【私の履歴書】JR東海・葛西敬之名誉会長(29) 理想の学校、設立に尽力…参画90社、全寮制で人間力育む

2000年に小渕恵三内閣が教育改革を打ち出したのに合わせ、経済界のシンクタンクが教育のあり方について提言を出した。私も1年半に亘って、提言の議論に加わった。痛感したのは、誰もが教育の被験者且つ関係者であるが故に、「100人いれば100通りの考えがある」ということだった。実践しかない。予て危機感を抱いていた教育分野で現実的な貢献ができるとすれば、自らが理想とする学校を作り、実績を示すことだ。支持を得られれば、自ずと輪が広がっていくであろう。同じ思いの『トヨタ自動車』名誉会長の豊田章一郎さん、『中部電力』会長(当時)の太田宏次さんと3人で、学校作りに向けた勉強会を始めた。現代は両親が共働きで、1人っ子という家庭が多い。先ずは、豊かな“人間体験”ができる環境を作りたい。また、塾に通う必要が無いように、国語・英語・数学の基礎を効率的・徹底的に教え、空いた時間は友達と議論をし、スポーツをし、本を読む。学校であると同時に家庭であり、社会でもある――。答えは“全寮制の中高一貫校”。3人の意見は一致した。課題は、寮での生活が規律正しく、目の行き届いたものになるかどうかだ。モデルの1つとなるイギリスのパブリックスクール『イートン校』を訪ね、校長(当時)のトニー・リトル先生からも話を聞いた。イートン校では、寮(ハウス)にハウスマスターと呼ばれる先生が家族と共に住み、高学年の学生を自分の補佐役にして生徒の面倒を見ていた。経験の無い私たちは、600年の歴史を持つイートンのようにはいかない。

「企業が作る学校だから、企業ならではの仕組みを導入しよう」――。考え出したのが、“フロアマスター制度”だ。1棟に60人の生徒がいるハウスを、専任教員でもある1人のハウスマスターと3人のフロアマスターで運営する。フロアマスターは、私たちの学校に賛同する企業の独身男性社員。毎年、交代で派遣してもらい、各フロアの生徒20人と起居を共にし、生活指導や人間力の育成に当たる。設立に当たり、約90社から200億円を超える寄付が集まり、2006年春、愛知県蒲郡市に『海陽学園・海陽中等教育学校』が開校した。初代校長は、『開成中学・高校』の校長を長く務めた伊豆山健夫氏である。現在、13歳から18歳までの約700人が共同生活をしながら学んでいる。最初は心細い様子の新入生も、9月頃にはすっかり逞しくなる。今春、4回目の卒業生を送り出した。有名校への合格自体が目的ではないが、進学実績も着実に出ている。フロアマスターは25社から28人。この制度は、企業の側にも大きなメリットがある。20人の子供たちを1年間に亘って面倒見続けた社員は、人間的に大きく成長して会社に戻ってくる。この間に得たヒューマンネットワークは、本人にとっても大きな財産だ。以前、この欄でも紹介したように、葛西家は代々、佐渡島の漢学者で、私塾を開いて子供たちに学問を教えていた。父も長年、東京都立高校の教壇に立った。一方、私は国鉄に入り、企業経営の道を歩んできた訳だが、今こうして学校教育に関わっている。縁と言うべきかもしれない。


≡日本経済新聞 2015年10月30日付掲載≡


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