【2016年の15大問題】(03) “対岸の火事”では済まない中国バブル崩壊の行方

20160101 06
昨今は、中国経済の悪いニュースが多い。過日、成長率も7%を割り込んだが、6.9%という新しい成長率を真に受ける人も中国で少なくなりつつある。尤も、何もかもが不景気という訳ではなく、実際は明と暗が入り交じった斑模様だ。業種で言えば鉄鋼・石炭等の重厚長大産業、地域で言えば東北地方等の景気は“土砂降り”だ。電力消費や鉄道貨物の荷動き等、重厚長大産業を代表する指標がマイナス成長を思わせるほど酷く落ち込んでいることが、それを表している。しかし、中国にも消費・サービス関連――特にインターネットや宅配に繋がるサービス業や工場自動化に関連する製造業等、高い成長を続ける業種もあるので、斑景気を均して平均を取ると、成長率は3~5%ではないか。こんな調子では、「2020年のGDPを2010年の2倍にする」という習近平の“中国夢”を実現することは難しいが、政府は景気がどんどん減速しているのに、今までのように投資アクセルを踏もうとはしなくなった。踏みたくても、最早踏む訳にいかないことに気付いたからだ。リーマンショック後の経済の落ち込みを防ぐ為に4兆元の投資を発動した2009年から2014年までの6年間に、中国が実行した産業の設備投資・不動産投資・インフラ投資の額を公式統計で足し上げると200兆元(4000兆円近い)になり、その為に企業負債も急増した。つまり、経済の至るところで“バブル”としか形容のしようのない爆発的な投資ブームが起きた訳だ。これだけ野放図に投資を続ければ、優良投資案件は底を突き、回収が期待できない不効率投資だらけになってしまう。つまり、経済全体のバランスシートに、潜在的な不良資産と不良債務が積み上がるということだ。これ以上、不良な資産・負債の膨張を止めなければ、中国のバランスシートは軈て発散してしまう。2014年に習近平が“新常態(ニューノーマル)”を打ち出した狙いも、これを防ぐことにある。その為に投資と借金を減らす必要があるが、そうすると反動で経済成長が落ち込んでしまう。「あちら立てればこちら立たず」で、辛いところだ。

海外にも、中国政府が大規模な景気対策を発動することを期待する声があるが、甘い考えだ。仮に今後、“4兆元投資パート2”のような政策が発表されることがあれば、それはグッドニュースどころか、「習近平政権が中国経済を正常な軌道に引き戻す努力を放棄して、ハードランディングに向かう予兆だ」と見るべきだ。遅きに失したとはいえ、“新常態”論が登場したことは正しい方向だったが、その後の展開は頂けない。中国共産党が己の面子に拘って市場の摂理に逆らっては、失敗ばかり重ねているからだ。過去にした“7%成長”公約との板挟みに遭って苦しんでいることが典型だが、国有企業の債務軽減に利用しようと株高を囃し、それで沸騰した株バブルが2015年6月に崩壊すると、形振り構わぬPKO(株価維持)を始めて、市場は更に歪曲された。今や、中国の株価は実体経済を映す鏡の効能を失って、取引も細っている。2015年8月は、人民元レートの下落が起きた。これが「輸出振興の為の元安誘導だ」と報じられたのは誤りで、実は人民元をIMFの管理する主要通貨バスケットに入れてもらう為の宿題(レートを市場実勢に応じて動き易くする)を返すことが目的だった。だが、大きな見落としがあった。数年前まで「人民元は過小評価されており、今後は先高だ」と言われていたが、その後に起きた野放図な金融緩和・不効率な投資・人件費の急騰のせいで、中国経済は量的躍進の傍らで質的劣化が進行した。おかげで人民元は一転弱くなり、今や中国の企業・国民が「元は先安」と見て、機会あれば人民元を外貨に持ち替えようとする時代になっている。そんな具合なのに、“元安誘導”を疑われるような措置を唐突に採ったせいで、元安投機という寝た子が起きてしまった。当局が想定した元安幅は2~3%なのに、これを上回りそうな元売りの波が起きて、政府は元買い市場介入に依って元安の進行を食い止めようと苦労している。株も為替も市場に委ねれば、一旦は下落した後に反転する。そうせずに、中国共産党の面子や政治的な都合で市場を強引に管理しようとしては、逆に投機に火を点けている。最近は、市場が上手くコントロールできないことに苛立って、意に沿わぬ取引をした証券会社の幹部や、不利な情報を流したジャーナリストを公安が引っ捕らえる始末だ。習近平は2013年に、投資に代わる新しい成長エンジンを育てる為に、生産性の向上を図る方針を明らかにした。「規制を緩和して企業の活力を高め、資源配分の決定的な役割を市場に果たさせる」という、アベノミクスの“第3の矢”を彷彿とさせるような政策が宣明されたのだ。しかし、夏以来の市場への向き合い方を見る限り、政府のアタマは変わっていないことが露呈した。これでは、新しい成長エンジンも育ちそうにない。




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悪いニュース続きの中国経済だが、慌てず騒がず、正しく応接することが肝要だ。「“不透明な中国”で何が起きるかわからない」と恐れ過ぎるのも頂けないし、“嫌いな中国”の窮状を知って快哉を叫ぶのも能天気だ。以下、今後心得るべき3箇条を挙げたい。
①“中国崩壊”も“景気好転”も無い
良し悪し別に、中国は政府の力が強いので、俄かな“経済崩壊”は先ず無い。中央政府にも未だ財力がある。今、多くを使えば将来、体制の寿命が尽きるのを早めるが、その場を凌ぐ能力は今でも他国より強いのだ。同時に、本稿で論じた理由に依り、「中国景気は当分好転しない」との覚悟が要る。その織り込みが足りないと、今後も続く悪い報せに余計に狼狽えることになる。
②輸快に対岸を見ている場合ではない
2014年からの『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』問題等で押され気味に感じていた中国が苦境に陥ったことを愉快に囃す式の論調は、能天気の極みだ。今後、中国経済の下振れが深刻化した時、中国以上に痛打されるのは資源国・東南アジア・東アジアである可能性が高い。日本が巻き添えになる予兆も株式市場に現れている。
③前途多難な2010年代後半
「2016年の世界経済は、アメリカの利上げと中国という2つのリスクに直面する」と言われているが、“新しい時代の始まり”くらいに大上段に構えるべきだと思う。リーマンショックで酷い落ち込みを経験した世界経済は、2010年代前半、心地よい回復・拡大基調を続けられた。米欧の量的緩和政策がイージーマネーを世界にばら撒いてくれたことと、同時期に中国も投資頼みの高成長で世界経済に力強く需要を提供してくれたことの2つが、その背景にあった。しかし、どちらの恩恵も永遠に続けることはできない。2010年代後半には、この2つの追い風が無くなるどころか、逆風に変わって世界経済の足を引っ張ることがはっきりしてきた。リーマンショック後のダメージは消えた訳ではなく、5年据え置きの延べ払いを認めてもらえただけだったということだ。この2つの環境変化は、1年かけて織り込んできたつもりだったが、もう1つ、人民元という想定外の問題が隠れていた。

元レートが今の高め水準を維持し続けることは、中国経済の現状に照らして荷が重そうだ。いっそのこと、1~2割の元安を認めてやったほうが中国経済も一息つけるし、中国成長の恩恵に与ってきた世界経済も楽になる――そんな可能性もある。しかし、それを認めると、途上国や新興国は軒並みドミノ式の通貨安に見舞われ、通貨危機に陥る国も出てきそうだ。ならば、「元安は困る」と中国に申し入れるか――。ところが、中国が元安を防ぐ市場介入をするには、大量に溜めてきた外貨準備を取り崩し、端的に言えば、アメリカ国債等を市中で売却する必要が生じる。アメリカはリーマンショック以降、量的緩和の為に3.5兆ドル分の債券を買い上げたが、中国も同じ期間中に外貨準備を更に2兆ドル積み上げており、その過半はドル建て債券だ。これを中国が急に売却すれば、債券が値崩れしてドル金利に上昇圧力が働く。つまり、中国人民銀行はアメリカの連邦準備銀行と並んで、アメリカの金利に影響を与えられる“シャドー連銀”になったようなものだ。だから、アメリカの連銀が中国経済動向を理由に2015年9月の利上げを見送ったのは、故無きことではない。利上げと中国のアメリカ国債売りがかち合えば、一時に2回分利上げするようなもの――それでは、世界経済もアメリカ経済も持たないだろう。基軸通貨国のアメリカが、自国だけで金融政策を決めることが難しくなる――。誰も織り込んでこなかった新しい時代の始まりであり、米中両国は早晩、この双子リスクを調整する必要に迫られるだろう。日本も、この“G2”協議に割り込まないといけないが、知恵と汗を出さないと“G”には数えてもらえない――。日本は、そんな新しい時代に備える必要がある。


津上俊哉(つがみ・としや) 現代中国研究家・『津上工作室』代表。1957年、愛媛県生まれ。東京大学法学部を卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)に入省。在中国日本大使館参事官・北東アジア課長・『経済産業研究所』上席研究員を歴任。2012年2月から現職。著書に『中国台頭 日本は何をなすべきか』(日本経済新聞出版社)・『巨龍の苦闘 中国、GDP世界1位の幻想』(角川新書)等。

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■日米中韓、2050年までの国力比較
2010年に、日本は中国にGDP(国内総生産)世界第2位の座を明け渡した(図2)。2015年には中国経済が失速し、世界経済の先行きに不安を齎したが、中国の力が減じることは無いだろう。これから、日米中韓の国力バランスはどうなるのか? 人口は、過去10年の傾向が2030年頃まで続く。つまり、米中の人口が伸びていく(図1・5)。逆に、出生率の低い日韓は人口が減り、高齢者比率が高くなっていく。注目すべきは、中国が2020年に14億人を突破した後、2028年にピークを迎え、人口減少に転じることだ。1979年に始めた『1人っ子政策』の“成果”だが、中国は2036年に65歳以上の高齢者が人口の20%を超える超高齢社会に突入していく(OECD予測)。イギリスの経済誌『エコノミスト』は、著書『2050年の世界』で次のように書いている。「中国の中位数年齢は、1980年の22歳(途上国に特有の数字)から、2010年には36歳(富裕国に特有の数字)まで上昇した。2020年にはアメリカを超え、2040年にはヨーロッパを超え、安い労働力による製造の時代は終わりを迎えるだろう。『富裕化の前に高齢化がやってくる』という中国人の不安は的を射ている」。一足先に超高齢社会となった日韓は、その時、お手本となるようなモデルを提供できるだろうか?

一方、軍事費を見るとアメリカが図抜けて多いが、中国の伸びも著しい(図4)。先ほど引用した『2050年の世界』は、「2038年には中国が軍事費でアメリカを凌駕する」と予測している。また、日本と韓国の軍事費のGDP比は約1%と約2.5%なので、今後、その比率が変わらないとすると、韓国の軍事費は近い将来、日本を超えるだろう。OECD(経済協力開発機構)のGDP予測に目を転じると、ここでも伸びていくのは米中である(図6)。しかも、2021年には中国がアメリカを追い抜き、GDP世界第1位となると予測されている。その時、世界秩序はどうなっているのか? アメリカ中心の自由貿易と民主主義の世界に、中国が軟着陸しているのか? 米中両陣営に世界が二分されているのか? はたまた、中国が新しい世界秩序を築くのか? 何れにしても、日韓は頭を使わなければ生き残れない時代になっているだろう。日韓は其々一国だけで考えると暗くなるが、“アジア”で考えれば、世界はこれから間違いなくアジアの時代に向かう。『2050年の世界』に依れば、北米と西欧は2010年に世界の実質GDPの40%を占めていたが、2050年には21%に低下する。一方、アジアの発展途上国は27.9%から48.1%に上昇する。2011年から2050年までのアジアの発展途上国の成長率も、年平均5.2%と予測されている(世界全体は3.7%)。

既に、日本はアジアの成長に棹差してきた。日本の貿易総額の内に占めるアメリカの割合は、1990年には28%だったが、2014年には13%に低下し、対アジアは5割である。また、2014年に日本を訪れた外国人観光客は約1340万人だが、その内の約7割が中国(香港含む)・韓国・台湾からだ。日本政府は「2030年に外国人観光客を3000万人にする」という目標を掲げているが、それを達成する為には中国・韓国・台湾からの観光客を増やすのが近道だろう。距離が近く、文化的にも親和性の高いアジアの中で、日本はどんな役割を果たせるのか。今、真剣に考えるべきは、日本の家訓“長いものには巻かれろ”をどう実践するかだ。


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テーマ : 中国問題
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