武器輸出解禁で強まる国の企業統制と密室性――戦争当事国の片方に肩入れすることで日本は“平和を語れない国”になる!

20151230 07
日本政府に依る武器輸出が本格的に始まろうとしている(※1)。防衛装備庁を新設して関係企業を統制下に置き、政府主導で武器を売り込む体制が整った。国の科学技術政策も、これまでの民生用中心から軍事用とのデュアルユース(二重利用)優先に変わろうとしている。しかし、何より重要な変化は、戦後70年間平和を維持してきた日本が経済利益と引き換えに、世界に向けて平和を語れない国になることだ。政府は今月、『特定秘密保護法』(去年12月施行)に基づく身元調査の結果、秘密を外部に漏らす恐れがない“適正評価”を得た公務員と民間人が計9万8000人いることを明らかにした。その内、民間人は2200人。その大半が防衛関係であり、今後の武器輸出の秘密を扱う有資格者になる。秘密を指定した各省庁は、同法10条で「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす恐れがある」と判断すれば、国会への秘密の提供を拒否できる。内閣官房は会計検査院への資料提供にも消極的で、国民の目が届かない密室性が高まる。この特定秘密保護法は、武器輸出3原則見直し(2013年10月)・安全保障関連法(今年9月成立)と共に武器輸出の土台を形成している。

同3原則は元々、1976年に三木武雄内閣が示した統一見解を根拠にしている。その後、日米間で共同研究の案件が生じた場合等に、官房長官談話で例外として認めてきた。今回の解禁はそうした運用を廃止し、経済戦略として積極展開するのが目的だ。解禁には、それなりの“理屈”がある。経団連に依ると、これまで我が国の武器市場は自衛隊しかなく、生産量が少ない為に価格が割高だ。世界の兵器はどんどん先端化しているが、メーカーにとって世界の水準に追いつき、且つ製造設備を維持するのは容易ではない。そこで輸出に踏み切れば、製造コストが下がり、防衛予算にも貿易面でも有益だ。近代兵器は、機械・電子・化学・通信・IT・光学等の広範な技術が必要で、裾野が広い。そこでのイノベーションが民需部門に波及する効果も期待できる。先行する成功事例が、韓国の武器輸出である。2006年には2億5300万ドルだったが、今年は40億ドルになると予測されている。9年間で16倍の成長率だ。初期は兵士の装備品・部品・弾薬だったが、今では超音速高等練習機『T-50』をインドネシア、タイ、フィリピン、イラクに輸出している。これはアメリカの『ロッキードマーチン』が開発した戦闘機で、重要部分は殆どアメリカ製。それでも、経済効果は1機当たり中型自動車1200台分に相当する。経団連や政府が刺激を受けたことは想像に難くない。総務省が発表した昨年の政治資金収支報告書では、企業・団体に依る自民党への献金が22億1500万円で突出している。献金の旗を振るのは経団連だ。法人税減税だけでなく、武器輸出解禁で動いてくれたことへの謝礼の意味もあるだろう。




武器輸出の相手として想定しているのは、アメリカ、ヨーロッパ、NATO(北大西洋)、オーストラリア、東南アジア等。自衛隊向けとは別に、輸出専用の新規の武器も開発する。当然だが、民間企業は自由に売ってよい訳ではない。地域別戦略の下、政府が相手国の政治情勢や武器の使い方を分析し、第三国移転や目的外使用のリスクが無いかを判断する。実際には、内閣官房・防衛省・防衛装備庁・外務省・経済産業省がチームを組む。相手国に購入費を支払う余裕が無い場合、政府資金援助・外債発行の引き受け・信用供与等が必要になるので、金融機関が動員される。商社も、現地の政治情報を収集する役目を担う。武器輸出を軸に政府と経済界全体の一体化が進み、メーカーには官僚の天下りが増えるだろう。こうした政府と企業の密着は、20世紀前半のヨーロッパの有力武器メーカー(イギリスの『ヴィッカーズ』や『アームストロング』・フランスの『シュネーデルクルーゾー』・ドイツの『クルップ』等)に、そのモデルを見ることができる。アメリカでも戦後、軍需企業・官僚・軍隊・政治家が形成する強固な“軍産複合体”が形成され、アメリカ政府の外交・軍事政策の決定に強い影響力を持っている。謂わば、そのミニ版が日本にもできる訳だ。最大の問題点は、武器輸出が基本的に国際紛争や緊張関係が激しくなるほど儲かるビジネスである為に、危機の高まり・戦争の発生・武器の消耗を内心で期待するようになることだ。また、企業にとっては政府から指定される秘密の種類や量が増え、株主や世間に開示できない閉鎖性が高まる弊害がある。しかし、経団連を始めとする関連企業は、この面での自覚は薄そうだ。それどころか、不況期には業績向上の期待を武器輸出拡大に託すことが当たり前になるのではないか。日本政府は、交戦中の国には武器は売らない方針だが、若し売った後に戦争が起きた場合、債務を返済してもらうにはその国が勝たねばならない。武器の修理や補給等のアフターサービスも必要になる。つまり、戦争の片方に肩入れすることになり、中立的立場は取れない。日本は最早、世界に向けて平和を語ることなどできなくなる。最後に科学技術政策。来年1月に策定される『第5期科学技術基本計画』の検討段階では、“軍事用・民生用の両方に使えるデュアルユースの重要性”が強調されており、従来の民生用中心の方針ががらりと変わる。つまり、国の科学技術予算は軍事用に使えるものを優先する配分になるということだ。企業の技術は元々、軍事用にも民生用にも使えるものが多い。そうした先端技術が軍事に配慮して密室に置かれた場合、民生分野の新製品開発やオープンイノベーションを阻害することも懸念材料になる。


(※1)日本政府に依る武器輸出の近年の事例
アメリカ:ペトリオットミサイル部品の輸出(2014年7月)・護衛艦イージスシステムのソフトウェアと部品輸出(2015年7月)
イギリス:空対空ミサイル共同研究の開始(2014年11月)
オーストラリア:潜水艦共同開発・生産の可能性調査(2015年5月)
インド:救難飛行艇『US-2』の輸出を協議(2012年~)


木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト。1946年生まれ。東京大学工学部航空学科卒。『NEC』で技術者として勤務の後、『朝日新聞社』に入社。主に経済記者として財務省・経済産業省・電力業界・石油業界・証券業界等を取材。著書に『自民党税制調査会』(東洋経済新報社)。共著として『500兆円の奢り 素顔の兜町』(朝日新聞社)等。


キャプチャ  2015年12月29日付掲載




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テーマ : 軍事・安全保障・国防・戦争
ジャンル : 政治・経済

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