【原発事故の現在】(前編) 福島第1原発廃炉の決め手は“凍結”と“ロボット”

福島第1原発の汚染水問題がまた難航している。地下水が建屋に入り毎日数百トンも増え続ける汚染水。今、最大の危機とされるのが、建屋海側の地下にある配管が通るトンネル内の高濃度汚染水だ。建屋との隙間から汚染水がトンネルに流れ込み、一部が海に流出していると見られる。東京電力は汚染水を凍らせて壁を作り、隙間をふさいでトンネル内の汚染水を抜き取る対策を始めたが、その見通しは甘く、凍っていない(2014年9月中旬現在)。原因は汚染水に流れがあるためだ。そこで東電は凍らない部分にセメントなど詰め物をする追加策を検討中だが、うまくいくかどうかは事前に現場の状況を忠実に再現した試験が必要で東電が実施中だが、原子力規制委員会も東電任せにせず、試験の条件に見落としがないか現場に出向いて調べるなど、もっと積極的に関わっていく必要があると思う。

というのも地下トンネル内に溜まった汚染水を抜かないと、汚染水対策の切り札とされる『凍土壁』にも影響を与えかねないからだ。凍土壁とは建屋の周り1.5kmの土を凍らせることで、建屋への地下水の流入を大幅に抑えることができるとされ、国が建設費を負担する。懸念されるのは、地下トンネルの何千倍もの規模になる凍土壁が技術的に可能なのかという点だ。東電は、試験で凍ることを確認したと説明するが、実際の数十分の1の規模にすぎない。地中は均一ではなく、凍らない場所があれば、そこに地下水が集中して流れが早まり、いつまでたっても凍らないおそれもある。凍土壁の周りを実績のある粘土などの壁で囲う必要があると指摘する地盤工学の専門家もいる。今回、凍結工法の難しさがわかったわけで、凍土壁がうまくいかなかった場合に備えて、追加の対策を今から検討しておく必要があると思う。このように汚染水問題に手こずっているのが現状だが、実はこれはまだ廃炉工程の入り口にすぎない。




廃炉工程表では2051年の建屋撤去を目指し、東京オリンピックが開かれる2020年に、溶けた燃料の取り出しを始めることを最大の目標としている。今はその準備期間で、建屋内を除染し、溶けた燃料の状態を確認し、取り出しに向けて格納容器を修理しなければならないが、汚染水と強い放射線が障壁となって進んでいない。遠隔操作ロボットが必要不可欠で事故直後から投入されてきたが、通信ケーブル付きのロボットのため作業員は建屋近くで防護服を着用して操作しなければならず、困難やトラブルの連続だった。

現在どのように調査が行われているのか見るため、2014年夏、福島第1原発を取材した。まず目を引いたのは、事故直後とは比べ物にならないくらい改善された作業環境だ。ロボットの操作は、建屋から離れた免震重要棟で、被曝の心配なく普通の作業服姿で行われていた。東電は建屋からロボット操作用の光ケーブルを免震重要棟まで敷いたのだ。今ではクレーンも含め多くのロボットがここから遠隔操作されている。またロボット自体も改良されていた。今回取材した千葉工業大学が開発したロボットは、ケーブルが切れて回収不可能になったのを教訓に、ロボット2台を1組にし、1台を有線にして調査ポイント近くに確実に移動させ、そこからもう1台を電波で誘導する方式をとり、奥の方まで調査が可能になったという。しかしトラブルは避けられない。今回取材中にも階段でバランスを崩して転倒してしまった。こちらはびっくりしたが、作業員は冷静ですぐに放射線量を確認して救出に行き、その後調査は続行された。このほか汚染水の中を調査できるロボットも、大手原発メーカーや協力企業などが開発している。しかし磁石で容器に張り付き、超音波で水位を調べるロボットは、汚染水の表面に浮く大量の機械油で超音波が使えなかったり、湿気で容器が錆びて張り付けないところも見つかり、一旦撤退せざるを得なかったという。このように廃炉ロボットは進化してはいるものの、車などのように試験を繰り返して不具合を改良し出荷される工業製品とは違い、試験で使ったものをそのまま現場に投入するケースがほとんどでどうしてもトラブルは多くなる。さらに、今後求められるロボットは、毎時数十Svというとてつもない高線量の格納容器内で溶けた燃料の状況を確認したり取り出したりするので、強力な放射線でも誤作動しない電子部品を備えた格段に高性能なものが必要となってくる。

国は2014年8月に原子力損害賠償支援機構の中に廃炉部門を作り、メーカーなどの担当者を集めて廃炉に必要な技術を検討していく場を作ったが、オフィスこそあれ、実際に共同で研究開発するラボはない。海外の機関が協力したいと思って来日しても駐在する場所もなく、体制としては十分ではない。今後は電子工学や化学など、これまで原発とは関係なかった分野の研究者も入って、原発メーカーなどが得てきたノウハウを共有し、共同で研究開発を進めていける拠点を作って、より高性能なロボット開発を加速していく必要がある。こうした構想はようやく国の2015年度予算の概算要求の中にも一部盛り込まれたが、この先、廃炉にかかわる人材を確保していく上でも有効だ。事故以降、原子力の将来性への不安や廃炉という後ろ向きのイメージを敬遠してか、原子力関連の仕事を目指す学生が減っている。しかし廃炉はこれから40年もかかり、若い人材が必要だ。国が研究開発拠点を整備することで、廃炉は何も後ろ向きの現場ではなく、最先端の技術開発も行うやりがいのある場であることを発信していかなければならない。国が先頭に立ち、着実に廃炉できる体制を今から固めていく必要がある。


水野倫之(みずの・のりゆき) NHK解説委員。青森で原子力の担当記者となり核燃料サイクル施設を取材。高速増殖炉『もんじゅ』のナトリウム漏れ事故や東海村臨界事故なども取材。その後解説委員としても原子力の取材を続け、福島の原発事故では発生直後からニュースなどで解説を務めた。著書に『日本一わかりやすいエネルギー問題の教科書』(講談社)など。


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