【2016年の世界を読み解く】(04) ヨーロッパに必要な地政学的思考――中露の野心に中東の混乱と難民問題、“危機”に包囲されたヨーロッパは甘い考えを捨てよ

20160102 10
クリミア半島を併合し、更にウククライナ東部で戦闘を仕掛けて以来、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「国境の不可侵性や国際的な法規範を尊重する気などない」と、十分過ぎるほど明確にしてきた。そろそろヨーロッパは、「法の支配に基づく大陸秩序は普遍的な価値観だ」という甘い考えを捨てるべきだ。残念ながら、世界はもっと強硬で、パワーがものを言う。ロシアのシリア内戦介入とヨーロッパの難民危機は、このことをはっきりさせた。ヨーロッパは、もっと自らの地政学的利益を重視した行動を取らなければいけない。然もないと、遅かれ早かれ、近隣地域の危機がヨーロッパの玄関口にやって来ることになる。アメリカは、東西の国境を広大な海に守られているが、ヨーロッパは違う。巨大なユーラシア大陸の西端に位置し、東ヨーロッパ・中東・北アフリカと直接繋がっている。そして今、これら不安定な“お隣さん”たちに、重大な安全保障リスクを突き付けられている。例えば、ロシアはソ連と同じ過ちを犯そうとしている。ソ連の独裁的な政治体制は、到底近代的とは言えない経済を補うかのように、強大な軍事力を誇示した。今のロシアと同じだ。だが、そのロシアはヨーロッパの隣国だ。だから、どんなに意見が食い違っていても、一定の妥協が必要だ。ロシアの地政学的な野心は、ヨーロッパに常に脅威を与えてきた。だから、ヨーロッパはアメリカと密接な関係を維持すると共に、独自の抑止能力を確保することが絶対に必要だ。目先のロシアとの関係は、ウクライナ東部の戦闘に終止符を打ち、『北大西洋条約機構(NATO)』の東欧側の境界線を守り、ヨーロッパ南西部とバルカン半島に危機が及ぶのを防ぐ努力に左右されるだろう。

しかし、目先の危機を乗り越えても、21世紀のヨーロッパは、その根本を揺さぶる戦略的問題に直面しつつある。中国だ。現在のヨーロッパの対中政策は、人権と企業利益が衝突する非現実的な政策を取っている。ヨーロッパは、ここでも地政学的なリスクをもっと意識した行動を取る必要がある。“新しい超大国”中国は、ユーラシア大陸の東端に位置し、中央アジアとロシアを経てヨーロッパに至る“陸のシルクロード”を復活させようとしている。この大型プロジェクトの表向きの説明は、「これまで経済発展の恩恵を殆ど受けていない中国西部を開発する」というものだ。しかし、このプロジェクトの真の重要性は、その地政学的な意味合いにある。即ち、陸の大国である中国が、海の大国であるアメリカのユーラシア大陸における政治的・経済的影響力に挑戦状を叩き付けているのだ。中国のシルクロードプロジェクトは、中国がヨーロッパに突き付けた米欧同盟に対する戦略的代替案だ(この中でロシアは、中国の従属的立場に甘んじるか、中央アジアで本格的に衝突するリスクがある)。しかし、「西(アメリカ)か東(中国)か」という選択は、ヨーロッパの利益にならない。そんな選択は、政治的にも経済的にもヨーロッパを引き裂くことになる。ヨーロッパは、規範的にも経済的にもアメリカと最も近い関係にあり、NATOの安全保障を必要としている。従ってヨーロッパは、ロシアへの対処では、『ヨーロッパ連合(EU)』とNATOの基本理念を堅持するべきだ。そして中国に対しては、シルクロードプロジェクトを阻止することはできないが、自らの利益を明確にするべきだ(これには、高いレベルの足並みの一致が必要とされる)。一方で難民危機は、ヨーロッパにとってバルカン半島(ギリシャを含む)が如何に重要かを改めて思い知らせた。この地域は、ヨーロッパと中東を繋ぐ懸け橋なのだ。




その意味では、トルコはもっと重要だろう。トルコがEU加盟を希望した時、ヨーロッパの指導者たちは大きな誤算をした。トルコとの関係を強化することで、「中東の紛争がヨーロッパに持ち込まれる」と考えたのだ。だが現在、トルコとの緊密な関係が無い為に、ヨーロッパは中東とそれ以東(黒海と中央アジア)に対して、殆ど影響力を持てずにいる。レジェップ・タイップ・エルドアン大統領が登場してからのトルコの情勢と、クルド問題での新たな衝突激化を考えると、ヨーロッパがトルコに歩み寄るのは非常に難しい。しかし、歩み寄る以外に選択肢は無い。シリアにおけるロシアの影響力拡大と、ロシアとイランの事実上の同盟関係を受け、トルコは再びヨーロッパに傾いている。今こそ、トルコと新たな話し合いを始めるチャンスだ。それでも当面、中東におけるヨーロッパの影響力は小さいままだし、中東の危険な混乱は続くだろう。しかしヨーロッパは、イスラム教シーア派とスンニ派の何れにも、或いはイランとサウジアラビアの何れにも肩入れするべきではない。ヨー ロッパの利益は、戦略的曖昧性を維持することにある。だが、地中海では話が違う。北アフリカ沿岸を含む地中海地域全体が、ヨーロッパの安全保障にとって重要な意味を持つ。選択肢は、“ヨーロッパの海”として対応するか、不安定な地域として放置するかだ。対アフリカ政策では、ポスト植民地主義的な思考を捨て、ヨーロッパ独自の利益を追求すべきだ。重要なのは、北アフリカの安定化と人道援助を含む長期的な支援。合法的な移民の受け入れも進めるべきだろう。地政学の復活に依り、21世紀のヨーロッパは、民族自決と外国侵略のどちらを支持するかの選択を迫られるだろう。この問いにどう答えるかが、ヨーロッパだけでなく、欧米世界の運命を決めることになる。 (元ドイツ副首相兼外務大臣 ヨシュカ・フィッシャー)


キャプチャ  2015年12月29日・2016年1月5日号掲載
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