【中外時評】 人口減時代の都市計画を――“ガラ計”から脱却必要

「“対流促進型国土”の形成」――国土交通省が纏めた新たな国土形成計画のキャッチフレーズである。2025年までの10年を計画期間とする国土造りの指針だ。国の社会資本整備に関係する様々な計画の基本となるのが、この国土形成計画である。空気の流れは温度の違いが生み出す。それと同じように、1つひとつの地域が個性を磨いてこそ、人・モノ・情報の双方向の流れができる。本格的な人口減少社会に入った今だからこそ、“対流”を強めて地域に活力を齎そうという趣旨だ。これと同時に国交省が策定した第5次国土利用計画では、人口が集中する市街地の面積を2025年時点で121万haと見込んでいる。2010年時点(127万ha)よりも僅かだが減少する。増え続けてきた宅地面積も横這いになる。第1次の国土利用計画が策定されたのは1976年。当時の資料を見ると、1970年時点の市街地面積は64万haだった。その後の40年間で日本の市街地は2倍に膨らみ、これから減少に転じる。開発の時代が終わり、国土利用が縮む時代になるということだ。

人口減少を見据えた2つの計画の内容には、特段の異論はない。しかし、市街地や宅地面積等の目標を掲げても、現在の法制度ではそれを実現する十分な手立てがない。「日本の都市計画制度はガラ計だ」。一般財団法人『日本開発構想研究所』の梅田勝也研究主幹はこう話す。国際標準からかけ離れたガラパゴス化した計画、という意味だ。土地利用に最も影響を及ぼす法律が『都市計画法』である。先ず都市計画区域を設定し、その中で積極的に整備を進める“市街化区域”と、開発行為を抑える“市街化調整区域”を定めている。ヨーロッパの主要国や韓国の都市計画制度は、国土全体を対象にしている。一方、日本では都市計画区域の面積は国土の26%程度しかない。市街化区域や市街化調整区域になっているのは、僅か14%程度だ。だから、郊外や周辺部の開発を抑える力が弱い。




現在の都市計画法は1968年に制定された。高度経済成長期に入り、大都市への人口流入が既に激しくなり始めていた時代だ。その為か、海外のように土地利用の調整を主眼とするのではなく、都市部の基盤整備を進めて市街地を広げる“都市建設法”的な色彩が強い。人口が右肩上がりで増えていた時代は、これでもよかったのだろう。しかし、現在は都市部ですら人口が減る時代だ。「これから必要なのは市街地を狭める政策。縮小期の都市計画だ」と『日本学術会議』の大西隆会長は指摘する。国土の一部しか対象にしていない都市計画法の不備を補っているのが、自治体の条例だ。長野県安曇野市の土地利用条例が好例だろう。2005年10月に5つの町村が合併して誕生した安曇野市では当時、都市計画法に基づく指定区域がある地域と、全く無い地域が混在していた。そこで、市は2011年4月に条例を施行し、都市機能を集約する“拠点市街区域”、自然環境との調和を促す“田園環境区域”等、市内を6区域に分類した。区域毎に建設できる施設や規模等を定め、無秩序な開発を抑えて田園景観の維持に努めている。但し、安曇野市のような自治体は多くはない。日本の都市計画制度が“ガラ計”化した背景には、私権制限を嫌う国民意識と同時に、開発志向が根強い自治体の存在も見逃せないだろう。実際、A市が特定の地区の開発を抑制しても、その地区に隣接するB市が開発を進めれば元も子もなくなる。秩序ある土地利用を実現する為には、「市町村単位だけではなく、広域的な調整ができる仕組みが必要」(東京大学の瀬田史彦准教授)になる。

人口減少時代に向き合うなら、中央省庁の縦割りを排して、“都市農村計画法”のような国土全体の土地利用を総合的に調整する制度がほしい。宅地・農地等の将来の規模について、国と自治体が目標を共有できるように、協議する仕組みも欠かせない。その上で、道路や上下水道等の社会資本の総量を管理し、老朽化した公共施設を再配置する。1つひとつの都市の密度を高めてこそ、国土形成計画が掲げる人・モノ・情報の“対流”が生まれ易くなるのだろう。全国の自治体は現在、地方創生の一環として人口ビジョンを策定している。長期的な人口動向に基づいて街のあり方を見直す好機だ。人口減少時代の都市計画制度を作るのは今しかない。 (論説委員 谷隆徳)


≡日本経済新聞 2015年10月11日付掲載≡
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