は待ったなしだ。化血研に問い合わせても、返事は無い。説明に訪れた化血研の担当者に花房医師が、承認書に記載の無い添加物の種類を尋ねたが、「国の委員会に説明するまで答えられない」の一点張り。「先ず、患者と向き合うべきだ」。現場軽視の姿勢に愕然とした。血液製剤の工程で第三者委員会が認定した31件の不正の中で、専門家が最も注目したのは、製造工程の“上流”で抗凝固剤のヘパリンを添加したことだ。ヘパリンが製品に残留すれば、出血し易い血友病やフォンヴィレブランド病の患者には命取りになりかねない。報告書に依ると、添加は1989年頃、国の承認を得る為の臨床試験中に起きた問題を回避する為の苦肉の策だった。日本薬科大学の山口照英客員教授(65)は、「製造工程の中で粗除去されており、承認書の変更を国に申請していれば問題にならなかった」と指摘する。だが、化血研は「やり直しを指示され、市販の遅れが生じる可能性がある」(報告書)等として、この工程を隠したまま臨床試験を続行した。

ヘパリンは、ワクチンの製造過程でも使われていた。ポリオ等の感染を防ぐ4種混合ワクチン。予防接種法で受けるべきだとされる定期接種の1つだ。血液製剤の不正発覚を受けた調査で、承認書に記載せずに成分の抽出に使っていたことが発覚した。厚生労働省は9月に出荷自粛を要請したが、ヘパリンの残留量が検査限界以下等として、2ヵ月後には解除した。だが、現場では混乱が続く。東京都文京区の『細部小児科クリニック』。1歳7ヵ月の次女を連れて接種を受けに来た女性(43)は、「将来、娘に万が一のことがあるかもしれない」と別の会社のワクチンを選んだ。細部千晴院長(53)は、「思った以上にお母さんたちの不安が大きい」と話す。長年、化血研のワクチンを使ってきたが、今後は9日に発売されたばかりの別の会社の製品に切り替えるという。無断で工程を変更し、隠蔽工作を重ねた化血研。第三者委員会の報告書は、「『製造方法を改善しているのだから、当局を誤魔化しても問題はない』という独善的な“研究者の驕り”が、不正の根幹だ」と結論付けた。本来なら、違法な工程の見直しが先決だが、厚労省は大きな副作用報告が無いこと等を理由に、一部出荷を認めざるを得ない。「とても許される行為ではないが、我々の薬の選択肢は限られている」。関西地方の血友病の男性は、苦渋の表情を浮かべた。だが、研究者の暴走は深刻な薬害の温床でもある。花房医師は言う。「多くの患者さんが不安に思いながら使っている。それを肝に銘じるべきだ」 =おわり

■「代替なし」、出荷認める
今回の不正発覚を受け、厚労省は化血研の全ての血液製剤と4種混合ワクチンについて、ヘパリン残留量を検査。「何れも検出限界以下か極微量で、基準値以下だった」としている。インフルエンザワクチンは、添加物として加えた塩化ナトリウム(食塩)の濃度が承認書と異なっていたが、問題が無いことを確認した。残りのワクチンは調査中で、出荷は自粛されている。血液製剤は原則的に出荷を停止しているが、厚労省は、『コンファクトF』を含む5製品12品目については「代替品が無い」等として、出荷を認めている。


≡読売新聞 2015年12月12日付掲載≡


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【裏切り・化血研不正】(03) 国検査“性善説”の甘さ…人手足りず、事前通告

20151213 03
思わず「えっ」と声が出た。今年9月、埼玉医科大学の岡田義昭准教授(59)は、一般財団法人『化学及血清療法研究所』が虚偽の製造記録を作成していたことを、厚生労働省の専門部会委員として聞かされた。驚きつつも、疑問が解けた気がした。今年5月に、「内部告発で化血研の不正製造が発覚した」と聞いた時は、「どうして検査で気付けなかったのか?」と不思議だった。『国立感染症研究所』に勤めた1990~2000年代、製薬会社に対する国の定期的な検査にアドバイザーとして同行。毎回3日間に亘り、承認書・製造記録・試験記録等の「膨大な量の書類に目を通した」という。熊本市にある化血研の本所は検査に協力的で、食堂も綺麗に整備され、良い印象しかなかった。ところが、第三者委員会の調査報告に依れば、化血研は1995年頃から抗凝固剤『ヘパリン』の投入工程等を隠した製造記録を検査用に作成するようになり、予行演習まで実施していた。「書類自体が虚偽なら見抜き様が無い」。岡田准教授はそう言い、「古く見せる為に、紫外線を当てる知恵まで回していたとは。信じ難い」と唇を噛む。

薬害の根絶が求められる中、国は2004年、独立行政法人の『医薬品医療機器総合機構(PMDA)』を設立。プロの“査察官”が検査する態勢を整えた。だが、医薬品の査察官は現在も25人前後で、生物製剤や再生医療の薬等を扱う国内外の約3500施設を順次検査しなければならない。「査察官は、製造記録の記載が正しいのかまでは見なかった。本気で調べるなら、もっと長い日数がかかった筈だ」。PMDAの検査にも対応したことがある化血研の元理事は言い切る。検査の効率を高める為、検査日程を企業に事前通告しているのも、化血研には好都合だった。厚労省は今年9月、化血研に検査に入ったが、その直前、所内ではインフルエンザワクチンの工程で承認書との小さな食い違いが判明していた。しかし、化血研は検査前日に通告があったことから、幹部らが話し合って「積極的な開示は不要」と決定。厚労省は、後日入手した化血研の内部資料で漸く食い違いを知った。この時には、既に内部告発で血液製剤の不正製造が明らかになり、同省に依る追及が始まっていたにも拘らず、化血研は検査の甘さに付け込んでいたことになる。

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【裏切り・化血研不正】(02) 薬害、教訓どこに…元原告、怒りと無力感

20151213 02
「また裏切られた…」。九州在住の血友病患者の男性(50)は、怒りと無力感に襲われた。今月2日、一般財団法人『化学及血清療法研究所』の不正製造問題が大きく報じられ、血液製剤で40年も不正が続いていたことを知った。薬害エイズ訴訟の原告として1996年3月14日、熊本市内の化血研の本所を訪れた。被告5社に全面解決を求めた全国一斉の交渉。原告約10人がテーブルを挟んで幹部らと向き合い、涙ながらに苦しみを訴えた。「製剤を使った人のことを考えたことがありますか?」。男性の声も思わず大きくなった。化血研の非加熱製剤『コンファクト8』は、男性にとって夢の薬だった。血友病は出血時に血液が固まり難い難病だが、使っている限りは普通に生活できた。「化血研の研究者になりたい」とさえ思い、大学は薬学部に進んだ。だが、薬を通じてエイズウイルス(HIV)が体に入ってきた。日本の製薬会社は、安全な加熱製剤への切り替えが遅れていた。男性は、神妙な面持ちの幹部らを「裏切られた」との思いで見つめた。半月後、製薬各社が再発防止を誓い、訴訟は和解した。それから約20年。男性はエイズを発症せずに済み、化血研から別の外資系企業の製剤に切り替えて生活している。血友病特有の関節の痛み等は今でも続く。「交渉で、化血研には血友病患者の苦しみと薬の大切さを伝えたつもりだった。でも、報われなかったのだと今回わかった」

化血研は和解当時、全面的に責任を認める姿勢を見せていた。「『私の子供や孫が同じように感染していたら』と考えると、胸が詰まる」。1996年3月29日、理事長だった酒匂光郎氏(84)は、大阪地裁の法廷で和解成立後に頭を下げた。厚生省の菅直人大臣(当時)や他の各社も同じ場で謝罪。弁護団の山西美明弁護士は、この時、「反省しているのだろう」と受け止めたという。しかし、化血研の第三者委員会の調査報告は、「不正製造が1989年から本格化し、1995年頃からは、国の検査をすり抜ける為に虚偽の製造記録も作成されていた」と認定した。当時、エイズ対策で各社が加熱製剤を一斉に開発し、承認手続きに時間をかけられない状況にあった。調査関係者に依ると、化血研内部には「薬害エイズでは、我々も汚染された血液の被害者だった」という意見が今もあるという。調査報告は、「和解での誓約は上辺だけ」と非難。山西弁護士は、「当時も、『被害が出なければ不正には蓋をしておけ』という程度の考えだったのだろう」と憤る。酒匂氏は今月8日、取材に対し、「(和解後の言葉は)本当の気持ち。患者の子供さんたちが原告席にいるのが見えたから」と話した。だが、不正については、こう答えただけだった。「申し訳ない。何故、こういうことになったのかわからない」

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【裏切り・化血研不正】(01) 閉鎖性、隠蔽の温床…血液製剤部門「文化違う」

一般財団法人『化学及血清療法研究所』(熊本県熊本市)が、未承認の製法で血液製剤を製造し、隠蔽工作を繰り返していた。薬害エイズ訴訟の和解で“薬害根絶”を誓った化血研は、何故患者らを裏切り、国はどうして気付けなかったのか? 40年に亘った医薬品不正を、関係者の証言で追う。

20151213 01
今年5月上旬、霞が関の厚生労働省に封書が届いた。2枚の紙にワープロ打ちの文字が並んでいた。「化血研に所属しています」「ノバクトにヘパリンを入れている」「製造記録は偽の方法」「隠蔽している」。厚労省はこの内部告発を受け、同月下旬に熊本市内の化血研本所に立ち入り検査に入った。「実際の製造記録を見せてほしい」。化血研側は素直に応じ、血液製剤の『ノバクトM』の製造過程に、過去の検査(査察)で出された製造記録には無かった抗凝固剤のヘパリンが添加されていること等が確認された。「理事会で、不正を隠していた書類をずっと見せられていた。情けない」。化血研の元理事は、そう吐き捨てる。2000年代の在任中、毎回分厚い資料が配布されたが、生産実績等が主で、担当部長が一方的に説明するだけで終わったという。不正発覚後、従業員やOBら83人に聞き取り調査を行った化血研の第三者委員会は、「1996年9月の常勤理事会が転機だった」と突き止めた。血液製剤を担当する第3製造部が、虚偽の製造記録を国の検査に提示する方針を報告し、理事から異議は出なかったという。そして、1997年にも同様の報告をしたのを最後に、「不都合な内容は理事会に報告しない」ことが、担当理事や部長の間で申し合わされた。不正は、第3製造部の中で封印された。

化血研本部の一角に、血漿分画製剤(血液製剤)の製造施設がある。従業員はそこを“ブンカク”と呼ぶ。「『ブンカクは文化が違う』と上司から習った。人事も内部で動かしていて、何をしているのかわからない」。他部門の若い男性従業員は、その閉鎖性を指摘する。化血研は1945年、旧熊本医科大学(現在の熊本大学医学部)の研究所を母体に、主にワクチンを製造する目的で設立された。1966年から製造が始まった血液製剤は、1977年には売上でワクチンを逆転した。大きな力を持った第3製造部の部長を1988年から務めたのが、元理事長の船津昭信氏(70)だった。1992年からは、血液製剤の担当理事だった。「エネルギッシュな人物。血液製剤に関して、彼に相談せずに何かをやることはあり得ず、“絶対的権力者”と皆から認識されていた」。化血研の調査に携わった関係者は打ち明ける。1997年以降、第3製造部は製品毎の各部署で隠蔽工作を進めた。検査で過去の製造記録を提示する為、偽造した書類に紫外線を浴びせ、古く見せようとした。1998年には、当時の第3製造部長が新任の課長に、「(記録は)このままでは見せられん。査察対応のものを作らざるを得ない」と提示したが、これも船津氏の了承を得ていた。船津氏は2004年に理事長に上り詰め、2012年に退いた。

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漂流続ける患者たち、“ぐるぐる病院”という闇――無駄な検査で医療費が増大、ドヤ街で患者を物色する男の正体とは…

“ぐるぐる病院”という言葉をご存知だろうか? その実態を知れば、多くの人は驚き、そして憤慨することだろう。だが、問題の所在は広範かつ複合的で、根本的な解決は容易ではない。 (編集委員 庄子育子)

guruguru 01
10年間に70回もの転院を強いられた元患者の白浜秀一さん(仮名)は、入退院の記録を書き留めていた。

「普通の生活を送る有難みを今、噛み締めています」。千葉県のアパートで1人暮らしをする舩山隆次さん(60歳)は、しみじみとこう語る。病院の金儲けの為、転院を余儀なくされた日々を振り返る。2007年10月、舩山さんは勤務先の寮で突然、体の変調を来し、大学病院に救急搬送された。診断は『ギラン・バレー症候群』。筋肉を動かす運動神経が侵されて、手や足に力が入らなくなる難病だ。入院当初の病状は深刻で、自力で体を動かせないだけでなく、自発的な呼吸も困難な状態だった。一時は生死の境を彷徨い、症状が落ち着くまでに1年4ヵ月かかった。その後、リハビリを受ける為に千葉県流山市内の病院へ転院。半年が経過した頃、病院の医療相談員の勧めで同市に住民票を移し、生活保護を申請した。長引く入院生活で仕事と住まいを失い、蓄えも底を突いていたからだ。生活保護を受けると、医療費の全額は税金で賄われ(医療扶助)、自己負担は発生しない。生活保護の受給開始は2009年10月20日。「制度を利用させてもらえて、正直ほっとした」と話す舩山さん。ところが、それからというもの、本人曰く“奇妙な生活”が始まった。病院に言われるまま、何度も転院させられるようになったのだ。以後、5年間に亘って関東6都県の14病院の間を行ったり来たりし、転院回数は計28回に及んだ。転々とする内に、同様に病院回りをする患者と出くわすようになった。親しくなって会話すると、粗例外なく生活保護の受給者だった。

“ぐるぐる病院”──生活保護受給者が頻繁に転院を繰り返すことを、そう呼ぶ。舩山さんは、まさにその当事者の1人だった。舩山さんにとって、ぐるぐる生活は決して本意ではなかった。転院の度に繰り返される検査。短期間で転院する為にリハビリの効果は中々上がらず、抑々満足なリハビリ施設の無い転院先も複数あった。ぐるぐる生活に入って1年余りが過ぎた2010年11月、舩山さんは市に連絡して、福祉サービスを使ってアパート生活を送りたい旨を相談した。手足は不自由だったが、車椅子での移動に支障はなく、身の回りのことをある程度1人でできる状態になっていた。だが市は、「病院から『アパート暮らしは困難』と返答された」として、取り合ってくれなかった。それでも、舩山さんは繰り返し市に退院の希望を伝えた。しかし、その都度担当者は「前例が無い」「自分で住むところを探せば支援する」等と応じるばかり。舩山さんは病院側にも退院に向けて協力を仰いだが、特に動いてくれることはなかったという。納得のいく説明や支援が無いまま、転院を繰り返す日々が続いた。2014年夏、業を煮やした舩山さんは知り合いを通じて弁護士事務所に連絡。国や県に要望書を提出し、2014年10月に漸く退院できた。

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テーマ : 医療ニュース
ジャンル : ニュース

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