【2016年の世界を読み解く】(06) 混沌のシリアをどう解き解す――あまりに複雑化した内戦を終わらせる為に取るべき行動と、やってはならないこと

20160103 01
シリアではこの5年近く、激しい内戦が続いている。その発端は、バシャル・アサド大統領の独裁に対する抵抗運動だった。だが、イラン、トルコ、サウジアラビアの地域覇権争いの舞台と化したこともあり、内戦は複雑な構図を持つ紛争に姿を変えている。シリア内戦は、中東全体を不安定化させる要因になりかねない。その証拠に、2015年にはイエメンも、サウジアラビアを後ろ盾とする政権側と、イランが支援するイスラム教シーア派武装組織『ホーシー派』との内戦状態に陥った。更に、アサド政権を支持するロシアがシリア空爆に乗り出し、欧米(特にアメリカ)に対抗するグローバル大国の地位を強化しようとしている。つまり、シリア内戦には少なくとも3つの次元が存在する。“国内の戦い”“地域内の戦い”“グローバルな戦い”だ。国連の推定に依れば、シリア内戦の犠牲者は既に25万人を超えた。「2015年夏の時点で、国外へ逃れた難民は400万人以上、国内避難民は約760万人に達した」と、『国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)』は報告している。その結果、EUは難民の大量流入という大きな難題に直面した。テロリストの温床となっている点でも、シリア内戦は極めて危険が大きい。それを象徴するのが、2015年後半にトルコの首都・アンカラ、レバノンの首都・ベイルート、フランスの首都・パリで相次いで起きたテロや、エジプトのシナイ半島でロシア旅客機が墜落した事件だ。何れもテロ組織『ISIS』(別名:イスラム国)の関与が疑われている。2015年11月、トルコがシリア国境付近でロシア軍用機を撃墜した事件に依って、超大国がシリア内戦の渦中に引き摺り込まれるリスクも高まった。トルコは『北大西洋冬約機構(NATO)』加盟国であり、外部勢力から攻撃を受けた場合には、集団防衛という責務の遂行を他の加盟国に求めることができる。シリア内戦は、深刻な人道危機の原因であるだけでなく、様々な安全保障上のリスクを齎す。できる限り早く終わらせるのが最善の道だ。パリ同時テロの衝撃は、内戦終結に向けた新たな機運を生み出した。主要関係者は停戦交渉に臨む意思を示し、「ISIS掃討を最優先にする」という点で意見が一致している。だが、共闘を実現できるかは疑問だ。シリアやイラクのクルド人部隊は、対ISIS戦で大きな戦果を挙げているが、国内にクルド人問題を抱えるトルコと敵対する立場にある。ロシアと共にアサド政権を支えるイランは、地政学的利益を求めて、シリアと結び付きが深いレバノンのシーア派組織『ヒズボラ』を支援する。フランスはパリ同時テロ以来、ISIS掃討に本腰を入れている。ドイツを始めとするヨーロッパ各国はフランスを支援すると共に、「難民流入を食い止めたい」と願っている状態だ。

一方、アメリカは慎重な態度を崩していない。「自身の任期中に、中東での戦争に再び関与する事態は防ぎたい」というのが、バラク・オバマ大統領の本音だ。だが、“グローバル超大国”アメリカの傍観姿勢は、必然的に権力の空白状態を生み、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はそこに付け込もうとしている。アメリカがリーダーシップの発揮を拒み、ヨーロッパにはシリアの現状を打開するだけの軍事力が無い。その為、ヨーロッパとロシアが事実上の同盟を結ぶ可能性が浮上している。しかし、これは破滅的な選択だ。ロシアとの“同盟”は、内戦の沈静化や終結を齎すどころか、正反対の結果を招く恐れがある。プーチンの要求通り、シーア派に近い位置にあるアサド政権に軍事協力を行えば、怒ったスンニ派の多くが過激なイスラム主義に走るだろう。いい例がイラクだ。マリキ前政権に依るシーア派主導の政治はスンニ派を過激化させ、ISIS支持者に変えた。過ちを繰り返すのは愚の骨頂だ。「アサド政権存続で妥協する」という選択は、政治の現実を無視している。ISISやアサドを排除しない限り、シリア内戦は終わらないからだ。ロシアと協力するならば、してはならないことが2つある。第1に、ウクライナ問題を絡めてはならない(イランの核開発問題を巡る交渉は、他の問題と切り離したおかげで成功した)。第2に、アサド政権と軍事的協力関係を結んではならない。正しい道は、停戦とシリアの政権移行に関する合意を取り付け、国連安全保障理事会の承認を得た上で、ISIS掃討を目的とする軍事介入を行うことだ。中東には、大きな問題が他にもある。シリア内戦と連動する形で混迷の一途を辿るイラクは、イランとサウジアラビアの新たな対決の舞台になりかねない。両国の覇権争いに歯止めをかけなければ、必ずや次なる代理戦争が勃発する。過激なイスラム主義との戦いの成否は、スンニ派の行方に依って決まる。サウジアラビア王家が信奉する厳格なワッハーブ派が優勢になるのか、より現代的で穏健な方向へ向かうのか。それを見極めることは、ISISと戦う上でも鍵になる。欧米には、国内のイスラム教徒に対する態度が問われている。同じ権利と義務を持つ市民と見做さず、余所者扱いを続ければ、彼らをジハード(聖戦)へと追い遣るだけだ。 (元ドイツ副首相兼外務大臣 ヨシュカ・フィッシャー)


キャプチャ  2015年12月29日・2016年1月5日号掲載


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テーマ : 中東問題
ジャンル : 政治・経済

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