【中露接近で何が起きるか】(03) 軍事動向から炙り出す中露協調の虚実

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中露関係は“離婚無き便宜的結婚”と称されるように、軍事的な同盟関係に発展することも、決別することもあり得ない関係である。冷戦時代の中ソ対立に見られるような潜在的な相互不信を内包しながらも、武器や資源の移転といった実利的要素と対米牽制といった戦略的要素に依って結ばれた“戦略的パートナーシップ”である。現在の中露関係は、公的には“歴史的な最高水準”にあると説明され、政治的に蜜月ぶりが喧伝されているが、その内実は複雑である。中露両国は1996年に“戦略的パートナーシップ”を表明し、2001年に『中露善隣友好協力条約』(有効期間20年)を締結した。その後、2004年には4300kmに及ぶ国境の完全画定に同意し、2005年には大規模な合同軍事演習『平和の使命』を実施した。この頃までは両国の戦略的協調は目覚ましく発展したが、これ以降、両国の発展の余地は限られたものとなっている。その背景には、中国のGDPがロシアの4倍以上となり、ソ連時代の“兄弟関係”という立場が逆転し、ロシアにとって中国との対等な関係を維持することがままならない状況がある。プーチン大統領自身も、中国の成長は脅威ではないが、中国からの移民問題等、中露間に摩擦があることを認めている。最近では、一部のロシアのメディアや有識者も、嘗ては政治的なタブーとされた“中国脅威論”に言及するようになっている。例えば2013年4月、著名な軍事専門家である『戦略技術分析センター(CAST)』のヴァシリー・カーシン主任研究員は、ロシアの有力な外交評論誌『Russia in Global Affairs』において、「ロシアが抱くあらゆる懸念は、ロシアの国益・主権・領土の一体性に対する中国の潜在的な脅威と関連しており、中国の潜在的な脅威はロシアの外交・国防政策の主要な要因である」と明言した。これに加えて2013年7月、軍事評論家のアレクサンドル・フラムチュヒンは、中国軍がロシア極東地域に電撃侵攻し、ロシアに依って19世紀までに奪われた固有領土を武力奪還するというロシア軍のシナリオを明らかにし、ロシアの国内外で話題となった。また、世論調査においては、中国の拡張主義を大きな脅威と答える割合が、1998年には26%であったのに対して、2013年の調査では59%に増大した。このように、中国に対する潜在的な不信感は、国家レベルにおいても国民レベルにおいても広がりを見せている。

最近のロシア軍の動向や軍近代化の動きを観察すると、中国の台頭を視野に入れたものが散見されるようになっている。例えば、ロシアが戦術核の削減に消極的であることや、中距離核戦力の再保有に前向きであること等は、“中国要因”を除いて軍事的に説明することは困難である。また、軍改革に関しては、2010年末に新設された東部軍管区は、旧極東軍管区から管轄領域を拡大して中露東部国境全体を一元的に管理する態勢に移行したが、これは中国を睨んだ軍再編である。また、北極の海水溶解に依り北極海航路が誕生することから、将来的に中国艦船が宗谷海峡を通過して、ロシアが“内海”と認識するオホーツク海に進入することを、ロシアは危惧していると見られる。2012年5月7日、プーチン大統領は軍事政策に関する大統領令を公布して、北極及び極東地域の海軍増強を指示したが、「将来的な中国に依る北方海洋進出を念頭においたものではないか?」との見方が有力である。2011年から、東部軍管区は冷戦終焉後初めて大規模な軍事演習をオホーツク海で開始したが、これも中国の将来的な軍事動向を視野に入れたものである可能性がある。2012年6月下旬に、太平洋艦隊に所属する艦艇60隻・航空機40機、約7000人が参加して、オホーツク海で大規模な軍事演習が行われた。直前になって、ロシア国防省は演習期間を1日延ばし、演習最終日の7月6日に、サハリン東岸から最大200km離れた洋上標的に向けて対艦ミサイルを発射したが、これが北極探査へ向かう中国の砕氷船『雪龍』が宗谷海峡からオホーツク海南部を通過するタイミングと重なった。中露間の合同軍事演習にも変化が見られる。嘗ては、中露の軍事的連携ぶりを第三国にアピールするという“外向け”の演習であったが、2012年から開始されている合同海軍演習『海上連携』は、相手の海軍能力を相互に把握する“内向け”の演習に転じている。ロシアからすれば、将来的な北方への海洋進出が見込まれる中国海軍の実力を、中国からすれば、ロシアが先進する対潜水艦戦(ASW)能力を、毎年の軍事演習を通じて直接把握することが目的と考えられる。




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以下の理由から、ロシアの戦略的な関心は欧米からアジアへ相対的にシフトしているが、ウクライナ危機に依る欧米諸国との関係悪化に依り、その傾向は更に強まっている。ロシア外交におけるアジアの位置付けは高くないが、それでもアジア外交における最大の優先国は中国である。第一に、ロシアの経済成長を持続させる為には、ヨーロッパ地域からアジア地域に資源輸出をシフトする必要があり、中国を始めとするアジア諸国との経済・技術協力、更にはアジア諸国からの資本導入を通じて、過疎に陥っている東シベリアや極東地域を発展させる必要がある。第二に、多極世界が到来したとの認識の下、新たな極として台頭する中国に、ロシアが戦略的にどのように向き合うかが焦点となっており、「人口減少が続く東シベリアや極東地域に中国の影響力が浸透すれば、安全保障上好ましくない」との判断がある。これら2つの要因は、何れも中国と関連したものである。最近のロシアのアジア外交では、ロシアが中国の“ジュニアパートナー”にならない為に、中国以外の第三国との戦略的関係を強化して、外交上のバランスを保とうとする動きが顕在化している。例えば、2012年5月7日にプーチン大統領が公布した外交に関する大統領令では、東シベリアや極東地域の発展を目的として、発展が目覚ましいアジア太平洋地域の経済活動にロシアが積極的に関わると共に、アジア外交においては中国のみならず、インド・ベトナムとも軍事技術協力を中心とした戦略的関係を深化させる方針が示された。その背景には、中国に大きく傾斜したロシアのアジア外交を多角化する狙いがある。その一環として、ロシアは日本との関係強化も目指すようになっている。2010年11月のメドヴェージェフ大統領(当時)に依る国後島訪問以降、政治面での日露関係は最悪の状況に陥ったが、2011年9月にプーチンが大統領選挙への出馬表明を行って以来、日露間の首脳会談や外相会談の際、ロシア側は日本との安全保障協力(特に海上安全保障協力)を頻りに求めるようになった。

その後、2013年4月には安倍首相に依る10年ぶりの公式訪露が実現した他、同年11月には、広範囲な安全保障問題に関してハイレべルの戦略協議を行う『日露外務・防衛閣僚協議(2+2)』の初会合が東京で実施された。その後のウクライナ危機を受けて、ロシアと欧米諸国との関係悪化が進む中、日本を含む欧米諸国の対露制裁も強化され、当初、昨秋に想定されていたプーチン大統領の訪日も延期される等、日露関係も足踏みを余儀なくされた。これに依り、ロシアと欧米諸国との関係を規定するウクライナ東部情勢の行方が、日露関係に直接的な影響を与えるようになり、国際社会で孤立を深めるロシアに対して、日本がどこまで独自の対露外交を貫くことができるかが焦点となっている。中国は、旧ソ連地域の中央アジアやウクライナにも積極的に進出している。例えば、2013年9月に習近平国家主席がカザフスタンを訪問した際、中央アジアと黒海を経由して中国とヨーロッパを結ぶ『シルクロード経済べルト構想』を提唱した。この構想は中国西部の発展を目的として、地域経済協力をアジア内陸部からヨーロッパ全体にまで広げようとする広大な国家構想である。この構想に基づき、2014年にロシアが編入したクリミア半島で、中国は港湾・高速道路・空港等のインフラ整備に30億ドル以上を投資する他、ウクライナ本土では石炭ガス化工場の建設や、航空機の共同開発を計画していた。更に、ウクライナ東部では、人民解放軍系の組織が日本の農地の3分の2に当たる300万haを50年間租借して、中国最大の海外農場を建設することも計画されていた。他方、巨額の対外債務を抱え、デフォルトの危機に直面するウクライナも、経済支援先として中国に急接近している。ヤヌコヴィッチ前大統領は2013年12月に北京を訪問して、習近平国家主席との間で、お互いを戦略的パートナーと認める『中国・ウクライナ友好協力条約』を締結した。その中で、「ウクライナが核の脅威に直面した際に、中国が相応の安全保障を提供する」という文言が含まれていた為、「中国がウクライナに“核の傘”を提供」と一部のメディアが報じた。ロシアの核の脅威を想定した動きとして、この条約の内容がロシアを刺激したことは言うまでもない。

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欧米寄りのポロシェンコ政権が誕生しても、経済危機に直面するウクライナに対する中国の金融支援は続いている。今春、自国通貨を融通し合う“通貨スワップ(交換)協定”が中国との間で発効し、ウクライナは当面の外貨準備を確保することができた。ウクライナに依る中国への旧ソ連製兵器の売却も、ロシアは問題視している。ウクライナは、中国初の空母『遼寧』の原型艦体に加えて、ロシアが売却に応じなかった『スホイ33』戦闘機の試作機まで中国に売却し、中国はこれを基に初の艦載戦闘機『殲15』の開発に成功したと言われる。『世界銀行』の統計に依れば、ウクライナの2012年の武器輸出高は、米・露・中に続いて世界第4位であり、ロシアの軍需産業からすれば、旧ソ連製兵器の売却における競合相手である。最近では、戦車3両が搭載可能な世界最大級の揚陸用ホバークラフト『ズーブル』を中国に売却しており、「東アジアの安全保障環境に影響を与える」として日本が懸念を表明したことがある。因みに、同船はロシアに編入されたクリミア半島の造船所で建造されていた。ロシア軍関係者に依れば、ロシアの影響圏とは旧ソ連地域の地上部分に加えて、最近では北極海やオホーツク海の洋上部分も含まれ、何れにも進出しているのは中国だけだという。前述の『シルクロード経済協力ベルト構想』は、「中国がロシアの地上影響圏に立ち入ることを公的に宣言するものだ」として、ロシアでは警戒を以て受け止められている。また、ウクライナから購入した砕氷船『雪龍』に依り、中国は2012年夏に北極点付近を通る北極海航路の開拓に成功した他、2013年7月には、史上初めて中国海軍の艦艇5隻が宗谷海峡を通じてオホーツク海に進出した。ウクライナが中国の海洋戦力の強化を後押しし、その結果、中国がロシアの洋上影響圏に進出していることを、ロシアは快く思っていないようだ。

それでも、ウクライナ危機に依り国際社会で孤立を深めるロシアは、中国重視の政治姿勢を強めざるを得ない。実際に、プーチン大統領はクリミア編入を宣言した2014年3月18日の演説で、ロシアの行動に一定の理解を示した中国に謝意を表明した。そして、2014年5月20日に上海で開かれた中露首脳会談と、上海沖で同時に開催された中露合同海軍演習を通じて、両国の政治的な蜜月ぶりが対外的に演出された。この中露首脳会談で唯一注目されるのが、ロシア産天然ガスの対中輸出に関する合意である。ロシアは、2018年から30年間に亘って年間380億㎥の天然ガスを中国に供給することで合意した。ロシアがこのタイミングで対中資源輸出を実行したことで、ロシアの対中重視姿勢を国際社会に印象付けることとなった。注目される武器輸出であるが、最新鋭『スホイ35』戦闘機24機とラーダ級潜水艦4隻の中国への売却は、2012年末に両国政府間の枠組み合意が達成されているものの、現時点において最終合意は見送られている。価格や性能等の細部条件を巡る両国の対立に加えて、対中武器輸出そのものにロシア側が慎重な姿勢を強めている為である。軍事専門家のフラムチュヒンは、「潜在敵への最新兵器の売却は永久に止めるべきであり、ロシアにとって最大の脅威である中国を“欧米に対する現実的なバランサー”と考えるのは、最も愚かな過ちである」と主張している。それでも、プーチン政権は最新鋭の防空ミサイルシステム『S400』を中国に売却する方針を固めており、欧米とロシアとの関係悪化に依り、ロシアの対中傾斜が軍事技術協力に及ぶかどうかが注目されている。2014年5月の中露首脳会談に合わせて、第3回中露合同海軍演習『海上連携2014』が実施され、両首脳が開会式典に参加した。中国側の強い意向に依り、開催場所として上海沖の東シナ海が選ばれ、航空機識別・防空訓練も行われたが、それ以外には過去2回の演習目と比べて目を引く内容は見られない。合同演習中に中国機が自衛隊機に急接近したように、中国側は対日牽制の一環として合同演習を利用しているが、従前通り、政府やメディアも含めてロシア側にはそのようなニュアンスは見られなかった。合同演習を通じた対日牽制に関しては、過去2回の演習と同様に、中露間に相当の温度差が確認された。

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中国は、予てから対日牽制で連携するようロシアに働きかけてきたが、ロシアはその誘いには応じず、日本との関係維持の姿勢を崩してこなかった。しかし、2014年5月の中露首脳会談で両首脳は、2015年に第2次世界大戦終結70周年記念行事を、5月9日にモスクワで、9月3日に北京で其々開催することで合意した。これは、習近平国家主席が2014年2月のオリンピック開催時に、ソチでプーチン大統領と会談した際にロシアに呼びかけていたものである。安倍首相も招待を受けているが、参加するかどうかは不透明である。ウクライナ危機で欧米との対立が先鋭化する中、ロシアの対中傾斜が中露共同に依る対日牽制に発展することが危惧されている。それでも、2014年の『中露共同声明』では“ドイツのファシズムと日本軍国主義に対する戦勝70周年祝賀行事”と表現されているが、ロシアは“対独”、中国は“抗日”と双方の力点は其々異なる。中露両国は2010年にも65周年記念行事を実施しており、「歴史の歪曲を断固非難する」というフレーズは当時から繰り返されている。この頃から、中露は歴史協調を全面に押し出すようになったが、逆に言えば、これ以外に両者を結び付ける積極的な接着要因が少なくなっていることを示している。更に、昨年の中露首脳会談直後の5月24日、プーチン大統領が通信社と会見した際、「ロシアにも中国にも其々独自の対日関係があり、中露が日本に対抗して仲良くしているのではない」との認識を示し、「中国が強調する“反日”部分には、必ずしもロシアは与していない」とのメッセージを発していた。このように、ロシアは対欧米牽制の観点から中国に接近する素振りは見せているものの、「安全保障やエネルギーの分野で近年進展しつつある日露関係は維持したい」というのが本音であろう。しかも、前述したように、ロシアはインド・日本・ベトナム等第三国との戦略的関係を強化して、外交上のバランスを保つ必要に迫られている。ウクライナ問題で欧米との関係が悪化しても、この構図が容易に変化するとは考え難い。また、日露間の新たな協力分野として北極問題が浮上しているが、これもウクライナ危機の影響は受けていない。地球温暖化に依る海水縮小に依り、北極圏内における資源開発や北極海航路の誕生が予想されている。2013年には、ロシアの支援も受けて、日本は『北極評議会(AC)』のオブザーバーとなった。今後益々北極海が戦略的に注目される中、ヨーロッパとアジアを結ぶ北極海航路の整備、無尽蔵の天然資源が眠る同海域の資源開発、安全なシーレーン確保等、日本とロシアが協力する余地は大きいと言えるだろう。

ロシアから見た中露戦略的パートナーシップの本質を一言で表現すると、“安心供与(reassurance)”であろう。これは、強化された軍事力に依って自国の安全保障を図るのではなく、相手に安全であることの確信を与える政治的方策を通じて、自らもまた安全であることを確信するという発想である。潜在的な軍事的不信があるからこそ、政治的な協調関係を強化するという、一見すると矛盾に見える対中アプローチである。ロシアの国家政策には、対中不信に根差した“中国要因”が存在し、それが次第に増大しつつある。今後増大する軍事的不信を、政治的協調の強化に依ってどこまでカバーできるかが、今後のロシアの対中政策の焦点となるであろう。それでも、国際社会で孤立するロシアが中国に引き摺られて、反日姿勢に転じてしまう危険は排除されない。将来的に、ロシアが中国に呑み込まれることはプーチン大統領としても受け入れられないであろうが、そのプーチン大統領自身に、中国に引き摺られない為の有効な対中戦略があるとは思われないからである。


兵頭慎治(ひょうどう・しんじ) 防衛研究所地域研究部長。1968年、愛媛県生まれ。上智大学大学院博士前期課程修了。在ロシア日本大使館専門調査員、イギリス王立統合国防安全保障問題研究所客員研究員等を経て現職。ロシア・東欧学会理事兼事務局長、青山学院大学大学院講師等を兼任。論文・メディア出演等多数。


キャプチャ  2015年6月号掲載


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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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