【特別対談】 スパイの目で見た安保法案――作家・佐藤優×憲法学者・木村草太

安保法制をやりたがっていたのは、実は外務官僚だった――。成立の舞台裏までから今後の日本までを、“情報を読み解くプロ”と“法のプロ”が語り合う。インテリジェンスの第一人者である佐藤優氏(55)と、難解な憲法をわかり易く解説する木村草太氏(35)の緊急対論を聞け!

20151107 02

佐藤「木村さんが登場してから、憲法に関する論議が大きく変わりましたね」
木村「佐藤さんは、憲法の外にある世界を知り尽くしてますよね」

国会を包囲した「反対!」の大合唱は、遂に届かなかった。安保法案は、9月17日にも参議院で強行採決される。その発言が常に注目され続ける2人が、互いのインテリジェンスを駆使して存分に語り合った。先ずは、成立までの舞台裏から――。

佐藤「安保関連法案の成立を前提とした工程表や文書が日本共産党に流出しました。防衛省が作ったとされるものですが、これは確実に秘密指定されている。安全保障の根幹に関わる文書が漏洩したのだから、本来なら警視庁公安部に依る強制捜査です。これを見てもわかるように、防衛省の内部がぶっ壊れているんですよ」
木村「“ぶっ壊れている”というのは?」
佐藤「機密の保全もできない。真面な“軍隊”として機能する態勢になっていない」
木村「防衛省はやる気がないんですか?」
佐藤「本気じゃないんでしょうね。法案を作って終わりではなく、自衛隊は実際に海外の紛争地に行く可能性がある訳ですから。当然、危険もある。『英雄だと国民が拍手で送り出してくれて、必要とあれば武器は使える』と、そういう保障がなくして行きたくはないでしょう」
木村「一方で、元幕僚長クラスの人が右派の雑誌なり国会の参考人に招致されて、『今回の法案は必要だ』という主旨の発言をすることがありました」
佐藤「政治的な判断だと思います。要するに、権力者に阿っているということです。それプラス、『実際に海外に派遣されることはないだろう』という何となくの安心感」
木村「私も、その“何となくの安心感”はよく感じますね。ところで、『誰が安保法案を作りたがったのか?』とよく聞かれるんです。私はその筋の専門家ではないので、『わかりません』とお答えしているんですけど」
佐藤「ある時、安倍(晋三首相)さんが『集団的自衛権が必要だ』と思った。『その為には、安保法制が必要だ』と。その安倍さんに『こうやればできますよ』と知恵をつけたのは、外務官僚です」
木村「安保法制をやりたがって引っ張ってきたのは外務省だと、佐藤さんは見ているんですか?」
佐藤「間違いありません。外務省では、『日米同盟が全てである』と考えるアメリカンスクールの親米派が力を持っている。彼らは、『沖縄の基地問題と集団的自衛権の問題さえ改善すれば、粗未来永劫に日米同盟は維持できる』と考えている訳ですよ。官邸に出入りする外務省OBは、『集団的自衛権は、根拠となる条約が無くても行使できるんだ』と私に言いましたよ。『何でもありですね?』と私が尋ねると、『そうだよ』と認めていました」
木村「それは酷い」




佐藤「ある自民党幹部が私に、『外務官僚が“(安保法制は)突っ込みどころ満載のガラス細工なんです”と説明に来た』と言っていた。つまり、『どうとでも解釈できるような内容のものだ』と。法律として如何なものかということを、作った当事者が認めている。ところで、木村さんは昨年7月1日の閣議決定の時に発言されましたよね?」
木村「ええ。あの時は、『集団的自衛権は従来の個別的自衛権の範囲に収まる』という方向で、内閣法制局の横畠裕介長官もそのラインで答弁しようとしていた。ただ、『解釈をできるだけ曖昧にしておこう』という勢力と『決まった通りに解釈しよう』という勢力が戦って、1対1の延長戦に入った感じでした」
佐藤「国際法では集団的自衛権は認められているから、全てOKのフルスペックにしようと考えたのが外務官僚でした。ところが、彼らは負けた」
木村「確かに、昨年7月の閣議決定時には外務省の思い通りにはならなかったと言っていい。あの閣議決定で“集団的自衛権”と呼んでいたものは、個別的自衛権と集団的自衛権が重複する領域でしかなく、これまでの個別的自衛権の範囲を一切超えるものではない。文言を法的に読む限りは、そう解釈するのが自然でしたから」
佐藤「負けたら負けを認めればいいんだけど、外務省は負けを認めないで、今年4月のガイドライン見直しの時に復活戦を仕掛けてきた訳です。日米安保の適用範囲について、“アジア太平洋地域及びこれを越えた地域”という文言を入れた。即ち、地球全部に展開できるということで合意した訳です。先の外務省OBに依れば、『ホテルニューオータニだよ』と。あのホテルは、本館の2階から入るとタワー館の6階に繋がっている。『日米安保もスタートは安保協議だけど、出口は集団的自衛権だ』という意味です。これが、安倍政権の言う“切れ目の無い安全保障”の正体なんですね」
木村「確かに、今年に入ってからの答弁を見ていると、条文の文言に依る歯止めを骨抜きにする方向に舵を切ったと言っていいですね。今国会では、“存立危機事態”の定義を全くしなかった。オイルショックでも日米同盟が揺らいでも、集団的自衛権を行使できる――等という解釈が出ました。法の支配が機能していないんですね」
佐藤「安倍首相は、歴史に風穴を開けただけで満足なんですよ。謂わば、“集団的自衛権”という言葉に対する“言霊信仰”です。安倍さんは、山本太郎さんや小保方晴子さんと同じ“ポエム体質”なんです。安倍さんの周りにいる人たちは、コンビニの前でウンコ座りしている“ヤンキー”と変わりがない。暴走族とまではいかないんです。つまり、暴走族だと抗争に巻き込まれるし、警察に捕まることもあるから。木村さんについては、『何か難しいことを言う奴が出てきたな』くらいの感じでしょう。批判されても堪えないところもポエム体質ですね」
木村「そうですね。大体、私が考えていたことと一緒です。佐藤さんの“舞台裏”話は、大変勉強になりました」
佐藤「私は当初、『保守主義的信念から、小泉純一郎政権の新自由主義と対米従属外交を変化させる可能性があるのではないか』と安倍政権に期待していたんですが、今は尊敬できない。1期目(2006年~2007年)の安倍政権は少なくとも、(本人たちが)考えていること・思っていることを正直に言う点は評価できた。ところが、今は“話者の誠実性”に欠けている。ある人にはこういうことを言い、別の人にはああいうことを言う。そして、自分は別のことを考えている。更に、行動はそれとも別。政治の世界における“信頼の構造”を決定的に崩し始めている。それが、今回の安保法制の過程でも可視化されました」

頼みのアメリカも、実は集団的自衛権を強く求めている訳ではないという。

佐藤「『集団的自衛権を行使しろ』と、アメリカが非常に強く言ってきたことがあります。1990年代の終わりでした」
木村「それはよく議論されていますね」
佐藤「当事は朝鮮半島有事で、クリントン政権は本当に空爆を考えていましたから。その時に、『日本は何もしないのか?』と。でも、今はアメリカはそれほど関心が無い。強いて言うと、尖閣の紛争には巻き込まれたくないんです。安倍さんが『日米同盟強化を一生懸命やる』と言っているし、『普天間問題は辺野古を唯一の解決策でやる』と言っているんで、『何もこちらから断わることはないだろう』と、それぐらいの感覚ですよね」
木村「政府は抑止力、抑止力と言いますが、本気で有事を想定するのであれば、抑止目標が明確に示されなければならない」
佐藤「その通りです。沖縄県の翁長雄志知事と中谷元防衛大臣とのやり取りで、翁長さんが『中国がミサイルを撃ってきたらどうするんですか?』と質問したら、中谷さんは『撃ち返す』と言ったそうです。本来なら、『抑止力が機能しているから、そういう事態はあり得ない』と答えるべきだった」
木村「撃ち返すのはただの報復であって、抑止とは違いますからね。政権はどこで抑止力を使うのかはっきりさせませんが、気になるのは、政権の“応援団”である評論家たちが『南シナ海で抑止力を働かせる』と言っていることです」
佐藤「そんなことを言っていると、中国が逆にミサイル基地を造る可能性があります。応援団がリスクを誘発している感じがしますよね。不思議なのは、尖閣防衛をあまり言わないことです」
木村「尖閣だと、個別的自衛権の話になるからでしょうか?」
佐藤「確かにそうですが、アメリカに『日本の為に、集団的自衛権を行使させる』という話を、日本政府はしない。アメリカは尖閣に関しては、日本の施政権は認めていても領有権は認めていないんです。どこまで本気になってくれるでしょうか。それでも、嘗て海南島周辺でアメリカの飛行機と中国の飛行機が接触したことがある。あれはどうも、中国空軍の中でも名うての暴走族みたいな気性の荒い奴で、皆の中でも鼻つまみ者だったらしいが、この種の偶発事態が何を引き起こすか、そういったことが怖いんですよ」

そう聞けば改めて、安保法制でどこが変わるのかが知りたい。

木村「要するに、武力行使の範囲が曖昧になる。これまでは、日本への武力攻撃の着手がないと行動ができなかったのが、政府が『存立の危機だ』と言えば武力行使ができる訳です」
佐藤「そうなると、NSC(国家安全保障会議)の役割が重要になりますね。何を以て“存立危機”か判断する時には、実際にはNSCがどう判断するかということになる。そこに集まる数人の人たちが、統帥権を持つようになる訳です」
木村「武力行使の着手かどうかは客観的に判断せねばならず、NSCの判断に依存してはいけない筈ですが、今回の答弁に依れば、NSCや大臣が『日米同盟が揺らぐ』と考えれば、武力攻撃ができるようになるということです」

やはり危険な安保法制――。今後、佐藤氏は「公明党と創価学会がカギを握る」と見ている。

佐藤「政治のリアリズムで言えば、“北側3原則”をどうクリアするかということですね」

“北側3原則”とは、自衛隊の海外派遣に関して公明党の北側一雄副代表が、「国際法上の正当性」「国民の理解と民主的な統制」「自衛隊員の安全確保」を条件に挙げたものだ。今年3月、自民党の高村副総裁との会談で、この北側3原則を尊重する方針で一致している。

佐藤「これを守るなら、現実的に集団的自衛権は行使できませんよ。“国際法上の正当性”だけでも、アメリカの冷戦以降の軍事介入は殆ど正当とは言えません。ということは、公明党との約束を反故にするか、公明党の約束があるから何もできませんとなるか。究極的にどっちかになる訳です」
木村「北側さんを見ていると、あんまり歯止めをかけようという感じはしなかった。つまり、『個別的自衛権を超えた範囲でやってもいい』という方向で議論をしていたようですが…」
佐藤「今年の春に公明党の山口(那津男)代表に会いましたが、その時に、去年の7月1日の閣議決定の内容を確認しました。山口さんは明確に、『公明党の立場は変わらない』と言いました。多分、自民党の勇ましい連中や応援団は、『公明党と約束したって、いつでも反故にできる』と思っているでしょう。でも、これは背後にある創価学会の力を過小評価している。創価学会を支持している、特に婦人部の人たちは、外務省の国際法局の官僚が出てきて説明したって納得しませんよ。一方、公明党の幹部が『政府の解釈は正しい』と学会員を説得できるかどうか」
木村「それはできないでしょうね」
佐藤「できない。その時、学会はどっちを選択するかということです。自民党がゴリ押しばかりしていると、公明党だっていつまでも自民党と協力するかわからない」

そして抑々、安保法案そのものがちゃんと運用できるのかどうか。2人の意見は一致した。

木村「『日本の存立を脅かす事態だ』と説明しなければ、集団的自衛権は行使できない。今回、その議論を全くしていないので、何か起こる度に“存立を脅かす事態”かどうか、一から検証しなければならない訳です」
佐藤「安保法案は通っても、どうせ機能しませんよ。いざ有事となったら、ゼロから自衛隊の派遣について審議し直すことになる」
木村「でも、安保法案の効果を十分に発揮できないと安心できないから、更に“次”を求める声が高まるでしょう。次が何かはわかりません。しかし、薬物と一緒で依存症になっているので、『もっと欲しい、もっと欲しい…』になってしまう現象を私は懸念しています」


キャプチャ  2015年9月29日・10月6日号掲載


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テーマ : 軍事・安全保障・国防・戦争
ジャンル : 政治・経済

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