TSUTAYA図書館への違和感…“居場所としての図書館”をアメリカで考える

今年8月、鎌倉市中央図書館の司書が短文投稿サイトの『ツイッター』上で発信した呟きが話題になった。 報道に依ると、2学期が始まる9月1日に自殺する子供が多いことを同図書館司書が知り、自殺防止を願って投稿したという。アメリカの公共図書館も、本の貸し出しだけでなく、市民がリラックスできる場所であることをとても意識している。一例として、ミシガン州デトロイト郊外の『ウェストブルームフィールドタウンシップ公共図書館』を取材した。この図書館は、優れた図書館や博物館に与えられる『アメリカ博物館・図書館サービス機構』のナショナルメダルを過去に受賞している。玄関ロビーを抜けると、右手には自動販売機とテレビが設置された飲食可能な小さな部屋がある。ロビー正面を抜けると大きな机と椅子が、その奥にはコンピューターがずらりと並ぶ。壁際にはグループで議論したり、作業したりできるドア付きの小部屋が幾つも並んでいる。 広いスペースの左端にノンフィクション、右端にフィクションを配架。中央に辞典やリファレンス類・DVD・CD。暖炉の周りを新聞・雑誌の閲覧場所とし、ソファーを置いている。子供の為のエリアにもコンピューターやタブレットが設置され、声を出して歌うこともできる仕切られた部屋があり、ボードゲーム・玩具等が備えられている。ウェストブルームフィールドタウンシップ公共図書館のディレクターであるボーラーさんは、「公共図書館は本を借りに来るだけの場所ではありません。図書館は子供の利用者に対して教育的な役割を担っていますが、楽しんでもらう場所でもあるのです。子供たちが歓迎され、他の子供とも過ごせる安全な場所なのです」と言う。館内中央に設置された机には、宿題をする学生、大学が提供するオンライン授業を受ける人、編み物をする人、家庭事務をする人等だ。小グループ向けの部屋では、家庭教師から指導を受ける子供や大人、学校から与えられた課題にグループで取り組む学生たちがいる。

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開放感のある図書館。ワイヤレスが完備され、コンピューターも利用できる。

アメリカの公共図書館が日本と大きく異なる点は、コミュニティーセンターとしての機能が大きい点だ。コンピューターの使い方やプログラミングの教室が開催される。読書会だけでなく、様々な講演会も行われる。ボードゲームができるスペースや、コンピューターを利用したオンラインゲームを楽しむこともできる。筆者は、飲食できる小部屋で麻雀を楽しんでいたグループを見かけたこともある。この公共図書館は、学校へ行かずに学習する子供たちもサポートしている。アメリカには『ホームスクール』という特別制度があり、義務教育年齢の子供であっても、学校へ通学せず、自宅で学習することができる。保護者と子供がホームスクールを選ぶ理由は、学校教育への不満や宗教的理由等、色々だ。短期間だけホームスクールで学習し、学校へ戻る子供もいる。州に依ってホームスクールの規則が異なり、州毎のカリキュラムに沿った内容を指導すること、決められたテストを受ける等が義務付けられている場合もある。アメリカの多くの公共図書館では、ホームスクールで学ぶ子供たちを対象に資料や教材を提供している。図書館がホームスクールで学ぶ子供やその保護者に図書館の利用方法について説明する日や、ホームスクールで学ぶ子供や保護者が交流する日も設けている。ホームスクールで学ぶ子供たちがアメリカのこの図書館で1日中過ごすことはできるのかを、ボーラーさんに訊ねた。「ホームスクールの人たちには、図書館の活用を推奨しています。勿論、毎日、図書館で学習することもできます」




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本を読むだけでなく、遊ぶこともできる子供用スペース。

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子供用スペースにもコンピューターが設置されている。

ウェストブルームフィールド公共図書館では、11歳までの子供には大人の付き添いを求めている。11歳以上の子供は1人で来館してもよいので、1日中、子供だけでも図書館で過ごすことができるという。ホームスクール向けのオンラインカリキュラムも幾つかあるので、図書館のコンピューターを使って学習をすることも可能だ。アメリカ博物館・図書館サービス機構ナショナルメダル賞受賞という栄えあるウェストブルームフィールドタウンシップ公共図書館だが、特別な公共図書館という訳ではない。他の公共図書館でも、コミュニティーセンターの役割、居場所としてのスペースを提供するというコンセプトで運営されている。ミシガン州デトロイト郊外のその他の公共図書館でも、誰もが利用できるコンピューターが数多く設置されており、館内の本を読むだけでなく、自習できるスペースも設けている。住民たちが共用する地域の書斎と言ってよいだろう。ミシガン州ファーミントンヒルズ市の公共図書館も、リラックスできる空間を提供している。図書館の通りの反対側に公立中学校があることから、下校後の中学生の憩いの場にもなっている。宿題をする中学生だけでなく、売店でお菓子を購入した後にグラフィックノベルのコーナーで本を読んだり、オンラインゲームをしたりして寛いでいる姿も見かける。しかし、多くの中学生が集まるとつい大きな声で喋ったり、ふざけ合ったりすることもある。中学校では、子供たちが授業終了後に公共図書館で過ごす場合には、利用規則を守るよう新学期を前に念押しのメールを配信した。図書館の職員はベビーシッターではないし、公共図書館は子供だけでなく、全ての利用者が静かに過ごす場所でもあるからだ。鎌倉市中央図書館は本の貸し出しだけでなく、居場所でもあると発信した。日本の公共図書館でも、コミュニティーセンターや自習室と一続きの空間とすることで、より心地のよい空間になっていくのではないだろうか。


谷口輝世子(たにぐち・きよこ) フリーランスライター。1971年生まれ。京都教育大学教育学部卒業後、『デイリースポーツ』に入社。千葉ロッテマリーンズ・読売ジャイアンツ担当を経て、1998年より同社の契約社員としてアメリカで大リーグ等を取材。2001年からフリーに。著書に『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)・『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)等。


キャプチャ  2015年10月14日付掲載


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