【東京情報】 今時の猥褻

【東京発】ベルギー人記者が私の事務所を訪ねてきた。記事の執筆に関する相談があるという。「僕は日本オタクとして、それなりの自負があります。でも、どうしてもわからないのが、先日の“ろくでなし子”裁判なんです」。“ろくでなし子”をペンネームとする漫画家の五十嵐恵が、自分の性器を模った石膏を“作品”としてアダルトショップに展示したり、性器の形状を3Dプリンターで再現できるデータを配り、わいせつ物陳列罪・わいせつ電磁的記録等送信頒布罪に問われた件。事務所のソファーにふんぞり返り、コーヒーを飲んでいたフランス人記者が言う。「俺もあれについて記事を書いた。結果は一部無罪の有罪判決だ。東京地裁の女性裁判長は、『データは女性器を忠実に再現しており、性欲を刺激する猥褻物に当たる』として、罰金40万円を言い渡した。尚、石膏の陳列については『ビーズ等による装飾や着色が施される等しており、一見して女性器を連想させるものではない』と、無罪にしている」。ベルギー人記者が首を傾げる。「『女性器が猥褻か?』という議論は脇に置いたとしても、3Dプリンターで再現できるデータや石膏作品が猥褻な訳はないでしょう。抑々、この女性漫画家の性器なんて再現したくもないし、性欲も刺激されない。ろくでなし子というより“どうでもよし子”ですよ」。フランス人記者が同意する。「抑々、“既存の男性中心的な価値観を覆す芸術活動”等と言うからわけがわからなくなる。マ○コを模ったオナホール等、ディスカウントストアのドン・キホーテに行けば並べられているではないか」。

裁判長は「表現の自由は無制限のものではなく、公共の福祉や他人の権利等を不当に害するものは許されない」「フェミニズムアートという思想自体は否定できないが、社会の性的な道徳観念を害する危険性が低いとは言えない」と述べていたが、確かにしっくりこない。一体、どのように“公共の福祉や他人の権利”が侵害されたのか? こうした猥褻表現の是非を巡って裁判になるのは、欧米では近年、殆ど聞いたことがない。そこまで目くじらを立てる理由が、我々欧米人にはわからないのだ。ベルギー人記者が言う。「日本では昔、D・H・ロレンスの“チャタレイ夫人の恋人”を翻訳した伊藤整と版元の社長が、わいせつ物頒布罪で訴えられましたね。或いは、永井荷風の作とされる“四畳半襖の下張”を雑誌に掲載した野坂昭如と版元の社長が、わいせつ文書販売の罪に問われたこともありました」。谷崎潤一郎の『痴人の愛』は、“ナオミズム”という言葉が生まれるくらい読者の共感を集めたし、森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』は当初、発禁処分を受けたものの、今では代表作の1つに数えられている。天下の岩波文庫に収録されているくらいだ。フランス人記者が笑う。「そんなことを言ったら“源氏物語”はどうなるんだ。あれは光源氏というプレイボーイが、身分に拘らず手当たり次第、女とヤりまくる話じゃないか」。ベルギー人記者が領頷く。「“チャタレイ夫人の恋人”や“四畳半襖の下張”が裁判になった時は、表現の自由を訴える者もいれば、作品の本質を表すのに性描写は不要とする“良識派”もいた。でも、今回の石膏作品の件では、先頭に立って意見を表明する人が殆どいません。それは今回の件が、言論や表現の自由という重いテーマを背負っているとは思われていないからでしょう。要するに、彼女は自分の性器を公開したかっただけなのでは?」。だとしたら、付き合わされるほうはたまらない。女性器なんて、セックスをすれば嫌でも目につく。インターネット上には美女の無修正画像が犯濫している。誰でも容易に見ることができるものを、必死になって公開しようとするのが的外れなのだ。

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テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
ジャンル : 政治・経済

【宮崎哲弥の時々砲弾】 その後の仁義なきタックスウォーズ

経済ジャーナリズムや経済評論の世界には、碌な根拠も無いのに罷り通っている“神話”がある。例えば、一昔前ほどではないが、尚も世人の口の端に上ることのある“直間比率の是正”。“直間比率”とは、所得税・法人税・相続税等の直接税と、消費税や付加価値税等の間接税の比率のこと。その“是正”とは、「日本は直接税の割合が大き過ぎるので、もっと間接税を増やしてバランスを取るべし」という“課題”だ。今から見れば、全税目中、消費税の占める割合を上げることを正当化するだけの為に捏造された虚構である。繰り返すまでもなく、所得の再分配・資産格差の是正の為には、直接税の増税と累進性強化が必要不可欠であり、間接税へのシフトは経済的不平等解消の流れに逆行する。格差是正を主要政策に掲げる民進党が、消費税の税率引き上げをきっぱり否定しないのは何故か。どうして所得課税や資産課税の増強をしっかり謳わぬのか。未だに“直間比率の是正”という擬似問題に囚われているとしか思えない。

「消費税の税収は時々の景気変動に左右され難く、安定財源になる」というが、それは裏を返せば、好景気の時期にも税収が増えないという謂に他ならない。消費税・付加価値税は逆進的なので、それに依存する税制を採った国は、好景気で最も潤う富裕層から十分に税金を徴収することができない。そうした事態を緩和する為に軽減税率を導入しても、結局、低所得層だけでなく富裕層・中間層にまで不当な利得を与えてしまう。その分、税収が目減りする…。最近、誰もが軽減税率の欠陥を言い立てるようになったが、私は4年前から、このコラムを中心に各所で指摘している。他方、消費税や付加価値税に依存する税制の下では、不景気でも、たとえデフレに陥っても一定の税収が確保できる為、政府は景気浮揚やデフレ脱却に消極的になる。そればかりか、悪くするとタックスへイブンを放任することにも繋がる。直接税の公正な徴収の困難が前提となってしまうからだ。高税率の付加価値税が標準化したヨーロッパ諸国で、富裕層や多国籍企業によるタックスへイブンを利用した税逃れが横行している現実を見据えよ。EUが長年、スイスやルクセンブルク等による他国の相税収奪を事実上容認してきたのは何故か。間接税に頼る前に、先ず金持ちたちの逋脱の抜け穴を塞ぐべきだったのだ。

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テーマ : 税金
ジャンル : 政治・経済

【儲かる農業】(13) ドローンにクラウド…テクノロジーが切り開く農業

日本の農業の生産性は低いと言われている。やる気のある農家の登場はその状況を打破するだろうが、新サービスや新たなテクノロジーもまた、それを後押ししそうだ。

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近未来の20XX年になっても、農業の朝は早い。といっても、最近では専ら、センサーとロボットが殆どの作業をしてくれている。嘗ては、どれくらいの水が入っているか水田1つひとつを巡回して確認し、それに合わせて水門を開いて水量を調節していた。そして、それはコメ作りで最も時間を取られる作業だった。今では、水位を見張るセンサーと自動水門開閉ロボットの仕事となった。かといって、惰眠を貪る訳ではない。空いた時間で、クラウド上にある今年の作物の状況と、現在の相場や飲食店での人気を照らし合わせて、どれくらいの人を雇えばいいのか、或いは、いつ収穫すべきかをスマートフォン片手に判断する。しかし、心配は無用だ。人工知能(AI)が最適なパターンを提案してくれるからだ――。そう遠くない未来に、こんな景色が広がっている筈だ。ここでは、既に実現しかけている、或いは実験中の新サービスやテクノロジーを紹介したい。鍵となるのが、“センサー”“ロボット”“ドローン”“クラウド”といったワードだ。東京都渋谷区代官山にオフイスを構える『リアクティブ』。ドローンで撮影した画像をAIで解析する技術を持ち、収集した情報を基に企業にコンサルティングを行うべンチャーだ。同社は、そのノウハウを農業にも生かそうとしている。ドローンを自動で飛ばして水田や畑の画像データを収集し、AIが作物の質や量、或いは害虫の有無等を分析・予測するのだ。既に、新潟県魚沼市で実験中だ。今後は、「農家や企業にアドバイスをしていく」(最高執行責任者の飯沼純氏)。このような最先端の機器はドローンだけではない。『クボタ』等大手の耕作機械メーカーは、無人運転・無人収穫の実証実験を重ねている。更に、大型ロボットが入り辛い斜面の果樹園等に対しては、人間の脚力や腕力を補強するアシストスーツの開発が和歌山大学等によって進む。牧場では、テクノロジーによる効率化が既に現実化している。

畜産業の市場規模はコメの市場よりも大きいが、日本の畜産業の生産性は先進国の中で低い。そこで『ファームノート』では、センサーとAIで家畜の発情期を逃さず効率的に受精ができる仕組みを提供。他にも病気の予防など機能が多いが、特徴はスマホでの操作が簡単なことと、グラフ等が多用され見易いことだ。既に大規模畜産農家が続々利用を始めていて、「日本の畜産業の生産性を向上させる」(小林晋也社長)と意気込む。また、農家を困らせる害獣の駆除には『アルゾック』が参入し、センサー技術等を生かして罠に動物がかかった際には知らせてくれるサービスもある。今後は、こうした分業とアウトソーシングが益々増えていくだろう。ここまで自動化や省力化が進むと、ある面では農業は楽になるが、別の能力が求められ始める。既に、大規模な農業法人では、百貨店の催事への営業しかしないような社員もいる。更に今後は、「どのサービスやテクノロジーが必要なのか」「コストに見合うのか」「導入する場合の人繰りはどうするのか」といった判断が求められる。クラウドの情報を見ながらマーケティングに頭を悩ますような人材も必要になるのだ。農業向け人材関連サービスを提供する『ライフラボ』。今、同社が力を入れ始めているのが、ビジネスマンをヘッドハンティングするかのように、農業法人の依頼を受けてスキルを持った人材を探し、マッチングするサービスだ。そこでは、単純な作業ではなく、専門性の高い人材が求められ始めている。特に、「大規模な農場の管理を経験したような人材は人気が高い」(西田裕紀社長)という。長らく、日本の農業は生産性が低く、農業従事者の頭数に頼るような状況が続いてきた。しかし、今や若い人材や外国人労働者の確保が年々難しくなっており、頭数ありきの農場運営には限界がある。このままでは、農地の集約が進み、大規模化したところで、それを運営できるだけの人手が足りない。だが、ここで挙げたようなサービスやテクノロジーが加われば、著しい生産性アップが期待でき、日本の農業の未来を切り開くことができるかもしれない。


キャプチャ  2016年2月6日号掲載




テーマ : 農政
ジャンル : 政治・経済

【丸分かり・激震中国】(13) 「1月の売り上げは減少、2016年は厳しい年に」――『イトーヨーカ堂』中国総代表・三枝富博氏インタビュー

約20年間、北京や成都で小売りの業況を肌で感じてきた『イトーヨーカ堂』現地法人のトップに、中国経済の現状等を聞いた。 (聞き手/本誌 松本惇・中川美帆)

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――1996年に中国に進出したが、当初はどのような苦労があったのか?
「イトーヨーカ堂として中国進出は初めてだったので、文化・生活習慣・考え方の違いから、どのような基準で事業を進めていいのかわからなかった。進出後、半年から1年くらい経った時、先に中国に進出していたフランス企業の経営者から、『貴方たちは先進国から来ているから、法律・理性・感情の順番で物事を見るだろうが、中国は感情・理性・法律の順番だよ』と言われたのをよく覚えている。イトーヨーカ堂と取引をしてほしいと思って中国やヨーロッパのメーカー等約150社をホテルに呼んだことがあったが、来たのは20社くらい。殆ど日系企業だった。日本だったら、電話1本すればメーカーだろうが問屋だろうが、直ぐに集まってくる。それだけイトーヨーカ堂の影響力は大きかったが、全く違うということを思い知った」

――どのくらい経ってから手応えを感じたのか?
「2~3年経って、顔を出す頻度だったり、お互いに話し合ったり、そういうものが深まるに連れてだんだん関係ができてきた。そのウェートが高い国だと思った。取引先もお客さんも、社員もそうだと思う」

――北京では2014年以降、4店舗を閉店して5店舗になった。一方で、成都は6店舗あり、好調だ。その要因をどう考えるか?
「成都は都市のど真ん中、銀座の裏通りみたいなところに出店したので、競争相手がデパートや都市部の専門店だった。一方、北京は郊外の新興住宅地に出店したので、価格中心の商売をやってきた。2008年の北京オリンピックまでは中国経済全体が成長していたので、どんなビジネスでも伸びた。オリンピックが終わってから、北京の住宅の価値が5倍・10倍になり、農民工として働きに来た人は家が買えずに、かなり地方に戻った。結果として、 元々北京に住んでいた人だけが残り、北京のイトーヨーカ堂が『安いものばかりでいいものがない』と見られてしまった。北京ではその後も、価格中心の商売を続けてしまった。2008年の売上高は成都と北京で5対5だったが、今は成都7で北京3くらい」

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テーマ : 中国経済
ジャンル : 政治・経済

【ソニー・熱狂なき復活】(13) 官製再編は産業を救うか?

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官民ファンドの『産業革新機構(INCJ)』は今や、電機業界の打ち出の小槌と化している。これまでに、『ルネサスエレクトロニクス』に約1400億円、『ジャパンディスプレイ(JDI)』に約2000億円を出資。足元でも、『シャープ』への出資案や『東芝』の救済プランが浮上している。だが、INCJは本当に電機産業を救えるのだろうか。官民ファンドが設立されたのは、INCJが初めてではない。原型となるのは、2003年4月に発足した『産業再生機構』だ。銀行の不良債権処理を主たる目的として、深刻な経営不振に陥っている企業の再生を支援した。活動を終了するまでの4年間で、『カネボウ』や『ダイエー』等約40社を支援。企業に対する債権を非メインの金融機関から時価で買い取り、メインバンクと共に再生に当たった。取得した企業の株式は全てスポンサー企業や投資ファンドに売却し、約500億円の売却益を国に納めて2007年6月に清算された。活動期間は僅か4年だったが、国主導の企業再生の成功例とされており、INCJの成否を判断する上でも最大の比較対象となっている。再生機構の設立・運営に関わった元経済産業省官僚の古賀茂明氏は、「再生機構と革新機構の最大の違いは、活動期間の長さ。これが組織の性質を根本的に変えている」と指摘する。再生機構は当初から、活動期間を最長5年に限定して発足した。1つの案件に関わる期間も3年が目途だ。組織の寿命を短期間に限定したのは、成果と責任を明確にすることが目的だ。そして、この責任の明確化が一級の実務家を集め、最高の働きをしてもらうことに寄与した。再生機構では、『野村証券』出身の斉藤淳氏が社長、『ボストンコンサルティンググループ』日本法人社長だった冨山和彦氏がCOO、私的整理の権威である弁護士の高木新二郎氏が産業再生委員会の委員長を務めた他、個別の案件を判断するマネージングディレクターが多数いた。これらの実務家の中には年収1億円という人もいたが、再生機構は公費を主たる財源とする以上、払える報酬には大きな制限があり、大幅な年収ダウンとなる人も多かった。それでも、注目度が高く、社会的意義も大きい再生機構で成功すればキャリアアップできるというのは、彼らスター人材の大きなインセンティブだった。

一方でINCJの活動期間は15年と定められている。これでは、「15年に亘って国が身分を保証してくれる」と期待する人材を引き寄せてしまう。一級の人材にとっては精々腰掛け的な職場であり、投資案件をエグジット(売却)まで見ることなく転職する。INCJ発足当時に社長兼CEOを務めた能見公一氏と専務兼COOを務めた朝倉陽保氏は、昨年6月に揃って退任している。2人の退任は政府の意向と折り合わなかったことが背景と見られ、流石にキャリアアップの為ではなかったが、これを機に複数のマネージングディレクターが退職している。ルネサスのような投資済み案件のエグジットが仮に失敗に終わっても、責任を負うべき人は転職済みだったり、抑々誰が責任を負うべきなのかすら明確でなかったり…という事態になることは確実だ。NCJが発足した2009年頃は、金融危機を背景に官製ファンドが多数生まれている。だが抑々、官が関わるほうが企業再生は上手くいくというのは、全く根拠が無い。「情報の収集や分析については官僚のほうが長けている。故に、正しい戦略を構築できる」と考える官僚は想像以上に多いが、官僚のほうが経営者よりビジネスの現実を理解しているとは考え難い。官が民より長けているのは“巨額のカネを動かせる”という点に尽きるが、それすらも実務家の嗅覚に頼って正しく行わなければ意味がない。古賀氏は、「官製ファンドの背景にあるのは、官僚の間に増殖する介入主義だ」と指摘する。介入主義は小泉政権末期、「郵政のような改革がこれ以上進めば、省庁としての存在意義が無くなる」と危機感を抱いた経済産業官僚の間で台頭した。介入主義は“日の丸再編”的な発想と相性がよいこともあり、安倍政権下で一層肥大しているようだ。


キャプチャ  2016年1月30日号掲載




テーマ : 家電・AV・カメラ
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【異論のススメ】(14) 巨大地震に襲われて…覚悟のいる“あきらめ”

日本が地震大国であることは誰もが肝に銘じていた筈なのだが、ここへきて、改めてそのことを知らされた。阪神淡路大地震から20年、東日本大地震から僅か5年。今度は、熊本・大分を中心とする九州中部の大地震である。その間にも幾つかの地震がこの列島を襲い、然して遠くない未来には、東南海や首都圏を襲うであろう地震による途方もない被害が想定されている。この列島中を活断層が走っている。何れ大地が鳴動することは間違いないものの、いつどこで生じるかわからない。ただ、一度生じれば、一瞬にして生命を奪われ、その生は断ち切られる。この瞬間を境目にして生の様相は一変し、生者と死者は不可避的に引き裂かれる。こういう不条理な不確定性の下に誰もが置かれ、その不安や不気味さから逃れることができない。しかも、この“生への脅威”は、富裕層であるとか貧困層であるとか、老人であるとか若者であるとか、都会人であるとか田舎人であるとかとは関係なく、誰に対しても平等に襲いかかる。如何に近代社会が、等しく人々の生命財産を保障するという原理を打ち立てても、この不条理は、近代社会の根幹を一気に破壊してしまう。それが今、我々が置かれた状況である。実際、活断層地図等というものを見せられると、生命尊重こそを繰り返して唱えてきた戦後日本が、実は何とも言い様の無い生命の危機を内包していることがよくわかる。そして、この事態を前にして我々は立ち竦む他ない。勿論、防災対策も被害の最小化への努力も早急になされねばならないし、地震予測の精度向上も期待される。緊急時の危機管理も整備されねばならない。しかし、どれだけ防災対策や危機管理を行おうと、この巨大な自然の鳴動を抑えることはできない。つまり、我々はどこかで“諦める”他ない。このような言い方は読者に幾分不快感を与えるだろうし、「被災者の苦しみを何と心得ているのか」というお叱りを受けるかもしれない。敗北主義と揶揄されるかもしれない。しかし、何と言おうとそれは現実である。そして実は、我々は現に“諦めて”いるのである。誰もが防災を口にし、可能な政策的対応の必要を訴える。しかし、我々は本気でそう思っているのだろうか。

東日本大震災は、我々に謂わば価値観の転換を迫った筈だった。抑々、近代社会とは、自然の内に潜むエネルギーを引き出し、それを人為的に操作し、変換されたエネルギーによって荒れ地を都会に作り変え、山を掘り崩して道路網を作り、農業を破壊して巨大工場や高層ビルを建て、自然と共にあった神々を追放していった。金銭的利益を生み出す競争と物的な富の蓄積、つまりイノベーションと経済成長こそが全ての問題を解決すると見做した。いつどこで、一瞬の内に生が遮断されるかもしれないという不安には蓋をしたのである。つまり、事実上“諦めた”のだ。極めて不安定な岩板(プレート)の上に日本列島が危なっかしく乗っかっていることを知りつつも、只々この岩板の変動が最小限に留まることを祈るだけということにしたのである。然もなければ、東日本大震災から1~2年も経てば当事者を除いて震災の記憶は薄れ、3年も経てばまたもや、あの手この手を尽くした成長戦略を打ち上げ、株価の動向に一喜一憂するという我々の不細工な自画像を描く必要は無かったであろう。そして5年も経てば、また、東京オリンピックで建設ラッシュになり、インバウンド観光客の急増で大都市は大変な賑わいになったと燥いでいる。あの巨大地震の恐怖は、あっという間に、経済成長への期待と不安に取って代わられたのであった。つまり、巨大地震については“諦めた”ことになる。

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テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
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【タブー全開!政界斬鉄剣】(35) ドナルド・トランプが目指すのは弱気で自己チューな国作りだった!

池田「遂に、ドナルド・トランプ氏が次期アメリカ大統領選で共和党の候補者に指名されることが確実となりました。これを受け、日米関係がどうなってしまうかという議論が盛んになるでしょう。しかし、私の結論は簡単です。誰がアメリカの大統領になっても、日米関係は今と何ひとつ変わりません」

――どういうこと?
池田「先ず、トランプ氏の考え方を正確に見極める必要がある。彼は決して“アメリカ最強主義”ではなく、単なる“アメリカ至上主義”の人なのです。これについては、日本どころかアメリカのメディアも間違った認識を持っていると感じます」

――最強主義と至上主義はどう違うの?
池田「最強主義の代表例は、第40代大統領のロナルド・レーガン氏です。彼は大統領選の序盤から、当時4万発以上の核兵器を保有してアメリカと世界を二分していた“超大国”ソビエト連邦を倒すと訴えて当選した。つまり、アメリカを世界一強い国にすることを目標としたのです。その結果、レーガン大統領は8年の任期中に、約40年も続いた東西の冷戦を、アメリカの勝利で終結させたのです」

――では、アメリカ至上主義とは?
池田「トランプ氏が打倒すると宣言している対象は、国とも言えないレベルのテロ組織“IS(イスラミックステート)”だけです。核保有国のロシアや中国に対しては、『タフに交渉する』としか言っていない。つまり、戦う気は無いということです。トランプ氏が目標とするのは、アメリカを強くして世界の平和や秩序を取り戻すことではない。主に経済面で、アメリカだけが良くなることを目指しているのです。その結果、アメリカの中流や下流層も豊かにしようということ」

――それなら、今のオバマ政権とあんまり変わらないスタンスのような気も…。
池田「その通り。何ら変わりません。移民を排除する方法論等が過激だから強烈な印象を受けますが、実は“弱気で自己チュー”な政権運営をすると言っているだけ。ただ、これについては民主党のヒラリー・クリントン氏が大統領になっても同じ。オバマ路線の継承者ですから。バーニー・サンダース氏も貧富の格差是正にしか興味がないので、その他の政策は今と変わらないでしょう」

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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(63) 熱狂する大衆の陰に隠れた高学歴&リッチな“隠れトランプ支持者”たち

ドナルド・トランプが、今年11月のアメリカ大統領選に共和党候補として臨むことがほぼ確実になりました。多くのマスコミや知識人、更には共和党主流派からも激しくバッシングされ続けた“暴言王”は、何故予備選を勝ち抜けたのでしょうか? 先月下旬、トランプが大勝したニューヨーク州での予備選を現地取材した際に、改めて確認できたことがあります。トランプを支持する人々の“属性”についてです。彼の支持者は、大きく2つの層に分かれます。大多数(イメージで言えば8割)を占めるのは、学歴も教養もそれほど無く、グローバル化等複雑な社会の変化に対応し切れず、ただ現状に危機感を募らせる人々。高齢の白人男性が中心です。例えば、現地でインタビューした60代の男性支持者は、長年コツコツと仕事を続けてきたという“善人”。トランプの不法移民締め出し発言に「よく言ってくれた」と熱狂しつつも、本人は決して差別主義者ではなく、「合法的な移民に関しては歓迎する」というスタンスでした。

ただ、悲しいかな、驚くほど“釣り”に弱い。彼は、「反トランプ運動にはジョージ・ソロスの秘密資金が投入されている」といった陰謀論を疑いなく信じていました。その証拠は何かと聞くと、「皆が言っているよ」と…。同様に彼は、「マスメディアは嘘ばかり」というトランプの常套句も“丸呑み”です。獲物(大衆)が好む餌を熟知した優秀な“釣り師”に、幼気な期特を寄せる人々――。数で言えば、これが圧倒的なメイン支持層です。一方で、全く違うタイプの“隠れトランプ支持者”もいます。現地で聞き取りをした感触から言うと、トランプ支持層の内2割ほどは、高学歴で社会的地位もあるリッチな人々なのです。彼らは飽く迄も、純粋にトランプの経済政策に魅力を感じています。例えば、ソビエト連邦崩壊直後に若くしてアメリカへ渡ったというロシア出身のITベンチャー社長は、理路整然とした口調でこう言います。「TPP(環太平洋経済連携協定)を今のまま推進すると、資本と雇用が流出して、アメリカ国内の産業はダメになる。TPPをアメリカに有利な方向にチューニングしてくれるネゴシエーターは、官僚や既存の政治家ではなく、ビジネスの手腕に長けたトランプしかいない」。

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テーマ : 国際政治
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【中外時評】 タックスヘイブンの迷宮――『パナマ文書』で対策進むか

『パナマ文書』が国際的な税逃れ対策を迫っている。闇に包まれていたタックスヘイブン(租税回避地)の実態の一部が明らかになり、政治指導者等への批判も強まっている。各国の連携による対策が急がれるが、どこまで協調できるかは不透明だ。『国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)』が公表した文書には、パナマの法律事務所が過去40年に亘って設立したペーパー会社約21万社の役員・株主等に関する膨大な情報が記載されている。文書には、中国・ロシア・イギリス等の指導者の親族・関係者の名前も挙がっていた。不透明な投資に批判が強まり、アイスランドの首相やスペインの閣僚が相次いで辞任。文書を基に、スイスの検察当局が不正資金の捜査に乗り出す等、各国が対策に動いている。タックスヘイブンは、法人税や所得税がゼロか極めて低い国や地域だ。簡単に会社を作ることができ、匿名が固く守られる等の特徴がある。会社の設立自体は違法ではない。経済のグローバル化が進み、企業がペーパー会社を作り、国境を越えて税負担の軽減を図るのも一般的になっている。だが、匿名性を悪用して、過度の税逃れや脱税の隠れ蓑に使う場合もある。違法でなくても、富裕層や政治指導者の節税には“不公平”との批判が常にある。税逃れが横行すると、国に入る筈の税収が減ってしまう。そのツケは結局、行政サービスの低下等の形で、一般国民に回ってくるからだ。

税逃れだけではない。租税回避地は秘密の壁で守られた迷宮のようで、金融取引の実態が見え難い。課税当局も資金の流れの全容を掴むのは難しいのが実情で、麻薬密売等の犯罪資金を綺麗に見せかけるマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ組織の資金移動の温床にもなっている。巨額の投機マネーの活動の舞台にも使われる等、金融システムのリスクを見え難くしているとの指摘もある。各国の課税当局や国際機関も手を拱いていた訳ではない。1990年代から、世界的な批判の高まりを背景に、主要先進国を中心に不正の取り締まりに向けた情報交換の仕組み等が少しずつ整いつつある。

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テーマ : 税金
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【日曜に想う】 “E=MC2”刻むパンドラの箱

初夏の一日に訪ねた広島の平和記念公園は、柔らかな風と緑の中にあった。その外れに立つ不思議な慰霊碑を初めて見たのは、十数年前のことだ。花崗岩に3人の女生徒の姿が彫られ、中央の少女が抱える手箱には“E=MC2”と刻まれている。アインシュタイン博士が導いた名高い等式である。E、即ちエネルギーは、“質量(m)×光速(c)の2乗”に等しい。簡潔にして美しいその式は、一方で核爆弾の原拠でもあった。「とても小さな質量が、とても大きな量のエネルギーに変換されるかもしれないことを示しています」とは博士の言葉だ。天才の理論はアメリカによって実践され、広島と長崎は壊滅する。その惨事から3年後に造られた旧制広島市立高女の慰霊碑である。何故、慰霊碑にこの等式なのか。改めて調べると、占領軍の統制を受けて“原爆”の2文字が禁句視された戦後暫くの社会状況が浮かび上がる。惨状は伏せられ、直接的な表現は許されない時代だった。碑の原型を造った彫刻家は、京都に湯川秀樹博士を訪ねて原子力について教えを乞い、この式で原爆を象徴したと伝えられる。レリーフに込めたのは、悲痛な祈りと慰め、そしてぎりぎりに抑えた怒りであったろう。清らかに昇華された碑と裏腹に、女生徒らの最期は無残を極めた。碑の傍らに立って原爆ドーム上空を仰ぐと、その間近さに心が凍る。

「爆心から500m前後。今、中空で炸裂すれば、火の玉は瞬時に私を焼くだろう。あの朝、市立高女の1・2年生約540人は、建物疎開の動員でこの付近にいた。誰ひとり助かることはなかった。12歳から14歳ほどの少女たちだ。髪も焼け、口は裂け、目の飛び出た死骸となって折り重なっていた」――。翌日に付近を探し歩いた家族の証言が残る。材木町と呼ばれたその辺りには、他校の生徒も多数動員されていた。「恰も煮干魚を乾かしたように、誰ともわからない無数の死体が散乱していた」との目撃談がある。直截な表現に、悲しみと非人道への怒りが、きりきりと湧く。そこは今、平和記念公園になり、原爆資料館が立つ。今月27日には、原爆を落とした国の現職大統領が、71年を経て初めてやって来る。思惑含みの政治ショーではなく、無差別に消された幾多の命に“核廃絶”で報いる道程の、揺るがぬ足がかりとする決意は日米の政府にあるか――。「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」で知られる原爆死没者慰霊碑も、旧材木町の域内に立つ。オバマ大統領は、ここで献花する予定と聞く。碑文の主語は誰なのかを巡って、嘗て論争があった。悔いと誓いの主語は日本なのか、アメリカなのか。物議を経て、今は“人類”ということで多くに受け入れられている。“人類”という主語には説得力がある。しかし、“皆の責任”は往々、誰の責任でも無くなりがちだ。7年前、プラハでの演説でオバマ氏は、「核を使用した唯一の保有国として行動する道義的責任がある」と述べ、ノーベル賞を受けた。広島では、碑文の主語を自国と任ずるような言葉を聞きたい。それは、“核なき世界”を目指す行動の主語を、大統領自身が、退任後もずっと担っていく決意と重なる筈だ。そしてそのことは、先の戦争での責任に日本が真摯に向き合うことと一対である。被爆した詩人、故・栗原貞子さんの一節を思い出す。「〈ヒロシマ〉というとき/〈ああヒロシマ〉と/やさしくこたえてくれるだろうか/〈ヒロシマ〉といえば〈パール・ハーバー〉/〈ヒロシマ〉といえば〈南京虐殺〉…」。

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