【少年法の岐路】(05) “実名”容認、議論進まず…別人をインターネットで犯人扱い

20151122 04
東日本大震災の日の朝に発行された新聞各紙は、江崎恭平さん(71)にとって大きな意味があった。1994年に、大阪・愛知・岐阜の3府県で4人の命が奪われた連続リンチ事件。江崎さんは、長良川河川敷で長男の正史さん(当時19)を殺害された。最高裁は2011年3月10日に上告を棄却し、翌11日の全国紙朝刊は、毎日新聞を除く4紙が事件当時18~19歳の加害者3人の氏名を掲載した。死刑確定で更生の機会が無くなることが、実名に転じた主な理由だった。「漸く、正確な真実が社会に伝わる」。江崎さんは安堵した。16年間、自分たちは名前も映像も報道されたのに、加害者は“元少年”や“A・B・C”に置き換えられた。「成人間近でこれだけの事件を起こしたのに」と悔しかった。少年法は、更生を重視する観点から、少年事件の実名報道を禁じている。衆議院法務委員会は2000年、神戸連続児童殺傷事件を受けた法改正の際に、“悪質・重大で社会的に正当な関心事”は例外にすることを検討するよう付帯決議。だが、議論は進んでいない。自民党が今年9月に提言した少年法の適用年齢引き下げは、18~19歳の事件が実名で報じられることを意味する。江崎さんは、「選挙権を得るなら、大人と同じように実名で責任を負うことを若者に理解させ、犯罪の抑止力にすべきだ」と話す。別の理由で、“匿名”に歯噛みした遺族もいる。2006年、山口県周南市の工業高等専門学校の校舎内で、学生の中谷歩さん(当時20)の遺体が発見された。逃走した少年(当時19)に逮捕状が出たのは翌日。中谷さんの父・純一さん(58)と母・加代子さん(55)は、「捕まえて真実を語らせる為、市民の情報が欲しい」と実名を公開した捜査を望んだが、県警は少年法に配慮して踏み切らなかった。

捜査は難航し、少年は約10日後に自殺しているのが見つかった。警察庁は、再犯の恐れが高い場合等に限って公開捜査を認めているが、実名の公開は一度も無い。「少年法の為に、柔軟に対応できないのは困る。少年の命を守る為にも、公開は必要だった」と加代子さんは言う。連続リンチ事件の主犯格・小林正人死刑囚(40)は最高裁判決後、面会した山下幸夫弁護士(53)が新聞の実名掲載について伝えるのを淡々と聞いたという。「ずっと拘置所にいるから、実感が無かったのだろう」。そう受け止めた山下弁護士は、「社会に戻って仕事を探す少年にとって、実名報道は明らかな足枷だ」と訴える。一方、インターネットの普及で新たな問題が生じている。今年2月の神奈川県川崎市の中学1年生殺害事件では、逮捕された17~18歳の3人とは別人がインターネット上で犯人扱いされ、名前や写真を曝された。常磐大学の諸沢英道教授(犯罪学)は、「画一的な匿名報道が、国民の苛立ちや関心を呼び起こし、少年をインターネット上で追い込む動きに繋がっている」と指摘する。今年6月には、神戸事件の加害者が“元少年A”の著者名で手記を出し、自ら宣伝するホームページも開設した。江崎さんは、「匿名が守られてこそ、多くの少年に更生の道が開けるのは否定できない」と考えている。だが、連続リンチ事件では、匿名報道の下でインターネットにいい加減な書き込みが溢れ、辛い思いをしたという。「今の儘では、匿名が結果として遺族らを傷つける事態が繰り返されるのではないか」。そんな不安が拭えない。

■成人しても匿名報道
少年法第61条は、氏名・住所・容貌等、「本人であることを推知できるような記事または写真を新聞などに掲載してはならない」と定めている。罰則は無いが、成人しても事件については実名報道が禁じられる。1998年に大阪府堺市で3人を殺傷した当時19歳の元少年は、「実名と顔写真の雑誌掲載はプライバシー侵害だ」として、出版社を提訴。大阪高裁は「社会の正当な関心事」として実名を容認したが、元少年が上告を取り下げた為、最高裁は判断を示していない。


≡読売新聞 2015年11月22日付掲載≡


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テーマ : 少年犯罪
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