地方創生に仕掛けられた罠――“消滅ショック”で始まった“地方侵攻戦略”の正体

2014年5月に発表された日本創成会議のレポートが、あっという間に1年を経たずして国家の大計に潜り込んでしまった。1年前にこんな形で正月を迎えると誰が予測しただろうか。2040年までに全国の市町村の約半数が消滅すると予測した『成長を続ける21世紀のために“ストップ少子化・地方元気戦略”(通称『増田レポート』)』は、『中央公論』誌上での何度かの特集掲載を経て、8月には『地方消滅』(中公新書)という新書にまとめられた。本書は既に17万部を超えるベストセラーとなっている。この間、11月21日には『まち・ひと・しごと創成法』ほか地方創生関連2法案が成立し、創成本部が法定化された。そして、年末の12月27日には『まち・ひと・しごと創成長期ビジョン(以下、長期ビジョン)』『同総合戦略(以下、総合戦略)』が閣議決定されて、政策の具体的な方向性が示されている。こうした一連の政府の対応は増田レポートと連動したものであり、人口減少・地方消滅のショックを煽るこのレポートは、国が新たな政策を地方に導入するためのショックドクトリンを狙ったものだという見方は根強い。

尤も、増田レポートは地方問題を扱う専門家の間では極めて評判が悪く、政府が仕掛けたものにしてはあまりにも現場を知らない内容だ。この間に刊行された主な批判書だけでも、小田切徳美『農山村は消滅しない』(岩波新書)、田村秀『自治体崩壊』(イースト新書)、岡田知弘『“自治体消滅”論を超えて』(自治体研究社)があり、筆者も『地方消滅の罠』(ちくま新書)で細やかながら反論を試みた。これらの批判を総合すれば、『増田レポート』には多くの事実の見落としがあり、またその論理にも重大な欠陥があって、政策として採用するには極めて危ういものだ。「地方のことは地方で決める」と言いながら地方分権は「狭い枠組みだ」と認めず、子供を産む女性の数が減っていることを「直視せよ」と言いながら「生産年齢人口が減少し続けている中で、女性は“最大の潜在力”だ」と矛盾した物言いが続く。地方消滅についても、「地方を守る」風を装いながら「全ての集落に十分なだけの対策を行う財政的余裕は無い」と地方切り捨ての意思を隠さない。それどころか、「規模のメリットを生み出し、人材や資源がそこに集積して付加価値を作り出していく“再生産構造”を持った」地域(地方中核都市)を防衛線とするという主張は、人口規模を規準にした“選択と集中”で地域の淘汰を促す新自由主義的地域政策に展開しており、本レポートは寧ろ地方消滅を加速させるものとして強く警戒されている。現実に、2000年代に進められた平成合併を含む新自由主義的な自治体改革が、まさに地方の人口減少・地方消滅の趨勢を固定化させ東京一極集中が止まらない事態を招いたことは、現場のみならず政府自身も十分に認識している事実だ。“選択と集中”は地域政策には馴染まないのである。増田レポートを政府は採用してはならない。採用する筈が無い。ここで展開されている議論は、人口減少に向き合うどころか人口減少という形で現れてきたこの国の統治の失敗を隠蔽し、更なる崩壊へと導く罠を内包するものだ。

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受注戸数が1年で10倍の『売電住宅』から、次なるブームは“自給自足”へ――『ゼロ円住宅』の夢、消える…太陽光バブル崩壊

太陽光発電で電気を売って住宅ローンをゼロに──。そんな夢は終わりを迎えそうだ。電力買い取り価格の引き下げなどで、『売電住宅』の販売戸数は急降下。住宅メーカー各社は、電力を自給自足する住宅へ軸足を移している。 (島津翔・林英樹)

「爆発的に売れていたんですけどね。今は売りにくくてしょうがないから、お客さんにパンフレットを見せるのもやめました」。大手住宅メーカーの営業担当者はぼやく。手に持ったパンフレットには、太陽光パネルで発電した全量を電力会社に売ることができる、いわゆる『売電住宅』が描かれていた。売電住宅は2012年に“発明”された。同年7月に施行された再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)がきっかけだ。FITでは、主に事業用と位置付けた発電総出力10kW以上について、20年の買い取り期間を設けた。発電した全量を電力会社に売ることができる。一方、住宅用とされる10kW未満は買い取り期間10年で、売電できるのは、発電量から家で使った量を差し引いた余剰電力だけだ。現在は買い取り価格が電力会社の電気料金を上回っている。そのため多くの住宅メーカーが一斉に、全量売電できる10kW以上に飛び付いた。パンフレットには「売電で住宅ローンを軽減」「売電額1000万円」などの文字が躍り、売電収入で住宅ローンを全額相殺する『ローンゼロ円住宅』なる言葉も飛び交った。これが飛ぶように売れた。例えば大和ハウス工業では、10kW以上の住宅の受注戸数がこの1年で10倍に増えた。パナホームでは月間全受注戸数の4割を占める月もあったという。

しかし、状況は一変した。大手住宅メーカー幹部は、「売電住宅の販売戸数がガクンと減るのは間違いない」「販売戸数がゼロになるエリアも出てくるだろう」と話す。なぜか。理由は2つある。1つは、電力会社による“出力抑制”が現実味を帯びたこと。出力抑制とは、電力が余る場合に、住宅やメガソーラーなどからの買い取りを電力会社が停止すること。2014年秋、再生エネルギー設備を送電網へつなぐ接続申請が予想以上に急増したため、九州電力が申し込みへの回答を保留した。この“九電ショック”と呼ばれた混乱を受け、出力抑制のルールを見直した。東京電力や中部電力・関西電力の管内では新ルールの導入が見送られているが、将来どうなるかは分からない。実際には新ルールでの出力抑制はまだ発動されていない。だが、住宅メーカーにとっては致命傷だ。本当に出力抑制されれば電気が売れず、収入は減る。冒頭の営業担当者はこう言う。「お客さんにこう聞かれるんですよ。『どれくらい抑制があるのか』。明確には答えられない。そんな商品、買いませんよ」

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なぜ減らない長時間労働――昨年、正社員の残業最長に…長く働けば昇進? 意識改革進まず

日本人の長時間労働が減らない。2014年のデータを見ると残業時間は年173時間で前年より7時間、20年前より36時間増え、統計をさかのぼれる1993年以来、最長になった。政府や企業が労働時間の短縮を目標に掲げながら、なぜ改善しないのだろうか。 (山崎純)

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厚生労働省の毎月勤労統計調査で、フルタイムで働く正社員の残業を調べた。週あたりにすると約3時間だ。多くの産業で延びており、特に貨物運送業(年463時間)、自動車製造業(年275時間)、情報サービス(年248時間)で目立つ。統計で見えない“サービス残業”を含めると、実態はもっと長そうだ。長時間労働の第1の理由は、終身雇用にある。日本は社員を定年まで雇うのが原則だ。売り上げが落ち、仕事が減っても、解雇されるケースは少ない。米国では受注が増えれば社員を増やし、受注が減れば社員を減らすのが普通だが、日本では「今いる社員の労働時間を増やしたり減らしたりして対応するのが一般的」(浜口桂一郎・労働政策研究研修機構主席統括研究員)になっている。最近の景気回復と人手不足を受け、正社員は残業して仕事をこなしている。「転職の機会が乏しいため、会社に無理に働かされても簡単には仕事を辞められない」(山田久・日本総合研究所調査部長)という側面もある。日本には働く時間が長い人が評価される企業風土が残っているのではないかとの指摘もある。山本勲・慶大教授の調査によると、長く働く人ほど出世する傾向があった。課長の手前の大卒社員を継続調査したところ、週の労働時間が10時間延びるごとに、翌年に課長に昇進する確率が3%上がるという結果が出た。山本教授は「欧州では長く働く人は生産性が低い人と見られるが、日本はプラスの評価になりやすい」と指摘する。内閣府の調べでは、日本では1日12時間以上働く人の5割超が、「上司は残業する部下を評価するはずだ」と考えている。それだけではない。「日本は社員ごとの業務の範囲があいまいなため、生産性が高い人に仕事が集まりやすい」(山本教授)という面もある。自分の仕事が終われば帰宅できる欧米とは違い、日本はチームで仕事を進める。優秀な人が長い時間働いて仕事をこなし、結果的に昇進するという側面は否めない。

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海上保安庁の憂鬱――海保への過大な期待や徒に中国による危機を煽る風潮が、現場の活動を妨げている…日本の海上警備はどうあるべきか

中国サンゴ漁船が集団で小笠原諸島の周辺海域に姿を現すようになったのは、昨年の9月半ば頃のことだった。当初は10数隻程度だったが急速にその数を増し、10月末から11月初旬にかけてのピーク時には200隻を優に超える大船団にまで膨れ上がった。船団は、東京と小笠原の丁度中間付近に位置する伊豆諸島南部の鳥島や須美寿島に至る南北400~500kmに及ぶ広大な海域に散開し、監視取締りが行き届きにくい夜間や荒天時を突いては、主にサンゴが生息する日本の領海12海里(約22km)内に一斉に侵入、まるで我先に宝石サンゴを略奪するかのように違法操業を繰り返した。その後、11月中旬近くになると一団の数は大きく減り始め、12月初め頃までには単独で徘徊する数隻が散見される程度にまで減少。漸く集団での姿は小笠原諸島や伊豆諸島南部の海から消えた。燃料・糧食などが欠乏してきたことの他、日中双方の取り締まり強化や日本の罰則強化などの取り組みが功を奏したことが考えられるが、理由は定かではない。それ以降は、この海域に一団が舞い戻った形跡は認められていない。昨年末(12月21日)に、鳥島周辺の領海内で単独で違法操業を行っていた中国サンゴ漁船1隻が海上保安庁に拿捕されているだけである。

東京から遥か南約1000km離れた小笠原村では、この突然の招かざる一団が来襲して以来、夜な夜なイカ釣り漁船の漁り火のように煌々と明かりを灯した夥しい数の中国漁船が島の直ぐ側にまで迫り来るという尋常ならざる事態に直面し、大きな不安と恐怖に包まれただろう。同時に、世界自然遺産に登録された小笠原の島々と一体不可分の美しい豊かな海が無残にも破壊されていくのを目の当たりにして、激しい怒りに駆られたことは容易に想像できる。更に、連日のようにこの問題を取り上げる新聞・テレビ等が、「この一団は宝石サンゴよりも、何か別の狙いをもって送り込まれた中国の差し金ではないか」「尖閣諸島周辺を守る海上保安庁の警備体制を撹乱するのが狙いではないか」「(伊豆諸島や小笠原諸島からグアム・サイパンを経てパプアニューギニアに至る)中国の“第2列島線”と呼ばれる防衛ラインを突破して、西太平洋の覇権を握るための布石かもしれない」「当局が海上民兵を乗り組ませた漁船を先に係争海域に大挙して差し向けておいて、自国漁民の保護を口実に海軍が乗り出すという強引なやり方が中国の“常套手段”であり、この一団もその可能性が高い」等と徒に危機や不安を煽り立てるような見方を報道したから、尚更心の休まらない日々が続いたに違いない。だが、これらの見方は見当違いも甚だしいものだった。

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中国当局も注目するAKBコスプレと女癖――外務省中国大使候補の“女装写真”スクープ入手!

全ては1枚の写真から始まった。小誌記者が北京で、「大使館に日中外交を担うに相応しくない人物がいる」との情報と共に入手した写真には、女装し、恍惚の表情で踊る男の姿があった。彼の背景を調べると、日中外交を歪めかねない危険な評判が聞こえてきた。

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戦後70年の節目の年を迎え、緊迫化する一方の日中外交。その最前線にある在中国日本大使館の幹部が、着任僅か7ヵ月で更迭される異常事態が勃発した。きっかけは、小誌記者が北京を取材中に入手した1枚の写真だった。茶髪のカツラを振り乱しながら女装姿で踊るその人物について取材を進めると、外交官としての資質を疑う醜聞が聞こえてきた。

3月12日。官邸にある政府高官の執務室を外務省の幹部が訪れた。報告されたのは、在中国日本大使館を巡る人事だったようだ。「昨夏に赴任したばかりの和田充広氏(54)を交代させる方針が示されたそうです。その3日前に貴誌から文書で和田氏についての質問を受け、外務省は急遽交代を決めた模様です。大使館の筆頭公使は通常であれば2~3年は務めるポストですから、事実上の更迭です」(政治部記者)。在中国日本大使館のように、大規模な大使館にはトップである大使を支える幹部職員として数名の公使がいる。政務や経済・広報文化などを其々担当するが、中でも和田氏が就いた筆頭公使は、大使が不在の時には臨時代理も務める大使館のナンバー2だ。その和田氏の女装写真。これは先月6日、北京の日本大使館内で撮影されたものだ。この日、大使館内のホールでは日本人や中国人の職員が集まって懇親会が開かれていた。中国が春節の休みに入る前のこの時期に毎年行われているもので、新しく北京駐在となった職員が演し物を披露するのが習わしになっている。「和田公使は、AKB48のコスプレで彼女たちのヒット曲に合わせてダンスをしてみせたのです。若い日本人職員らも一緒に踊ったとはいえ、一番目立っていたのはセンターを占めた和田公使。強烈だったのは、その格好で女子の制服を纏い茶髪のカツラを振り乱して踊る姿に、出席者はドン引きしたそうです」(北京在留邦人)。笑みを浮かべ恍惚の表情で踊る姿は、「たかが宴会芸」と苦笑いで済ませられるものでは決してない。

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「記者に頼まれ、架空の人物を演じた」…出演者が告白――NHK『クローズアップ現代』やらせ報道を告発する!

NHKの看板番組でやらせが行われていた――。俄かには信じ難い話だが、出演者の1人は「架空の人物を演じた」と証言。取材を進めると、幾つもの不自然な点が浮かび上がってきた。そして、問題のシーンを手掛けた記者は出演者に口止め工作まで行っていた。

3月1日、大阪市北区にあるANAクラウンプラザホテルのロビーラウンジで、3人の男が深刻な表情で膝を突き合わせていた。2人の男性は番組出演者。スーツ姿に眼鏡の男は、NHK大阪社会部の野本勝記者だ。真ん中に座った50代の男性は、こう抗議を始めた。「どうして“クローズアップ現代”であの映像が使われたのか聞きたいだけ。(知らないところで)全国放送されてしまったんでね」。野本記者は、不安気にキョロキョロと視線を泳がせながらこう応えた。「いやー、絶対にバレないと自信を持っていたんですけど」。三者会談はその後、堂島ホテルに場所を移して続けられた。男性は再びこう不満をぶつけた。「知り合いにも、『あのブローカー、お前に似てる』って言われますわ。自分、(ブローカーを)やってないし」。野本記者は更に声を潜め、囁くようにこう依頼した。「今回みたいに本当にバレちゃマズい時には、音声を二重三重に変える。絶対に声紋鑑定(で本人と特定)は出来ない。『松木さんじゃないか』と言ってこられる方に対してはシラを切っていただいて。今後もそういう方向でやっていくということで」。縋るような眼差しで懇願する野本記者は、一体何を守ろうとしていたのか――。

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3月1日の三者会談(左から野本記者・松木氏・X)

「NHKでやらせの映像が流された」。今年に入り、ある関係者から小誌に情報が寄せられた。問題となったのは、『クローズアップ現代』(以下、クロ現)で昨年5月14日に放送された『追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~』という回だった。月曜~木曜の午後7時半から放送されるクロ現は、国谷裕子キャスターが司会を務める報道番組。政治経済から社会世相まで、幅広いテーマを掘り下げて伝えるNHKの看板番組だ。「この番組のやらせに巻き込まれた」と言うのが、冒頭で野本記者に抗議していた松木康則氏(仮名)である。松木氏が憤懣やるかたない表情でこう語る。「私は北新地のクラブで従業員をしています。ところが、クロ現では“ブローカー”のテロップを付けられ犯罪者であるかのように流されました。その憤りは今も収まりません」

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朝鮮総連本部転売で10億円提供した中国人女性の正体

1月中旬、日本各地を訪ね、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関係者らと面会を重ねる中国人女性の姿があった。女性は関西にも足を伸ばした後、自身が居住する香港から総連中央本部ビルの買収資金10億円を送金したという――。

産経新聞は3月12日付朝刊でこう報じた。

競売の落札後に転売された在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部ビルをめぐり、朝鮮系中国人女性が10億円の購入資金を提供していたことが11日、分かった。政府関係者と日朝関係者が明らかにした。女性は1月に中国から日本に入国、朝鮮総連関係者らと密会し、ビルを購入した倉庫会社に送金していた。総連本部ビルの転売をめぐっては、中国・香港から10億円が流入した疑いが分かっていた。公安当局は、女性の送金がなければ転売は実現できなかったとして10億円の原資など一連の流れの解明を急いでいる。

関係者によると、女性は香港で海運会社に勤務する商工人。1月下旬、総連本部を44億円で購入し、後に総連に本部ビルを貸し出すとされている山形県の倉庫会社『グリーンフォーリスト』に送金した。女性は、送金直前の1月中旬に日本に入国し、各地で朝鮮総連関係者らと会った。関西地方では北朝鮮と強力なパイプを持つ在日韓国人とも会談、総連本部の継続使用のために必要な経費の捻出方法について議論したとみられる。総連本部の継続使用を目指した北朝鮮・総連・海外の商工人らの密接な連携が浮き彫りになった。

本部ビルを巡っては、昨年11月に香川県高松市の『マルナカホールディングス』へ22億円で整理回収機構から売却。今年1月に山形県酒田市の倉庫会社『グリーンフォーリスト』に転売されている。「元々、マルナカは総連に対しビルからの退去を求めると表明していた。そのマルナカが売却の意向を固めると、総連が賃貸で継続使用できるように元参議院議員の山内俊夫氏が仲介役となり、以前から総連と付き合いのあるグリーン社の経営者に買い取りを打診したのです」(大手紙記者)。このグリーン社の買い取り価格は44億円とされるが、うち10億円の資金を提供したのが冒頭の女性だという。この女性、一体何者なのか。

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北朝鮮に集団拉致された韓国“軍事境界線の村”――日本海を隔てて800km、韓国東海岸にも日本と同じ悲劇を背負って生きる人々がいる

パク・エヨン(90)の1日は、丘の上の家で海を眺めることから始まる。本当は海なんか見たくはない。目の前の青い海には怒りと憎悪しかないけれど、朧気な期待が半世紀を経た今も微かに残っているからだ。しかし、この朝も愛する息子は姿を現さなかった。こんなに海は凪いでいるのに。甲板で仁王立ちになり、満面に笑みを浮かべた息子の帰港する夢を何度見ただろう。なぜ、こんなに苦しまなければならぬのか。夫も苦悩を重ね、心の病で先立った。自分だって気が狂いそうになるけれど、倒れる訳にはいかない。

緯度の上では、新潟の対岸にあたる。朝鮮半島の東海岸、北緯38度の軍事境界線付近に人口2000人の大津(デジン)という漁村がある。40km南には、海水浴で賑う東海岸随一のリゾート地・束草(ソクチョ、人口8万人)がある。北緯38度12分17度・東経128度28分29度。実は、軍事境界線一帯の漁村が韓国集団拉致の現場である。韓国拉致被害者家族協議会などの調べでは、韓国では1953年から2000年までに486人が拉致されたという。ただ、南北融和や統一を抱える韓国では微妙な問題だけに、実態はあまり明らかにされていない。私はこの10年間に4度大津を訪ねた。そこには、日本と同じ悲しみが流れている。愛娘のめぐみさん(50)を拉致された横田滋さん(82)と早紀江さん(78)ご夫妻らが長年煩悶の人生を送られたように、息子を奪われた母が、夫を失った妻が寄り添うように苦悶して暮らしている。同じ悲劇の運命を背負って海を隔てて向き合って生きる悲史を前に、日本海は無情の波を逆立てているように映る。束草の市外バスターミナルから乗り合いバスに乗車した。市街地を抜けると海岸線に出る。青い海原の向こうは日本列島。日本の対岸にこんな高層ビルの都市が存在するなど想像もつかない。海岸線を走ってゆくと異様な光景にぶつかる。海岸沿いに鉄条網が延々と張り巡らされているのだ。浜辺は“軍事戦地域”。国軍が24時間警備を実施している。名札大の赤いカードが数m置きに吊るされていた。警備兵はカードを裏返しながら回る。裏側は白色で、パトロールしたことがわかる仕組みだ。金網に吊るされた警告板には「(哨戒兵の)夜間勤務の際、支障や刺激を与える下記の行為をしないで下さい」とあり、ビキニの水着など刺激を与える姿・飲酒・歌・踊りなどは禁ずるとある。海岸に人影は少ない。大津は商店や食堂が並ぶ日本の田舎町と同じ町並み。後背地の丘が迫り、斜面に民家が連なる。魚市場で20kg超の大タコが水揚げされていた。埠頭脇で漁網を繕う女性たちに訊ねると、エヨンさんの事件を皆気の毒がっていた。

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【下村博文・辞任勧告スクープ】(04) 下村博文文科相、“政治資金規正法違反”で刑事告発へ

秘書官作成の文書に「講演料としての報酬を貰う場合はある」と書かれていても、「渡した」と証言する人が実名告発しても、なお金銭の授受を認めようとしないのが教育行政を司る下村博文文部科学大臣である。法を骨抜きにする言動に、遂に刑事告発の動きが――。

「榮(友里子)秘書官が作ったものであります」。3月12日、下村博文文部科学大臣は小誌が報じた後援会『博友会』の約1200万円の年会費納入リストについて問われ、衆院予算委員会の場でこう認めた。それは、国会で下村大臣が答弁してきた内容を自ら否定する重みのある言葉だった。博友会幹部が語る。「貴誌が最初に下村大臣の記事を報じたのが2月26日発売号。その取材が佳境だった2月13日、文部科学大臣室に博友会幹部20数名が集まり、幹事会が行われた。そこで下村大臣と榮秘書官から配られたのが、会費納入リストを含む8枚の文書でした」。下村氏は当初、「全国に数多くある博友会は政治団体として届け出ている東京の博友会を除いては任意団体であり、下村事務所は運営に一切タッチしていない」と説明してきた。だが、実際には地方の博友会の実態が政治資金収支報告書の虚偽記載・迂回献金等の疑いを受けることを認識し、榮秘書官が作成した資料を基に対策を話し合っていたのである。会費リストは博友会の年会費として集めたカネが、下村氏が代表を務める自民党東京都第11選挙区支部(以下、11支部)への寄附として処理されてきた動かぬ証拠でもあった。

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下村氏は、新たな事実が発覚する度に答弁を変遷させてきた。3月12日には、「我々は承知していない」としてきた各地の博友会の会員数を公表したが、会員数が“394人”とされた群馬博友会の糸井丈之会長が語る。「実際には名簿も無いので、その数に心当たりはありません。恐らく、私たちが年1回開いているセミナーの出席者数を下村事務所がカウントしたのではないでしょうか」。更に、“不都合な真実”は次々に浮かび上がっている。博友会関係者が語る。「2006年3月、博友会が全国8つに増えたことを祝う“全国合同博友会 記念祝賀パーティー”が開かれ、当時の安倍晋三官房長官も挨拶に駆けつけたのですが、その際に“神奈川博友会”と“埼京博友会”という2つの団体も紹介されました。この2団体は、政治団体の届け出をしていたと聞いています」。埼京博友会は、下村氏の板橋の後援会『博友会』会長の会社に拠点を置き、東京都に政治団体として届け出を行っていたが、2012年に解散している。「博友会の実態は下村氏の政治活動を組織的・継続的に支援する政治団体そのものですから、以前から『他の博友会も届け出をして、政治資金規正法上の疑義が無いようにすべき』との声は内部にもありました。ところが、全国博友会の会長で下村氏とは30年来の付き合いである近畿博友会の森本一会長が、『塾の団体が政治色を前面に出すのは良くない』『政治団体として届け出れば政治資金規正法上の規制が掛かり、収支を報告しなければならない』と、今まで敢えて避けていただけなのです」(同前)

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テーマ : 政治
ジャンル : 政治・経済

「数値目標、言ったオレも悪い」――ホンダ社長・伊東孝紳の悔恨

相次ぐリコールに、タカタ製エアバッグの品質問題。自動車各社が好業績を謳歌する中、ホンダは業績下方修正に追い込まれた。2009年に就任した伊東孝紳社長は拡大戦略を突き進み、その過程で急成長のゆがみが露呈した。それでも6年間、ホンダを率いてきた伊東社長には、数々の試練を乗り越えてきたという自負がある。一方で、世界6極体制を築くために公表した“600万台の数値目標”が現場に混乱をもたらしたと反省の弁も口にした。 (聞き手/本誌編集長 田村俊一)

ホンダ本社7階の役員フロア。インタビュー室に現れた伊東孝紳は開口一番、こんな言葉を口にした。「被告席みたいだ」。写真撮影のためテーブルの端に1つだけポツンと置かれた椅子を見て、ジョークを飛ばしたつもりだったのだろう。ただ、自らを“被告”と見立ててしまうところに、今のホンダが置かれた状況が端的に表れている。円安効果によって自動車各社が業績を順調に伸ばしている2015年3月期、ホンダだけが利益の下方修正を迫られた。2014年立て続けに起きた品質問題が業績に影響を与えたのは間違いない。当然のことながら、批判の矛先は社長の伊東に向かう。ただ、足元の状況だけを見て経営者としての伊東を評価するのは適切ではない。世界同時不況の真っただ中にあった2009年6月、前任の福井威夫から社長を継いだ伊東は当時を振り返る。

伊東社長(※以下、本文中の太字部分は伊東社長のコメント):これは単なる不況ではなくて、世界経済の秩序が変わった時期だと僕は解釈した。それよりも前の自動車産業は先進国主導型、ホンダで言うと日米主導型で動いていて、結構売り上げも立っていた。ところが、世界同時不況で先進国の経済ルールが少しおかしくなって、相対的に言うと新興国が自ら主張する時代に変わったと認識した。

世界経済の秩序が変わったことを前提に、伊東はホンダの事業構造を大胆に変革していった。これまで日本と北米に依存していた事業構造を改め、世界を6極(日本・中国・アジア・北米・南米・欧州)に分けて、それぞれの地域で市場ニーズに合った商品を迅速に投入できる体制に転換しようとした。

伊東:ホンダは世界で商売をしている。2輪はもうずっと昔からやってきたし、4輪でもかなりグローバルに事業を手掛けてきた。当初は先進国向けの商品を新興国に持っていけば何となくうまくいっている時期もあったけれど、長い目で見るとそうではない。やはり各地域でホンダが喜ばれる活動をしないと永続性がないということをみんなで話し合った。

6極体制は為替変動への耐性を高める狙いもあった。各地域で販売するクルマを現地生産できれば、その影響を軽減できる。為替は常に自動車メーカーの業績を不安定にする要素であり、“地産地消”は自動車業界が目指すべき事業モデルとされてきた。大手メーカーの中でも大胆に生産を海外にシフトしたのがホンダだった。社長に就任した2009年度からの6年間で、伊東はホンダの連結売上高を5割伸ばし、営業利益と純利益はそれぞれ2倍に高めた。2011年には東日本大震災とタイの洪水により、一部の生産が停止する事態に陥った。その後も1ドル=80円を切る超円高や電力不足が続いたが、伊東が率いるホンダは粘り強く切り抜けた。世界の自動車業界の中でもホンダは勝ち組であり、社長の伊東は称賛を受け続けてきた。

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