【私の履歴書】JR東海・葛西敬之名誉会長(24) 保有機構の重荷と対峙…東証が“援軍”、3年半で解体へ

『新幹線鉄道保有機構(保有機構)』は国鉄再建監理委員会の最終局面で、元運輸次官の住田正二委員から唐突に提起され、同じ運輸省出身の林淳司事務局次長の強い反対を押し切って、答申案に盛られた。保有機構は東海道・山陽・東北・上越新幹線の地上設備(車両以外の全て)と、その時価評価額に相当する国鉄債務8兆5000億円を国鉄から引き継ぎ、地上設備をJR本州3社にリースして債務を返済する。その際に、「“各新幹線の収益力”を反映したリース料を設定することに依り、“本州3社の収益力”を平準化するのだ」と説明された。償還期限は30年間、2年毎の輸送実績に依り、各社の負担を見直すことになっていた。この制度には本質的な欠陥があった。先ず、保有機構が受け取るリース料は全額債務償還に充て、地上設備の維持更新は借り手が行うことになっていた。ところが、借り物の地上設備については減価償却費を計上できない。だから、借り手が借金して維持更新をやるか、やらずに資産を食い潰しつつ問題を先送りするかの二者択一だった。更に問題なのは、「“新幹線”のリース料負担割合で“会社全体”の収益力を調整する」という詭弁である。JR東海の場合は文字通り東海道新幹線会社であり、会社の営業収益の約85%は新幹線である。ところが、JR東日本の東北・上越新幹線は会社全体の営業収益の約20%に過ぎず、収益の大部分は首都圏の都市鉄道網から来る。それを除外して、新幹線だけで会社全体の収益調整をやることは妥当だろうか? 答えは明らかに否である。結局、東海道新幹線が東北・上越新幹線の建設費2兆円余りを肩代わりしただけだった。保有機構提案者の本音は、国鉄債務の返済と本州3社の収益力調整を口実に、東海道新幹線の収益力を運輸省の手中に収め、将来は整備新幹線建設の財源等に充当することだったのだろう。

東海道新幹線は鉄道の精華である。一部官僚の思惑の為に、これを劣化させてはいけない。そして、鉄は熱いうちに打たなければならない。私は会社発足後直ちに、借金をしてでも東海道新幹線の改善・強化投資を続ける一方、保有機構を解体し、過重な債務負担を適正化する対策に着手した。合理性と大義名分を背にし、刺し違える覚悟でいたが、全ては手探りだった。しかし、2つの天祐が重なって、1990年秋には保有機構の解体が決まった。1つは、バブル経済のブームで本州3社の業績が思いの外好調に推移し、誰もが10年以内には無理だと思っていた上場基準を3社ともクリアする見通しとなったことである。そして、上場を審査する東京証券取引所が、「保有機構の下では、会社の資産・債務状態が不確定である。故に、これを解散しない限り、株主利益保護の観点から上場は認められない」という見解を示したのである。もう1つは、保有機構に反対した林淳司さんが、この時期に運輸次官という要のポストにいたことである。30年間機能し続ける前提で設計された特殊法人が、僅か3年半で解体と決まった類例は無い。奇跡的に欠陥制度は消滅したが、過重な債務負担はそのまま残された。JR東海の実質的民営化は、ここが出発点だった。


≡日本経済新聞 2015年10月25日付掲載≡


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