『ソニー』は最早エレクトロニクス企業ではない――奇妙な連結損益計算書から見える金融部門の強さ

「ソニーから東芝まで事件な企業の決算書を読む」という帯に釣られて買った本、公認会計士の前川修満著『会計士は見た!』(文藝春秋)は実に面白かった。『東芝』の粉飾会計について詳しく知りたいから買ったのだが、それよりも、前川氏が「ソニーは最早エレクトロニクス企業ではない」と結論したことに衝撃を受けた。では一体、『ソニー』は何の会社かと言えば、金融業だというのだ。本稿では前川氏の論説を引用しつつ、ソニーの企業としての実態を検証してみたい。

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会計士の前川氏は、昨年度のソニーの連結損益計算書を見て大きな違和感を抱いた。該当する財務データを以下に抜粋し、前川氏がどこに着目したかを示す。

売上高及び営業収入合計:8兆2158億円
営業利益:685億円(←黒字)
税引前利益:397億円(←黒字)
法人税等:887億円(←これは??)
当期純損失:-490億円(←赤字)
控除-非支配持分に帰属する当期純利益:769億円(←これは??)
当社株主に帰属する当期純損失(純利益):-1259億円(←赤字)

本業の儲けを示す“営業利益”は685億円と黒字で、“税引前利益”も397億円と黒字となっている。ところが、おかしなことに“法人税等”はその倍以上の887億円もあるのである。日本の法人税の実効税率は約36%なので、理論的には143億円(=397億円×36%)の筈なのに、一体どういうことなのか? 何れにしても、巨額の“法人税等”の為に、“当期純損失”は490億円の赤字に転落する(=397億円-887億円)。更に、“控除-非支配持分に帰属する当期純利益:769億円”という得体のわからない数字を“当期純損失”から引かなくてはならない為に、“当社株主に帰属する当期純損失(純利益)”は1259億円の巨額赤字(=-490億円-769億円)となってしまうのだ。長年、会計士として企業の決算書を見続けてきた前川氏も、こんな奇妙な連結決算書は見たことがないそうである。そして、この原因を次のように解明した。




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連結損益計算書には、

①ソニー本体
②ソニーが議決権100%を有する子会社
③ソニーが議決権の過半数を有する子会社

という3種類の会社が合算されて作成される。おかしなことが起きた原因は③にある。例えば、ソニー本体が60%の議決権を持つ子会社の場合、その子会社が稼いだ利益の60%だけが親会社のソニーに帰属する。そして残りの40%は、“控除-非支配持分に帰属する当期純利益”という項目で、連結損益計算書の“当期純損失”から除外するのである。その総額が769億円もあるということである。つまり、①ソニー本体と②100%子会社の“税引前利益”は397億円しかないが、③100%未満の子会社が稼ぎ捲っている為に、“控除-非支配持分に帰属する当期純利益”も巨額になり、連結の“法人税等”も887億円と巨額になってしまった結果、“当社株主に帰属する当期純損失(純利益)”が巨額赤字を計上することになったのだ。そして、稼ぎ捲っている子会社とは、『ソニーフィナンシャルホールデイングス』とその傘下の『ソニー銀行』『ソニー生命』『ソニー損保』等の金融関係企業であった。ソニーの中で、これらの金融部門がどのような業績を上げているかを以下に詳述する。

先ず、ソニーの分野別売上高の推移をみてみよう(図1)。スマホ・デジカメ・テレビ・半導体等のエレクトロニクス分野が、全体の60%以上を占めている。一方、ゲーム・音楽・映画・金融の売上高は、5000億~1兆4000億円程度しかない。つまり、売上高から言えば、ソニーの主力はエレクトロニクスであるように見える。次に、2011~2014年における分野別の営業利益を見てみよう。ソニー全体では2011年に赤字となったが、2012年以降は黒字化した。特に、2012年は2265億円と大きな営業利益を上げた。売上高が大きいエレクトロニクスの4事業及びゲームの営業利益は、乱高下が激しい。特に、スマホ等のモバイルコミュニケーションとテレビ等のホームエンタテインメント&サウンドは屡々、大赤字を計上している。これに対して、映画・音楽・金融は安定して営業利益を上げている。特に金融は、この4年間、右肩上がりに収益を伸ばし、2014年には1933億円を計上し、ソニーの最大の稼ぎ頭となった。ソニーの有価証券報告書には、非金融と金融を分離した決算が掲載されている(このことは、ソニー自体も金融が本業と思っている証拠のようにも見える)。尚、非金融にはエレクトロニクス・ゲーム・音楽・映画等が含まれることは言うまでもない。売上高では、非金融はリーマンショック以降に大きく落ち込むが、2011年に底を打って2014年には7兆円超に回復した(図3左)。一方、金融は右肩上がりの成長で2014年に1兆円超となった。しかし、金融が非金融に売上高で追いつくことは難しいように思われる。ところが、営業利益においては(図3右)では、非金融の営業利益は乱高下が大きく安定しないのに、金融は2009年以降に1000億円を超える利益を安定して稼ぐようになり、2000億円超が目前だ。利益面では、非金融の不調を金融が補っている。

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今度は、営業キャッシュフローを見てみる(図4左)。営業活動とは、部品を仕入れ、製品を作り、販売して利益を得る為の活動であり、営業活動のキャッシュフローは黒字であることが求められる。そして、その額が大きいほど、より多く稼いでいることになる。非金融の営業キャッシュフローはブレが大きく、2009年から2012年まで大きく低下した後、2014年に3000億円超にまで回復したが、2009年の水準には及ばない。一方、金融の営業キャッシュフローは、2005年以降は順調に増加し、2010年には非金融を追い越して、2014年には4597億円にまで達した。そして、投資キャッシュフロー(図4右)。投資活動には、設備投資・有価証券投資・M&A等が含まれる。非金融も金融も、その投資キャッシュフローは乱高下しているが、リーマンショック以降は大きな差がついている。非金融は、2012年以降は1000億円前後となったが、金融では5000~6000億円付近を推移している。 最後に、総資産の推移を見てみる(図5)。非金融と金融の差は決定的である。非金融の総資産は6兆円前後を推移しているが、金融の総資産は粗直線的に増大し、2014年には10兆円を超えてしまった。金融の売上高規模は非金融の7分の1しかないが、安定的に利益を計上し、その額は2000億円に接近しており、今後も成長が見込まれる。リーマンショック以降、ブレの大きい非金融事業に比べて、安定した良質な事業であると言える。そして驚くことに、投資の規模・資金調達の規模・総資産までもが、金融が非金融を凌駕するようになった。前川氏は、「この15年間で、ソニーはエレクトロニクス事業で躓き、その分野で自信を喪失しそうになるいっぽうで、金融事業では確かな手ごたえをつかみ、自信を深めていったことがわかる」「今後、非金融事業は、なんとか黒字を確保することが可能だとしても、金融事業を凌駕して、再度ソニーの中核事業にまで返り咲くことは難しい」「金融事業が今後も成長し、エレクトロニクスはそのサイドビジネスの位置づけになる傾向が、今後ますます顕著になる可能性の方が高いのではないか」と論じている(原文ママ)。凋落したとは言っても、エレクトロニクス業界での“ソニーブランド”は未だに高いように思う。従って、ブランドを維持する為にも、エレクトロニクスの看板を下げることはないだろう。しかし、前川氏が言うように、“エレクトロニクスはサイドビジネス”という位置付けは既に後戻りできないところまで進行しており、今後も加速しそうな予感がする。


湯之上隆(ゆのがみ・たかし) コンサルタント(技術経営)・元半導体技術者。1961年、静岡県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。博士(工学)。著書に『日本半導体敗戦 イノベーションのジレンマ なぜ日本の基幹産業は壊滅したのか?』(光文社)・『電機・半導体大崩壊の教訓 電子立国ニッポン、再生への道筋 シャープ、パナソニック、ソニー、エルピーダ、ルネサス…』(日本文芸社)・『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文書新書)。


キャプチャ  2015年12月29日付掲載
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