知らぬと損するフィンテック、もう銀行には頼らない――起業の壁を難なくクリア、融資申請なくても常時審査

農業革命・産業革命・IT(情報技術)革命に次ぐ第4の波。それが『フィンテック』だ。ビッグデータ解析技術・センサー技術・スマートフォン等の技術革新が、ブラックボックス化していた金融サービスを根本から変える。財務管理や決済手段にお金をかけずに済むようになる。欧米勢は果敢に新サービスを展開し、日本でも中小企業がそれを手に飛躍し始めた。フィンテック分野への投資額は、2020年に現在の約4倍、5兆円を超えるとの試算もある。この新潮流に乗らなければ、取り返しのつかない痛手を受けかねない。 (染原睦美・杉原淳一・飯山辰之介)

20151215 01

20151215 02
吉祥寺の駅前から徒歩7分。週末の買い物客で賑わう商店街を抜け、閑静な住宅街を暫く歩くと、突如として長蛇の列が現れる。列の先にあるのは、時計店『Knot』(左写真)だ。店先の看板には取扱商品のブランドが掲げられているが、『ロレックス』や『オメガ』といった定番のロゴは見当たらない。この店が扱うのは『Knot』という自社ブランドだけ。その商品目当てに、時には数百人が並ぶ。今や、吉祥寺のちょっとした名物だ。Knotの時計の中心価格帯は1万円台で、堅調な高額消費の波に乗る高級ブランド時計とはカテゴリーが異なる。日本の工場や職人を直接口説き、中間業者を排除することで、高品質の国産でありながら手頃な価格で手に入る時計に仕立てた。更に、時計本体と組み合わせるベルトを別売り(3000~6000円程度)にし、その日の気分や服装に合わせて簡単に使い分けられるようにした。これが受け、品質に煩い中高年層だけでなく、携帯電話の普及で腕時計離れが進む若者をも顧客に取り込んでいる。Knotの設立は去年3月。創業者の遠藤弘満社長は元々、『スカーゲン』や『ルミノックス』といった輸入時計を専門に扱う会社を経営していた。商売は順調に広がっていたが、主力商品だったスカーゲンが2012年にブランドを他社に売却。買収した企業の経営方針の変更で、遠藤社長は主力商品だったスカーゲンが売れなくなった。残務処理に追われる毎日を過ごす中で、心に芽生えたのが「自分のブランドを作るしかない」という思いだ。他社の意向で左右されるビジネスに見切りを付け、独自の国産ブランドを立ち上げる。事業構想は纏まった。新会社を設立して、時計の試作品を作るまでにかかった数百万円は手元資金で賄った。しかし、本格的な販売に向けて商品を量産するとなると、資金が足りない。そんな時に遠藤社長が耳にしたのが、「アメリカでは、クラウドファンディングを通じて億円単位の資金調達に成功した企業も出ている」という話だ。

クラウドファンディング──。この耳慣れない調達手法は、会社の商品や事業内容に魅力を感じた個人から小口の出資金を集め、それを元手に事業を興すというものだ。クラウドファンディングは、その形態に依って大きく3種類がある。1つ目は、投資家が出したお金の内、一定の割合が当該企業への無償の資金提供になる“寄付型”。2つ目は、投じた金額が利息付きで返ってくる“投資型”。3つ目は、投資家になると割安に商品を購入できたり、優先的にサービスを受けられたりする“購入型”だ。「購入型なら資金調達は素より、商品に対する消費者の反応を探ることもできる」。こうした理由から、遠藤社長はクラウドファンディングを手掛けるウェブサイト『Makuake(マクアケ)』の門を叩いた。会社設立から間もない去年4月のことだ。渋谷にあるMakuakeの運営会社である『サイバーエージェントクラウドファンディング』のオフィスで、担当者に事業内容を説明。担当者は実現可能性を判断し、ゴーサインを出した。次の段階は目標調達額の設定と、「目標に届かなければ、案件自体が成立しないようにする」か「目標に届かなくとも、集まった資金を受け取るか」の選択。遠藤社長は目標額を100万円とし、目標未達でも案件を成立させるほうを選んだ。クラウドファンディングは、金融とITを組み合わせたフィンテックと呼ばれる新しい金融サービスの一種だ。ウェブサイトやSNS(交流サイト)を通じて、消費者でもある個人に広くビジネスモデルを説明し、そこから資金を募る。ITの発達で、スマートフォン(スマホ)やパソコンを介して直接個人と個人が情報をやり取りできる今だからこそ、成立する金融サービスだ。Makuakeは、ウェブサイト上にKnotの詳細な事業計画や商品内容を動画付きで掲載する。サイト上にはフェイスブックやツイッターの共有ボタンも設け、賛同する個人から資金を募り易いようにしている。遠藤社長の場合は、先ず知人が数万~数十万円程度の資金を拠出。更に、SNSを通じて発信された取り組みに賛同した個人が1人、また1人と出資に名乗りを上げた。「あれ? 桁を間違えたかな?」――Makuakeの門を叩いて3ヵ月後の7月22日。遠藤社長の事業構想には284人が賛同し、目標を遥かに上回る500万円が集まった。この内、2割を手数料としてMakuakeに支払い、400万円が手元に。量産の目途は立った。




起業を考える際に最大の課題となるのが、初期の資金調達だ。特に、製造業はその負担が大きい。例えばKnotの場合、「小さなボタン1つ作るだけで数十万円の金型代がかかる」(遠藤社長)。それらを手元資金で賄えなければ、お金は外から借りるしかない。多くの起業家は、ここで金融機関の壁にぶつかる。銀行を訪れて融資を申し込めば、先ず聞かれるのは決算書や不動産担保の有無だ。創業前後の企業は1期目の決算すら迎えておらず、目ぼしい担保がある訳もない。「実績が無いので融資はできません」。そう言われて涙を呑んだ起業家は少なくあるまい。資金調達には、「VC(ベンチャーキャピタル)から出資を仰ぐ」という手段もある。しかし、投下資本に見合うリターンの確保を目的とするVCが大株主となることで、経営の方向性を巡って意見が対立するケースも少なくない。対するクラウドファンディングは、銀行に頼る必要がない。出資者も、経営の方向性に口を出したりはしない。事業化の夢と実現の為の詳細な設計図を大衆に示せば、お金が集められる。Knotはその後、吉祥寺に店を構える為の開業資金として、300万円を目標として資金調達を実施。集まった資金は1000万円を超えた。これまでに集めた合計資金は1500万円に上る。「創業から経営を軌道に乗せるまでの間に必要な資金が、日本では集まり難い。それが、面白い製造業の誕生を妨げている」。サイバーエージェントクラウドファンディングの中山亮太郎社長は、そう語る。しかし、Knotは起業家に立ちはだかるこの壁も難なくクリアし、8月には心斎橋に2店舗目も出店した。Knotの成功を見た全国の時計ディーラーからも、注文が殺到している。「需要が集中するクリスマスに商品の製造が間に合うのかどうか?」が目下の悩みだ。今、Knotには複数のメガバンクが頻繁に足を運び、取引も始まっている。クラウドファンディングでの調達実績がものを言い、各行とも「将来性がある」と判断したのだ。「Makuakeの実績が金融機関からの融資に繋がり、良い流れができている」(遠藤社長)。若しクラウドファンディングがなければ、Knotというお店そのものがなかったかもしれない。勿論、クラウドファンディングは起業の万能薬ではない。Makuakeで事前審査に通る起業家の割合は6割程度。投資家も、資金を投じた事業が失敗すれば損を被る。海外では、無謀な案件とわかっていながら、資金だけ集めようとする詐欺紛いのケースもある。しかし、銀行やVCに頼らなくても起業ができる仕組みは、技術力はあるのに資金繰りの問題で事業化できずにいる製造業には福音になっている。そんな成功事例はKnotに限らない。今日も、起業家がMakuakeの門を叩き、毎月計5000万円程度の資金調達が同サイトを通じて成立している。

20151215 03

20151215 04
事業を拡大する為の資金の出し手が銀行やVC等に限られる時代は終わった。フィンテックは、長らく続いた金融界のルールを壊し始めている。クラウドファンディングの資金提供者が個人だとすれば、これから紹介するトランザクションレンディングはEC(電子商取引)事業者だ。『アマゾンジャパン』『ヤフー』『楽天』等のEC事業者が、自社のショッピングサイトに出店している企業に融資をするサービスを始めている。特徴は審査方法だ。前の日や前月のお店の売り上げ・顧客からの評価等、店舗がサイト上に残した“足跡”とも言える実績から店舗の信用力を測り、融資限度額や利率を弾く。奈良県でゴルフショップを営む『ゼロステーション』は、ヤフーがグループ会社の『ジャパンネット銀行』を通じて提供するJNBストアローンを利用した企業の1つだ。「細々とやっていたショップを拡大しようとしたが、銀行に融資を断られた」(ゼロステーションの高剛史氏)。ジャパンネット銀行から今年7月に借り入れたお金は70万円。ウェブ上の申し込みフォームに数項目の企業情報を入れただけで、2日後には「70万円を融資する」という通知があり、3日後には口座へ入金があった。驚くのは、ゼロステーションが去年まで赤字決算で、今年2月時点の売り上げが10万円だったことだ。融資を受けたおかげで、売り上げは堅調に推移。10月には300万円のローンを申請し、満額回答以上が返ってきた。11月には、売り上げが400万円にまで拡大した。「既存の銀行から融資を受けるには、決算書等の必要書類が膨大」(楽天金融業務室の前川龍一氏)。これに対して、EC事業者の融資では提出する情報は極めて少ない。一方、審査で利用するデータ項目は既存の審査項目より遥かに多い。

「戦後70年、銀行のローンは“ヒト・モノ・カネ”――つまり、『経営者と製品と財務データを分析しろ』と言われてきた。その時代は終焉を迎えつつある。我々は、現状で殆ど財務分析はやっていない」。ジャパンネット銀行の小村充広社長は、そう言い切る。長年、メガバンクに籍を置いてきた同社長は、「これは金融界の大変革だ」と言う。新潮流を捉えて、事業展開を加速する店舗経営者は増加傾向にある。JNBストアローンは9月に比べ、足元では融資額・融資件数共に40%伸びているという。更に先を行くのが、アマゾンジャパンのAmazonレンディングだ。申請を待たずに、常時全ての店舗を擬似的に事前審査している。貸せる店舗があれば、管理画面に融資額と利率を表示。売り上げ等が落ち、融資ができないとなれば管理画面の表示が消え、申し込みが難しくなる。去年の2月のサービス開始後、融資額は堅調に伸び、既に10回以上融資を受けた店舗も出てきた。尤も、利用するデータの信用性は「これからの側面もある」(ジャパンネット銀行の小村社長)。企業審査におけるデータの有効性が未だ不確かなこともあり、貸し倒れを防ぐ為に高利率にならざるを得ないという。統計的なデータの信用性を得るのに未だ時間を要するとは言え、企業を測る物差しは劇的に変わり始めている。

20151215 05

「簿記や会計は人工知能で対応できる」──クラウド型の会計ソフトを手掛ける『freee』(東京都品川区)の佐々木大輔社長は、そう予想する。簿記や会計が人工知能で行われるというのは、どういう未来なのか? 大企業のCFO(最高財務責任者)の職務を人工知能に学ばせ、それを中小企業や個人事業主に提供できれば、小さな会社でもCFOのノウハウが手に入れられる。その結果、資金繰りから仕入れまで、財務に伴う業務を自動化できる。自動化が齎すのは、圧倒的な時間とコストの節約、膨大なデータから導かれる精緻な戦略だ。融資を得る為の事業計画書作成・設備投資や仕入れのタイミングを予測した借り入れの判断と実行・支払い作業…。これらの一切を“人工知能CFO”が請け負う。既に、freeeでは人工知能CFOの前哨戦とも言える“闘い”で着々と実績を上げている。インターネット経由で会計処理を自動化できるクラウド会計ソフト『freee』の利用者は既に40万を超え、年初からその数は倍増した。利用者の中心は、従業員数10人以下の中小企業や個人事業主だ。東京都内で企業向けマーケティング事業を展開する『2BC』は、その内の一社。代表取締役の尾花淳氏は、「freeeが無ければ、毎月10万円以上かけて税理士に会計処理を丸投げしていた」と話す。2年前に起業した尾花氏は、当初から会計作業を全てfreeeに任せてきた。社員数が10人に増えた今も、「経理の専任者を置く必要は感じていない」と言う。freeeの最大の特徴は、簿記や会計の専門知識が無くても、経費の処理から決算書類の作成まで粗自動でできること。例えば、銀行口座やクレジットカードのデータを取り込み、勘定科目等をプログラムが自動推測して仕分ける。利用料は個人事業主なら月980円、法人は1980円。経理の担当者を雇う余裕の無い中小企業や個人事業主は、「経理にかかるコストを50分の1に減らすことができる」(佐々木社長)ようになり、経営資源の再配分が可能だ。中小企業は、こうした武器を備え、より事業に集中していかなければ、厳しさを増す企業間競争を勝ち抜けなくなるのかもしれない。

中小企業のみならず、個人向けCFOとも言えるサービスも登場している。家計や資産管理をスマホ1つで簡単にできるアプリだ。『マネーフォワード』や『Zaim』といったアプリは、単なる家計簿アプリに止まらない。個人が管理する銀行やカードの情報を全て取り込み、一元管理できるだけでなく、支出データを見ながら貯蓄の方法のアドバイスをしたり、個々に合わせた保険サービス等を提示したりする。何十万というユーザーの利用データをクラウドで管理して個々の傾向を分析する、所謂“ビッグデータ活用型”のサービスだ。Zaimは既に450万ユーザーを超え、マネーフォワードも300万ユーザーを抱えるサービスとなっている。海外では、アドバイスに止まらず、自動で小銭を貯金するようなサービスも登場している。アプリ1つでこれらが可能になれば、銀行の資産運用相談コーナーや銀行が各社で取り組む専用サイトに誰も訪れなくなる日が来るだろう。

20151215 06

20151215 07
『つくばエクスプレス』の終着駅で降り、車で長閑な田園地帯を15分ほど走った茨城県土浦市に、有機野菜の栽培とインターネット販売を手掛ける『久松農園』がある。従業員はパートを含めて8人。5haの敷地に約50種類の野菜を有機農法で育て、農協を介さずにインターネットを使って直接消費者に販売している。久松農園のオンライン販売を変えたのが、『メタップス』が提供する決済サービス『SPIKE』だ。SPIKEは、カード決済機能が付いたリンクを自社のサイトに設置するだけで、オンライン決済機能を導入できるサービス。月100万円まで手数料は無料で、初期費用も不要。久松農園は100万円以上の取引がある為、上位の有料プランを利用するが、それでも手数料率は3%未満と業界最安の水準だ。久松農園は、それまで売上高の4~5%の手数料を支払って、大手クレジットカード会社が提供するオンライン決済を導入していた。SPIKEを利用することで、「手間なく、大幅にコストを削減できた」(久松達央代表・左写真)という。久松代表はシステムの専門家ではない。「SNSの普及で、農家は直接消費者にアプローチできるようになった。そこに、SPIKEのような個人や零細事業者でも使い易いオンライン決済サービスも登場したことで、我々のような小さな事業者でも成長できる環境が完全に整った」。現在、SPIKEの利用社数は約10万。これまでは「高コストで難易度が高い」とされてきた決済サービスの領域で、手数料を引き下げて導入間口を広げ、売り上げを伸ばしている。

簡単になったのは、オンラインでの決済に止まらない。スマホに小さな決済端末をつけるだけで、クレジットカードが使えるようになるサービスもその利用者数を伸ばしている。下北沢でオーダーメードの自転車を扱う『ライダーズカフェ』はこの冬、導入していたPOS(販売時点情報管理)端末を撤廃する予定だ。スマホでカード決済できる『コイニー』を使うだけで十分と考えた為だ。顧客平均単価が7万~8万円の同社では、売り上げの5割以上がクレジットカードで決済されている。カードが利用できないのは論外だが、月額費用もかからず、スマホだけあれば明日からでも直ぐに決済が開始できるメリットは非常に大きいという。下北沢店を開業するに当たって導入したPOS端末には、初期費用として18万円、月額利用料3万円がかかった。「コストや利便性を考えれば、もう既存のPOS端末に戻る選択肢はあり得ない」と、ライダーズカフェの飯塚航生氏は語る。10月にオープンした吉祥寺店では、オープン当初からPOSレジは導入しなかった。開業資金は殆ど不要で、誰もが今日からでも商店主になれる日は既にきている。


キャプチャ  2015年12月14日号掲載


スポンサーサイト

テーマ : ITニュース
ジャンル : ニュース

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR