【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(40) ロシア機が墜落したシナイ半島の“見捨てられた民”

10月末にエジプト東部のシナイ半島で起きたロシア旅客機墜落事故で、『ISIS(別名:イスラム国)』の下部組織が犯行声明を出しました。これが本当にロシアのシリア空爆に対する報復テロなのか、それとも単なる事故なのか、本稿締め切り時点では不明ですが、この地域でISISの活動が活発化していることは間違いない。その背景には、国際社会が見て見ぬふりをしてきた“見捨てられた民”の存在があります。シナイ半島の大半は砂漠や山地ですが、東端はイスラエルやパレスチナ自治区ガザとの境界に面し、西端にはスエズ運河が流れるという地政学上、非常に特殊な場所。1952年の『エジプト革命』後はエジプトに組み入れられたものの、1967年の『第3次中東戦争』でイスラエルに依る軍事侵攻を受け、1973年の『第4次中東戦争』でも無数の銃弾が飛び交いました。古くから、シナイ半島では“ベドウィン”と呼ばれるアラブ遊牧民が部族単位で暮らしています。彼らはエジプトの市民法ではなく、独自の慣習法『ウルフ』に従い生活する等、一般のエジプト国民とは全く異なる存在でもあります。

1979年に、アメリカの仲介でエジプトとイスラエルが平和条約を結び、シナイ半島がエジプトに返還されて以降、エジプト政府はベドウィンを抑圧し続けてきた。彼らの歴史・生活・尊厳を踏み躙って、土地を強制的に収奪し、大規模な開発を行った結果、今やシナイ半島南部はエジプト有数のリゾート地となったのです(ロシア機は、このリゾート地から離陸した後に墜落しました)。当然、多くのベドウィンはエジプトという国に憎しみを抱いています。特に、2011年の『アラブの春』以降、エジプト警察がカイロ等の都市部の治安維持に多大なリソースを割かざるを得なくなり、シナイ半島の監視体制が弱体化すると、彼らの積年の恨みが表面化するケースも増えてきました。アラブの春の直後、エジブトから隣国へ天然ガスを供給しているパイプラインを爆破したのも、ベドウィンと言われています。この混乱に目をつけたのが、シリアやイラクで勢力を拡大していたISISだったのです。エジプト政府から水道や電気といったインフラさえ満足に与えられないベドウィンは、非常に貧しい。そんな状況下で、ISISが反エジプト感情を煽りつつ、金銭的なインセンティブをちらつかせれば、一部の血気盛んな若いヘドウィンを仲間に取り込むこともできる。




しかも、シナイ半島はイスラエルとの和平協定で“非武装地帯”に定められ、エジプト軍が駐屯できない為、以前から過激派に依るテロが頻発していた。ISISにとっては、これ以上ない“勢力拡大拠点”だった訳です。これは国際社会が長年、シナイ半島でのベドウィン弾圧を黙殺してきたことの結果でもあります(英語圏でも、関連報道の蓄積は決して多くありません)。世界には沢山の“弱者集団”が存在していますが、チベットのように世界中から注目され、欧米社会が莫大な支援を行うケースがある一方、シナイ半島のベドウィンのように無視され続ける人々もいる。この差は一体どこからくるのでしょうか? 国民国家の“隙間”で、彼らはこれからも翻弄され続ける運命なのでしょうか?


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『チャージ730!』(テレビ東京系・不定期)等に出演中。


キャプチャ  2015年11月30日号掲載


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テーマ : 中東問題
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