【中国人の攻略法】(07) 「中国は覇権を握れるか?」…米欧アジアの識者に問う

経済成長のスピードが緩やかになったとはいえ、世界における中国の存在感が高まるのは必至だ。経済関係が強固になれば、政治との関わりも当然増える。世界の国々は中国と如何に付き合うのか? 其々、中国との関係性が異なるアメリカ・イギリス・ドイツ・ベトナム、そして韓国の識者に話を聞いた。

■アメリカ…AIIB不参加は政府の酷い失態
「中国はアメリカに代わる超大国になるのか?」――今年4月、アメリカの世論調査機関『ピューリサーチセンター』は、全世界にこんな問いを投げかけた。結果は、回答した4万人以上のうち48%が「中国はアメリカに今後取って代わる、或いは既に取って代わった」と答え、35%が「アメリカは中国に取って代わられることはない」との反応だった。「遅かれ早かれ、中国が現在のアメリカの座を奪う」との認識が世界に広がっている。だが、米中関係や安全保障に詳しい『シンクタンク・カーネギー国際平和財団』のダグラス・パール副所長は、軍事力の観点から反論する。「アメリカはアジア地域で、不動の軍事力を持った特権的地位を謳歌してきた。中国はアメリカを簡単には押しのけられない。日本や台湾、或いは何らかの争いがある国に対して中国が攻撃を仕掛けないよう、我々は優れた軍事力を育てていく。西太平洋での競争は激しくなる。中国政府の公式見解ではないが、中国国民は『(自国が)東アジアで大きな勢力圏を築くのは自然な成り行きだ』と考えている。アメリカは、今後増強されていく中国の軍事力の挑戦を受けることにはなるだろう」。9.11同時多発テロ以降、アメリカは“テロとの戦い”と称してイラクやアフガニスタンに長らく介入してきた。だが、2011年にはオバマ大統領が、軍事・外交戦略の重心をアジア・太平洋地域に移す“リバランス”の方針を示した。以降、中国はアメリカの存在をより強く意識するようになっている。「1998年からの10年間、中国は外交政策で大成功を収めた。隣国との関係を改善し、貿易や投資が拡大した。だが、2008年の北京オリンピック後に政策を転換。軍備増強を図り、隣国にも強硬になった。これらの国がアメリカに援護を求め、中国からのプレッシャーに抵抗しようとした。中国への恐怖感が広がる中、アメリカのリバランスはアジアで歓迎された。中国側は、アメリカがその恐怖感を巧く利用したことを察知。対抗策として、中央アジアへの大規模投資や、“アジアインフラ投資銀行(AIIB)”の創設を決めた」。そのAIIBへの参加をアメリカは見送った。パール氏は、「アメリカの対中国政策における酷い失態だ」と断じる。

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国務省等で中国畑を歩んできたスタンフォード大学『フリーマン・スポグリ国際問題研究所』のトーマス・フィンガー特別研究員は、その経緯を詳しく分析する。「AIIBへの参加見送りは、中国に対する敵愾心からではない。オバマ政権のお粗末な調整や発信に原因があったのだと思う。ワシントンで聞いた話では、政権はAIIBに反対したことはなかった。寧ろ歓迎していた。だが、過去数十年の間に学びや実践を積み上げてきた国際金融機関と同様に、AIIBが機能するかどうかを確かめたかった。結果、(ぐずぐずしている間に)政府はポジションを明確にできず、酷い有り様になってしまった」。中国に対して強めの立場を取るパール氏とは対照的に、フィンガー氏は自らを「100%のパンダハガー(パンダを抱く人、親中派)だ」と表現する。「中国をパートナーとして、きちんとしたルールのある国際秩序に引き込むべきだ」と説く。「過去の8つのアメリカ政権が一貫して取り組んできた政策アプローチの根幹は、中国をパートナーとして扱い、関与していくことだった。中国の近代化は、自国のシステムを、ルールに基づいた国際秩序に沿ってどれだけ変身させられるかに懸かっている。その秩序の外にいる限り、中国は大国にはなれない。これは、私がやり取りしてきた中国の指導層自身も理解している」。アメリカの対中戦略には、フィンガー氏が述べたように、中国が脅威にならないよう“エンゲージ(関与)”するという考えがある。そしてもう1つ、脅威になった時に備える“ヘッジ(防護)”がある。「中国が国際秩序の外に留まり、近代化が後退することも考えられる。だからこそ、我々アメリカは東アジア地域における同盟を維持・強化し、同じく中国の脅威に備えたい国々との間で信頼構築を図る。ブッシュジュニア政権時代は、アメリカが主導権を握れないのであれば、東アジアサミットのようなアジア域内の新しい枠組みに参加しようとはしなかった。ただ、現在は枠組みに自ら参加するのがアメリカの姿勢だ。それは偏に、中国を秩序の中に引き込もうという狙いがある」。昨年来注目を集めている中国の南沙諸島埋め立て問題は、軍事・外交でアジアに軸足を置くアメリカにとっては一大関心事だ。ただフィンガー氏は、「アメリカはもっと冷静になるべきだ」と警鐘を鳴らす。「本当の懸念は中国の動きではなく、アメリカ人の過剰反応だ。『中国の埋め立てに対して立ち上がらなければ、アジアの同盟国からの信頼を失う』という主張も聞くが、馬鹿げている。埋め立ては軍事的脅威にはなり得ない。面積にしてスタンフォード大学の4分の1ほどしかないし、ハリケーンにすら耐えられないだろう。だから、中国の軍拡にアメリカも軍拡で応じるべきではない。中国の強硬路線は、国民からの政府批判を躱す為。『妥協はあり得ない』と政府が強調するのは、水質や大気の汚染・不動産の高騰・政治の腐敗といったことへの不満がデモに発展するのを避けたいからだ」




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■イギリス…超大国になる中国をイギリスは無視できない
今年3月、中国が提唱したAIIBへの参加に、逸早く先進国として手を挙げたのがイギリスだった。『アジア開発銀行(ADB)』を主導する日米が、ガバナンス(統治)の不透明さを理由に否定的だった為、先進国からの参加はないと見られていた。だが、イギリスの参加表明で状況は一変。ドイツ・フランス・イタリアといったヨーロッパ勢が一気に追随した。「イギリス政府の動きは世界を驚かせた」。そう語るのは、世界的ベストセラーとなった『中国が世界をリードするとき』の著者で、ケンブリッジ大学シニアフェローのマーティン・ジェイクス氏だ。「イギリスのAIIBへの参加は、『我々は貴方とお近づきになりたい』という印象的なジェスチャーとなった。この戦略的な動きは、先行者利益を狙ったもの。ヨーロッパの如何なる国よりも、中国と深い関係を築くことに成功したのはドイツであり、イギリスは大きく後れを取っていた。AIIBへの参加で、イギリスの中国に対する発言力は以前よりも強まることになるだろう。これに依り、イギリスは50年以上親密な関係を築いてきたアメリカの怒りを買うことになった。ただ、中国は今後、世界の超大国になる。巨大な人口や豊富な資源、そして存在感が増す通貨は絶対に無視できない」。現在のキャメロン政権下では当初、英中関係はお世辞にも良いとは言えない状態だった。キャメロン首相は中国政府の猛反対を押し切って、チベットのダライ・ラマ14世と面会。首相は1年以上、中国に入ることができなかった。

しかし、その後は方針を180度転換する。2013年12月には首相の初訪中が実現した。2014年6月には中国の李克強首相が訪英し、両国企業間の大型商談を纏め、エリザベス女王とも面会した。「キャメロン首相の訪中は、『イギリスはヨーロッパにおける最良の友になる』という意志の表れで、大きな政策の転換だった。イギリス政府は2008年の金融危機からの回復という最大の政治課題と苦闘しており、中国が提供してくれるチャンスに期待していた。イデオロギー的な懸念は付き纏うが、これは実利を重視した結果だった。中国の対英投資も増えつつあり、主だったものでは、イギリスは新しい原子力発電所を中国に発注している。もう1つ重要なのが、人民元取引。これも、イギリスが中国との関係を重視する明快なロジックとなる。世界に誇るロンドンの金融街“シティ”は、ヨーロッパにおける人民元の取引拠点を目指しており、上海や香港を意識している」。イギリスと中国の貿易総額は昨年800億ドルを超え、過去最高を更新した。中国のヨーロッパでの対外直接投資では昨年、イギリスが51億ドルでトップになった。英中経済の結び付きは今後、更に強まりそうだ。

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■ドイツ…リスク山積みでも対中投資は止めない
中国・新疆ウイグル自治区の最大都市、ウルムチ。民族間衝突のリスクが絶えず、沿海部の大市場からも遠い。外資企業が殆ど寄りつかないこの地に2013年、工場を設けたドイツ企業がある。自動車の世界大手である『フォルクスワーゲン(VW)』だ。1980年代に逸早く中国で現地生産を始め、今や独中の経済関係を象徴する存在だ。しかし、その経済関係も中国側の態度に振り回されてきた。元駐中国ドイツ大使で、現在はシンクタンク『ヨーロッパ外交評議会(ECFR)』でシニアアドバイザーを務めるフォルカー・シュタンツェル氏は、「中国の地方で、外資企業への冷遇が最近目立つ」と指摘する。「昨年、そして今年も引き続いて国内企業を守る為、ウルムチのような発展途上の地域を除き、外資企業を追い出そうとする姿勢を中国政府ははっきりと示した。最近、VWのマルティン・ヴィンターコーン社長に会ったが、彼も『ビジネス環境は以前と比べ、格段に難しくなっている』と話していた。対中投資には、非常に多くの条件が付きものだ。製造業の場合は現地企業と合弁で工場を作り、技術移転をしなければならない。また、VWが態々ウルムチに工場を造ったのは、別途計画していた2つの工場建設の承認を得る為だった。ドイツ企業は、『中国だけでなく、東南アジアやインドにも投資を分散させる必要がある』と以前よりも感じている。しかし、それでも誰一人『中国への投資を止める』とは言わない。それだけ、巨大市場から得られる利益は大きい」

中国との強固な経済関係を築いたドイツにとって、AIIBへの出資は必然だった。イギリスに続き、ドイツ・フランス・イタリアが参加を表明。これが、他の先進国も参加を決める契機となった。「ドイツはイギリス・フランス・イタリアと話し合い、『創設時から参加すべきだ』と決めた。理由の1つは、AIIBが手掛ける投資でヨーロッパ、ひいてはドイツも恩恵を受けられるようにする為。ドイツ企業も投資案件に参加し、利益を得られるようにしたい。もう1つは、銀行の投資基準を決めるプロセスに参加する為だ。我々は、『ADBや世界銀行と同様の貸し付け基準をAIIBが採用すベきだ』と考えている。ただ、参加しなければ影響力を持てない。国際機関を率いた経験のある国が参加すべきで、日米の不参加はとても残念」。先述のVWを始めとするドイツ企業の製品は中国全土で広く受け入れられ、中国人はドイツに対して非常に好意的だ。しかし、ドイツ人の中国に対するイメージは決して良いとは言えない。「中国共産党の政治に対する不信感を、ドイツ人は強く抱いている。旧東ドイツと結び付けて考える人が多い。また、法の支配の欠如や人権問題、最近の強硬な中国外交への見方はかなりネガティブだ。在ドイツ中国大使館関係者が話していたのは、『ポジティブな広報政策が非常に難しい』ということ。ドイツ人が中国に抱く“パワー”のイメージは、ポジティブには受け止められない」。中国のスマートフォンメーカー『華為技術』が独中で各1300人に行った世論調査では、殆どのドイツ人は中国の国家主席が「習近平」だと答えられなかった。「中国名は表記も発音も難しいからね」とシュタンツェル氏は付け加えてくれた。

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■ベトナム…米中の狭間で生き、どちらにも与しない
最大の貿易相手国である中国と、南シナ海で激しい領有権争いを繰り広げるベトナム。悩ましい立場にあるが、ベトナム国家大学人文社会科学院のファン・カンミン副院長は、「中国との貿易の重要性は疑いようもない」と言い切る。「ベトナムと中国は2008年、包括的且つ戦略的な協力パートナーとなることに合意している。我々は海と陸で隣り合わせの国同士であり、中国は大国だ。『中国との関係では、友好を保つことが最も重要だ』とベトナムでは考えられている。一党支配や儒教文化等の共通点も多い。中国主導のAIIBにも参加を表明した。一義的には、国内のインフラ整備に依り多くの資金が必要ということがある。創設メンバーとなることで中国との経済的結び付きも強まるし、ベトナムの国際的地位を高める狙いもある。ただ、わかり合えない重要な問題の1つが南シナ海での領有権争いだ。経済の観点では、中国は大きなビジネスチャンス。だが、領土の話では中国は大きな脅威となる」。2014年5月、西沙諸島周辺海域に中国が移動式石油リグを設置したことが契機となり、中越関係に緊張が走った。埋め立てに依る人工島建設にも、ベトナムは警戒感を示している。「主権は、多くのベトナム人にとって最も重要なものの1つ。フランスが植民地化した時の状況を皆知っている。領有権問題は2国間ではなく、多国間で話し合われるべきだ。転機は、我々がASEANの議長国となった2010年。問題を多国間協議の場に持ち込むことに成功した。時を同じくして、それまで中立的だったアメリカも姿勢を変化させた。当時、アメリカの国務長官だったヒラリー・クリントン氏が、『南シナ海における航行の自由はアメリカの国益』であることを明言し、大きな後押しとなった」。今年は、ベトナムとアメリカの国交が回復してから20年。アメリカはベトナムにとって最大の輸出先であり、2013年には『包括的パートナーシップ』を結ぶ等、経済面を中心に関係が深まっている。今年7月には、最高指導者でベトナム共産党中央委員会のグエン・フー・チョン書記長がオバマ大統領と会談した。「ベトナムのあるべき姿は、中国とアメリカの間でバランスを取ること。どちらに与する訳でもない。我々が共に歩んでいくのはASEANだ」

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■韓国…統一問題の解決には中国との協調が必要
日本と同じく、アメリカを同盟国とする韓国。だが、“告げ口外交”と評される外交政策で、日本やアメリカとの摩擦も少なくない。そんな中、「韓国は日米とは距離を置き、中国との関係を深めようとしている」との見方も出てきている。ただ、成均館大学国政管理大学院教授で独立系シンクタンク『東アジア研究院』の李淑鐘院長は、「そんな見方は根拠のないものだ」と一蹴する。「国際関係上、そして安全保障上、アメリカが重要な同盟国であることに変わりはない。同時に、中国は韓国にとって最大の貿易相手国になる等、経済的関係が深まっているのは確かで、中国とは政治的に協調関係を維持・発展すべき相手であることは間違いない」。そのような考えが反映された動きが最近もあった。今年6月、AIIBに創設メンバーとして加盟したことだ。「AIIBへの加盟については、韓国は当初静観していた。アメリカが反対していた為だ。だが、ドイツ等のヨーロッパ各国が相次いで加盟を発表した為、韓国も加盟を決めた。加盟に依って、インフラ整備等でアジアの発展に韓国の経済力が貢献することは、十分に国益に適う。更には、AIIBを通じて北朝鮮にもスムーズな投資が可能になり、南北統一問題が解決に向けて進展するかもしれない。AIIBへの韓国の出資比率は3.74%(議決権3.5%)だが、今後は出資比率を上げて、ガバナンス面での透明性向上に取り組んでいくことが韓国の役割だと考えている」。また、「AIIBへの加盟は、朴槿恵政権が発足後に発表した“ユーラシアイニシアティブ”の実現に一歩近づくものだ」と李教授は指摘する。物流やエネルギー輸送のルートとしてユーラシアの地政学的価値に注目した韓国政府が、ロシアや中国、中央アジア諸国との協力を推進し、大きな経済圏を作ろうというものだ。そこには、経済圏を活性化させることで北朝鮮の経済開放を誘導するという狙いもある。

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一方、中国の南シナ海進出への見方は、日本ほど切迫感がない。「韓国は、当事者間の動きを注意深く見守る。ただ、南シナ海を含め、海洋問題は韓国にも関係のあることであり、中国と関係国が平和的に解決するのが重要だ。国際法と調和する多国間の海洋秩序を域内国家が構築し、解決すべきではないか」。中国との間の政治的負担はできるだけ減らすべきというのが韓国のスタンスだろう。李教授も、「中国は政治面でも協調すべき相手」と主張する。それは、前述した北朝鮮との統一問題がある為だ。北朝鮮と最も関係が深い中国から韓国の統一政策について反対されれば、この問題の解決は難しくなる。中国と経済面や環境面等の問題で協調関係を深められれば、安全保障問題にもよい影響を与えられる筈だ。『アメリカや日本との同盟関係を深め、中国とも信頼関係を構築できれば、東アジア地域の安定に寄与できる』というのは、韓国政府のコンセンサスになっている」


キャプチャ  2015年8月22日号掲載


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