4ヵ月間休み無しの勤務、高額な自腹購入…『しゃぶしゃぶ温野菜』ブラック経営の実態

「高級そう」「敷居が高い」といったイメージを覆し、女性からも人気の『しゃぶしゃぶ温野菜』だが、その内実はアルバイトを酷使するブラック飲食チェーンだった。デフレの勝ち組だった優良企業の知られざる実態とは――。 (取材・文 小石川シンイチ)

20151125 01
「今向かってるからよ、殺すよ。本当に殺してやる」――退職を申し出た男性アルバイトのAさん(大学2年生)を脅迫するのは、大手飲食チェーン『しゃぶしゃぶ温野菜』の店長だ。しゃぶしゃぶ温野菜の千葉県内の店舗に勤務していたAさんが告発するブラックな労働環境は驚愕だ。「今年4~8月までは、休みなく毎日12時間前後働いていた。賃金は十数万円で、労働時間の半分しか払われていない」「仕事でミス等をした際には、『損失を与えた』『注文ミスの責任を取れ』『宴会の延長分はお前が自腹で払え』等として、食べてもいない商品を購入したことにされ、計10万円以上の支払いを強いられた」。学生アルバイトへの自腹購入強制は、全国的に問題視されているブラック企業の典型的な手口だ。経営コンサルタントも、しゃぶしゃぶ温野菜の厳しいオペレーションを指摘する。「食べ放題2780円~、アルコール飲み放題1500円といったコースメニューが中心。食べ放題のコースに依って注文できる品目が異なり、全メニューは100品目を超えている。一般的には、外食チェーンは50品目程度に絞るのが理想とされているだけに、メニュー品目が多過ぎて新人は覚えられないだろう。また、食べ放題の必須になっているタッチパネル式ではなく、接客係を一々呼び出すスタイルなので、客1グループ当たりの接客時間がかかりすぎる。『しゃぶしゃぶをお得に食べられる』とあって、金曜日を中心にサラリーマンにも人気ですが、こういったお得さのツケを全て従業員が被っているのではないか」(経営コンサルタント)。あまりのブラックな環境に耐え兼ねたAさんが退職を申し出た。すると、「店長から『ミスが多いから懲戒免職』『どうやって責任を取るんだ』と言われ、胸座を掴まれることもあった。『殺してやる』と強い口調で言われたり、4000万円の損害賠償請求を示唆されたりした」。Aさんは、アルバイトの為に大学にも通えなくなり、今年度の前期の全ての授業の単位を落とし、現在、長時間労働やハラスメントで鬱状態となり、休学しているという。

Aさんをサポートする『ブラックバイトユニオン』は、しゃぶしゃぶ温野菜のフランチャイズ本部『レインズインターナショナル』(神奈川県横浜市、以下・レインズ)等に未払い賃金の支払い等を求め、団体交渉を申し入れたという。しかし、レインズはフランチャイズ本部に過ぎず、「団体交渉に応じる法的義務は無い為、話し合いには応じられない」と主張。また、実際にこの男性アルバイトを雇用していたフランチャイズ運営会社『DWE JAPAN株式会社』(千葉県成田市、以下・DWE)もブラックバイトユニオンに対し、「貴殿らが所謂“労働組合”であるとの点は存じません。寧ろ、重大な法的疑義を抱いております」と主張し、交渉さえも否定したのだ。尚、DWEは千葉県内で、レインズとの間で『牛角』『しゃぶしゃぶ温野菜』のフランチャイズ契約を結んでいる。あまりに労働法無視のブラックな企業姿勢に批判が殺到し、フランチャイズ運営会社のDWEも交渉の場に出てきたが、「(毎日のようにAさんがお店にいたことは認めるものの)働いてはいなかった」「寧ろ、Aさんは店長の制止を振り切って働いていた」「(働いていない)Aさんはミスが多く、ミスを直そうともしなかった」等と意味不明の反論をしている。Aさんは、「今後はちゃんとした事実を基に、団体交渉に応じてほしいです。『僕が働いていなかった』なんていう嘘を吐くのは止めてほしいです。今の対応だと、事実を隠蔽しているだけで何の解決にもならないし、会社はただ単に世間体を気にして先延ばしにしているだけに思えてしまいます。本部(レインズ)からも月に1~2回スーパーバイザーが店舗に来ていて、店の状況を見ていた筈です。なのに、人手不足に気付かずに無理な働かせ方になっていたのだから、ちゃんと今回の件について話し合って、改善の為に努力してほしい」とのコメントを出している。今後の交渉に注目が集まる。ヤクザ紛いの脅迫を行う店長も問題だが、更に問題なのはレインズの態度だろう。




レインズは、焼肉店『牛角』を600店超(焼肉チェーンでは最大規模)、『しゃぶしゃぶ温野菜』を300店超、居酒屋『土間土間』を200店超、居酒屋『かまどか』を50店超全国展開している一大フランチャイザー(フランチャイズ本部)だ。「レインズは『団体交渉に応じる法的義務は無い』と主張しますが、法的義務は無くても話し合いには応じる企業もある。フランチャイズ運営会社であるDWEの対応も悪く、このままでは女性にも人気のしゃぶしゃぶ温野菜、更には系列の牛角、そしてグループ全体のイメージダウンにも直結しかねない。ワタミの二の舞になる。にも拘らず、現在の対応では危機感が無さ過ぎるのではないか」(労働ジャーナリスト)。牛角やしゃぶしゃぶ温野菜をチェーン展開するレインズは、2000年代に急成長した企業だ。創業者である西山知義氏は『想い 三茶の焼肉、世界をめざす』(アメーバブックス)といった著書も出すほどで、2000年代の成功者の1人になっている。それだけに、この対応はお粗末ではないか。「確かに、2000年代までのレインズであればこういったことは起きなかったかもしれない。しかし、今はレインズも、そしてレインズを取り巻く環境も大きく変わっています。時代の変化に対応できなかったことが、単なるブラックチェーンと化してしまった理由なのかもしれない」(経営コンサルタント)。一体、どういうことか?

20151125 02
レインズは元々、創業者である西山知義氏(左写真)が1987年に不動産賃貸管理事業として立ち上げた『国土信販株式会社』(1998年に『株式会社レインズインターナショナル』に商号変更)が母体。1996年には外食事業に参入し、『焼肉市場七輪』(『炭火焼肉酒家牛角』)を三軒茶屋に開店。1997年には、渋谷区宇田川町にてFC1号店を開店。2000年3月には、しゃぶしゃぶ温野菜1号店を世田谷区経堂に開店。2000年11月には、しゃぶしゃぶ温野菜FC1号店をオープンさせる。そして2000年12月には、株式店頭公開(現在のジャスダック)にまで漕ぎ着けた。「1991年の牛肉輸入自由化後、1990年代後半に第1次焼肉ブームが到来します。東京では“牛鉄”“牛繁”“牛角”(創業順)といった店が凌ぎを削ります。味・サービスで言えば、この中で牛角は決して良いとは言えず、“学生向け”とされていました。更に、2000年には健康へルシー志向の高まりから、それまでの『高級そう』『敷居が高い』といったイメージを覆し、気軽にしゃぶしゃぶを楽しめるお店としてしゃぶしゃぶ温野菜も開店します。当時は『1900円でしゃぶしゃぶが食べられる』とあって、学生を中心に人気になったのです。デフレ真っ只中で、“デフレの勝ち組”として成功を収めました。2001年の牛海綿状脳症(狂牛病=BSE)問題でライバルは失速しますが、牛角だけは全国的な知名度を得るまでに拡大し続けます」(グルメライター)。その背景には、レインズ(牛角)がフランチャイズビジネスを採用したことが大きい。「1997年、フランチャイズ支援の“ベンチャーリンク”と業務提携し、フランチャイズビジネスに乗り出し、急拡大するのです。当時、同様のベンチャーリンクから業務支援を受けた“北前そば高田屋”(株式会社タスコシステム)・“ふらんす亭”(株式会社ふらんす亭)・“まいどおおきに食堂”(株式会社フジオフードシステム)等も全国展開するようになります。ベンチャーリンクも莫大な手数料で急拡大しますが、フランチャイズビジネスの不振から訴訟を起こされる等の問題も抱え、2009年には、後に破綻する日本振興銀行と業務提携し、2010年には社名を“㈱C&I Holdings”に変更。2012年には負債総額が約52億6000万円に上り、民事再生法の適用を申請しました(事実上の倒産)。その後に経営を引き継いだのが、あの村上ファンドの村上世彰ら。今では、村上家の資産のみを運用するプライベートファンド運用会社に業態転換しています」(企業ジャーナリスト)

急成長したフランチャイズの仕組みはこうだ。先ず、全国で出店希望者を募る。加盟金は1000万円。ロイヤリティーと引き換えに、牛角・しゃぶしゃぶ温野菜といったブランド・ノウハウ・店舗指導・食材等が提供される。出店希望者はフランチャイズ運営会社となって、資金・施設・スタッフを用意すれば牛角・しゃぶしゃぶ温野菜のオーナーになれるのだ。「2000年頃は、西山氏が全国の中小企業経営者に、フランチャイズ運営会社になることのメリットを盛んにプレゼンしていました。西山氏は、焼肉店の市場性・日常食として認知された焼肉・外食としての焼肉店の成長性等を力説し、多くの中小企業経営者が共感し、フランチャイズ運営会社になっていったんです。牛角が1997年以降、5年も経たない内に500店舗に到達したのは、このフランチャイズシステムを利用した為です。多くのフランチャイズ運営会社は牛角だけでなく、しゃぶしゃぶ温野菜も展開し始めました」(経営コンサルタント)。軈て、レインズは多角化に乗り出す。2002年には飲食チェーンの『レッドロブスター』(2011年売却)、2004年にはコンビニエンスストアの『am/pm』(2009年売却)、同じく2004年にはスーパーマーケットの『成城石井』(2011年売却)を買収し、飲食店以外の事業にも拡大。しかし、逆風が吹き始め、2005年には会社名(商号)を『㈱レインズインターナショナル』から『㈱レックスホールディングス』に変更し、持株会社化した。「2006年には、経営陣に依るMBOに依り株式買収・非上場化を発表し、2007年にはMBOの実施に依って株式の上場を廃止するも、『MBO実施の際の買い付け価格が、意図的な業績下方修正等で不当に安く設定された』として、一部の個人投資家が反発し裁判沙汰になる等、ブランドイメージが大きく失墜したのです。2012年には大手外食チェーンの“コロワイド”に137億円で買収され、2012年にはコロワイドの連結子会社になりました。創業者の西山氏は勝ち逃げができましたが、残されたフランチャイズ運営会社は、このアベノミクス不況下でも只管ロイヤリティーを支払わなくてはいけないのですから、厳しいですね」(企業ジャーナリスト)

ロイヤリティーは、月々の売上の5%だ。「一般的なロイヤリティーは、売上の1%です。現在は多くの飲食店がフランチャイズ化し、競争が激化している。人件費も高騰している為に、『地方へ行けば行くほど客も入らないし、利益が出ない』というのが現実ではないでしょうか。ブラック企業を正当化する訳ではありませんが、こうした中で、フランチャイズ運営会社・店長へのストレスもかなり厳しいものになっていることは推察できますね」(経営コンサルタント)。焼肉の夢を熱く語った筈の西山氏は、『ダイニングイノベーション』(東京都港区)の社長として、飲食店の海外展開等に熱心だという。残された牛角・しゃぶしゃぶ温野菜ブランドは鍍が剥がれ、ブラック企業の烙印を押される日も近いのかもしれない。


キャプチャ  2015年12月号掲載


スポンサーサイト

テーマ : ブラック企業
ジャンル : 就職・お仕事

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR