ヨドバシカメラ、打倒Amazonへ“最短6時間配送”…全商品が送料無料、配送も自社で行う強み

インターネット通販市場の取り込みに向け、『ヨドバシカメラ』が本気になった。最短6時間の超速配送、品揃えの拡充と次々に施策を打つ。『Amazon』には無い実店舗の競争力にも磨きをかけ、インターネットとの融合を狙う。 (須永太一朗・河野祥平・飯山辰之介)

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「まさか、本当に6時間で届くなんて! Amazonよりずっと使い易いですね」。東京都中野区の主婦・佐藤美歩さん(31)は、ヨドバシカメラの通販サイト『ヨドバシドットコム』について満面の笑みでこう話す。今回の特集では、佐藤さんに8日間に亘ってヨドバシのインターネット通販を利用してもらった。購入したのは60点余り。品揃えや配送スピード・接客等について、一般消費者の目線で評価するのが目的だ。佐藤さんは夫と4歳になる長男との3人暮らしで、買い物は近くのスーパーマーケットが中心。インターネット通販は3ヵ月に1度ほど、Amazonでミネラル水を購入する程度。ヨドバシの店頭を訪れたことも殆ど無かった。佐藤さんが先ず驚いたのは配送スピードだった。初日の2015年9月6日、午前10時半に商品を注文すると、午後2時に出荷を知らせるメールが送られてきた。降り頻る雨の中、午後4時半には早くも商品が到着。その後も就寝前や外出時等、買い物に出掛けられない時でもスマートフォン(スマホ)を使って買い物を楽しんだ。ヨドバシは2015年9月から、注文を受けて最短6時間で商品を届ける“エクスプレスメール便”を、東京都内の中野・杉並・新宿の3区で正式に始めた。当日配送は既に多くの企業が導入しているものの、到着時間がわからないのが一般的。“6時間”と時間を明示して届けるスピードは、Amazonをも凌駕する。ヨドバシは、この超速とも呼べるエクスプレスメール便を年内にも東京都内23区全域に広げる計画だ。更に今回際立ったのは、満足度を高める細かい工夫や配慮だ。ヨドバシドットコムでは現在約370万点を扱い、家電以外に飲料・日用品・玩具・書籍・食品まで多岐に亘る。「日常の生活で必要なものは粗全て揃い、商品の説明も詳細で分かり易い」(佐藤さん)。一度クレジットカードの情報を登録すれば、2回目以降は簡単に決済できる。更に佐藤さんが着目したのが、配送の品質。スピード配送に加えて送料は全品無料で、「午後6時までに配達できます」といった通知メールに依り到着時間の目安も分かる。佐藤さんは、「配達までの時間が計算できる点や送料無料は大きな魅力」と話す。配送員はヨドバシの社員が担い、「毎回笑顔を欠かさず、配送車での禁煙が徹底しているのか、商品も煙草臭くなかった」と佐藤さんは話す。別のインターネット通販で嫌な思いをしたことがある佐藤さんは、そうした細やかな気遣いが気に入った。店舗同様にヨドバシのポイントが使える点や、電話での問い合わせも迅速だったのが印象に残ったという。カテゴリーに依って商品数にばらつきがあり、在庫切れの商品も目立つ等の課題はあるが、「インターネットが苦手な人でも使い易い」と佐藤さん。利用期間中は結局、一度も買い物には行かなかったという。従来、ヨドバシに関心の薄かった主婦が、僅か約1週間ですっかり“お得意様”に変わっていた。




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「ヨドバシがAmazonを超えた」――熱心なインターネット通販のユーザーらが集うネット掲示板等では最近、こんな書き込みが目立つようになってきた。品揃えの面等で依然大きな開きはあるものの、上記の体験リポートを見れば、スピード配送や接客面での品質で多くの顧客を取り込む可能性があるのがわかるだろう。ヨドバシカメラのインターネット通販事業は、右肩上がりで成長している。2015年3月期の売上高は前期比21%増の800億円で、売上高全体に占める割合は12%。2016年3月期は、家電量販業界で初めて1000億円を突破する見通しだ。EC(電子商取引)市場が拡大しているとはいえ、Amazonや『楽天』の存在感を考えると、既存の小売り大手が数百億円規模でこれだけの成長性を維持しているのは珍しい。原動力となっているのが、物流への積極投資と商品の拡充だ。対岸に羽田空港を望む神奈川県川崎市の大型物流拠点『ヨドバシカメラアッセンブリーセンター川崎』では、2015年8月から拡張工事が始まった。2016年10月を目途に、現行の施設に隣接する形で5階建ての新施設(約24万㎡)を建設、全体の延べ床面積を現在の6倍に広げる計画だ。投資額は約100億円を見込んでいる。既に首都圏の主要都市で大型店舗を構える同社が、これほどの大型投資に踏み切る理由はただ1点。インターネット通販の拡大に向けた取扱商品の拡充と、物流機能の更なる強化だ。現在、同社がインターネット販売する商品数は約370万点で、同じ家電量販が扱う数十万~百数十万点を大きく上回る。だが、インターネット通販事業を統括する藤沢和則副社長は、「店で買えるものは全てインターネットでも買えるようにするのが大原則」と強調する。商品数は、早期に1000万点まで増やす考えだ。川崎の拠点は現在、東日本の各店舗に商品を供給している他、インターネット通販の商品も扱っている。ただ、今後はインターネットを軸に、家電以外の日用品・食品・書籍等を大幅に拡充する計画。新施設は、在庫の保管や管理・供給で最も重要な役割を担うことになる。一方、スピード配送やきめ細かい顧客サポートを実現するには、巨大物流施設だけでは十分ではない。キーワードとなるのが、商品を配送し消費者に届けるまでの最後の数kmを意味する“ラストワンマイル”まで自前で手掛ける物流の完全内製化だ。ヨドバシでは物流センターの拡張と並行し、東京都内に複数の小型物流拠点を整備。2015年2月頃から施設内に小型家電や日用品等の一定の在庫を抱え、インターネットでの注文を受けると、最短6時間で商品を配送するエクスプレスメール便のテスト運用を続けてきた。

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川崎市の大型物流センターは延べ床面積を6倍に拡張。インターネット通販事業の最重要拠点となる。

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実際の配送は『ヤマト運輸』等の大手の運送会社に任せず、ヨドバシの社員が直接担当。小回りが利く小型のバイク等で商品を運び、顧客が不在で再配達の要望等があった場合にも迅速に対応する。自社で行う為、新サービスの試験導入等がやり易く、メリットは大きい。藤沢副社長は、「商品の配置や梱包の仕方等、細かいことを日々カイゼンしながら最適な運用法を探っている」と明かす。実は、スピード配送はコスト面でも利点もある。「物流では商品を届けること以外に、商品を在庫として保管したり再配達するコストが非常に大きい」(藤沢副社長)。逆に、“6時間”と区切って顧客に一度の配送で商品を届けられれば、再配達を減らし在庫の回転率も高められるという訳だ。エクスプレスメール便は2015年内に東京23区に広げ、その後は他の主要都市でも展開する。更に深夜や早朝も含め、利用客が希望する時間帯に受け取ることができるサービス等も導入していく予定だ。ヨドバシは川崎市と神戸市に大型物流センターを持ち、北海道と九州でも施設の整備を検討している。当日配送のエリアは現在、人口カバー率が70%に達しており、翌日配送も加えると離島等を除き粗100%になる。更に、主要都市に小型施設を張り巡らせることで、ラストワンマイルの配送水準を高める。これがヨドバシの物流戦略だ。とはいえ、「物流の強化がインターネット通販の成長に繋がる」というのは最早、業界の常識。インターネット専業のAmazonと同じ土俵の比較では、ヨドバシの真の強さは見えてこない。それは、同社の“顔”である秋葉原や梅田の“巨艦店”を中心とした店舗の圧倒的な競争力と、インターネットの利点を組み合わせた“オムニチャネル”の徹底ぶりだ。オムニチャネルとは“全ての販路”を意味し、2010年代に入り広がってきた流通の概念。実店舗やインターネット通販・SNS(交流サイト)等を連動させ、顧客との接点を増やして商品やサービスの販売を強化しようとするもの。アメリカの大手百貨店『メーシーズ』等が逸早く取り入れた。日本でも、『セブン&アイホールディングス』等が本格展開に向け準備を進めている。だが、実は彼らより先行しているのがヨドバシなのだ。

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2015年9月下旬、秋葉原の『ヨドバシカメラマルチメディアAkiba』。家族連れや訪日外国人客で賑わう店内には、あちこちに“店内スマホ使い放題”や“FREE Wi-Fi”の表示が躍っていた。同社は9月中旬から、全国22店舗の全店でフリーWi-Fiのサービスを導入。来店者は、簡単な登録だけで無料で高速無線インターネットが利用できる。更に、店内ではヨドバシの商品についてスマホ等で他社と価格比較をしたり、SNSに投稿したりするのを推奨。店員は来店客に「自由にインターネットを使って試して下さい」と呼びかける。家電製品はファッションや日用品等と比べ、インターネット通販との親和性が高い分野とされてきた。商品はその型番毎にスペックが明確に決まっており、『価格ドットコム』等の有力な価格比較サイトもあることで、価格の動向が把握し易い。その為、消費者が店頭で商品を触って使い勝手等を試し、インターネットでより安い価格のサイトを探して購入する“ショールーミング”の対象となり易い。結果としてインターネットへの顧客流出が進み、特に家電量販業界では“インターネットは店舗の敵”との風潮が強まった。だが、ヨドバシの“Wi-Fi無料化”は業界の流れとは真逆。自らの首を絞めるような取り組みに見えるが、実はオムニチャネルの確立に向けた欠かせない仕掛けとなっている。消費者は店舗を訪れて商品を確認し、その場でも自宅でも購入できる。勿論、インターネットからだけ注文するのも可能。購入する商品や消費者の自宅の場所等に応じて、ヨドバシは大型物流センターを起点に最も効率的な方法で届ける。消費者はいつでもどこでも、気に入った商品を購入できるという訳だ。このオムニチャネル、実店舗とインターネット通販のどちらかが不十分でも成り立たない。インターネット通販では価格や利便性が大きな要素になるし、実店舗には他社と差異化できる魅力が欠かせない為だ。その点、ヨドバシの店舗競争力は業界でも群を抜いている。

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『サービス産業生産性協議会』に依る顧客満足度指数の調査では、ヨドバシは2014年度まで家電量販分野で5年連続1位を獲得。全国22店舗の年間平均売上高は約300億円と、『ヤマダ電機』の10倍以上に達する。ヨドバシの店舗従業員は入社後、自分の希望や適性に依ってパソコンやカメラ等、担当する売り場に配属される。接客や研修を通じて販売スキルを磨く他、積極的に家電メーカーや製品の特徴を学ぶことを求められる。「ヨドバシの来店客は製品知識が豊富で、要求水準も高い。日々の接客を通じて、店員は本当に鍛えられる」(『マルチメディアAkiba』パソコン専門チームグループリーダーの藤本健司氏)。主要都市の駅前という好立地に巨大店舗を設け、多種多様な商品と製品知識の豊富な店員を揃えることで、目の肥えた消費者の要望に応えてきた。Amazonには真似できないこうした店舗の資産を持った上で、ヨドバシはインターネット化の流れを加速。2000年頃から店内の在庫をインターネットで可視化できるようにシステムを構築し、インターネット通販に本格参入してからは店舗とネットの在庫管理を一元化。価格も業界に先駆けて統一してきた。足元では、サービス面での融合を一段と加速している。2012年からは店頭の商品にバーコードを付け、他社サイトも含めて価格を比較できるサービスを開始。2013年には、インターネット通販で注文した商品を最寄りの店頭で当日受け取れるサービスを導入、秋葉原と梅田の旗艦店では24時間受け取り可能だ。接客時に収集した消費者の要望やインターネット価格の情報等は売り場や店舗間で共有し、サービス改善に繋げている。マルチメディアAkiba店長の松田謙一執行役員は、「2~3年前から社員の意識が大きく変わり、『どうすればヨドバシに満足してもらえるか?』を1人ひとりが考えるようになった」と話す。店舗の魅力を磨くのにも余念はない。例えば、マルチメディアAkibaでは各フロアに専門知識を持つ店員の他、10人程度の“コンシェルジュ”を配置。例えば、新婚のカップルが新生活に合わせてテレビや冷蔵庫・洗濯機等を纏め買いする際等に、各フロアを案内して商品選びをサポートする役割を担う。松田店長は、「店舗には店舗にしか提供できない価値があり、その価値を突き詰めることが競合力を引き上げる」と強調する。

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小売り大手にとってインターネット通販の強化は大きな課題だが、そのハードルは高い。例えば、ヒト・モノ・カネを集中投下できるインターネット専業とは異なり、小売りは店舗への資源配分も考慮せざるを得ない。在庫の管理や配送に関わる物流面の整備にも、大きなコストや手間がかかる。近年ではショールーミングが浸透したことで、顧客の囲い込みもより難しさを増している。そうした中、ヨドバシは消費者に店舗・インターネットに拘らず選択肢を提供。最新の売れ筋商品をずらりと揃えた巨艦店を敢えて“ショールーム化”し、実際に商品を試してもらったり店員が丁寧に説明したりすることで、購買意欲を高める。店頭で気に入った商品をスマホで決済し、持って帰る必要もない。「ヨドバシはインターネット通販も便利」との認識を消費者に根付かせることで、Amazonへの顧客流出を防ぐだけでなく、逆に取り込むことさえも可能になる。ヤマダ電機の大量閉店が象徴するように、家電量販業界はヒット商品の不在や消費増税の影響で厳しい状況が続く。ヨドバシも2015年3月期の売上高は前の期比6%減の6515億円、経常利益は同4%減の511億円と、必ずしも順風満帆という訳ではない。藤沢副社長が「日々試行錯誤の連続」と認めるように、インターネット通販も道半ばだ。それでも、市場が縮小し、近い将来に淘汰が進むと見られる家電量販業界で、率先してオムニチャネルに舵を切り、新たな収益源を育てようとしているヨドバシの先行度合いは群を抜く。ヨドバシに家電製品を供給する『アイリスオーヤマ』の大山健太郎社長は、「ヨドバシは色々な物を扱うデパートになりつつある。家電量販の中で生き残れる数少ない企業の1つではないか」と話す。元来の強みである店舗と、急成長するインターネット通販の両輪が十分に噛み合い、強大な推進力を生み出せば、“打倒Amazon”が一段と鮮明になる。


キャプチャ  2015年10月5日号掲載


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テーマ : 経済・社会
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