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「日本映画は負のスパイラルに陥っている」――映画監督・黒沢清インタビュー

今年10月1日に公開された映画『岸辺の旅』で、日本人として初めてカンヌ国際映画祭“ある視点”部門監督賞を受賞した黒沢清監督。過去にもカンヌ国際映画祭では、2001年公開の『回路』で国際批評家連盟賞、2008年公開の『トウキョウソナタ』で“ある視点”部門審査員賞を受賞する等、国際的な評価の高い黒沢監督に、最新作『岸辺の旅』について、そして日本映画界が抱える問題について聞いた。

20151226 18

――『岸辺の旅』は、監督が「初めて映画で事件ではなく人生を描けた」と語るように、過去の作品とは作風が異なるように思います。
「僕が得意とするホラーやサスペンスでは、どうしても物語の主眼は何らかの事件になります。登場人物たちは、その事件に翻弄される役回りでした。今作では初めて、物語から事件的なものを省き、夫婦の関係性だけを中心に描きました。映画で事件を描く場合、非日常の出来事に人々が翻弄され、対処していく様がドラマの主眼になります。一方、今作は主人公の夫婦の旅路そのものがドラマなんです。目的地に辿り着いたら、今度は次の目的地へ、そしてまた次の目的地へ…。行く先々で主人公たちは何かを体験し、その影響を受けながら次の目的地へ進み続ける。『人生も、こうしたものなのかもしれない』と感じながら、映画を撮っていました」

――原作は湯本香樹実さんの小説ですが、映画化を決意した理由や原作で惹かれた部分を教えて下さい。
「死者が急に戻ってくるという設定は珍しいものではないと思うのですが、通常、そうした物語では、生きていた頃にやっていたことの続きをするとか、嘗ての楽しい時間をノスタルジックに思い出すとか、必ず死者が生きていた頃にしていたことが主題となります。ところが、原作小説が画期的なのは、死者(3年前に失踪した夫)が“死んでからお世話になってきた人たち”の元へもう一度会いに行くという奇想天外な設定です。生きている妻は死者である夫と共に、どんどん未知の領域に突き進んでいく。生者と死者が2人揃って、次々と新しい目的地に向かっていくという物語が新鮮でしたし、『これは映画にすると面白い』と直感的に思いました」

――数多くのホラー作品を世に送り出していますが、死者や幽霊を題材にする理由は何ですか?
「映画は光と影でできているものですが、その影の部分に何があるのかはわかりません。暗がりや扉の向こう、場合に依ってはフレームの外等、見えない部分がどうなっているのかわからない分、ホラーに限らず映画というものは本質的に緊張を孕む表現だと常々思ってきました。見えないからこそ、逆に想像力を掻き立てられる。『映っていないところは、こうなっているんではないか?』とか、省略されているシーンとシーンの間で『こんなことがあったのかなあ』と想像させる。見えていない・映っていないところにこそ、表現の核となるものがある芸術なんです。そうなると、“死”のようなわかっているようでよくわからないもの――普段は意識しないけれど、直ぐそこにあるかもしれないものこそ、映画で表現するのに適しているのではないかと思ったんです。元々、ホラー映画は好きだったのですが、実際にホラー映画を作っている内に、益々死について深く考えるようになりましたね」




――今作は日仏合作映画ですが、合作となった経緯を教えて下さい。
「フランスの公的機関から助成を受けたからです。映画を作る時にいつも苦労するのが資金集めですが、今作も日本だけでは資金が集まらず、フランスの助成のおかげで完成させることができました。今作は俳優もスタッフも原作も日本の映画ですが、驚くべきことに、外国映画でも企画内容さえ良ければ、フランスからの助成を受けることができるのです。条件は殆ど無く、『何らかの形で、フランスでお金を使ってほしい』とだけ言われたので、効果音をつける過程とダビング作業だけフランスで行いました」

――次回作はフランスを舞台にした、出演者もスタッフもフランス人の映画だと伺いました。フランスで映画を撮ろうと思われたのは何故ですか?
「以前からずっと、『外国でオリジナルストーリーの映画を撮りたい』という思いがありました。自分の住み慣れた国・馴染みのスタッフたちから離れたら、どんな映画ができるのか。ただ、やはり難しい企画ですから、中々実現にまでは至らなかった。ところが、これも“岸辺の旅”と同じく、フランスから助成金が下りたことで撮影に漕ぎ着けました。キャストはフランス人ですし、台詞もフランス語ですから、体裁としてはフランス映画にしか見えないと思います。映画オリジナルの企画に寛容で、潤沢な出資システムがあるフランスは、映画製作にうってつけの国でした。こうした挑戦的な企画にもチャンスを与えてくれるところが、フランスが映画大国たる所以だと思いましたね」

――黒沢監督ほどの巨匠でも、映画を作ることが困難になっているというのは深刻な状況だと思うのですが、日本の映画界がこうした状況に陥っている原因は何でしょう?
「あまりに問題が多過ぎて語り切れないのですが、映画で“冒険”をしなくなったということが一番大きいかもしれません。才能のある監督・スタッフ・俳優は沢山いるんですよ。ただ、そういう人たちと所謂“商業映画の製作システム”が全くリンクしない。商業映画は、そうした個性や才能を必要としていないんです。そうした個性からこそ新たな映画が生まれてくるのですが。映画はカネがかかるものです。カネがかかるにも拘らず、確実に製作費を回収し、儲けを出せるかどうかはわかりません。それでも昔は、『失敗したっていい』という余裕が業界全体にあったのですが、今の日本映画界には余裕が無いですから、確実に製作費の回収が見込めるような映画しか作られなくなっています。人気原作を元にしたものや、テレビドラマを映画化したもの等、初めから決まった観客層を狙い撃ちする映画ですね。そうした映画は事前にどの程度の収入があるか、ある程度見込めるものの、作り手に新たな観客を開拓する姿勢は殆ど無い。新しい観客を開拓する為には、新しい才能を持った作り手を起用しなければいけません。勿論、これは『製作費を回収できないかもしれない』というリスクを伴います。1990年代くらいまでは、何本か確実にお金を回収していれば、次の1本で新しい映画を“発明”する為に冒険することが許されていました。『他で儲かっているんだから、1本くらい失敗してもいいじゃないか』という健全なサイクルがあった。ところが、今は全ての映画で確実に製作費を回収しなければいけない時代です。資本主義の論理から言えば当たり前のことですが、その結果、日本映画はジリ貧になっています。限られた人しか映画を作れないから、限られた種類の映画しかできない。限られた種類の映画しかないから、限られた人しか映画を観に来ない。普段、映画を観ない人の関心を惹くような新しい映画を作ることができない悪循環に陥っています。このままゆっくりと、『映画は世の中に必要の無いもの』とされていくのかもしれませんし、『映画は絶対に必要なものか?』と言われると正直よくわかりません。それでも僕は、『映画の無い世界と映画のある世界のどちらかを選べ』と言われたら、映画のある世界のほうが幾分良い世界なのではないかと思っているのですが」

――日本での社会における映画の位置付けと、外国での社会における映画の位置付けに違いはありますか?
「違います。特に、フランスでは羨ましいのを通り越して、気恥ずかしくなるくらい映画のステータスは高いです。フランスで映画を撮影していた時にフランスの新聞社の取材が入り、撮影現場の風景等を写真に撮っていったのですが、数日後に新聞を読んで驚きました。2面全部が僕の映画に関する記事で、撮影現場の写真がデカデカと載せてある。信じられないですよ。仮に、日本でスピルバーグが映画の撮影をしていたとしても、新聞の1面や2面に写真入りの記事が大きく載ることはないでしょう? それだけ、フランスでは映画というものの扱いが大きい。だから、僕の作品のような外国映画にもお金を出してくれるのだと思います。僕も全ての国を知っている訳ではありませんが、やはり大きな映画祭がある国は、その国の映画だけでなく、『映画という文化そのものを盛り立てていこう』という雰囲気がありますね」

――中でも、フランスは特別?
「そうですね。『映画発祥の国なんだ』という自負もあるでしょうし、『ハリウッド映画とは別種の映画を世界に残していくべきだ』という信念があるのでしょう。そうした文化的な自負があるからかもしれませんが、フランス人は年齢や性別に関係なく、老若男女が映画を楽しんでいます。子供と大人が街中で堂々と映画について議論している。カフェで、80代くらいのお爺さんと高校生くらいの女の子が、『あの場面は、こういう意味だろう』と僕の映画の話をしているんですよ。中々、気持ちのいい光景でしたね(笑)。作り手としては本当に嬉しいですし、羨ましいです。日本にも嘗てそういう時代はあったし、まだまだ映画にはその魅力が残っている筈だと思うのですが」

――どうして、日本では映画文化が衰退してしまったのでしょう?
「嘗ての日本映画界に、世界の映画史に残るような偉大な映画人が何人もいたことは間違いありません。何故、こんなに輩出できたのかが不思議なくらいです。外国の映画人と話していると、『戦前・戦後を通して、映画史に名を残すような監督が何人もいた国は、アメリカとフランスと日本くらいだろう』と言われるんですよ。1人・2人くらいという国なら他にもありますが、戦前も戦後も何人も名匠が輩出している国は珍しい。映画というものと、日本の文化なのか社会なのか、或いは国民性なのか、色んな要素が上手くリンクしていたんでしょうね。1960年代くらいまでの日本では、ハイクオリティーな映画が量産されていました。残念ながら、それ以降の衰退傾向の理由は僕にもわかりません」

――日本映画の再生の為に何が必要だと思いますか?
「映画を再生させる為とか、製作費の回収とか、そういう余計なことを映画の作り手が考える必要がないことが逆に必要なのだと思います。そんなこととは関係なく、『これは絶対に面白い。この作品を作れなければ、死んでも死に切れない』と思う映画を作っていく。そういう映画が何本も作られていけば、日本の映画文化は再生していくかもしれません。その為に作り手には、『作品の為に人生の全てを擲っても構わない』というくらいの強い意志と覚悟が求められると思っています」


キャプチャ  2015年10月号掲載
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テーマ : 映画監督
ジャンル : 映画

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