ヤクザを襲い、芸能界を支配する――チャイニーズマフィア『怒羅権』、最凶の正体

約30年前、日本への怒りを抱えた中国残留孤児2世・3世たちが、ある暴走族を誕生させた。今や暴力団にも襲いかかり、莫大なカネを手中に収め、芸能界をも浸食している。アンダーグラウンド社会の一大勢力を追った。

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事件が起きたのは、昨年7月29日未明のことだった。場所は、JR赤羽駅(東京都北区)の南改札口を東側に出た、居酒屋・スナック・クラブが立ち並ぶ歓楽街。その路上を、1台の車両が通りかかった。車内には、杉山清一容疑者ら山口組系3次団体の組員が数人。赤羽で飲食店に寄った帰りだった。その車の前を、6名の集団が横切ろうとした。李明岩被告ら、赤羽を拠点とするチャイニーズマフィア『怒羅権』のメンバーたちである。車が激しくクラクションを鳴らすと、彼らは徐に車に近寄り、ボディーを思いっ切り蹴り上げた。杉山容疑者らは車を飛び出し、それを合図に総勢10名が入り乱れる大乱闘が始まった。「李被告は、近くに落ちていた重さ8kgほどの木の板で殴りかかり、他の怒羅権のメンバーもそれに続いた。杉山容疑者ら暴力団組員たちも、ビールケースを振り回す等して応戦しました。赤羽署の署員が駆けつけた時には、既に両グループとも逃走した後だったようですが、人数で勝る怒羅権が山口組側をボコボコにしたそうです。3人の組員が頭部打撲等の怪我を負い、杉山容疑者は頭蓋骨骨折で全治6ヵ月の重傷でした」(全国紙社会部記者)。李被告らは『華盛会』と名乗り、北区や埼玉県内の繁華街で飲食店等からみかじめ料を徴収していた。当初、「縄張り争いが抗争の理由か?」と囁かれたが、実際には出会い頭の突発的な喧嘩だったと判明。李被告らは暫く潜伏していたが、警視庁組織犯罪対策2課は防犯カメラの解析等を進め、5月20日までに李被告ら怒羅権のメンバー4名を逮捕。李被告は傷害罪で起訴されており、8月19日に初公判を迎えた。杉山容疑者らも暴力行為等処罰法違反で逮捕されたが、起訴はされていない。怒羅権側の2名と暴力団側の1名は未だ逃走中で、当局は行方を追っている。怒羅権は、ヤクザを全く恐れない暴力集団なのである。

ここ数年、東京近郊のアンダーグラウンド社会の勢力図は大きく様変わりした。2011年の『暴力団排除条例』の施行以降、暴力団に対する規制が強化され続ける中、勢力を伸ばしてきたのが“半グレ”集団である。その急激な勢力の伸張を警戒し、2013年3月、警視庁は六本木クラブ撲殺事件等で知られる『関東連合』等、複数の半グレ集団を“準暴力団”に認定した。定義は、「既存の暴力団のように、組長をトップとする上下関係がハッキリしていないが、所属メンバーやOBが繁華街等で集団で常習的に暴力的不法行為を行う、暴力団に準じる集団」というもの。その時、関東連合と一緒に準暴力団に認定されたのが怒羅権なのだ。怒羅権は、その暴力性・横に広がるネットワーク・シノギ(仕事・収入源)の幅広さ等の点で現在、“最凶の半グレ”と言える。その知られざる実態を見ていこう。抑々『怒羅権』とは、1980年代後半に東京都内や関東近県で、帰国した中国残留孤児2世・3世に依って構成された暴走族だった。半グレに詳しいジャーナリストの李策氏が話す。「1980年代の中国は、改革開放が始まったばかりでした。経済格差が激しく、中国残留孤児たちにとって日本は新天地に見えたのです。『日本に行けばいい暮らしができる』という期待を胸に帰国したが、現実はそうではなかった。特に、親に連れて来られた小さな子供たちは日本語が喋れませんし、差別や苛めを受けることも多かった。そうした子供たちが寄り集まってできたのが怒羅権だったのです。残留孤児を受け入れる一時入居施設が千葉の西葛西にあったので、最初の怒羅権は西葛西で結成されました。“怒”は日本人に対する怒り、“羅”は修羅の羅、そして“権”は自分たちが日本で権力を握ることを意味していると言われています」。その後、西葛西怒羅権は16代・約16年に亘って続く。その他に、府中・赤羽・横浜等にも怒羅権は派生していった。当時、西葛西の怒羅権は、他の暴走族との喧嘩になると100名以上が集結する等、大きな勢力を築いていた。1990年代から2000年代初頭にかけて、暴走族のスケールを超えて暴れ回っていたのである。「怒羅権が有名になったのは、1980年代後半の“浦安事件”です。当時、千葉の“スペクター”と“キラー連合”が抗争している時に、怒羅権の連中がキラー連合サイドの応援で駆けつけた。そこで、怒羅権のメンバーがナイフでスペクターの人間を刺した。次の日の朝刊に、その抗争の記事が大きく出たんです。そこから『怒羅権のヤツらはナイフや包丁を携帯している』と恐れられるようになって、凶暴なイメージがついた」(半グレに詳しいジャーナリスト)




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警察内部で近年に編み出された造語“チャイニーズドラゴン”は、怒羅権の出身者や、その関係者という広範囲を指す。現在、チャイニーズドラゴンは東京都内やその周辺地域に7グループ・1000人の構成員が存在し、窃盗・強盗・恐喝・麻薬の売買等に手を染めているとされる。中国系のイメージが強い怒羅権だが、中心となってきたのは中国残留孤児の子供たちであり、飽く迄も日本国籍を持つ人間たちだ。中国と縁も所縁も無い日本人も多く在籍している。怒羅権の最大の特徴が、その類い稀な暴力性だ。某広域指定暴力団に所属する元怒羅権メンバーは、暴走族時代をこう振り返る。「俺が関わった揉め事だけでも、相手を結構、植物(状態の重症)にしてしまった。地元で別の暴走族が走っていたら、仲間から連絡が入るんです。バイクのナンバーを隠して、目出し帽を被り、手袋を嵌めて襲撃する。いい音がするから、対向車線からこっちに向かって走ってくる奴をバットでフルスイングで殴るのもよくやった。メンバーの1人が近くの暴走族から暴行された時は、返し(報復)としてその暴走族の頭を攫ってきて、ギッタンギッタンに殴って、ナイフで背中に“犬”と刻んだこともあった。休日は冗談半分で“怒羅権検問”って言って、検問張ってたよ。トッポイ(ワルぶっている)車は片っ端から呼び止めて、高そうなものは奪って、車はブッ壊す。駅のロータリーとかで車に乗ってナンパしている奴をシメたり、そいつの車をボコボコにしたりもしていました」。怒羅権は、相手が誰であってもお構いなしだ。1999年12月に、俳優の布施博が西葛西駅前の路上で中国籍の男2人から暴行を受けた。布施が車を運転していたところ、男たちが布施に気付いて車のトランクを叩く等して絡んだ。布施が車を降りて2人を注意したところ、顔や腹部に殴る蹴るの暴行を加え、全治10日間の怪我を負わせたのである。「この時の犯人の1人が、暴走族としての怒羅権を作ったSという人間。実際には、窓をコンコンと叩いただけで布施が『何してんだ?』と詰め寄ってきたことがきっかけで揉めたという話もあるけどね」(同前)

近年、怒羅権が暴力団を襲う事件も頻発している。2011年12月、六本木の雑居ビル内のキャバクラで、山口組系2次団体の幹部4人が酒を飲んでいた。午前3時過ぎ、短髪・色黒の20名程の男たちが店内に入ってきた。他の客には目もくれず、奥のテーブルに座っていた幹部に襲いかかった。ビール瓶やウィスキーのボトルを頭に振り下ろし、店内は血塗れになったという。襲撃したのは、30代の怒羅権OBたちだった。同年6月にはJR線糸町駅近くの路上で、30代の怒羅権メンバーの男が口論になった初代の住吉会系組員を暴行。刃渡り20cm超の包丁を持って、駅前の繁華街で組員を追いかけ回し、顔や身体を何度も切りつけた挙げ句、最後は耳を切り落とした。「あんな事件は珍しくはない。中国人のメンバーは、ブーツの中に出刃包丁を仕込んでいる奴が多かった。トレードマークみたいなもんだね。グループに依っては、暴力団よりグループの先輩のほうがよっぽど怖い。先輩たちに『ヤクザの事務所の前で(バイクで)暴走してこい」って命令されて、後輩たちが本当に事務所の前でブンブンとバイクを暴走させたこともあった。勿論、やられた暴力団側もそいつらを捕まえて暴行するが、また先輩に命令されて挑発しにやって来る。そんなことばっかり繰り返している連中なんだよ。最終的には、数十人の怒羅権の連中が、その暴力団の事務所に出刃包丁を持って乱入したらしい。暴走族がケツ持ちの暴力団に吸収されて、巧く利用されることは多い。しかし、怒羅権の場合は少し違う。ケツを持っている暴力団のほうが、『俺たちは怒羅権のケツ持ちだ』と虚勢を張ることもある。それだけ、怒羅権がアウトロー社会で一目置かれているということだ」(同前)

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怒羅権と暴力団の関係性は、複雑に入り組んでいる。しかし、中には暴力団サイドから一目置かれるばかりか、“ボス”と呼ばれる人間までいる。7月13日、ある怒羅権の大物が捕まった。警視庁組織犯罪対策2課に傷害容疑で逮捕された大野宏容疑者(46)である。5月上旬の未明、新宿区歌舞伎町のクラブ店内で、知人の30代の中国人男性の鼻先に青竜刀を突きつけ、「新宿に来る時は俺に連絡しろ」と男性の顔を殴った容疑だ。「大野は、府中の怒羅権のリーダーです。“2番目の兄貴”を意味する中国語の通り名を持っており、特に西東京の不良中国人社会では名が知られていました。暴力団サイドとも太いパイプを持っており、指定暴力団の4次団体の組長クラスの中には、大野のことを“ボス”と呼ぶ人間までいるんです」(歌舞伎町の怒羅権関係者)。以前、歌舞伎町のカラオケ店で大野容疑者の誕生日パーティーが開かれたことがあった。その際、彼と親交がある指定暴力団4次団体の幹部等、100名以上の人間が駆けつけたという。パーティー会場は、警視庁組織犯罪対策課の覆面刑事に依って包囲されていたというオマケ付きだ。怒羅権のアンダーグラウンド社会での存在感の大きさがわかる。怒羅権はその暴力性だけでなく、シノギにおいても存在感を増している。嘗ては、売春・賭博・ドラッグが“三種の神器”だった。「中国人キャッチの利権は、いいシノギになる。中国人エステや中国人クラブのキャッチから月に5~10万円支払わせれば、10名で50~100万円。連れて行く先のクラブや売春に使うレンタルルームの経営も一緒にしていれば、全て懐に入ってくる」(同前)。2014年には、深川の怒羅権が江東区門前仲町の飲食店経営者に「俺たちが門前仲町を仕切る」と言って、現金70万円を脅し取って逮捕された事件があった。赤羽の李被告たちのように、飲食店等からカスリ(上納金)を徴収するグループも多い。キャバクラや風俗店等で暴れて、カスリを要求することも珍しくない。西葛西のキャバクラでは、“暴力団お断り”ではなく“怒羅権の方お断り”という貼り紙が店頭に貼ってあったという。「怒羅権のOBで、歌舞伎町で大きな売春クラブを経営している人間がいた。そこに怒羅権の後輩が入り浸り、カネをせびっていました。結局、その人は店を閉めてしまった。カネがあると思ったら、同じ怒羅権だろうとそれをシノギにしようとする。そういう世界です」(同前)

窃盗・強盗・カード詐欺・偽装結婚等、カネになる悪事には殆ど手を染めている。「怒羅権の中でも、中国系の奴らは怖いもの無しだ。一度日本に来てしまえば、警察にも犯歴データが無いからやりたい放題。いざとなれば本国(中国)に帰ってしまえばいいんだから。指紋も気にしなくていいから、強盗に入る時も家具や引き出しなんか素手でベタベタ触ってしまう」(前出・元怒羅権メンバー)。最近では、怒羅権の中でも暴力団と同じように“荒ごと系”と“知能系”に分かれている。クレジットカードのスキミングは、知能系の得意とする分野の1つ。2012年11月には、東京都江東区の30代の怒羅権関係者ら5人が、ゴルフ場で利用客のクレジットカード情報を不正に引き出したとして、窃盗等の疑いで逮捕された。彼らは14都府県で300件以上のスキミングと現金引き出しを繰り返し、被害額は約1億4000万円以上だという。振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺も、怒羅権の大きなシノギの1つになっている。4月15日、警視庁捜査2課は詐欺容疑で、特殊詐欺グループの元締めである嶋村光洋容疑者を全国指名手配した。彼は十数人の特殊詐欺グループのリーダーであり、全国の老人に架空の投資話等を持ちかけ、計3300万円以上を騙し取った疑いが持たれている。嶋村容疑者も怒羅権の関連団体のメンバーであり、右下の写真は怒羅権から派生した暴走族『神龍会』にいた頃の彼である。「架空のアダルトサイトで入会金を請求する“4クリック詐欺”等をやっている人間もいる。最近は、縄張りを巡って喧嘩で勝つことばかりじゃなくて、中国本土のパソコンに詳しい留学生を使ったりして、個人情報を集めるシノギのほうが儲かる。その技術や利権を巡って、怒羅権同士で争いが起きることもある」(前出・怒羅権関係者)

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怒羅権はシノギの一環として、或いは自身を飾りつける有名人という名の“アクセサリー”を手に入れる為、芸能界にも進出している。約10年前、女性タレントのSが大手芸能事務所に移籍した。その際に、Sがそれまで所属していた事務所の関係者だった横浜怒羅権のメンバーが、その大手事務所のS社長宅に乗り込んだ。S社長は2000万円を支払わされたという。芸能界のドンすら恐れない怒羅権を象徴する事件と言えるだろう。渋谷の有名クラブ・Xは、怒羅権のOBがオーナーだった。Xは半グレと芸能関係者の社交場であり、遊びにやって来る女の子をギャル系雑誌等へスカウトする場でもあった。Xには、ミュージシャンとしても活動する俳優のOや、清純派女優のH、癒やし系女性タレントのY等も顔を出していたという。「ある怒羅権関係者は、自身が実質的に経営する歌舞伎町の売春クラブに、元祖アクション俳優のCを連れて来て豪遊していました。彼は、『ジャッキー・チェンとCさんを共演させたい』と上機嫌で嘯いていた」(同前)。薬物での逮捕歴もある前出の俳優Oは、自身は怒羅権メンバーではないが、周囲に関係者が多い。Oの元妻で女優のYも、家族ぐるみで積極的に付き合っていたと言われる。芸能人が怒羅権のような半グレと関係を持つのは、珍しいことではない。芸能人サイドから見ても、暴力団排除条例に依り暴力団組員との交際がリスキーになった。“違法な存在ではない”怒羅権のような半グレ集団のほうが付き合い易いのだ。暴力装置を背景にシノギを広げ、時に芸能界といった表の世界を取り仕切る。半グレと言いながら、実態は巧妙化・ネットワーク化した暴力団。この先、警察当局が既存の暴力団への規制の手を緩めるとは考え難い。当分の間、裏社会は彼らの天下になりそうだ。


キャプチャ  2015年8月25日増刊号掲載


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