【仏教宗派の霊魂観と死後世界観】(上) “あの世”の存在を日本仏教各宗派はどのように説いているか?

東日本大震災の影響や高齢者の増加等で、死後世界についての関心が高まっている。被災地では、僧侶に心霊相談が寄せられた。僧侶が“霊の専門家”と思われたからだが、霊魂についての統一見解が無い宗派もある。このような乖離が生じたのは何故だろうか? 釈尊の時代から現代に至るまでの霊魂観と死後世界観の変遷、世界各地の仏教徒の霊魂観と死後世界観から探った上で、新宗教を含めて仏教の各宗派が霊魂と死後世界をどう説いているかを見ていこう。

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抑々、釈尊は霊魂や死後についてどのように語ったのだろうか? 古代インドで古ウパニシャッド哲学者らは、「業に依って来世が決まり、人は生と死を繰り返す」と考えていた。「この輪廻から逃れて解脱する為には、輪廻する個人の本体である“アートマン(我)”と宇宙の根本原理である“ブラフマン(梵)”との一体化を図ることが大切である」と説いた。これに対して、釈尊は“無我”を説いた。無我とは、“アートマン(我)の否定”を意味する。根本教説である無我説とは、永遠不変の実体を否定するものとされてきた。この為、霊魂も否定されると考えられていた。だが、無我説は正しくは「我でない(非我)ものを我と見做すな」という非我説で、「釈尊は霊魂の存否を語っていない」という解釈も登場した。一方で、釈尊は業に依る輪廻は肯定した。無我説に立つと、輪廻する主体の説明が難しい。釈尊の死後には多様な説が展開され、“補特伽羅”というアートマンに近いものを想定する犢子部のような立場も現れた。しかし、「釈尊は無我説の立場から、輪廻に否定的だった」と最古層の経典研究を基にした主張もある(並川孝儀『ゴータマ・ブッダ考』)。釈尊はまた、「霊魂と身体は同一か別異か?」「如来は死後に存在するか否か?」等の形而上学的な問いには「無記」として答えなかった。その理由を「毒矢が刺さったら、『誰が射たのか?』等と分析するよりも先ず矢を抜くべき」と“毒矢の譬え”で示して、「現前の問題解決を優先すべきだ」と説いた(『中阿含経』の『箭喩経』)。この為、「釈尊は死後を説かなかった」と言われるが、『スッタニパータ』には地獄の描写がある。このように、原始仏典に遡っても、釈尊の考えを確定するのは難しい。では、現代の世界各地の仏教徒は、霊魂や死後をどう考えているのだろうか?

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【タブー全開!政界斬鉄剣】(13) 野党連合や新党構想で一番損をするのは日本共産党だ!

今週は、“反・自民党”で結集しようとしている野党連合について解説しましょう。一般的には、「分裂した維新の党や旧みんなの党の一部と民主党が野党連合を結成するか、民主党が解党して他の野党と新党を結成する可能性が高い」と報じられています。更に、「来年7月の参議院選挙では、日本共産党が野党連合か新党の候補者に選挙協力をすれば、自民党に勝てる可能性も高い」と分析されています。結論から言うと、大変お気の毒ではありますが、今回の野党連合や新党が参院選で勝てる確率は“0%”です。しかも、一番損をするのは意外にも日本共産党です。最近の日本共産党は、各種世論調査で支持率が大幅にアップする等、乗りに乗っています。このまま行けば、来年の参院選で「自民党に批判的だけど、野党にも失望している」という有権者の批判票を取り込み、大躍進する可能性があります。しかし、彼らは自らの大躍進よりも、自民党を過半数割れに追い込むことを重視しているように見える。しかも、日本共産党自身は野党連合や新党には参加せず、選挙協力だけをする方針だという。これでは、来年の参院選で自民党だけが得をする結果になります。どういうことか? その理由を、過去に起きた政権交代を伴う大きな政界再編劇を例に説明しましょう。

戦後の混乱期と今の安倍政権を除けば、政界再編に依る政権交代は以下の3回だけ。

①平成5(1993)年…細川内閣時の“非自民連立政権”
②平成6(1994)年…村山内閣時の“自社さ政権”
③平成21(2009)年…鳩山内閣時の“民主党政権”

その全てを永田町で目撃してきた私の見立てでは、3つの政権交代のうち、今回の野党連合案や新党構想に最も近いのは①のパターンです。②の場合、自民党と当時の社会党という2つの大政党が連立したという点と、選挙の時点では連立を組んでいなかったという2点で、今回のケースには当て嵌まらない。③は、当時の民主党が完全に主体であり、政権交代後に連立を組んだ社民党と国民新党は小勢力であった点で、今回のケースとは似ても似つかない。では、細川政権が誕生した時と今回の共通点はどこか?

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【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(41) 現代アートやテロが“ダルい民主政治”を変えられない理由

過激なパフォーマンスで知られるロシアの現代アーティストのピョートル・パブレンスキー氏が今月9日、モスクワのロシア連邦保安局(旧KGB)本部の扉に放火して警察に身柄を拘束されました。パブレンスキー氏は、2013年にもモスクワの『赤の広場』の石畳に自身の陰嚢を釘で打ち付ける“作品”を披露し、現代のロシア社会の無力感・政治的無関心を“表現”していますから、今回の行動にも同様の意味が込められているのかもしれません。こうした過激なパフォーマンスを行うアーティストは世界中に存在しますが、その源流は、約100年前に興った“ダダイズム”という芸術運動に遡ります。その思想を一言で言えば“虚無”です。当時は第1次世界大戦が起き、驚異的な技術革新に依って生まれた大量殺戮兵器が初めて実戦で使用され、多くの死者が出た時代。その虚無感から、ダダイストと呼ばれる芸術家たちは既成の価値観や秩序を破壊することを訴え、前衛的なアート作品を作ったのです。

この運動は多くの共感を呼び、一時は世界的な広がりを見せました。しかし結局、「現状を打破できれば青い空が待っている」という彼らの希望は打ち砕かれ、世界は第2次世界大戦へと突き進んだのですが…。急激な変化への期待。そこには、必ず“光と影”があるものです。革命を訴える様子はとても輝いて見えるのに、実際に変化が起き、新たな秩序を作らなければならない段階では、殆ど全ての運動は行き詰まり、望んだ結果は得られない。例えば先日、ミャンマーの総選挙でアウン・サン・スー・チー氏率いる『国民民主連盟(NLD)』が大勝しましたが、恐らく今後、スー・チー氏はこれまでのような“歯切れのいい言葉”“気持ちいい言葉”だけを発し続けることはできない。長期間対立してきた軍政側を完全に無視することもできず、悪く言えば“馴れ合い”“足して2で割る”ような政策を実行していくでしょう。その一方で、国際社会に対しては“いい顔”を見せようと、投資環境を整えたり、中国より遥かに安い労働力を積極的にアピールしたり…ということになっていく筈です。

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元厚労官僚が伝授! 上司のタイプ別“戦略的ゴマ擂り”のススメ

「ビジネスパーソンは、もっとゴマを擂るべき」――中央官庁での官僚時代、ゴマ擂りを武器に政治家や上司を動かした中野雅至さんは、こう語る。相手が喜ぶポイントを的確に突く“戦略的ゴマ擂り”は、上司から選ばれる為の強力な武器になる。

「選ばれる為にゴマを擂ろう」と言われ、素直に納得できる人は少ないだろう。それどころか、反発心を抱く人もいる筈だ。しかし、「それは、『効くゴマ擂りとは何か?』ということを知らないからです」。そう語るのは、中央官庁での官僚時代に“ゴマ擂り”を武器に政治家を動かした神戸学院大学の中野雅至教授だ。「多くの人は、ゴマ擂りを『流石ですねえ』といった抽象的な言葉で相手に擦り寄る“媚び”や“おべっか”と混同していますが、そうではありません。“効くゴマ擂り”とは、相手が言われたがっているポイントを見抜き、的確に褒める行為。相手の長所を的確に表現した“高度な褒め業”です」。中野さんは、これを“戦略的ゴマ擂り”と呼ぶ。戦略的ゴマ擂りを成功させるポイントは3つだ。先ず、相手を詳しく観察すること。「学歴は、褒めても効き目がありません。狙いは、『相手が密かに誇りに思っていること』。雑談の中にヒントが眠っていることが多いので、飲み会等で近くの席に座って観察しましょう」。2つ目は、「凄いですね」以外の“褒めの語彙”を身につけること。「相手の話に対して『いいお話ですね』と言うより、身を乗り出して『今のお話、メモを取らせて頂きます』と言うほうが印象は良くなります」。3つ目は、タイミング。中野さんは、「ゴマ擂りのベストタイミングは昼休み直後」と語る。昼休み直後は空腹が解消され、気が緩んでいるからだ。逆に、朝や退社間際は避けよう。「朝は睡眠不足で不機嫌な人が多い。帰り仕度をしている時に話しかけても、相手は気分を悪くするだけです」

■タイプ別 効果的な“ゴマの擂り方”
戦略的ゴマ擂りの基本を押さえたら、相手の“タイプ別攻略法”を押さえよう。喜ぶ“ツボ”は、その人のタイプに依って違う。相手のタイプに合わせた適切な“ゴマ擂り”で、自分を印象付けよう。

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職場にいる“戦略的ゴマ擂り”の対象で、最も多いのがこのタイプ。“偉い人と親しい自分”をアピールすることで、周りに対して自分を偉く見せようとする。攻略法は、「偉い人が褒めていた」ことを伝えること。但し、必ず「いつどこで言っていたか」等、話の根拠が必要。

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猜疑心の強い上司は、過去のことをいつまでも覚えている。ゴマ擂りも1度だけだと、相手の頭に「都合のいい時だけ媚びる奴だ」という印象が長く残ってしまう。短い言葉でいいので、マメに褒めること。何度も繰り返すと、「これだけ言うのだから、本当にそう思っているんだ」と思うようになる。

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【中外時評】 かみ合わない官民対話――投資の輪つなぐ土壌作れ

「大企業は儲けるばかりで、国や国民に何の恩恵も齎していない」――世界的な金融危機以降、そんな苛立ちが米欧の社会や政治に広がっている。その日本版と言うべきか。大企業に対して、「利益を貯め込まずに、もっと設備投資や賃金を増やして国に貢献せよ」と求める圧力が日増しに高まっている。「積み上がった内部留保に課税せよ」という声すら聞こえてくるようになった。大企業は防戦に追われ、26日の『未来投資に向けた官民対話』では経団連の榊原定征会長が、「設備投資は2018年度に今年度比で10兆円増える」との“見通し”表明まで迫られる状況になった。マクロ経済的に見れば、企業への投資要請はわからないでもない。金融危機後は、世界的に企業がおカネを貯める流れが強まったが、統計上、日本企業はその度合いが大きい。7~9月期まで2期連続のマイナス成長になった背景には、設備投資の減少がある。

だが、企業から見れば、「縮む国内市場で無闇に設備投資を増やして、どれだけ利益が上がるか?」という話になる。最近は、世界の活力を取り込む為に海外企業のM&A(合併・買収)に積極的に資金を活用しており、「無駄におカネを遊ばせている」という認識も薄い。統計的には、こうした海外投資は“貯蓄”の一部にカウントされる。こうしたすれ違いを放置したまま、政治が民間企業に圧力をかけて設備投資を迫っても、“対話”は噛み合わなくなるばかりだ。重要なのは、今後の日本で増やすべき投資とは何かについて、政府と企業が認識を共有することだ。「即効性や将来の競争力確保の観点から、今は設備投資より先端分野における研究開発投資に注力すべきだ」(『トヨタ自動車』豊田章男社長)、「我々にとっての未来投資は、研究投資と人工知能(AI)分野等のM&A」(『DeNA』南場智子会長)。官民対話では、企業経営者から設備投資拡大に目が向きがちな政治にやんわりと釘を刺す声が相次いで出た。

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【日曜に想う】 テロと空爆、不条理の連鎖

「警戒心と連帯感と抵抗の気持ちが綯い交ぜになっている」――パリの友人が、街の空気をメールでそう伝えてきた。彼女は、1月に週刊紙編集部と共にテロの被害に遭った食品雑貨店近くに住んでいる。今回のテロでは姪たちが現場近くにいて、治安部隊に避難誘導されたという。「1月のテロから、人生の一瞬一瞬をそれまでより慈しむようになった」と書いている。被害者を懸命に助けた近隣の人たちやタクシー運転手たちがいたことで、自分たちの社会の強さに少し「自信を持った」とも。今回のテロの直後、フランスで話題になったアメリカからのエールがある。『ニューヨークタイムズ』電子版への読者の投稿だ。「フランスは、狂信的宗教者が憎むもの全てを体現している」と、人々が生活を楽しむ姿を列挙している。友人と味わうワイン、短いスカートの女性、カロリーを気にせず婚外セックスをし、政治家も聖職者も揶揄う権利…。「そんなパリが好きだ」「貴方たちは再び笑い、歌い、セックスをし、癒やされるだろう。人生を楽しむことが貴方たちの本質だから。闇の力は負けるだろう」と励ます。聊かステレオタイプなフランスのイメージ。いつもなら斜に構えて反応しそうなフランス人の多くが、素直に感動したようだ。『ルモンド』電子版も、「美しい文章」とフランス語訳して紹介した。不条理に、「自分を見失うまい」とする心情が覗く。

事件の後、フランス政府は空爆強化に急速に傾いていった。空爆は、その下にいる人たちにどう見えるか。空爆下の都市で1ヵ月ほど取材をしたことがある。1999年、旧ユーゴ・コソボ紛争当時のベオグラード。『北大西洋条約機構(NATO)』が毎日のように爆撃機や巡航ミサイルを飛ばした。軍や政府の施設が次々破壊された。時にバスや病院等が“誤爆”に遭い、市民も多く犠牲になった。その街の空気も、“警戒心と連帯感と抵抗の気持ち”が綯い交ぜだった。攻撃目標になり易い橋を渡る時の人々の緊張した表情。警戒下で人々を慰めようと演奏会を開いたオーケストラ。空襲警報が聞こえてもカフェから立ち去らない客たち。爆撃で大破した政府施設の前で会った年配の男性は、「(自国の)独裁的大統領が嫌いだ」と言いながら、「こんなことをされたら、彼を支持して結束するしかない」と反発を露わにした。標的の街に生きる人には、空爆もまた不条理と映る。

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今の中国共産党には寛容精神が全く無い…内陸部イスラムという“アキレス腱”が中国を追い詰める

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中国は現在、東・南シナ海上における覇権を確立しようと人民解放軍の改革を推進している。去る9月3日に天安門広場で行われた『抗日戦争勝利70周年』という反日閲兵式の席上で、習近平国家主席は中国軍30万人削減の計画を発表した。これは、中国の軍拡に対する国際社会の懸念を払拭しようとして、周到に練られたパフォーマンスだ。人員削減の内実も、『解放軍文藝工作団』や『解放軍歌舞団』といった指導者専用の“喜び組”の解散であって、真の意味での軍縮とは程遠い。習主席の狙いは、非効率的な軍組織をスリムにして海上へシフトし直すところにある。目下、既有の7大軍区を4~5つの“戦区”に改編して、海軍を増強する改革が進行中だ。“海洋強国”を実現させて、西太平洋を独占し、アメリカのパワーをハワイ以東に封じ込めて帝国としての地位を築こうとする中国。覇権国家の不動の理念として掲げられているようだが、習が標傍する“中国の夢”も“邯鄲の夢”に終わってしまう可能性がある。というのも、チャイナプロパーに対する脅威は、歴史的に西北の陸上から現れていたからだ。それは、現代においても変わらない。

中国に侵略されて不当に占領され続けているチベットにも南(内)モンゴルにも不満が蓄積されているが、最大の火薬庫はイスラム教徒が暮らす新疆ウイグル自治区だ。ウイグル人の民族問題は国際問題と連動して長く、世界のイスラムも中国に依る同胞の抑圧を解放の目標に設定している。そう考える根拠を以下に整理しておこう。先ず、新疆から脱出したウイグル人は、既に『ISIS(別名:イスラム国)』の戦闘員としてシリアとイラク北部で活動している。その数は不明だが、極少数の過激派ではなく、有志らも陸続と東南アジアのタイやマレーシア、そしてインドネシア経由で加わっていっている。マスコミの一部は「イスラムの過激派に依って、洗脳されて戦場に送り込まれている」と報道するが、中国政府の過酷な弾圧が所謂“ウイグル人過激派”を産出している性質を見落としている。ウイグル人が中国南部の雲南省等から東南アジア各地に脱出する際に、現地のイスラム社会が積極的に協力している点も大きい。イスラムのネットワークが機能している。次に、ウイグル人はパミール高原を挟んで、故郷の西側で戦闘経験を積んでいる。主役は、アフガニスタンとパキスタンのイスラム原理主義勢力『タリバン』内のウイグル人戦士だ。タリバンの武装勢力は、アメリカ軍ら有志に依る空爆を受けても一向に衰えず、アフガニスタンの国政に復帰するのは最早、時間の問題となってきた。今年7月20日に新疆ウイグル自治区の首府・ウルムチで、中国政府の幹旋でタリバンとアフガニスタン政府との和平協議が開かれたが、不調に終わった。北京当局が突然、温厚な平和調停者に生まれ変わったのではなく、タリバンの政権奪還を見越した上での保身的な行動だ。「我が国は、自国北部のウイグル人武装勢力を全滅に追い込んだ」と、閲兵式の後にパキスタンのナワズ・シャーリフ首相が習主席に表明したが、それも一層の資金援助を引き出す為の態度表明に過ぎない。パキスタンとアフガニスタンのタリバン軍を支えているのは、現地の部族社会だ。遊牧民の部族社会には、古くから“客人を持て成す”伝統があり、かのオサマ・ビン・ラディンもこの地に長く潜伏していた。“イスラムの同胞にして客人のウイグル人”を、簡単に北京当局に売り渡すような真似はしない。

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【アジアの平和が脅かされる】(下) “日本の生命線”南シナ海を守れ

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南シナ海は、中国・フィリピン・ベトナム等の国々に囲まれた東南アジアの中心に位置する多島海である。1930年代後半、南シナ海に存在する島々の多くは日本の管轄下にあった。しかし、第2次世界大戦後、日本が島の領有権を放棄したことに依り、沿岸国が我先にと島の領有権の獲得を目指した。更に、石油や天然ガスが埋蔵されていることが知れると、沿岸国に依る領有権の主張が重複し、資源の開発権や漁業管轄権を巡り、領土紛争にまで発展するようになった。特に危機的な状況を齎したのは、中国の強引な戦略である。南シナ海北西部のパラセル諸島(中国名は西沙諸島)では、1974年のべトナム戦争中に中国軍が侵攻。南べトナム軍を排除し、諸島全域を支配下に置いた。その中核に位置する永興島には滑走路が作られ、南シナ海侵出の軍事拠点となっている。また、1995年にはスプラトリー諸島(中国名は南沙諸島)の北部、フィリピンが支配していたミスチーフ礁を占拠し、中国漁民の保護を名目に軍事拠点を作り、以後、実効支配している。この頃、フィリピンではアメリカ軍が撤収し、防衛機能が低下した為、容易に奪うことができたのだ。現在、中国は南シナ海を包み込むように“九段線”という管轄海域を示すラインを設定し、この線の内側を中国の海洋領土とし、その管轄権を主張している。2007年11月には、スプラトリー諸島を含む南シナ海一帯の島々に“三沙市”という新たな行政区分を設置することとし、自国の行政管轄権を主張した。だが、三沙市の中には、他国が実効支配する島も含まれている。

2012年、フィリピンのルソン島沖約220kmにあるスカボロー礁を巡り、フィリピン軍と中国の警備船が対峙し、紛争寸前の事態となった。危機意識を募らせたフィリピン政府は2013年、中国との間の海域紛争を平和裏に解決する為に、国連海洋法条約に基づき、仲裁裁判所に仲裁を申請した。しかし、中国は仲裁に応じることを拒み、国際法に拘らず、国内法の下で南シナ海への侵出を更に進める意思を示した。近年、中国に依る南シナ海侵出は、更に大胆に進められるようになった。2015年、中国は多くの国が領有権を主張する島々が含まれるスプラトリー諸島の中に、7つの岩礁を基点に人工島を建設した。アメリカの国防総省に依ると、既に8㎢が埋め立てられ、2014年末の2㎢から4倍に拡大され、この土木工事の為に運び込まれた土砂は、2015年だけでも東京ドーム140杯分に上り、その多くはサンゴ礁を破壊して採取されたものとされている。自国が管轄している海域内に人工島を造られたフィリピン政府は、「ASEAN諸国が2002年に南シナ海問題の平和的解決を目指す為に合意した“南シナ海行動宣言”に違反している」と抗議したが、中国は意にも介さず、広範囲に埋め立て工事を行った。中国の人工島建設に対し、アメリカは「国際法違反である」と指摘した。中国が人工島を建設している岩礁の1つであるジョンソン南礁は、嘗てこの岩礁を支配していたべトナムに依ると、満潮時に全てが海面下に没するので島とは言えないのだ。『国連海洋法条約』第121条の島の定義では、「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう」とされている。ジョンソン南礁は国連海洋法条約に依り、いくら埋め立てても、領海や排他的経済水域の基点となる“島”とは認められないのである。同様に埋め立てを行ったフェアリークロス礁も、干潮時にのみ海面上に現れる環礁であり、国際法上“島”ではない。寧ろ、管轄権が不明確な海域に人工島を造ること自体が、国際的な信義に反する行為と言えよう。アメリカは今年5月20日、中国の“力に依る現状の変更”を監視する為、海軍の哨戒機をスプラトリー諸島の上空に派遣した。中国の動きを国際的に監視する必要を示したのである。

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【アジアの平和が脅かされる】(上) 人民解放軍が目論む“戦わずして勝つ”大戦略

20151129 01
好調な経済と近代化の進む軍事力に支えられた中国の強圧的な対外活動は、2010年代に入って一層独善的になっている。その中国が、アメリカの影響力を排除すべく構築した戦略が、『近接阻止・領域拒否』(Anti-Access/Area Denial:A2AD)と称されるもので、まだ暫くの間は総合力でアメリカ軍に及ばない人民解放軍(中国軍)が、アメリカ軍のアキレス腱に狙いを定めた戦力構築を進め、「戦わずして勝つ」という戦理の大原則を具現しようとするものである。一例を挙げれば、「アメリカ軍でさえ対抗手段を持たない対艦弾道弾を開発し、国威の象徴であるアメリカ空母を太平洋で撃破し得る能力を誇示して、アメリカ国民の“アジア問題への介入意図”を挫き、戦うことなく国家目標を達成しよう」とするものである。中国軍は、陸海空から宇宙・サイバー空間までのあらゆる戦域でA2ADの為の戦力を開発すると共に、その骨格となるドクトリンや戦術を構築して、これに沿った演習や訓練を繰り返している。中国本土から遠く離れた海空域でアメリカの戦力の近接を阻止するA2ADは、その内側にあり、本土に接する東・南シナ海の独占的且つ安定的支配を前提条件とすることから、中国はこれら海域への強引とも言える侵出と完全支配を目指しているのである。

A2AD戦略の主対象はアメリカ軍だが、軍を支援する自衛隊及びその基盤となる我が国のインフラをも対象としていることは、疑いない。そうすると、A2ADが狙うのは、

①西太平洋に所在し、或いはアメリカ本土から来援する同国戦力の遠距離での撃破
②我が国内のアメリカ軍基地・自衛隊基地及びアメリカ軍を支援する我が国のインフラの無力化
③中国軍の外洋展開を扼する南西諸島及び南シナ海に存在する戦略海峡(チョークポイント)の確保
④現在のアメリカ軍優位を支える中枢機能である圧倒的な指揮管制情報(Command, Control, Communication, Computer, Intelligence, Surveillance and Reconnaissance:C4ISR)能力の無力化

の4つであると推察される。具体的には、①は伊豆・小笠原諸島付近海域でのアメリカ空母機動部隊や、これを支援する自衛隊部隊への対艦弾道弾や極超音速兵器(Hypersonic Weapons:HSW)等、或いは潜水艦に依る攻撃である。②は、中・近距離弾道弾及び巡航ミサイル、並びに特殊部隊に依る我が国政経中枢・主要インフラへの攻撃が主体となる。③は②に加え、チョークポイント確保の前提である制海・制空権確立、及び島嶼への本格的着上陸が主作戦となる。④は、C4ISRの要である人工衛星の破壊、サイバー攻撃及び核爆発に伴う電磁パルス(Electro Magnetic Pulse:EMP)効果に依る通信ネットワークの遮断、更にはインターネット媒体である海底光ケーブル網の切断等が考えられる。我が国の防衛戦略は、戦略打撃をアメリカ軍が担当し、その支援及び我が国の防衛を自衛隊が担うという“矛と盾”の任務分担を基本としている。戦略打撃と、その能力に裏打ちされた戦略抑止を任務とする本土アメリカ軍の来援は、我が国の安全にとって不可欠であり、来援基盤の維持は必須である。これを最も嫌う中国軍は、①に依る来援阻止を戦略の柱に据えており、これを許さない日米の能力構築が極めて重要となる。具体的には、洋上における対艦弾道弾・HSW対処能力、及び対潜能力の向上が中心となる。この内、前二者からの防衛、及びC4ISRシステムの防御は日米とも未着手の分野だが、その遅れは致命的である。最新科学技術を用いた対抗策の開発が焦眉の急であり、日米両国で産官学を挙げた取り組みが求められる。

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2015年の錦織圭は伸び悩んだのか?――怪我や全米オープンの初戦敗退でも、世界8位の凄さを知るべし

20151128 18
錦織圭選手の2015年シーズンが終了した。昨年は17位で始まり、右肩上がりに5位で終わった。今年は5位で始まり、短い期間4位を記録したものの、8位で終わった。これを、世間のスポーツ報道は恐らく、「伸び悩み」「停滞」「後退」と言うのだろう。実態はどうなのか? ランキングや個別トーナメントの結果は、自分の成績と相手の成績の両方で見る必要がある。錦織は停滞していたのか? 錦織自身の成績を昨年比で見る。ランキング算出は複雑な計算が含まれるので、ここでは“出場した全個人戦での獲得ポイントの合計”で比較する。5135(2014年)が4325(2015年)と810ポイント減となった。年間ツアー4勝(2014年)が3勝(2015年)になったが、失ったのは250ポイント(クアラルンプール大会)であり、メンフィス大会とバルセロナ大会は連覇し、2014年の東京大会(楽天ジャパンオープン)を失った分はワシントンDC大会で獲得している。ランキングポイントも賞金も別格に大きい4大大会は、1~2月の全豪ベスト16がベスト8に、5~6月の全仏1回戦がベスト8に、6~7月のウインブルドン(全英)ベスト16が2回戦に、8~9月の全米準優勝が1回戦に…と其々入れ替わって、4大大会の合計は差し引き795ポイント減となる。全米オープンだけ見れば1190ポイント減なので、残りの3大会で395ポイントの増だ。そして、上記以外のランキング対象大会は今年12大会、昨年比2大会増で235ポイント増、しかも2年連続出場したツアー最終戦(ロンドン)で昨年比200ポイント減なので、それ以外の11試合で435ポイント増、しかも上記の通り、ツアー優勝も4大大会も含まれていない。これは、各大会を昨年と全く遜色なく勝ち上がったことを意味する数字である。特に、昨年出場していないアカプルコ大会準優勝・モントリオール大会ベスト4がプラス要因になっている。技術面では、昨年比で唯一変わったのがサーブのレベルアップだ。年間でサービスエース(即得点)が9本増(286→297)、ダブルフォルト(即失点)が31本減(186→157)、それで総試合数が2試合しか増えていないので、全体の半分を占めるサービスゲームの展開がより楽になった筈だ。但し、そのサービスゲームのキープ率も含めて、他の数値は驚くほど変わっていない。伸びていないのでなく、技術的に完成したと見る。マイケル・チャンコーチの仕事は、完成した技術のまま個々のポイントをもっと取れるようにすることとなる。

怪我は、相変わらず錦織について回っている。今年は棄権を含めて4試合(ハーレー大会・全英オープン・モントリオール大会・パリインドア大会)を負傷で棒に振り、シンシナティ大会を欠場している。脹脛・臀部・肩・腰から脇腹と、新たな箇所も痛めた。2014年も、春先に股関節を痛めて3試合(デルレイビーチ・インディアンンウェルズ・マイアミの各大会)を棒に振り、夏に足指の軽い手術でシンシナティ大会を欠場して、全米オープン準優勝は手術後のぶっつけ本番であった。ランキングを争っている相手選手たちはどうだったか。今年のツアー最終戦の出場者(上位8人)で間もなく26歳の錦織は最年少、昨年出場した同世代のチリッチ選手(クロアチア)とラオニッチ選手(カナダ)は落選し、ディミトロフ選手(ブルガリア)やゴフィン選手(ベルギー)等はまだ届かず、次世代のトミック選手(オーストラリア)、キルギオス選手(オーストラリア)、ティエム選手(オーストリア)等もまだ姿は見えない。一方、嘗て錦織が何度も倒しながら追い越してきた年上のベルディッヒ選手(チェコ)やフェレール選手(スペイン)が上位に復帰すると共に、1年前からの怪我の癒えたマレー選手(イギリス)とナダル選手(スペイン)が、“バブリンカ選手(スイス)も含めたビッグ5”の定位置に戻ってきた中での錦織の8位である。今年、錦織が自分より上のランキングの選手に勝ったのは、ツアー最終戦でのベルディッヒ(6位)戦1試合だけで、上記“ビッグ5”を続けて倒すような画期的な戦績は何も残せなかった。しかし、毎週変動するランキングの中で、結果として4位~8位の幅だけで1年間を戦い切った。恐るべき安定性と言わざるを得ない。2年間の流れを追えば、2014年後半の勢いを2015年前半もそのまま維持し、後半が稍昨年比で見映えがしなかったということを以て、「錦織の低迷。全米オープンくらい何故優勝できない? 東京まで負けちゃってどうしたの?」といったスポーツ報道一般の印象なのだろう。錦織本人も、ベルディッヒ戦で漸く「自分のテニスを取り戻していくきっかけになる」と言っており、恐らく、2015年を会心の1年とは総括しないだろう。

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テーマ : テニス
ジャンル : スポーツ

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