【塩野七生が語る世界と日本】(中) 「安倍首相、やりたいだけやらせては」

『ギリシア人の物語Ⅰ 民主政のはじまり』(新潮社)を書き上げた作家・塩野七生さんへのインタビュー2回目は、日本の安全保障等について聞いた。 (聞き手/特別編集委員 伊奈久喜・編集委員 坂本英二)

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――塩野作品には、安全保障に関わる記述が屡々登場します。安全保障とは結局何でしょうか? 日本で今年成立した安保法制を、どうご覧になっていますか?
「デロス同盟(ペルシャ戦役後のギリシャ都市国家同盟)というのは、『多国間で一緒になって安全保障をしましょう』という目的でできたものです。一方、ペルシャ帝国にはそんな同盟は一切ない。その後のアレキサンダーもローマ帝国も、そんなことは考えなかった。つまり、『一緒になって力を合わせて安全保障をしましょう』という同盟の考え方は、超大国からは生まれないのですね。日本も中小の国々の1つだから、同盟に依る安全保障は当たり前な話であって、ヨーロッパでは安倍晋三首相の安保法制は全然問題になっていない。問題にならないどころか、『当然』という感じで受け止められています。中国だって、殆ど何も言っていないんじゃないですか」
「中国は、『一緒になって安全保障しよう』なんて言わない。そういう中国に対抗するには、中小国が集まって、アメリカが後ろ盾になる安全保障を考えればいい。中国が脅威的存在にならなければ、これほどの必要性はなかった。嘗て、ソ連があった時と似た構図です。つまり、同盟は強大な敵があるからなのです。今の中国は未だ超大国ではないが、『超大国になりたい』と思っている国であることは確かです」

――政権に返り咲いて約3年の安倍首相の政権運営をどう見ていますか?
「前回(2013年秋)の日経インタビューで、『2度も首相としてチャンスを貰い、それで何もしなかったら政治家でないだけではなく、男でもない』と言いました。そうしたら、安倍さんは発奮されて『チクショー、絶対にやってやる』となったのではないですか。安倍さんに批判的な人は、『塩野さん、何故安倍首相を応援するのですか? 彼には健康上の理由があるし』と言う。でも、健康上の理由なんぞは奥さんとお母さんが心配すればいい話です。我々国民が心配することではない。寧ろ、安倍さんにはやりたいだけやらせたらいいと思っています」
「それから、ギリシャの政治家・ペリクレスにしても、その統治は30年も続いた。安定ということは、凄く大きいです。人間というのは決して馬鹿ではありません。安定・安全であれば、何とか適度に自分たちでやれる。しかし、安全だけは統治者が実現しなければならない。だから、ルネサンスの時代のフィレンツェでも、メディチ家が僭主になって安定を築き、そこにルネサンス文明というか、フィレンツェ文明が花開いた。ベネチア共和国というのは経団連が統治したような国だと思いますが、その経団連が中小企業の保護をしたのです。だから、社会が安定した。その為、商売は上手くいき、文化も上手くいった。安定は本当に大切です。だから、パクス・ロマーナは大切だったのです。安定というよりは、パクスと言いましょう。平和です」




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「私は、そんじょそこいらの平和主義者よりかはよほど平和主義者だと思っています。しかし、パクスを実現するには、やはり抑止力とかの諸々の力が必要です。だから、安倍さんの今の状態は良いと思う。但し、あの人は説明のやり方が下手だった。安保法制についても説明が十分でなかったのではなくて、はっきり言うと、話し方が下手だったということです。アンチ安倍の人から『安倍晋三という男を貴方は好きですか?』と聞かれたから、『先ず以て、私の好みの男じゃない』(笑)。だけど、そんなことは関係ないことです。私は、『日本が良くなってほしい』と心から思っています。『今やります』と言っているのが彼なんだから、『やってもらいましょうよ』と。ただそれだけ。若し彼が駄目だったら、次の人にやらせたらいい。だけど、以前のように首相が1年1年で交代するのはいけない。絶対にいけない。あの状態では、日本人は何もできなくなりますから」
「イギリスのサッチャー首相は10年続いた。ブレア首相だって10年続いた。つまり、10年は必要だと思う。10年続けば、恐らく日本人でも何かやりますよ。今のイタリアで、中道左派政権のレンツィ首相がやろうとしていることも凄いですよ。先ず、上院を事実上無くしました。上院議員は、選挙では選ばれないことになった。つまり、捻れ現象が起きない。重要案件を決定する権利は、イタリアの上院には無い。だけど、上院の建物は残しました。上院議員は誰がやるかというと、地方都市の市長等です。その人たちには、上院議員としての給料は与えない。彼らは既に市長の給料を貰っているのだから、それでいいだろうと。だから、レンツィ首相は事実上、議会を一院制にしてしまったのです。これで捻れ現象が解消し、2番目には政策決定の時間の短縮に繋がった」
「この間に日本人から聞かれたのですが、『レンツィ首相が来日した時に、安倍首相と意見が皆合致したが、何故か?』と。私は、『当たり前じゃないの』と言いました。中道左派政権と中道右派政権なんていうものは、もう無い。レンツィ首相がやろうとしているのは、(緊縮路線を取る)ドイツのメルケル首相の北ヨーロッパとは反対の道です。つまり、成長路線に変えたい。安倍さんのアベノミクスもそれでしょう。安全保障の面では、イタリアは海外派兵を1万人くらいやっている。海外派兵を決める時は、イタリアでも国会が承認する必要があります。その時には、必ず野党まで一緒になって協議している。そうしないと、ヨーロッパの一国としてやっていけないから。安倍さんは中道右派の筈だし、レンツィは中道左派ですが、そんなことは関係ないのです。但し、レンツィは40歳というところはあるかもしれない」
「今、日本で河野太郎氏が担当している行政改革担当大臣は、イタリアでは女の子が務めています。安倍さんは、『レンツィ首相は閣僚の半分が女で、よくやれますね』と言ってますが、彼女たちはそれが皆綺麗で、しかも若さがある。重要なところは、平然と『女よ』と言えるところ。何故やれるのかといったら、ベテラン男性を副大臣にしているからです。イタリアの男は、美人の若い女を前にすると何でも喜んでやっちゃいますから。という訳で今、レンツィ首相の話自体が面白いというところもありますが、イタリアで政治番組を見るのが面白くなっています。今や、彼が出ると必ず視聴率が上がるらしい」

――小泉純一郎首相もテレビに出ると視聴率が取れたらしいです。
「でも、小泉さんはいつも起承転結の起しか言わない人だった。安倍さんは長々と話していると、聞いているほうもわからなくなるけど、自分もわからなくなるところがある。それから、外交交渉では主導権は絶対にこちらが持たなくてはいけないが、この大事なことを安倍さんは忘れたりする。でも、ヨーロッパでは安倍さんは中々評判がいいですよ。それからもう1つ。これは指導者の条件ですが、安倍晋三という男は決して貧相ではない。これは、やはり大切な点です。言うことは何だかわからないところがあるけど、可愛いところがある。一生懸命やろうとしているのは確かです。『男でない』と言われて発奮したんだから。政治のリーダーは美男である必要はないのです。でも、明るい顔である必要はある。レンツィだって、トスカーナ風の可愛い顔をしていますよ」

――安倍政権は、女性活躍を看板政策としています。直ぐに成果を上げるのは難しく、日本では初の女性首相も未だ見えてきません。
「女の人は『男社会だ』って文句を言う。しかし、抗議するのにもエネルギーがいる。人間には大体、一定のエネルギーしか無いから、抗議するのにエネルギーを使ってしまうと創造するエネルギーが無くなってしまう。これが、日本の多くの有識の女たちの有り様です。だから、次期首相だって『女だから駄目だ』っていう訳では全然ないのだけれど、心躍らされるようなはっきりした何か、こっちの注意を引くような主張を言わないといけない。しかし、今の女性政治家にはそれを言う能力が感じられません。まあ、安倍さんにもあまりありませんけれど(笑)」

――日本の野党リーダーは優等生タイプが多い気がします。
「やっぱり、辛気臭いのは駄目です。だって世の中、全部辛気臭い話ばかりなのに、リーダーまでも辛気臭い顔をしていたらやる気が起きますか? 野党の政治家も、やはり自分が能力を発揮するチャンスを逃してはいけない。もう安倍さんには後は無いのだから、変なことを考えないでやってもらえばよい訳です。私は、そういうように見ています。でも、日本でこんなことを書いたら、やはりお金を稼ぐにはちょっと具合悪いし、有識者とも呼ばれないし、という訳で、『昔の西洋の話を書いているのが楽だ』という話です」


≡日本経済新聞 2015年12月21日付掲載≡


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テーマ : 安倍政権
ジャンル : 政治・経済

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