【原発事故の現在】(後編) 福島県、内部被曝のレベルは非常に低い

放射性物質を体内に取り込むことによる被曝することを内部被曝と呼ぶ。我々の身体には放射性カリウムに代表される放射性物質が元々存在し(カリウム40は体重あたり約50Bq程度)、それらからの内部被曝を日常的に受けているが、東京電力福島第1原発事故にて、セシウム(最も代表的な放射性物質であり、追加被曝の9割以上を占める)を含む放射性物質が環境中に放出されたため追加の内部被曝を受けることとなった。ホールボディーカウンター(WBC)による内部被曝検査は、そのような放射性物質が被験者の体内に存在するかを調べる検査である。これまで市町村主導・個人・福島県・JAEA・各大学によるものなど様々な場所で行われてきた。福島県内だけで一般住民を対象としたWBCは既に40台以上配置されており、50万人以上の検査が終了している。事故から半年後の2011年9~10月のWBC検査では、50%以上の被験者から検出されていたセシウムは2014年春現在、小児から検出されることはほぼ皆無、大人からも検出限界を超える率は数%以下となった。南相馬市では学校検診としてWBC検査が導入され、98%以上の小児が2013年5月から8月にかけて検査を受け、全員が検査限界以下を維持している。大人の検出率も年々低下し、低い状態を維持している。福島県内の他の場所でも同様の結果が得られている。

慢性的な内部被曝、言い換えると現在の福島県内での生活上でのセシウム摂取は非常に低いレベル(以前より我々が日常的に受けている内部被曝より2桁以上低いレベル)を維持していることを示している。内部被曝のリスクは空気では無く汚染食品摂取が主であるが、今現在流通している食品に関して大きなリスクはない。この状況はチェルノブイリと大きく異なり、福島県の農家の方々・多くの父母たちの努力の結果である。検出されないことは、県内の現状の日常生活にて1日あたり平均数Bqのセシウム摂取すらしていないことを示している(より細かく計測すれば1Bqも無い)。これは食品の放射能検査からも支持される。その一方で事故とは関係なく、ビール缶1本とポテトチップス1袋を食べれば、40Bq程度の放射性カリウムを摂取することになる。




日常生活上のセシウムからの内部被曝は、年間で存在するとして1mSvより2桁以上低い値で維持されている。広島・長崎のデータを用いた健康影響と100mSvの是非が議論されたこともあるが、その是非を超えて、現状での生活での内部被曝量は国内の引っ越しなどに伴うバックグラウンドの被曝量変化の中におさまっている。確かに、一部汚染度の高い食品を選択的に未検査で継続的に摂取した場合、比較的高い内部被曝を検出することがあるが(頻度0.03%程度)、それでも年間の被曝量は1mSvを下回る。

汚染は、全ての食材に平均的ではなく、一部の食品に選択的に集中的におこる。チェルノブイリ事故後、周辺地域住民の慢性内部被曝は、その80~90%程度は汚染キノコの摂取で起こったように、汚染度の高い食材を未検査で選択的に継続して摂取することにより引き起こされる。セシウムは泥と強く結合する性質を持つ。そのため、一般的に土から生える植物の汚染度は低いのに対し、土壌から生えずに樹木に直接生える様なキノコ類や山菜類の汚染が高くなる事象が観察される。そのような食材に特化した検査は必要であるが、既に多くの福島県内の食品摂取による汚染リスクは十分に低い。この結果から、原発事故による被曝は、事故直後の被曝がその大部分を占めることが分かっている。しかしながら、初期のセシウムによる内部被曝に関しては、福島県発表のデータや筆者らの検査にて、その預託実効線量は大多数の住民において1mSv以下である。ちなみに、ヨーロッパ大陸に移住すると、自然放射線の違いから日本にいるときより年間で2~3mSv被曝量が多い国がざらである。

甲状腺癌の発見がクローズアップされることもあるが、これは検査を行うことによるスクリーニング効果と考えるのが妥当だろう。元々甲状腺癌は非常に進行のゆっくりな癌であり、成人では数人に1人は持つ。実際に日本で見つかった甲状腺癌のほとんどは15歳以上である。確かにチェルノブイリ原発事故後、放射性ヨウ素による甲状腺内部被曝のため、数千人を超える小児が甲状腺癌を発症した。そして多くは5歳以下だった。被曝は放射性ヨウ素が付着した食餌をとった牛から搾取された牛乳の摂取によっておこり、周辺地域での甲状腺等価線量は、平均で数百mSvであった。今回の事故での甲状腺等価線量は、最も被曝を受けたと考えられる個人でも50mSv前後、多くが数mSv前後であり、いくつかのグループの推定値間に大きな差は無い。逆に治療不要かもしれない甲状腺癌に介入を行う可能性も指摘されており、そのバランスを今後どのようにとるのかが課題である。現状の内部被曝は上述の通りであるが、今後の継続的な検査態勢の維持や、個人情報管理・他の検査結果との突合など多くの問題がある。癌登録や疾患のデータベースなど、インフラ基盤は十分ではなく、実際に多くの癌患者数をモニターできるシステムは存在しない。そのような状況で被曝量の計測は健康に関して継続すべき重要な情報源である。

放射線に対する考えは人それぞれであり、住民の多くに自分の健康に対する負のイメージがあることも確かである。今後も健康に関する尊厳を取り戻すため継続的な情報提供が求められる。多くの方々に関心を持ち続けていただき、より多くの住民の健康が守られることを強く願う。


坪倉正治(つぼくら・まさはる) 東京大学医科学研究所医師。1982年生まれ。同大医学部卒。2011年5月より、福島第1原発にほど近い南相馬市立総合病院の非常勤医師も務める。南相馬では通常の診療とともにホールボディカウンターによる住民の内部被曝検査も継続的に実施。朝日新聞の医療サイト『アピタル』で“内部被曝通信”を連載中。


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