【少年犯罪“殺人者”たちの肉声】(下) 兵庫・17歳リンチ死事件(2000年)――父親となった加害者、月3万円の贖罪

事件から15年。妻子を持った“少年A”とテーブルを挟んで向かい合った被害者遺族に、その複雑な思いを聞いた。 (取材・文/ジャーナリスト 須賀康)

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2014年11月28日、神戸市中央区にある法律事務所の会議室。張りつめた空気が沈黙を更に重苦しくさせていた。「事件から14年間、何もせんかった訳やし、約束ば何度も裏切って、今までが今までやったからな。会う約束をしたって、E(当時19)がほんまに来るんかどうか、顔を見るまでは信用でけへんかったんや」。兵庫県津名郡五色町に住む山崎守さん(64)は、淡路島方言のアクセントを交え、強い口調で当時の気持ちをこう語った。2000年4月3日、山﨑さんの次男・晃君(当時17)は同級生や先輩ら20人から集団リンチを受け、海に転落させられて溺死、殺害された。事件から14年後、山崎守・育代さん(62)夫妻は、山崎さんの代理人事務所で事件の主犯だったEとの対面を待っていた。約束の午後4時、濃紺のスーツにグレーのネクタイ姿、1人で現われたEは、正面に座る山崎夫妻と目が合うと深々と腰を折り、「申し訳ありませんでした」と一礼。少し震えるはっきりした声で謝罪の言葉を述べた。そして、中央のテーブルを挟んで、山崎夫妻と正面から向き合って座った。だが、ここに辿り着くまで、遺族には幾度もの紆余曲折があった。事件直後に逮捕された20人のうち、成人の主犯4人は刑事裁判にかけられ、主犯で中等少年院送致の処分を受けたEを除く11人の未成年者は、少年審判で全員が不起訴処分。成人だった残りの3人は、殺害された第2現場にいなかったという理由で起訴猶予となった。事件後、5人の主犯のうちCを除く4人からは一切謝罪は無く、山崎さんは2001年5月に民事訴訟を提訴。2004年、連帯で7080万円を支払う判決を受けた。主犯以外は、2003年8月に1人50万円(1人のみ200万円)、月々1万円から2万円を支払うことで和解した。

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ところが4人はその後、謝罪はおろか賠償金も払わず、連絡さえ途絶えたのである。山崎さんの代理人が何度か支払いを請求する“ご連絡書”を送るが、連絡は一切返ってこなかった。事件から11年後の2011年4月、それまで何の連絡も無かったEから突然、山崎さん宅に「晃君に線香を上げ、ご両親に謝りに行きたい」という電話がかかってきた。山崎さんがEの声を聞いた時の驚きと憤りをこう語る。「10年以上何も言ってきいへんかったもんがやで、突然来て…。正直な気持ちは会いとうなかった。こんガキという気持ちと、ある程度向こうの気持ちを聞いて、晃に報告できるような方向に行けたらと思う気持ちがあった」。悩んだ山崎さんは、代理人の中川勘太弁護士に同席を依頼し、3ヵ月後の2011年7月にEを自宅に呼ぶことにした。黒いスーツにネクタイを締め、お供え物を持って1人で来たEに山崎さんは、これまで謝罪に来なかった理由を聞いた。すると、Eは言い訳のようにこう答えたという。「もっとはよう謝りたかったんですが、怖くてよう来れなんだ。こんなに遅うなったけど、これから何ぼかずつでも(賠償金は)返していきたい」。心臓の高鳴りを抑えながら話を聞くうちに、山崎さんはEが相当の覚悟を持って来ているように思えたという。被害者の遺族が加害者との面会を決意するまでには、凄まじい葛藤がある。一方、加害者にとっても遺族とは違った意味の強い覚悟が無ければ、踏み出せない。しかも、時間が経てば経つほど、その覚悟や決意は鈍磨する。それが謝罪の言葉だけではなく、判決や和解で決められた賠償金の支払いとなると尚更だ。「これから何ぼかずつでも返していきたい」と贖罪の意思を示したEだったが、その後も支払いは無く、連絡さえもしてこなくなったのである。




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Eらに対する損害賠償請求の判決が出たのは2004年3月11日。民事判決が確定後、債権取立てが可能な10年の時効が迫っていた為、2013年末に時効中断の訴訟を起し、2014年2月13日に前件判決と同一の判決を受ける。時効中断の訴状が届き、慌てたのはEだ。前回の訴訟で代理人だった木村祐司郎弁護士の子息である倫太郎弁護士に相談するが、「10年前に確定した判決を変えることは不可能」と告げられる。その時、Eは木村弁護士にこう答えている。「ご満足頂けるような金額をいつ払えるかわかりませんが、少しずつでもお払いしたいと思っています。付添人のお願いをできませんでしょうか?」。木村弁護士は、その時のEの印象をこう述べる。「体格がよく、精悍な感じの元体育会系の素直そうな青年でした。悪い印象は無かったですね」。遺族との交渉を引き受けた木村弁護士は交渉を始める前提として、Eに強い言葉でこう言い渡した。「遺族は子供を殺され、お子さんとの時間は止まったままだ。君は14年間生かさせてもらい、家庭を持ち、子供もいる。自分の都合はあるだろうが、自分に支障の無い範囲でというような半端で失礼な話なら、交渉は持っていけない。その覚悟はあるのか?」。更に、木村弁護士はEにこう迫った。「交渉するのなら給与明細は勿論、君の家庭の生活費の収支の中身を全て見せてもらう」。すると、Eは直ぐにこう答えたという。「それはわかっています。事件については、職場にも妻にも話しています。支払いも、妻が『一緒に努力してくれる』と言ってくれています。既に、支払いの為に保険も解約しました」。木村弁護士はEの本気度を見極める為、更に突っ込んだ質問をする。「支払いを忘れるということがないように、給与から引き落としにする覚悟はあるか? 振込口座は新しく作ったものではなく、君が生活費の引き落としで使うメインの銀行口座を使う」。Eは顔色も変えず、頷きながら木村弁護士の話を聞き、こう言った。「お願いします。それをやろうとしています。それでお願いしたいのです」。木村弁護士は、「Eの意志は固い。本気だ」と思った。その後、山崎さん側との交渉に入り、損害賠償金の支払いについて、頭金40万円を合意書の締結時に現金で支払い、以後、毎月3万円を完済(1440万円)まで支払うとする合意書が作成されたのだった。

2014年11月28日。前出・中川弁護士の事務所で山崎さん夫婦とEは、合意書を元に対面することになったのである。「事件が起きてからここまで時間が開いて、加害者と被害者遺族が直接面会し、事件とその後について前向きな会話をするのは極めて珍しく、少年事件では初めてのことだと思います」(前出・中川勘太弁護士)。約束の時間通りに姿を見せたEに対し山崎さんは、身なりや居住まいを見て「一端の会社に行きよるんやな」と感じたという。立ち会った中川・木村両弁護士は双方の会話に口を挟むことはなく、重苦しい空気が流れる中、ボソリボソリとした受け答え、そして沈黙が繰り返されつつ対話は進んだ。「最近はどないな生活しとるんや?」。山崎さんがEの顔を正面から見据え、聞いた。Eは山崎さんから目を逸らすことなく、はっきりとした声でこう答えた。

E「はい、結婚して子供が2人います。生活に全く余裕はありませんが、頑張って働いています」
山崎さん「家庭を持っているなら、毎月3万円ずつ払うのは奥さんに話しとるのか? おまんの家庭に迷惑をかける気はあれへん。ちゃんとほんまにできる範囲でやれるんか?」
E「それはします」
山崎さん「こんなん(合意書)だけで、わしらも『はいそうですか』とは言われへん。民事の判決が出てから『します』言うたかて、(支払いは)直ぐに打ち切られる。『払います』言うたかて、無かったら払えへん。おまんにどんだけの覚悟があるのか聞きたい」

神妙な面持ちで聞いていたEは、山崎さん夫妻の顔を見てきっぱり答えた。「山崎さんの言われることは全て、全面的にわかります。これから絶対裏切らないように約束します」。山崎さんが論すように言う。「わらがにとっては、いくら時間が経っても気持ちが薄れることはないんや。許せない、忘れることはないんやぞ」。会話が途切れて沈黙が続いた後、Eは自らの覚悟を示すようにこう言った。「若し払えんようなことがあったら直接、私がここ(弁護士事務所)へ来て土下座をする覚悟です」。山崎さんはEに向かい、噛み熟すように話しかける。「わがらもお金がのうても、(晃君を)17歳まで育てるのに寝ないで仕事してきた。子供を育てるいうんは、どない辛いことがあっても辛いなんて言われへん。それは親の義務やと思ってしてきたつもりや。ここでおまんがこんだけ言うんやったら、絶対裏切らんように、わらがが生きとる間、ずっと償ってくれることを願うとる」。Eは深く頭を下げ、少し目頭を熱くさせながら言った。「必ず約束を守ります。定期的に晃君のお墓参りにも行きたい」。その後、晃君の墓前に花が供えられているのを山崎さんは何度か見ている。「相手を怒っても一歩も前には進まない。お金の問題ではないんや。家庭を持ったEには本気で立ち直ってもらいたい。その姿を、うちの子に胸を張って報告ができるような大人として生きてほしいと思うてます」(山崎さん)。少年法は、罪を犯した少年が罪の重さに気付き、自立的に生きることを学び、社会に復帰して生きる人間へと成長することを目標としている。山崎さんの思いが元“少年A”に届いていることと思いたい。


キャプチャ  2015年9月8日号掲載


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