【テレビ、見てますか?】(前編) 『花子とアン』『あまちゃん』…大ヒット朝ドラはこう作る

朝ドラは正式には連続テレビ小説という番組名で、現在放送中の『マッサン』で第91作になります。第1作は1961年度放送の『娘と私』。50年以上にわたるロングセラーの番組は、制作する我々にとって毎回が勝負であり、決してヒットが約束されているわけではありません。数年前までは、内容のマンネリが指摘され、視聴率の長期的凋落に歯止めが利かない状況が続いていました。それが奇跡のV字回復を始めたのは『ゲゲゲの女房』(2010年度前期放送)からです。朝ドラはもともと朝8時15分からの放送でした。それを15分繰り上げて朝8時からの放送にしたのは『ゲゲゲの女房』からです。このおかげで、それまでは7時のニュース→8時からの民放のワイドショー→8時15分から朝ドラと、視聴の流れがチャンネルをまたいでいたのが、7時のニュース→8時から朝ドラ→8時15分から『あさイチ』というシンプルな流れになりました。この放送時間の移設がV字回復のまずもっての大きな要因です。

次に、新しい“柱”の発見も、ヒットの要因と言えるでしょう。そもそも、朝ドラには外してはならない鍵があります。それは「朝ドラはホームドラマである」という大原則です。朝ドラは毎作、様々な題材をとりあげていますが、必ず主人公が家族の中でどのように成長していくか、あるいは結婚して自分の家族をどう築き上げていくかを描いてきました。そして幅広い世代の視聴者に共感してもらえるよう、ドラマの中ではおじいちゃんやおばあちゃんから孫まで揃う大家族を基本としてきました。ところが深刻なことに、現代の日本では『ホームドラマ』の成立が難しくなっています。いまや各世代が揃う大家族はユートピアです。現実では親と子の関係が複雑になっており、肉親同士で殺し合うという凄惨な事件も珍しくありません。さらに、若いヒロインが夢に向かってまっしぐらというドラマは、リアルな日本の現実からはかなり浮いた設定になっています。この内容面での制約が朝ドラの長期的凋落傾向の最大原因でした。




『ゲゲゲの女房』の企画も様々な案を模索するなかから採択されましたが、朝ドラはここで大きな鉱脈を発見するのです。『ゲゲゲの女房』は漫画家の水木しげる夫妻をモデルとした、どん底の貧乏生活から抜け出す夫婦の希望の物語なのですが、時代背景は昭和です。すると、家の中には卓袱台があり、卓袱台には家族が集まります。そして高度経済成長時代は“貧しいけれど夢がある”。かくして現代ドラマでは八方ふさがりだったホームドラマが、昭和を時代にすることで生き生きと蘇りました。以後、朝ドラは『おひさま』『カーネーション』『梅ちゃん先生』『ごちそうさん』『花子とアン』『マッサン』と昭和を舞台にした企画を連発していきます。しかしいつまでも昭和を舞台にするわけにもいきません。そこで新たな鉱脈を見出したのが『あまちゃん』でした。『あまちゃん』が社会現象にまでなった背景には、SNSなどを介して二次爆発・三次爆発と人気が連鎖していったことなど様々な理由がありますが、内容面での鉱脈は“ふるさとの再発見”です。『あまちゃん』は視聴者が自分のふるさとに帰りたくなる、ふるさとへの愛に満ちた朝ドラでした。誰でもふるさとがあります。そのふるさとへの愛と誇りで元気になろう、というのが新しい現代ドラマでの朝ドラの鉱脈です。2015年度前期放送の『まれ』はこの路線を継承しています。“昭和”と“ふるさと”。この2大路線が朝ドラの柱になっているのです。

とはいえ、以上の方針も魅力的に実現しなければヒットは生まれません。そのためには実力派ヒロインの起用が不可欠です。朝ドラは伝統的に新人をオーディションで選んで抜擢してきました。ところが昭和を舞台にすると、結婚・戦争・子育てといった一代記の様相が強くなり、必然的に20代後半の女優をキャスティングすることになります。松下奈緒・井上真央・堀北真希・杏・吉高由里子といった実力派の若手女優がヒロインを演じてきましたが、このことは朝ドラのヒットの大きな要因になっています。もちろん現代ドラマの朝ドラでは新人オーディションを実施して、その結果、能年玲奈・土屋太鳳が生まれています。一方で、ヒロインの相手役の若手イケメンの抜擢にも力を入れてきました。朝ドラの視聴者の大票田は女性です。歴代のヒットした朝ドラでは、必ず相手役の若手男優の人気が急上昇しました。この法則は不変で、ここ数年でも、向井理・高良健吾・綾野剛・松坂桃李・東出昌大といったスターを生み出しています。最近は朝ドラを女性プロデューサーが担当することも増え、毎回どのイケメンを抜擢するかはヒロインと同じくらいに重要な戦略になっています。

東日本大震災が起こりすべての放送が報道特別編成になって1週間、はじめて再開した定時番組は朝ドラ『てっぱん』でした。“時計代わりの朝ドラ”が戻ってきて、人々は安心感と、あるべきものがある日常のありがたさを痛感しました。以来、いま人々が時代に求めているトレンドは安心感と明るさだと思います。ですからロングセラー商品は強いです。いままではマンネリを指摘された朝ドラが逆にヒットしているのは、この時代の気分も大きく影響しています。そして、『花子とアン』は遂に過去10年間で最大のヒット作になりました。女の友情・『赤毛のアン』・恋愛といった主題を脚本家・中園ミホさんが見事に紡ぎあげ、多くの女性の支持を得ました。蓮子と伝助の白蓮事件にあらためて関心が集まったことも、ヒットの要因でしょう。しかしトレンドは変わります。いま視聴者が求めている時代感に敏感であり続けることが、朝ドラがこれからもロングセラーの国民的番組たりえる条件です。


若泉久朗(わかいずみ・ひさあき) NHK制作局制作主幹。1961年生まれ。連続テレビ小説『ひらり』、単発ドラマ『青い花火』(放送文化基金本賞・芸術祭放送個人賞受賞)などを演出。ほかに大河ドラマ『風林火山』、連続テレビ小説『ほんまもん』『てるてる家族』、単発ドラマ『クライマーズ・ハイ』(放送文化基金本賞・ギャラクシー優秀賞受賞)などをプロデュース。ドラマ部長を経て、2014年より現職。


キャプチャ キャプチャ


スポンサーサイト
Categories
Profile

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR