【アジアの平和が脅かされる】(下) “日本の生命線”南シナ海を守れ

20151129 02
南シナ海は、中国・フィリピン・ベトナム等の国々に囲まれた東南アジアの中心に位置する多島海である。1930年代後半、南シナ海に存在する島々の多くは日本の管轄下にあった。しかし、第2次世界大戦後、日本が島の領有権を放棄したことに依り、沿岸国が我先にと島の領有権の獲得を目指した。更に、石油や天然ガスが埋蔵されていることが知れると、沿岸国に依る領有権の主張が重複し、資源の開発権や漁業管轄権を巡り、領土紛争にまで発展するようになった。特に危機的な状況を齎したのは、中国の強引な戦略である。南シナ海北西部のパラセル諸島(中国名は西沙諸島)では、1974年のべトナム戦争中に中国軍が侵攻。南べトナム軍を排除し、諸島全域を支配下に置いた。その中核に位置する永興島には滑走路が作られ、南シナ海侵出の軍事拠点となっている。また、1995年にはスプラトリー諸島(中国名は南沙諸島)の北部、フィリピンが支配していたミスチーフ礁を占拠し、中国漁民の保護を名目に軍事拠点を作り、以後、実効支配している。この頃、フィリピンではアメリカ軍が撤収し、防衛機能が低下した為、容易に奪うことができたのだ。現在、中国は南シナ海を包み込むように“九段線”という管轄海域を示すラインを設定し、この線の内側を中国の海洋領土とし、その管轄権を主張している。2007年11月には、スプラトリー諸島を含む南シナ海一帯の島々に“三沙市”という新たな行政区分を設置することとし、自国の行政管轄権を主張した。だが、三沙市の中には、他国が実効支配する島も含まれている。

2012年、フィリピンのルソン島沖約220kmにあるスカボロー礁を巡り、フィリピン軍と中国の警備船が対峙し、紛争寸前の事態となった。危機意識を募らせたフィリピン政府は2013年、中国との間の海域紛争を平和裏に解決する為に、国連海洋法条約に基づき、仲裁裁判所に仲裁を申請した。しかし、中国は仲裁に応じることを拒み、国際法に拘らず、国内法の下で南シナ海への侵出を更に進める意思を示した。近年、中国に依る南シナ海侵出は、更に大胆に進められるようになった。2015年、中国は多くの国が領有権を主張する島々が含まれるスプラトリー諸島の中に、7つの岩礁を基点に人工島を建設した。アメリカの国防総省に依ると、既に8㎢が埋め立てられ、2014年末の2㎢から4倍に拡大され、この土木工事の為に運び込まれた土砂は、2015年だけでも東京ドーム140杯分に上り、その多くはサンゴ礁を破壊して採取されたものとされている。自国が管轄している海域内に人工島を造られたフィリピン政府は、「ASEAN諸国が2002年に南シナ海問題の平和的解決を目指す為に合意した“南シナ海行動宣言”に違反している」と抗議したが、中国は意にも介さず、広範囲に埋め立て工事を行った。中国の人工島建設に対し、アメリカは「国際法違反である」と指摘した。中国が人工島を建設している岩礁の1つであるジョンソン南礁は、嘗てこの岩礁を支配していたべトナムに依ると、満潮時に全てが海面下に没するので島とは言えないのだ。『国連海洋法条約』第121条の島の定義では、「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう」とされている。ジョンソン南礁は国連海洋法条約に依り、いくら埋め立てても、領海や排他的経済水域の基点となる“島”とは認められないのである。同様に埋め立てを行ったフェアリークロス礁も、干潮時にのみ海面上に現れる環礁であり、国際法上“島”ではない。寧ろ、管轄権が不明確な海域に人工島を造ること自体が、国際的な信義に反する行為と言えよう。アメリカは今年5月20日、中国の“力に依る現状の変更”を監視する為、海軍の哨戒機をスプラトリー諸島の上空に派遣した。中国の動きを国際的に監視する必要を示したのである。




スプラトリー諸島には12の島と凡そ8ヵ所の岩礁・砂州があり、其々ベトナム・フィリピン・マレーシア・中国・台湾が実効支配している。その島々の位置関係は入り乱れている為、沿岸から12海里の領海及び200海里の排他的経済水域を設定し、他国との中間線を確認することは不可能である。その為、中国は南シナ海の全域を支配下に組み入れる戦略を打ち立てた。島を1つずつ占領するのではなく、海域全体を押さえた上で、島々を社会的・経済的に支配下に組み入れようとしているのだ。その手段として、滑走路を持つ人工島を造成し、軍艦・警備船・航空機を併用し、海域を空と海から監視する体制を構築しているのである。この南シナ海は、“日本の生命線”と言える重要なシーレーンである。南シナ海が紛争海域となり、安全航行が阻害されると、日本に悪影響を及ぼすことは必至だ。この海域は、日本人が使う石油の80%が通過するのみならず、南シナ海沿岸のタイ・ベトナム・マレーシア・シンガポール・カンボジア・ブルネイ及びインドネシアの港と日本を結ぶ航路は、必ず南シナ海を通過しなければならない。この航路を通じ行われる貿易額は、2014年では輸出約1000億ドル・輸入約900億ドルにも上る。これらの貿易の情況から考えても、南シナ海が紛争地域となり、通航が危険な状態になった場合、平和安全法制に依る“存立の危機”に相当することになる。“海洋国家”日本において、平和と国民の安定した生活は、国際的なシーレーンの確保が基盤となっている。南シナ海は、その中で重要に位置にある。シーレーンの安全確保は日本国政府の重要な政策課題であり、政府は安全保障に関する国民の理解を増幅させる策を講じなければならないのだ。


山田吉彦(やまだ・よしひこ) 東海大学海洋学部教授・公益財団法人『国家基本問題研究所』理事。1962年、千葉県生まれ。専門は海洋政策・海洋安全保障。『驚いた! 知らなかった日本国境の新事実』(実業之日本社)・『日本全国お魚事典』(海竜社)・『日本は世界4位の海洋大国』(講談社)等著書多数。


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