【2016年の15大問題】(05) 対中外交、日本の価値観を普遍的ロジックで語れ

20160101 15
先ずは、現状認識から始めよう。筆者の国際情報分析は常に、“3つの同心円”手法に依っている。35年前、エジプトでのアラビア語研修中に、尊敬する大先輩から教わったものだ。国際情勢を世界レベル(global)・地域レベル(regional)・2国間(bilateral)という3つの同心円に因数分解し、其々のべクトルを分析して全体を考える。この手法に基づけば、現在、世界レベルでは巨大なパワーシフトが起きつつあるように見える。ロシア・中国・イラン等の旧巨大帝国が、過去の栄光を取り戻そうとしているのか。この新帝国主義的傾向に、冷戦時代封印されていた各国の不健全で暴力的な民族主義が合体し始めた。今後、世界はより不安定性を増すだろう。20世紀に超大国となったアメリカは、現在も世界一の経済力と軍事力を保持する。しかし、1990年代のような“アメリカ独り勝ち”には戻れない。パクスアメリカーナに対する新帝国主義・新民族主義からの挑戦が始まったからだ。最近のヨーロッパや中東で見られる液状化現象は、こうしたパワーシフトの一側面に過ぎない。東アジア地域でのパワーシフトは、中国の台頭だ。残念ながら、それは気が遠くなるほど巨大且つ長期的な趣勢である。東アジアの新たな安全保障環境の中で、日本は生き残らなければならない。日本は、“ポスト・ポスト冷戦期”の新民族主義時代に起きる次のパラダイム創造に、主要国の一員として参画すべきなのだ。過去を冷静に振り返ってみれば、明治維新後の日本の繁栄は、中国の停滞という千載一遇の機会を逃さなかった結果である。20世紀初頭に日英同盟、第2次世界大戦後は日米同盟を其々活用し、日本は紆余曲折を経ながらも激動の20世紀を生き延びてきた。しかし、こうした幸運が21世紀も続くという保証は無い。

続いて、日本の対中外交を考えよう。残念ながら、日中関係は必ずしも東アジアにおける国際政治方程式の“独立変数”ではない。東アジア地域での最大の独立変数は米中関係であり、中露関係・米露関係が続く。好むと好まざるとに拘らず、日本の対中外交が米中関係の従属変数となることを覚悟しなければならない。日中間には、今も戦略的な利害対立がある。1972年の国交正常化に依っても、それは解消されなかった。今後、日中は対立・競争の存在を認めながら、不必要な誤解や誤算に基づく衝突を回避しつつ、経済中心の“大人同士”の関係を続けていく必要がある。その際に最も注目すべきは、言うまでもなく米中関係の動向だ。東アジアで台頭する中国を前にして、アメリカの外交が迷走している。当初、対中懸念を公言していたブッシュ政権は、2001年の同時多発テロに依り対中宥和外交に転じた。中東での戦争終結しか念頭にないオバマ政権も、これを引き継いだ。その結果、アメリカが中東で忙殺される中、中国は東アジアで帝国主義・民族主義的自己主張を始めた。中国の対米要求は単純明快だ。対等な米中関係を確立し、中国共産党統治体制への挑戦を許さず、アジアの海洋で中国の核心的利益を認めさせることに尽きる。これらの点について、アメリカは譲歩する気はない。第2次世界大戦後に確立したアジア・太平洋勢力としての地位を、自発的に放棄することはないだろう。他方、アメリカの対中懸念は近年、特に高まっている。南シナ海における航行の自由に対する妨害や、アメリカの企業秘密に対する中国のサイバー攻撃の停止だけでなく、中国国内の経済自由化・構造改革・人権問題・気候変動問題等、アメリカの対中要求リストは短くない。だが中国側は、これらの点について譲歩する気はなさそうだ。過去数回の米中首脳会議は、何れも不成功に終わった。しかし、これらは今後何十年も続く米中間の戦略的競争・対立の初期の一局面に過ぎない。米中間では当面、現在のような“敵でも味方でもない、競争と対立を孕む関係”が続くのだろう。




では、日本はどうすべきか? 国家は隣国を選べない。中国は2000年後も中華であり続ける。この巨大な存在を無視することは難しいが、これに飲み込まれない方法は必ずある筈だ。中国は経済的にピークを過ぎた。社会的にも、国内に多くの不安定要因を抱えている。2025年前後に、中国は経済的・政治的に大きな曲がり角を迎える筈だ。その時、巨大な中国社会が大きく揺れることだけは間違いない。それでは日本が、東アジアの現状維持勢力として、これからの中国の台頭と退潮という大変動を生き延びていくにはどうしたら良いのか? 必要なことが3つある。第1は、日本が自由・民主・人権・人道・法の支配という普遍的価値を掲げ続けること。普遍的価値という大義名分がある限り、日本は“勝ち組”に残る可能性がある。新民族主義の復活帝国である中国やロシアには、普遍的価値が存在しないからだ。第2は、醜い民族主義に裏打ちされた旧帝国の“力に依る現状変更の試み”を拒否・抑止する力を維持すること。その意味でも、2015年の新安全保障法制成立は特記すべきだ。新法制に基づく抑止力の向上や、日米を筆頭とする各種同盟・安全保障協力関係の拡充は、今後の日本にとって極めて重要な政策変更であった。最後に、最も重要と思われるのが、日本の誇りある伝統を普遍的価値の論理で説明する能力を獲得することだ。日本が自ら維持したい伝統・価値を、自由・民主・人権・人道・法の支配という普遍的価値のロジックで説明できれば、その伝統・価値は生き残る。伝統は変化することに依って、初めて維持できるのだ。このことを正確に理解しない限り、国際政治で日本の影響力を高めることは難しい。ナショナリズムは、時に普遍的価値と対立する。だが、守るべき価値を日本人にしか理解できないロジックで何度説明しようとしても、良い結果は生まれない。残念ながら、これが国際政治の現実なのである。


宮家邦彦(みやけ・くにひこ) 『キヤノングローバル戦略研究所』研究主幹。1953年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業後、外務省に入省。日米安全保障条約課長・中国公使・イラク公使等を歴任し、2005年に退官。2009年より現職。著書に『語られざる中国の結末』(PHP新書)・『仕事の大事は5分で決まる』(幻冬舎)等。


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