【“貧困”無間地獄の現場】(06) 2015年『愛媛乳児死体遺棄事件』の深層――子殺しを生み出す“見捨てられた街”

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「昭和の時代かよ…」。そう感じた人も多いのではないか。今年7月、愛媛県八幡浜市で5人の乳児を死体遺棄するという痛ましい事件が起こった。5人の乳児の遺棄容疑で逮捕されたのは、同市在住の無職・若林映美容疑者(34)。彼女はこの数年、何度もお腹が大きくなって妊娠していた筈なのに、いつの間にかお腹がへっこむことを繰り返していた。子供が生まれた様子もなければ、流産したという話も出てこない。不審に思った近所の人の通報で、市の職員が自宅を訪ねたところ、「生まれたばかりの子供を捨てた」と自供。更に、捜査を進めていた愛媛県警は、自宅から新たに乳児4人の遺体を発見。7月21日、死体遺棄容疑で逮捕となった。年老いた父、やはり無職の弟、そして別れた夫との長男の4人で、彼女は定職に就くことなく、ボロボロのアパートで生活していた。インターネット上では「父親や弟との近親相姦だった為に、自宅で産み捨てていたのでは?」という情報が駆け巡ったが、実態は違っていた。「若林映美をこの何年か、数度に亘って買った」という同県松山市在住の男性から話を聞くことができた。彼女は、八幡浜でウリ(売春)をして生活していたのだ。「ニュースになった時、最初は彼女と気付かなかった。写真も、高校の卒業アルバムだったしね。数日経って、金髪で派手なミニスカートの写真が出回るようになって、あと左目の下に黒子があったから、『あ、コイツ映美だ』と。八幡浜でウリをしていたのは、この女ぐらいだったからね」。男性は松山市界隈の風俗に飽きて、出会い系サイトでウリ情報を探すようになった。愛媛県内には『ハートマーケット』という県内専門の出会い系サイトがあり、そこの『秘密の出会い』という援助交際用の掲示板を若林映美は利用していたという。「相場で言えば、松山市内で若い子の場合、大体2万円前後。若林映美は八幡浜限定だけど、1発1万円と格安だった。それで、『面白そうだな』と買ったんだよ」

松山市から八幡浜まで車で約1時間。現地のパチンコ店で待ち合わせをして、そのまま車に乗せて、人気の無い海岸でカーセックスをするのがパターンだったという。「別に美人でもないし、あっちが特別よかった訳じゃない。値段が安いのと、生で中出しできたんで、『1万円なら悪くないかな』と。それに、八幡浜でエンコーしていたのは彼女だけでね。さっきのサイトでも、本名の映美に捩った名前を使って『八幡浜に来てほしい』と。いつも同じ条件で募集していたから、『あの女だな』と直ぐわかるんだよ」。彼女が「ゴムを付けて」と頼むこともなければ、行為後に文句も言わなかった。「誰とでも中出しさせていた筈だ」と男性は証言する。つまり、捨てられた乳児はこうしたエンコー相手が父親だというのだ。「一時期、活動していなかった時期があって、その後に復活したからまた買ったんだけど、お腹はぺったんこだったよ。俺の子? いやいや、その可能性は無くはないけど、多分、原発の作業員だろう」。八幡浜から更に佐田岬方面に車で30分ぐらい進むと、四国唯一の原発である伊方原発がある。「八幡浜近辺で女遊びをするカネを持っているのは、原発関係者ぐらい。この界隈で風俗と言えば松山や宇和島になるが、どっちに行くにせよ片道で2時間近くかかる。臨時雇いとかが『手っ取り早く女を買いたい』となれば、八幡浜になるだろ? でも、この街に風俗は無いし、体を売っているのは彼女だけ。まあ、そうなるわな」。八幡浜市は人口約3万5000人。周囲の山々には蜜柑の段々畑が広がり、豊富な海産物の取れる漁港もある。双葉山を破った前田山(横綱)等を輩出。戦後から1970年代までは、トロール船の基地として発展してきた。今でも、瀬戸内海の美しさを多分に残した風光明媚な観光地で、こんな痛ましい事件の舞台になるとは思えない。しかし、地元の愛媛県民にすれば、「あそこなら仕方ない」と思われているのも事実なのだ。




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「確かに、綺麗でいい場所だよ、ここは。子育ての終わった老人とか、出戻りでも実家があるとか、そういう人には暮らし易いだろうね。でも、若い夫婦がここで働いて子供を育てることはできない。月10万円そこらを稼ぐ仕事はあっても、それ以上稼ぐことができない。というか、できなくなっている」。愛媛県の中軸都市である松山や宇和島を結ぶ幹線から外れた結果、瀬戸内海の経済圏からも外された、謂わば“取り残された街”なのだという。若林映美は、瀬戸内の経済圏から取り残されたそんな街で、ひっそり家族と身を寄せ合って生きていた。「会えばわかるけど、ちょっとおっとりというか、堅い仕事に就けそうなタイプじゃないんだよ。エンコーだって中出しさせて、ギリギリ商売になる感じだった。一昔前は、八幡浜にも原発目当ての飲み屋や風俗が何軒かあった。でも、松山の道後温泉に行けば、安くて可愛い風俗嬢やキャバ嬢が沢山いるだろ? そうして街が寂れていく中、父親の介護とかあって、彼女は街に取り残されたんだろうな」。男性は最後、「八幡浜を出て松山か宇和島で働いていれば…」と呟いた。「それだったら事件は起きなかった」と言わんばかりに。今、少子高齢化に依って、全国に八幡浜のような街が急増している。嘗ては、共働きすれば何とか子供を大学まで進学させることのできた生まれ故郷。地元で結婚して子育てしたくとも、若い夫婦は高収入の仕事が多い都会へと転居せざるを得ない。そうして、街には残された人々が細々と暮らす。地方では最早、珍しくない光景だ。故郷の街で慎ましく生きていくのは、それほど難しいことではない。しかし、街のルールから僅かでも逸脱すれば、一寸先には“貧困”という無間地獄が待っている。取り残された街では取り返しがつかなく、やり直しもできないからだ。こうして、自然豊かな長閑な街で“悲劇”は繰り返される。貴方の生まれ育った故郷が今、貧困の現場となっている――。 (取材・文/西本頑司) =おわり


キャプチャ  2015年10月号掲載


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テーマ : 貧困問題
ジャンル : 政治・経済

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