【裏切り・化血研不正】(03) 国検査“性善説”の甘さ…人手足りず、事前通告

20151213 03
思わず「えっ」と声が出た。今年9月、埼玉医科大学の岡田義昭准教授(59)は、一般財団法人『化学及血清療法研究所』が虚偽の製造記録を作成していたことを、厚生労働省の専門部会委員として聞かされた。驚きつつも、疑問が解けた気がした。今年5月に、「内部告発で化血研の不正製造が発覚した」と聞いた時は、「どうして検査で気付けなかったのか?」と不思議だった。『国立感染症研究所』に勤めた1990~2000年代、製薬会社に対する国の定期的な検査にアドバイザーとして同行。毎回3日間に亘り、承認書・製造記録・試験記録等の「膨大な量の書類に目を通した」という。熊本市にある化血研の本所は検査に協力的で、食堂も綺麗に整備され、良い印象しかなかった。ところが、第三者委員会の調査報告に依れば、化血研は1995年頃から抗凝固剤『ヘパリン』の投入工程等を隠した製造記録を検査用に作成するようになり、予行演習まで実施していた。「書類自体が虚偽なら見抜き様が無い」。岡田准教授はそう言い、「古く見せる為に、紫外線を当てる知恵まで回していたとは。信じ難い」と唇を噛む。

薬害の根絶が求められる中、国は2004年、独立行政法人の『医薬品医療機器総合機構(PMDA)』を設立。プロの“査察官”が検査する態勢を整えた。だが、医薬品の査察官は現在も25人前後で、生物製剤や再生医療の薬等を扱う国内外の約3500施設を順次検査しなければならない。「査察官は、製造記録の記載が正しいのかまでは見なかった。本気で調べるなら、もっと長い日数がかかった筈だ」。PMDAの検査にも対応したことがある化血研の元理事は言い切る。検査の効率を高める為、検査日程を企業に事前通告しているのも、化血研には好都合だった。厚労省は今年9月、化血研に検査に入ったが、その直前、所内ではインフルエンザワクチンの工程で承認書との小さな食い違いが判明していた。しかし、化血研は検査前日に通告があったことから、幹部らが話し合って「積極的な開示は不要」と決定。厚労省は、後日入手した化血研の内部資料で漸く食い違いを知った。この時には、既に内部告発で血液製剤の不正製造が明らかになり、同省に依る追及が始まっていたにも拘らず、化血研は検査の甘さに付け込んでいたことになる。




「行政は、これまで“性善説”で臨んできたが、“無責任”と同じ。今後は、不正を想定した検査が必要だ」。『田辺三菱製薬』(大阪市)の子会社で2011年に発覚した品質試験不正問題を調査した立命館大学の池田耕一客員教授(企業倫理)は、そう指摘する。厚労省の塩崎恭久大臣は今月8日、化血研の不正を見抜けなかったことを「大いに反省しなければならない」と述べ、抜き打ち検査の導入等を明言した。既に先月下旬、省内に検査態勢の強化を検討する為の研究班が設置され、来年3月末までに欧米の先進事例を研究して、見直しの方向性を探ることになっている。だが、抜き打ち検査を徹底するには、査察官の大幅な増員等の態勢強化が必要となる。「抜き打ち検査にすれば、製薬企業より国のほうが大変だ」。今月9日、取材に応じた化血研の元理事は、そう突き放した。

■アメリカでは“抜き打ち”が基本
日本の当局に依る医薬品の検査は、アメリカ等と比べて甘いと指摘されてきた。日本のPMDAに依る検査は3~5日間。検査の日時だけでなく内容も事前に通告し、「企業側が提示する記録は正しいものだ」という前提に立っている。これに対し、『アメリカ食品医薬品局(FDA)』は抜き打ち検査が基本だ。検査の場で開示を求めた記録が出てくるまでに15分以上かかると“隠蔽”を疑い、様々な記録やデータと突き合わせて矛盾点を指摘する。検査が数週間に亘ることもあるという。


≡読売新聞 2015年12月10日付掲載≡


スポンサーサイト

テーマ : 医療ニュース
ジャンル : ニュース

Categories
Profile

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR