【フォルクスワーゲン・不正の構図】(上) 30年以上愛したVWとの別離宣言――私たちの健康と環境を蔑ろにする裏切りで消費者がVWを見る目はすっかり変わってしまった

VW 03
私は愛していた。環境を大切にする人間としては今や不本意なことだが、私は『フォルクスワーゲン(VW)』を愛していた。愛の始まりは1983年まで遡る。大学を卒業した翌週に、1971年製の『トランスポルター』のバンを買い、ベッドとカーテンを取り付けてキャンピングカーに改造した。シンプルで機能的だけれど独創的なデザインに、私は病みつきになった。数年後、VWの1977年製のバンに買い替えた。ポップトップでルーフが開き、コンロ・シンク・冷蔵庫の付いた車だ。ポルシェの薄型エンジンを後部に搭載し、騒々しい“家”を運転しているような感じだった。冬のオハイオ州でこれらの車を運転するのは、体が凍り付くほど寒かった。道路の凍結防止の為に撒かれる塩化カルシウム等が熱交換器を錆びさせ、暖房が機能しなかった為だ。仕方なく厚着したり、フロントシートと後部の間に毛布を垂らしたりして寒さを凌いだ。バンを運転していると面倒が付いて回る。大学院に進むと、同級生たちから度々引っ越しの手伝いを頼まれたのだ。それに懲りた私は1シーズンでこのバンを売り、見つかった中で最も小さく、最も安かった『日産自動車』の『ダットサン』に買い替えた。けれども、学位論文を書く為の調査でブラジルのアマゾンの奥深くに滞在した時、1976年製のVW『ビートル』を買った。この車種は、現地で“焼けた尻”と呼ばれていた。後部でエンジンが簡単に過熱するからだ。しかも、都会から離れた場所で何の前触れもなしに止まる。ある時、材木や物資を運ぶ大型トラックを沢山載せたフェリーボートで移動していた時のこと。目的地に着いて、船から降りる途中でエンジンが動かなくなった。ドライバーたちに一斉にクラクションを鳴らされても、エンジンが動く筈はなく、数人の若者が船の外まで私の車を押して移動させた。トラックが全て走り去った頃、13歳の男の子がリアフードを開けて調べてくれた。原因は直ぐわかった。少年が燃料ホースを銜えて中身を吸い、ガソリンを吐き出してからホースを差し込むと、エンジンは直ぐに動き始めた。暫く、ビートルは軽快に走ってくれた。数週間後にまたエンジンが止まった時、私はビートルを売ることにした。「公共のバスを利用したほうが無難だ」と思ったのだ。それでも、シンプルな造りのVW車の修理は決して難しいものではなかった。

アメリカに帰国後、妻がVWの『ゴルフ』を買った。ペンシルベニア州の工場で造られた車だったが、この工場は深刻な品質上の問題に依り、操業を開始して僅か2年で閉鎖された。妻のゴルフも早々にドアとウインドウが開かなくなり、電気系統の故障にも見舞われた。それでも、VWの車は運転していて楽しかった。6年後、私たちは2009年製のVW『ジェッタ』のディーゼルエンジン車を購入した。理想の自動車に思えた。デザインもいいし、燃費もいい。操作性にも優れている。大量のガソリンを消費する癖にパワー不足の車とは大違いで、加速が素晴らしかった。おまけに、環境に害を及ぼしているという罪悪感も抱かずに済む…筈だった。先週までは。先週、VWが排ガス規制を逃れる為、ディーゼル車に不正なソフトウェアを搭載していたことが発覚した。排ガス基準の適合試験時にだけ排出量を抑えるソフトだ。世界で約1100万台のVW車に搭載されているという。これらの車は、検査時以外は法定基準値の10~40倍の窒素酸化物と二酸化窒素を排出する。呼吸器に悪影響を及ぼし、他の物質と結び付いて有害なスモッグを生む物質だ。アメリカでは、ディーゼル車の占める割合が全体の3%程度に過ぎない。それでも、VWの車を買った消費者・社会全体・政府・VWの納入業者全てに対する重大な詐欺行為だ。莫大な経済的損害を被る人も大勢いる。VWの株主は言うまでもないが、VW車の販売店を経営している人たちの打撃はそれを上回る筈だ。




私たちがVWを見る目は変わらざるを得ない。妻はこう言った。「私たちは騙されたのよ。知っていればプリウスを買っていたわ」。私の場合、これでVW車に全く魅力を感じなくなるかはわからないが、VW車を買うことは恐らく二度とない。ディーゼル車は巨大なバッテリーが必要無い点で、電気自動車(EV)やハイブリッド車よりも環境に好ましいと言われることがある。EVやハイブリッド車の場合、バッテリー用の金属を採掘・加工する過程で環境に負荷が掛かるし、重たいバッテリーを載せて走ればエネルギー消費も多くなる。ヨーロッパ諸国は自動車業界のロビー活動にも背中を押されて、気候変動対策としてディーゼル車の普及を進めてきた。そうした中で今回、VWに持ち上がったスキャンダルは自動車業界を激しく揺るがしている。「ディーゼル車が環境に優しい」という主張そのものに疑問符が付いた上に、政府機関の監督規制能力も覚束無いことが露呈した。そして、デザイン性と環境への優しさで愛されていたVWの不正発覚に依り私たちは、「これまで最も愛していた自動車メーカーですら、私たちの健康と環境を大切にしていないのだ」と知ってしまった。今回の一件を機に、企業全般に対する、そして社会のガバナンスシステム全体に対する信頼を損なった人も多い。後世の歴史家はこの事件を振り返り、企業と政府の関係が変わるきっかけになった出来事と位置付けるかもしれない。昨今の新自由主義経済の下では、「政府の役割を極めて狭く限定し、環境や健康等も含めたあらゆる問題の解決を市場原理に委ねることが好ましい」とされてきた。そういう資本主義の在り方に転機が訪れないとも限らない。私とVWの愛の行方はどうなるのか。確かなことはまだ言えない。けれども、恋人に裏切られていたことを知った人間が、相手をもう昔のようには見られないのと同じように、私がVWを見る目は変わる。二度と裏切りに遭わないように、よく考えて行動したい。 (ブルッキングス研究所非常勤上級研究員 ティモンズ・ロバーツ)


キャプチャ  2015年10月6日号掲載
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