【人口減時代・何が解決策なのか】(05) 大混乱の“子育て政策”は少子化に有効なのか?

20151219 08
幼児の教育制度史上、最大の変更を伴う制度改革である『子ども・子育て支援新制度』が、今年4月にスタートした。平成24(2012)年の8月に、日本の子供と子育てを巡る様々な課題を解決する為にできた『子ども・子育て関連3法』に基づき、子供と親を支援する制度である。しかし、制度設計が完全に行われないまま施行を急いだ為、新制度の当事者である幼児の保護者・幼稚園や保育所や認定こども園の事業主、そして市町村の当該担当者は、その制度の運用について十分な情報を与えられぬままに、海に投げ出されている。現場は膨大な事務量の為、混乱の極みにある。そのことがメディアで報道されるのは少ないということを、認定こども園を経営する私は不思議に思っている。子育てを巡る課題の中で従来から最大のものは、保育所の待機児童問題である。しかし、待機児問題を解消する為に、保育所を作れば作るほど逆に待機児童が増加するというイタチごっこ状態は、日本固有の現象ではない。潜在的なニーズを掘り起こしてしまう為、ヨーロッパでは「一旦保育所を作ると、ゴキブリのように増える」とまで言う。日本では、高齢者介護の分野の半分に民間が進出しているし、障害者福祉施設の設置者は既に殆どが株式会社である。保育の分野にだけ株式会社が中々進出しないのは、保育所の新設に自治体が及び腰であるのと同じ理由である。隅々にまで規制がある上に、土地生産性が極めて低い為、多額の税金の投入無しに運営することができない。認可外を除けば、保育所は私立であっても市町村に完全に従属している。

一方、保育所とは対照的に、市町村とは独立し、当初から自由主義的経営を行ってきたのが私立幼稚園である。保育所に待機児童がいるのに対し、私立幼稚園は自由競争が行われた結果、弱小園は廃園若しくは定員割れを来している。その空き教室を利用しない手はない。「幼稚園という社会資源を活用すれば、保育所の待機児問題は解消する」というようなことは、ヨーロッパで既に創案され、日本にも“こども園”という第3の施設が存在する。新制度には待機児解消の為、保育所機能を持った施設である幼保連携型認定こども園に幼稚園を移行させるという大きな目標が掲げられた。保育所は厚生労働省管轄の“児童福祉施設”であるが、幼稚園は学校教育法第1条に規定される文部科学省管轄の“学校”であり、福祉施設ではない。しかし、新たな幼保連携型認定こども園は、“学校”であり“児童福祉施設”でもあるという奇妙な存在である。目下、多くの私立幼稚園は苦渋の選択を強いられている。「今まで通り、“学校”の法的地位を守って幼稚園として残るか、幼保連携型認定こども園に変わるか。はたまた、一番需要の多い0~2歳児の保育所を新たに作ることはしないが、3~5歳児の長時間保育は行う幼稚園型認定こども園になるか」――しかし、幼稚園のまま残っても、「今までのように、都道府県から私学助成金を受けるか。それとも、市町村の計画で把握された“教育ニーズ”に対応し、保育所のように施設型給付(旧運営費)を受けるか」という選択もしなければならない。『子ども・子育て関連3法』は、「消費税増税分を施設型給付の財源にする」と決めた。つまり、認定こども園か市町村所管の幼稚園になれば、消費税財源に依って園の永続性は保証される。その代わり、『全日本私立幼稚園連合会』が恐れているように、幼稚園を営利主義団体として敵視し、保育所を傘下に収める市町村の保育所担当部署が所管するようになれば、施設全体に対する指導監督が保育所に対してと同様に行われる可能性がある。入園する園児を選抜することができず、保育料は国と市町村に依る統制価格となる。幼稚園は、園児獲得の自由と経営の自由を奪われる。




一方で保育所側は、幼稚園が幼保連携型認定こども園として進出してくれば、保護者の教育ニーズを満たす幼稚園母体のこども園に園児が奪われることは必至であり、保育所のままでいることに不安を募らせている。幼保連携型認定こども園になるとしても、都市圏で幼稚園の設置基準を満たす園庭用の土地を購入することは困難である。ドイツのこども園では異年齢保育を謳っている。実際には、年長児が乳幼児と殆ど一緒に屋外で自由遊びをしていることを、母親たちが子供の靴の中の砂の多さから発見し、幼稚園教育をきちんとするように園に要求し、州に「子供には幼稚園に入園する権利がある」という法律を制定させた。日本でも、新制度が実質的に“幼稚園の保育所化”であることに対し、水面下で幼稚園派と保育所派の死闘が行われている。幼稚園派は、起死回生の策として幼児教育無償化(義務教育化)を打ち出しているが、若しそうなれば保育所は教育機関ではない為、年長児の保育料は無償にはならない。そこで、“保育園義務教育化”が主張され始めているのである。国が新制度の導入を急いだのには理由がある。女性が“結婚と出産”のために“就業”を断念すれば、現在の労働力人口が減少する。“就業”の為に“結婚と出産”を断念すれば、30年後の労働力人口が減少し、年金制度が破綻する上に、移民に頼らねばならない。新制度は、女性の国家総動員法である。「働きなさい。しかし、産みなさい。子供は社会で育てます」――現実に子沢山なのは、幼稚園しか利用できない専業主婦のほうである。保育拡充という制度が、逆に少子化の原因とならなければいいのだが。


小倉千加子(おぐら・ちかこ) 心理学者・フェミニスト。1952年、大阪府生まれ。早稲田大学教育学部卒。同大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了。専門は女性学・ジェンダー論。『セックス神話解体新書』(ちくま文庫)・『結婚の条件』(朝日新聞社)・『セクシュアリティの心理学』(有斐閣選書)等著書多数。


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テーマ : 少子化対策
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