【人口減時代・何が解決策なのか】(06) 少子化対策の第一歩は産婦人科医不足の解消だ

20151219 09
去年の出生数は、一昨年より約2万6000人減り、過去最少の100万3532人となった。1974年に比べ、40年間で半減という落ち込みぶりは、他の先進国に比べても類を見ない、まさにネガティブスパイラルの状況にある。長年の少子化に依り、性成熟期にある年代の女性の人口そのものが減少し、更に合計特殊出生率の低下が重なれば、子供の数は大きく減ることになる。一方、我が国の高齢化率は欧米諸国の2倍以上のスピードで上昇しており、少子化がこのまま進めば、労働人口の減少は極めて深刻な問題となる。このような超少子・高齢化が進む中、産婦人科医の減少は止まらない。その理由として、過酷な労働条件に依る勤務医の疲弊に加えて、病院における低水準の待遇、初期研修制度において産婦人科が必須でなくなったこと等が挙げられる。これは、非常に由々しき事態である。高齢化問題は社会的にも重要視され、多額の税金が投入されているが、少子化対策とその背景にある女性の健康問題は、これまで軽視されてきた。出生率を回復させる為には、高齢者への給付に偏っている社会保障財源の配分を見直し、女性の健康と子供の為の支援を充実させることを考えなければならない。産婦人科医は、女性の健康を全人的に支援し、その幸福を追求するプロフェッションであり、女性と子供への投資が将来の社会保障制度の支えを増やすことに繋がることを、国民に丁寧に説明する役割を担っている。女性が心健やかに子供を産み、安心して子育てや教育ができる成熟した社会の実現無くして、加速化する少子化の流れを断ち切ることはできない。

我が国の女性は、結婚しないと子供を産まない状況にある。経済的支援が得られず、女性が1人で子供を産んで育てられないような状況では、婚外子の養育は困難なことが多い。年間20万件に及ぶ人工妊娠中絶の中には、出産しても養育できない為に、止むを得ず中絶するケースがかなりの割合で含まれている。2009年には、出産育児一時金が38万円より42万円に増額され、妊婦健診は14回まで公的助成されるようになった。こうした妊娠・分焼時の経済的負担の軽減に依り、2005年に1.26と最低であった合計特殊出生率は微増し、2013年には1.43まで回復した。この事実は、妊娠・分娩時の経済的問題を含めた不安要因の解消に依り、出生率の低下をある程度阻止できることの証左たり得る。これまで、政府が取り組みを進めてきた待機児童解消加速化プランの推進等の子育て支援の充実に加え、地方から大都市への若者の流出に依る東京一極集中に歯止めをかけることが大切となる。若者の雇用対策・定住促進の為の関連政策との連携等、都市と地方の其々の特性に応じた少子化対策に、国・地方自治体・都道府県・基礎自治体が其々連携し、一体となって取り組む必要がある。その為には先ず、若者にとっての妊娠・分娩環境を整える為の地方独自の取り組みが必要となる。安心・安全な周産期医療の確立無くして、若者の定住を望むことはできない。結婚を希望し、「子供を持ちたい」と思う人が減少していないのに、未婚率は年々上昇している。若い男女の結婚や出産に対する希望を叶える第一歩は、女性にとって医学的に見て理想的な妊娠年齢が、25歳から35歳であることを知ることより始まる。結婚や妊娠を、望まない妊娠・避妊というネガティブな切り口で捉えるのではなく、如何にしたら妊娠できるか、妊娠することの素晴らしさといったポジティブな考え方で、思春期から教育することが大切となる。これまでの文部科学省に依る学校教育は、生殖に関する知識の啓発という観点からは十分とは言えず、若い男女が妊娠現象を考える上で有用な情報が得られる手段とは、必ずしも考え難い。生殖年齢にある女性が、この時期に分娩できるような社会や職場の環境作りが何よりも大切である。その為には、高齢妊娠の困難性や危険性を思春期より教育することが重要となり、その先導者たらん産婦人科医の役割は枢要なものとなる。




次世代の産出と少子化問題との関連で強調すべきことは、男女の生物学的な差異の論議を封じてはならないことである。これは、飽く迄も男女の体の仕組みの差異を示しており、差別を意味するものではない。生命の維持や生殖に関する生物学的な仕組みは、種を超えて共通であることは冷厳な事実であり、再認識することが大切となる。ヒトにおいては動物と異なり、予防医学の進歩に依り平均寿命の延長が見られるが、生殖年齢の延長を期することはできない。男女の差異を十分に理解した上で、個々の自律的な選択が尊重されるべきであることには贅言を要しない。男女の差異と差別を混同した形で、男女平等の概念が論じられてはならない。こうした教育に携わるのが、産婦人科医の責務なのである。産婦人科医の減少は、止まるところを知らない。この4年間で、年度別の新規の産婦人科医数は年間30名以上減少している。若い年齢ほど女性医師の割合が高く、妊娠・出産・子育てを理由に周産期医療の現場を早く離れる傾向にあることから、女性医師が勤務を継続できる体制整備を急がなければならない。しかも、現在の産婦人科医も若い人材と同様、東京を始めとする大都会に集中しており、地方の周産期医療はまさに崩壊の危機に瀕している。この産婦人科医の不足と偏在を是正しない限り、地域の周産期医療を守ることはできない。地域の周産期医療の崩壊は、若者の地方離れを更に増長させる。畢竟するに、少子化対策の第一歩は周産期医療の再構築にある。 =おわり


吉村泰典(よしむら・やすのり) 内閣官房参与・慶應義塾大学名誉教授。1949年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学医学部卒。藤田学園保健衛生大学医学部専任講師、杏林大学医学部産婦人科学助教授を経て、1995年に慶應義塾大学医学部教授。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任。


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テーマ : 少子化対策
ジャンル : 政治・経済

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