【友だちのいない男たちへの処方箋】(02) 孤独な人ほど長生きできない? 寿命は友だちの数で決まる!

先日のことですが、「コーヒーは健康にいい!」という研究がメディアを賑わせていました。すると、ある番組の司会者の方が次のようなコメントをされていたのです。「この前まで、『コーヒーは胃が荒れるから健康に良くない』と言っていた気がするけど、今度は逆の研究結果が出てきましたね。恐らく、もう少しするとまた別の研究が出てくるのでしょう(笑)」。きっと、この司会者の発言に共感される方はとても多いのではないでしょうか。実際、昨日まで「健康に悪い」と思われていた食品が、今日になったら「実は健康にいいことがわかりました!」と発表されるのを見聞きした方は多いと思います。何故、このような問題が起こるのでしょう? その最大の理由は、健康に関する情報は必ずしも“最新”の情報が正しいとは限らないからです。というのも、「最新である」ということはつまり、「知見が少ない」ということの裏返しでもあるからです。その為、こと健康に関しては、「最新だから」といって信用を置いていい訳ではないのです。その為、私たち予防医学の専門家は、最新のかわりに“最善”という言葉を使います。最善とは即ち、数多くの研究に基づき、根拠が確立しているものを指します。最新を追いかけると振り回されますが、最善を押さえておけば地に足を付けた健康作りができます。そこで本稿では、最善の健康作りとして近年注目を浴びている“繋がり”について、これからご紹介していきたいと思います。

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「結局、私たちの寿命を最も伸ばす要因は何なのか?」――そのような壮大な研究テーマに挑んだのが、ブリガムヤング大学に所属する新進気鋭の心理学者であるジュリアン・ホルトランスタッド(右写真)です。元々、彼女は繋がりが健康に与える複雑な影響に興味を持っていました。例えば、彼女が行った有名な研究の1つに、『不幸な結婚生活を送るのと独身で過ごすのとでは、どちらが健康にいいのか?』というものがあります。彼女は、既婚者204名を対象に“結婚生活への満足度”等を調査し、独身者99名との比較を行いました。その結果、不幸な結婚生活を送る者は、独身者に比べて健康度が低いことがわかったのです(出典:Annals of Behavioral Medicine, 2008; 35: 239-244)。このような“繋がりと健康の複雑な関係”について、彼女は彼此10年以上研究を行ってきました。大学でのポジションも得て、それなりに充実した毎日を送っていましたが、彼女には1つ大きな不満があったのです。それは、「繋がり研究が注目を浴びていない」ということです。抑々、“繋がりと健康”の因果関係が科学的に認められ始めたのは、1988年に権威ある科学雑誌『サイエンス』に掲載された論文がきっかけでした(出典:Science, 1988; 241: 540-545)。その記念碑的な論文には、大胆にも以下のような文言が書かれてあったのです。「人との繋がりを欠くことは、健康を脅かす重大な要因である。その効果の大きさは、煙草・血圧・コレステロール、そして肥満や身体活動にも匹敵する」。しかし、その論文が発表されてから20年以上が経とうとするのに、繋がりの重要性に対する社会的認知度は圧倒的に低いままです。苛立った彼女は、あるとんでもない研究を思いつきます。それは、「繋がりの影響度の大きさを煙草やお酒等と比較してみてはどうか?」というものでした。別の見方をすれば、「何が最も寿命に影響する要因なのか?」を追求する壮大なる研究だったのです。目指す地点が高いほど、その道のりは当然苦しいものになります。彼女が最初に行ったのは、“繋がりが健康に及ぼす影響”について、これまでに行われた研究を全て調べ上げることでした。1900年から2007年にかけて行われた“繋がりと健康に関する研究”を集めてみると、何と1万1224もの論文がリストアップされたのです。勿論、その中には質の低い論文、或いはあまり関係のない論文も含まれていたので、1つひとつ精査していった結果、最終的に148の論文が手元に残りました。次に、それらの論文で集められたデータを結合し、“繋がりが死亡率に与える影響”について統合的な分析を行いました。最後に、得られた結果を煙草・お酒・身体活動や肥満について行われた同様の研究と比べた結果、驚くべきことがわかったのです。それまでの予防医学の常識では、「煙草こそ最も寿命に影響する要因だ」と考えられていました。しかし、「繋がりがあることは、煙草と同じかそれ以上に影響する」ことがわかったのです。更に言えば、繋がりを持たず孤独に生きることは、運動不足や肥満であることよりも健康に悪いことがわかってきたのです(図1)。このような大変手間暇かかる研究を終えて、彼女は次のように述べています。「医者やメディアは、煙草・食生活・運動といった問題をいつも取り上げます。しかし、私たちの研究が示しているのは、人と人との繋がりも同様に取り上げるべき要因の1つであるということです」(出典:PLoS Medicine, 2010; 7: 7: e1000316)。




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扨て、ここまで繋がりが寿命に大きな影響を及ぼすことを見てきましたが、日本人の現状はどうでしょうか? 実は、先行きがとても不安になるデータがあるのです。政府に依る2011年版『高齢社会白書』では、「高齢者の社会的な繋がりを国際比較した結果、日本は血縁以外に頼れる近所の人や友人がいる割合が最も低く、国際的に見て社会的孤立が進んでいる実態が明らかになった」としています。最早、日本は超高齢社会に突入しています。当然、起こり得る健康問題をできる限り予防する、或いはその発生を遅らせることが大変重要になってきます。そこで登場するのが、これまで見てきた“繋がり”です。例えば、日本の国家的な健康戦略である『健康日本21』の中でも、繋がり作りの重要性が強調されるようになってきているのです。勿論、その際は「なるべく多くの人と繋がる」という量的側面のみならず、「誰と繋がるのか?」という質的側面も考慮しなければなりません。次に見ていくのは、そんな繋がりの質に関する研究です。改めて驚くべきことに、私たちの多くは普通に暮らしていると80年近く生きられるようになりました。ついこの間まで“人生50年”なんて言われたりしていたのが嘘のようです。その一方で、日本人は大きな代償を払っています。厚生労働省の最新発表に依れば、日本人の平均寿命は男性81歳・女性87歳となっています。しかし、他人様の力を借りずに元気でピンピンしていられる期間(健康寿命)は、男性71歳・女性74歳と報告されています。つまり、平均的な日本人は、人生の最後の約10年間は誰かの助けを借りながら生きているのです。「単に長生きしても意味がない。できれば、誰の助けも借りずにコロリと亡くなりたい」――そのように願いたいものですが、実際のデータを見るとそうは問屋が卸さないようです。

それにしても、一体誰が10年間もの介護を支えてくれるのでしょうか? 同じく厚生労働省の調査に依れば、26.2%の人は配偶者に、11.2%の人は義理の子供に、21.8%の人は実の子に介護を受けているようです。そして最近、「誰に介護をしてもらうかに依って死亡率が異なる」という研究結果が出てきました。 ハーバード大学の研究者(当時)である西晃弘らは、2001年から2006年にかけて、介護を受けている191人の日本人高齢者の調査を行いました。その結果、次のような傾向を報告しています。先ず、女性が介護を受ける場合、“旦那”に世話をしてもらうと最も長生きでした。他方で、旦那に介護をしてもらう場合に比べて、娘に介護されると1.9倍、息子の嫁だと4.3倍亡くなり易かったのです(図2)。嫁と姑の問題は古今東西、永遠のテーマですが、実際の死亡率にまで影響を与え得ることが、西らの研究で初めて明らかになったのです。勿論、これはまだ1つの研究に過ぎませんし、抑々最終的には個人差があるものですが、「誰と繋がるかに依って、その後の健康が変わる」ということを示す、とても印象深い研究だと思います。因みに、男性が介護を受ける場合、最も長生きするのは“息子の嫁”に介護される場合でした。次は娘、そして奥さんに介護される場合が最も短命だったのです。扨て、最後に繋がり作りにおける男女差について、とても重要となる知見をご紹介したいと思います。若し、仮に「繋がり作りが巧いのは男性か女性か?」と問われたら、間違いなく「女性!」と殆どの方が答えると思います。それが一体何故なのかということを、予防医学の観点からご説明したいと思います。先に結論から述べておくと、“ストレス状況下における男女の振る舞いの違い”が、繋がり作りの得手・不得手に大きな影響を与えているのです。

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1915年、ハーバード大学医学部教授であったウォルター・キャノンは、当時としては驚くべき研究を発表しました。「人は恐怖や怒り等、ストレスの多い状況に置かれると、呼吸や脈拍が増え、血圧も上昇する。これは、牙を剥いて襲いかかる動物から身を守る為、人類が進化の過程で獲得したメカニズムである」。つまり、目前に迫った危機を回避する為に、体は心拍数や筋肉への血流を増やして、「闘うか? 逃げるか?」に適した状態を作り上げるのです。キャノンは、それら一連のストレス反応を『闘争・逃走反応』と名付け、初期のストレス研究における金字塔を打ち立てました。ただ、キャノンが研究対象としたのは主に男性であり、女性は男性とは異なる反応を示すことが最近わかってきました。ストレス研究の権威であるカリフォルニア大学ロサンゼルス校のシュリー・テイラー教授に依ると、「人間はストレスを感じると、男女問わず、結び付きを求めるオキシトシンというホルモンが分泌される」と報告されています。オキシトシンは“癒やしのホルモン”と言われることもあり、友だちや身近な人との繋がりを求める作用があります。特に女性の場合、女性ホルモンの影響と相俟って、ストレス下でより強く繋がりを求めることが知られています。つまり、女性はストレス研究で伝統的に言われていた『闘争・逃走反応』ではなく、「人と繋がりたくなる(=喋りたくなる)」という第3のストレス反応を示すのです。一方、男性はオキシトシンの働きが男性ホルモンに依って弱められてしまう為、女性ほどは繋がりを求めないようです。年を重ねるに連れて会社を定年退職しなければならなかったり、親しい人が亡くなったり、或いは大病をしたりと、大きなストレスが沢山待ち構えています。その時に、女性は「人と繋がってお喋りをする」ことで乗り越えようとしますが、男性はどちらかというと「引き籠って酒等に逃げる」という行動を取り、健康を崩しがちです。そのような男女差があるのだということを考慮に入れた上で、先ずは「身近にいる人たちを大事にする」「彼らに感謝する」というところから、繋がり作りを始めてみては如何でしょうか?


石川善樹(いしかわ・よしき) 予防医学研究者・医学博士・『㈱Campus for H』共同創業者・『㈱キャンサースキャン』イノベーションディレクター。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。専門は行動科学・マーケティング・ヘルスコミュニケーション・データ解析等。著書に『友だちの数で寿命はきまる 人との“つながり”が最高の健康法』『最後のダイエット』(共にマガジンハウス)等。


キャプチャ  2015年10月号掲載


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