【日曜に想う】 テロと空爆、不条理の連鎖

「警戒心と連帯感と抵抗の気持ちが綯い交ぜになっている」――パリの友人が、街の空気をメールでそう伝えてきた。彼女は、1月に週刊紙編集部と共にテロの被害に遭った食品雑貨店近くに住んでいる。今回のテロでは姪たちが現場近くにいて、治安部隊に避難誘導されたという。「1月のテロから、人生の一瞬一瞬をそれまでより慈しむようになった」と書いている。被害者を懸命に助けた近隣の人たちやタクシー運転手たちがいたことで、自分たちの社会の強さに少し「自信を持った」とも。今回のテロの直後、フランスで話題になったアメリカからのエールがある。『ニューヨークタイムズ』電子版への読者の投稿だ。「フランスは、狂信的宗教者が憎むもの全てを体現している」と、人々が生活を楽しむ姿を列挙している。友人と味わうワイン、短いスカートの女性、カロリーを気にせず婚外セックスをし、政治家も聖職者も揶揄う権利…。「そんなパリが好きだ」「貴方たちは再び笑い、歌い、セックスをし、癒やされるだろう。人生を楽しむことが貴方たちの本質だから。闇の力は負けるだろう」と励ます。聊かステレオタイプなフランスのイメージ。いつもなら斜に構えて反応しそうなフランス人の多くが、素直に感動したようだ。『ルモンド』電子版も、「美しい文章」とフランス語訳して紹介した。不条理に、「自分を見失うまい」とする心情が覗く。

事件の後、フランス政府は空爆強化に急速に傾いていった。空爆は、その下にいる人たちにどう見えるか。空爆下の都市で1ヵ月ほど取材をしたことがある。1999年、旧ユーゴ・コソボ紛争当時のベオグラード。『北大西洋条約機構(NATO)』が毎日のように爆撃機や巡航ミサイルを飛ばした。軍や政府の施設が次々破壊された。時にバスや病院等が“誤爆”に遭い、市民も多く犠牲になった。その街の空気も、“警戒心と連帯感と抵抗の気持ち”が綯い交ぜだった。攻撃目標になり易い橋を渡る時の人々の緊張した表情。警戒下で人々を慰めようと演奏会を開いたオーケストラ。空襲警報が聞こえてもカフェから立ち去らない客たち。爆撃で大破した政府施設の前で会った年配の男性は、「(自国の)独裁的大統領が嫌いだ」と言いながら、「こんなことをされたら、彼を支持して結束するしかない」と反発を露わにした。標的の街に生きる人には、空爆もまた不条理と映る。




過激派組織『ISIS(別名:イスラム国)』の支配地域で生きる人たちにとっては、日常が既に不条理に違いない。その上、そこを逃げ出せずにいると空爆に曝され、出国できても難民として彷徨うばかりとなれば、今度はこの世界そのものが巨大な不条理と化すだろう。だが、国際社会は「テロリストが紛れ込むのでは」と懸念して、難民との向き合い方に動揺している。例えば、大規模な受け入れを表明していたドイツは、その姿勢を変えないか?――ルモンドの問いに、ドイツの思想家であるユルゲン・ハーバーマス氏は、こう答えている。「そうならないことを願う。私たちは皆、同じ船に乗っている。テロも難民危機も重大な、恐らく究極の試練なのだ。求められるのは、緊密な連帯に依る協力だ」。どんな問題を齎すかわからないという不安に耐えて、他者を受け入れられるか。連帯を広げられるか。パリの友人はメールに、日本映画『海街diary』に感動したと書き添えていた。3人姉妹が自分たちを捨てて家を出た父親の死をきっかけに、腹違いの妹の存在を知る。不安を抱えながら一緒に暮らし始める。それが1人ひとりの再出発に繋がる物語。静かな映像に、時代の試練が少し重なって見えたのだろう。 (論説主幹 大野博人)


≡朝日新聞 2015年11月29日付掲載≡


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テーマ : 国際問題
ジャンル : 政治・経済

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