【少年法の岐路】(01) “少年A”矯正できたか…神戸殺傷手記、遺族虚しき

20歳未満の犯罪者を教育で立ち直らせようとしてきた『少年法』が岐路に立っている。「適用年齢を18歳未満に引き下げるべきだ」とする提言を自民党が纏めたのを受け、法務省は今月、勉強会を開始した。2年後の法改正を視野に議論が本格化するのを前に、少年司法の現場で何が起きているのかを報告する。

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「少年院で彼は変わった筈なのに」――杉本研士さん(76)は白いカバーを開き、悔しさが込み上げた。6月10日に書店に並んだばかりの本の帯に、「酒鬼薔薇聖斗を名乗った少年A【中略】生命の手記」とあった。1998年4月、関東医療少年院(東京都府中市)の院長に着任した。1997年に14歳で神戸市連続児童殺傷事件を起こし、“少年A”と呼ばれた男性(33)が、監視カメラ付きの4階の個室にいた。男性は、異様な牙がある怪獣の粘土細工を繰り返し作った。教官との交換ノートに「(職員を)殺します」と書いたこともあった。関係者に依ると、少年院は医師3人や教官に依る特別チームを編成。教育目標には、「謝罪意識の涵養」「豊かな人間性を育てる」等と記載した。甲虫や蚕の世話をさせ、クリスマス会に参加させた。精神科医の杉本さんは、男性が少年院に来て2年が過ぎた頃の出来事が忘れられない。“兄貴役”の教官と相撲を取って何度も投げ飛ばされた男性が、芝生に教官と寝そべり、「いい気持ちだ」と言った――。その報告に、「教官性を育んでいけばやり直せる」と確信した。杉本さんと顔を合わせると、きちんと挨拶するようにもなった。しかし、2004年3月の仮退院から11年を経て、男性は遺族に連絡すること無く、実名も出さずに事件の手記を出版した。次男の淳君(当時11歳)を惨殺された土師守さん(59)は、報道で出版を知った。憤りと共に、虚しさに襲われた。「“教育”に効果は無かった。『罰を与えなければ、自分のしたことの酷さは理解できない』ということだ」。「日弁連は手記の出版をどう考えているのか」――出版の約2週間後の6月25日。年齢引き下げを議論した自民党の特命委員会で、『日本弁護士連合会』の弁護士に議員から怒声が飛んだ。日弁連はこの日のヒアリングで、「少年院等で矯正教育を施したほうが、更生と再犯防止に結び付く」として引き下げに反対した。議員たちは、「加害者を手厚く保護し過ぎている」と反発。引き下げで問題になるのは18~19歳だが、事件当時14歳だった“少年A”に依る出版は、少年法の矯正効果に対する議員側の不信感に拍車をかけた。

18~19歳の凶悪事件も、今年初めに相次ぎ明らかになった。1月27日、愛知県警は名古屋大学の女子学生(当時19)を逮捕。名古屋市内の自宅で、知人の女性(77)を斧で殴って殺害した容疑だった。女子学生は取り調べで、「人を殺してみたかった」と供述した。昨年夏、ツイッターに「酒鬼薔薇聖斗くん誕生日おめでとう」と書き込む等、殺人や“少年A”への憧れが窺えた。女性を殺害した12月7日には、「ついにやった」「少年法マンセー(万歳)!」等と投稿していた。2月20日、神奈川県川崎市の多摩川河川敷で中学1年生の上村遼太君(13)の遺体が見つかった。神奈川県警は17~18歳の少年3人を逮捕。3月上旬の読売新聞の世論調査では、年齢引き下げへの「賛成」が83%に上った。特命委は9月24日、「引き下げが適当」との提言を法務大臣に提出した。事務局長だった牧原秀樹議員は、「18~19歳の事件が議論の契機となり、手記の出版も少年法の在り方に疑念を呼び起こした」と振り返る。“少年A”の男性は、9月にホームページを開設。18年前の犯行声明の際も指摘された自己顕示欲を露わにしつつある。ホームページを通じた読売新聞の取材への回答は無い。「『少年法で守られている』という甘えが多くの犯罪を生んできた」。土師さんは、そう思えてならない。「少なくとも、来年から選挙権を得る18~19歳は少年法で保護すべきではない」とも訴える。10月、東京都内の自宅で取材に応じた杉本さんは、絞り出すような声で男性を庇った。「彼も再犯はしていない。粘り強く教育すれば、少年たちは必ず立ち直れる」


≡読売新聞 2015年11月12日付掲載≡


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テーマ : 少年犯罪
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