【中外時評】 根は深い“早すぎ就活”――効果薄い選考日程見直し

始まるのが早く、長丁場になりがちな大学生の就職活動。学業に悪影響があることから、経団連は今年、面接等の選考活動を始める時期を4月から8月に繰り下げた。しかし、「“早過ぎ就活”は相変わらず」というのが大方の見方だ。経団連の会員企業へのアンケート調査では、会員・非会員を問わず、「日程が守られていなかった」と感じている企業が87.5%に達する。大手企業の選考時期が後ろにずれた影響で、中小企業が学生を確保し終えるのも遅れ気味になった。長期間、学生が就活に追われる状況は今年も変わっていない。『日本商工会議所』の三村明夫会頭は10月、「結果的に就活が長期化した」と見て、大手企業に依る選考の開始時期を6月に繰り上げるよう求めた。経団連も日程の再検討を決め、来年4年生になる学生については選考解禁を8月から2ヵ月程度、早める方針だ。

新しいルールは果たして、学生の負担軽減や学業の時間確保に繋がるだろうか? 8月の選考解禁を守らなかった企業が、6月解禁になればルールを守るという保証はないだろう。経団連に非加盟の外資系やIT(情報技術)企業等は、早い段階から選考活動に動く。経団連企業が気にならない筈はない。就活日程のルールは古くからある。1953年に産業界と学校側の申し合わせでスタートした就職協定が皮切り。だが、新しい取り決めが出来ては形骸化してきた。『リクルートワークス研究所』に依ると、1960年代前半、大学3年生の2~3月に就職先が決まるのが珍しくなくなった。“早苗買い”“種モミ買い”なる言葉も生まれた。石油ショックに依る採用減を機に、会社訪問解禁を10月とする等で選考開始が繰り下げられ、これが10年ほど続いた時期もある。しかし、その後は採用活動の早期化に歯止めがかからなくなった。何故、企業は我先にと走り出すのか? “囚人のジレンマ”に例えられる。囚人のジレンマはゲーム理論の用語で、相手の出方に依って自分の利益に違いが出る場合に生じるジレンマ。皆で就活ルールを守れば採用競争は公平になるが、他が抜け駆けすればこちらは不利になる。「真面目に行動して損をしたくはない」と企業は考えるという訳だ。




学生の獲得競争を過熱させている、より構造的な問題は、日本企業の採用が新卒者に偏っていることだ。他社での経験が無い新卒者なら、自社のカルチャーに染め易い。慶應義塾大学の太田聰一教授は連合総研レポート10月号の新卒採用特集で、「その会社の仕事に必要なスキル(技能)を最も効率的に習得させられるのは、若年期である」と指摘。長期的に人材育成をする企業にとって、新卒採用は合理性がある。企業が人材を“内製化”する傾向は以前ほどでないが、業種を問わず、新卒者を基本に採用する構造は今も変わらない。自ずと優秀な学生の取り合いは激しくなる。学生が出遅れまいと早く動き出すのにも背景がある。学生数が増え、学生同士の競争も激しくなったことだ。文部科学省の学校基本調査に依れば、1994年度に30%台に乗った大学進学率は、大学増設等で2002年度に40%を突破し、2015年度は51.5%。1990年に40万人超の卒業者は今年、56万4000人を数える。多くが大手企業を志望するが、叶うのは一部だ。学生数の大幅な伸びは、最終的に就職先が決まるまでの長期化も招いていると言える。

様々な要素が絡み、就活で学生が疲弊する状況を生んでいる。どうすれば現状を変えられるのだろう? 「新卒採用の慣行を改め、学生が卒業後に就職先をじっくり考えられる社会が望ましい」との意見もある。ただ、急には変わり難い。生活を安定させる仕組みを併せて考える必要があるだろう。技能や専門性に拘らない日本の新卒採用は、雇用の安全網になっているとも言われる。この10年の大卒者の就職率は、景気低迷期でも9割を超えている。足元の厳しい就活を是正する現実策として最も力を入れたいのは、元気のいい中小企業と学生の橋渡しだ。例えば、各地の商工会議所の仲立ちで、大学に地域の企業情報が十分渡るようにできないか。大卒求人倍率は中小企業が大企業を上回る。学生に中小企業で働くことへの安心感を持たせる為、過酷な労働を強いる“ブラック企業”の排除は必須だ。日程見直しだけでは問題解決に遠い。ルールを設けても効果の薄い繰り返しだった歴史から、そろそろ学ぶ時だ。 (論説副委員長 水野裕司)


≡日本経済新聞 2015年11月15日付掲載≡


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