誰がテレビからジャーナリズムを奪ったのか?――『桶川ストーカー殺人事件』『足利事件』の調査報道でスクープを飛ばした伝説の記者を直撃!

「テレビがつまらなくなった」と言われて久しい。バラエティーは勿論、報道でも嘗ては時の政権を引き摺り下ろす程の迫力と影響力があったが、今はどの局も同じニュースが並んでいるだけのように見える。一体、テレビ報道の現場では何が起こっているのか? 『桶川ストーカー殺人事件』『足利事件』の真相を暴いた日本テレビ報道局記者・解説委員の清水潔氏に話を聞いた。 (取材・文/藤木TDC)

Kiyoshi Shimizu 01
『騙されてたまるか 調査報道の裏側』(新潮新書)という本が話題になっている。著者は、日本テレビ報道局記者・解説委員でもある清水潔氏だ。清水氏は、写真週刊誌『FOCUS』の記者時代に『桶川ストーカー殺人事件』の犯人を警察より早く見つけ出し、事件の背後にあった警察不祥事をスクープ、『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』等の多くの栄誉に輝いた。また、日本テレビに移ってからは『足利事件』の冤罪を暴き出したことでも知られている。「桶川ストーカー事件についてはFOCUSに3ヵ月ほどずっと書き続けたのですが、それで世の中が動く訳でもなかったんです。“ザ・スクープ”(テレビ朝日系)の鳥越俊太郎さんが関わった辺りから、急速に潮目が変わった。2001年にFOCUSが休刊して、『何か新しいことやりたい』と思った時に幾つか声をかけて頂いたテレビ局があったのですが、一番熱心に誘ってもらったのが日本テレビでした。日本テレビでやった“足利事件”の冤罪キャンペーン報道も、週刊誌だったら連載し続けても世の中は中々動かなかったと思います。テレビというメディアの影響力があったから、DNA再鑑定へと流れが変わった。但し、影響力があるからこそ“取り扱い注意”の部分もある。それだけの力を持っているメディアを誤作動させたら、大変なことになるからです」

清水氏が指摘する通り、誤報・捏造等のトラブル多発に依り、テレビのニュース番組は急速に信頼感を無くしつつある。2014年に実施された『第7回 メディアに関する全国世論調査』(公営財団法人『新聞通信調査会』が調査)に依れば、全男性の民放テレビ信頼度は58.8%と低く、NHK・新聞・ラジオに次ぐ4位という厳しい結果だ。何故、テレビは信頼されなくなったのか? また、報道とは如何にあるべきなのか? 「日本テレビの報道局には、『こんな放送をしちゃ駄目』という“規制”は無いんです。そこは僕が入ってから14年間ぐらい、殆ど変わっていません。ただ、以前はもっとやりたいことを自由にやれた印象がある。今は、『この報道は面白いからやろうよ』と単純にいかない時代になっています。それは、誤報や放送ミスを撲滅したいからなんです。過去、日本テレビにも“BPO(放送倫理・番組向上機構)”の勧告案件になった放送があって、同じことは絶対に繰り返したくない。『思い切ったスクープより、正確な情報を出しましょう』という方針です。『ひょっとしたら違っているかもしれないけど、面白いからやっちゃおう』みたいな報道は、もう絶対にしない。反面、失敗したくないから『誤報のリスクが少ないニュースを間違えないように出していこう』という雰囲気になりがちなのも事実です。だから、今の報道番組は面白いか面白くないかでいったら、面白くないんですよ。真面目に作れば作るほど、つまらなくならざるを得ない。ただ、僕自身は発表されてない事実、若しくは真実相当性があるものは報じなきゃいけないと社内で声を上げてます。そこが報道の生命線なんですよ。それをやるのが“調査報道”だと思います」




Kiyoshi Shimizu 02
“調査報道”とは、記者・番組の独自取材に依る報道だ。ニュース番組の報道の多くは、政府・自治体・警察・企業の発表・会見内容をそのまま伝えているだけだ。こうした“発表報道”が蔓延しているのがテレビ報道の現状であり、それに対して清水氏は警鐘を鳴らす。「誰かに長く密着取材して、そこに発表案件じゃない、自分たちで調べて自分たちにしかわからない事実があれば、それは“調査報道”になる。でも、問題は密着だけでも大変なのに、更に取材して担保・確証を掴むのが難しいところです。いつ放送できるかも中々定まらない、時間とお金のかかる取材を皆がやり出したら、恐らく日々のテレビニュースは回らなくなるでしょう。一方で、うちの局だけじゃないと思うんですけど、ガリガリ報道をやりたい若手が少ないのも事実です。テレビ局に入社して報道局に配置されたら、『え~っ、ニュース担当?』と引く人も多いし、遊軍記者が沢山いて『こういう取材がやりたい』と言えばできるシステムがあるのに、自発的な声は少ない。かといって、上から『お前、これ調査報道でやれ』と言いつけられてもロクなものができない。『自分はどうしてもこの事件の真実を知りたい』という思いがないと、上手くいかないんですよ。僕は調査報道ばかりやって、局にとっては異端児でしょうね。『あの人は番組作りよりも取材ばかりしてる』って。『人が沢山いる報道局の中に、1人ぐらい変な人がいてもいいか』と混じってるだけで、逆に『僕のような記者ばかりだと、局としては拙いだろう』と、僕自身も感じますから」

こうした清水氏の動向は、全マスコミから常に注目されている。だがその一方で、“調査報道”をじっくり見せる報道番組は少なくなった。そこにテレビ報道のジレンマがある。局内で“調査報道”の重要性を主張する清水氏は、この状況をどのように考えているのか? 「日本テレビは日曜深夜に“NNNドキュメント”という番組を放送していて、深夜帯としてはまあまあの視聴率を取っている。30分、時には55分の番組なので、制作に大変な手間がかかる。視聴者からすると、『もっといい時間帯に放送してほしい』という声も多いんです。すると、“視聴率”という話になってくる。数字は正直で残酷なんです。だから、深夜帯でああいう良質なドキュメンタリーを止めないでやっていること、視聴率だけではなく、『やっぱりこれはやらなきゃいけない』という番組を40年間ずっと放送していること。そこは評価してほしい。何でもできる訳ではないけれど、テレビの中で最大限できることはやっているつもりです」。大衆の興味を惹きつける情報を意味深に流すのは容易い。しかし、そこに事実が無ければ報道にはならず、加えて“視聴率”という高いハードルがあるのがテレビ報道の現実だ。そうした側面を理解しつつ、正確な報道とは何か、視聴者も注意深く監視していくべきではないだろうか。


キャプチャ  2015年10月号掲載


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テーマ : 報道・マスコミ
ジャンル : 政治・経済

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