【2016年の世界を読み解く】(07) 人類が火星の地に降り立つ日――世界の官と民が連携して取り組む有人での火星探査の現状と、果てしない可能性

20160103 02
映画『オデッセイ』で、火星に1人取り残された宇宙飛行士のマーク・ワトニー(マット・デイモン)。『アメリカ航空宇宙局(NASA)』は人間の創意工夫を注ぎ込んで、彼の救出に当たる(日本公開は2016年2月5日)。リドリー・スコット監督に依る手に汗握るエンターテインメントは、不可能に挑む人間の底力を照らし出す。同時に、そこでは宇宙探査の未来を垣間見ることができる。NASAは2030年代半ばまでに、「人間を火星に送り込む」という大胆な目標を掲げている。2015年10月に発表した『NASA火星への旅 宇宙探査の新たな段階を開拓する』は、その道筋を説明している。技術的な手順としては、『国際宇宙ステーション(ISS)』の実験や研究に続いて、ISSが活動する低軌道(高度500~2000km程度)より遠くまで人間を運ぶ。これに成功すれば、数日で地球に帰還できる宇宙空間を、深宇宙を想定した“性能試験場”と見做し、様々な実験ができるようになる。『オデッセイ』には1つ、事実と異なる点がある。「火星の有人探査は、NASAが独占する舞台ではなくなる」ということだ。今後は、火星に人間を送る為に、世界中から人や資源が集中し、民間の協力も得ていく。既に、世界中の宇宙機関が協力して、宇宙空間についての知識を深めている。ISSの開発と運用には15ヵ国が参加。太陽系の探査に必要な技術だけでなく、人間が宇宙に長期滞在する際の健康リスクを軽減する為の重要な研究も進んでいる。NASAは国際社会と協力しながら、火星の無人探査も続けている。2012年に火星に着陸した無人火星探査機『キュリオシティ』は、搭載している観測機器の共同開発に5ヵ国が参加。気象観測センサーは、スペインの『宇宙生物学センター』が建造した。これらの観測に依って、火星の環境をより正しく理解し、火星のどのような資源が今後の探査に利用できるかがわかれば、人間が火星に降り立つ際のリスクを減らせるだろう。NASAの新型宇宙船『オリオン』はスペースシャトルの後継機で、月より更に遠くまで宇宙飛行士を運ぶことを目指す。乗組員用のクルーモジュールと、ロケットエンジンや生命維持システム等を搭載するサービスモジュールがあり、後者は『ヨーロッパ宇宙機関(ESA)』が開発を手掛けている。

民間企業も、宇宙開発の一翼を担う。『スペースX』と『オービタルATK』は、無人補給船でISSに貨物を輸送する契約をNASAと結んでいる。『ボーイング』とスペースXが開発している宇宙船は、2018年にもISSに宇宙飛行士を運ぶ計画だ。3Dプリンターを使ってISS内で交換部品等を作成し、長期滞在を支える実験も進んでいる。私たちが火星への有人飛行を目指すのは、ただ技術的に可能だからではない。火星を知ることに依って、地球上の生命について更に多くを知ることができるからだ。科学的な観点では、火星は地球以外で生命体を発見できる可能性が最も高い場所。生命の維持に不可欠な水は、嘗て火星の表面に10億年近くの間存在していた。地球上の生命の進化についてわかっていることを基に考えれば、火星でも生命が誕生していた可能性はある。但し、火星の生命体は(存在するとすれば)、微生物レベルまでしか進化していないかもしれない。その痕跡を見つける為には、宇宙生物学者や地質学者を火星に派遣して調べる必要がありそうだ。2015年秋にNASAは、「火星の地表に今も液状の水が存在する有力な証拠を見つけた」と発表した。地表の環境が過酷になるに連れて生命体は地下へ潜り、今も生き永らえているのだろうか。私たちが火星を目指す理由には、純粋に科学的な動機を超えるものもある。「人間を火星に送り込む」という難題は、新しいテクノロジーと能力の革新を刺激するのだ。「NASAが宇宙開発に1ドル費やすと、アメリカ経済は約4ドル成長する」という試算もある。1962年にジョン・F・ケネディ大統領は、「人類を月面に立たせることや、その先の目標に挑むのは、容易にできるからではなく、困難だからだ。我々の最も優れた熱意と能力を結集させ、その真価を示せる目標だからだ」と語っている。これらの取り組みは、地球上の生命に確かな恩恵を齎してきた。宇宙開発で発達した多くの技術が、地球上で実際に使われている。ISSの浄水システムは、僻地で清潔な水の供給を助けている。オリオンと打ち上げ用の超大型ロケット『スペースローンチシステム』は、バッテリーの急速充電・先進的な製造技術・航空機構造の軽量化等に貢献している。NASAは今後も、宇宙開発を新たな高みへと進め、火星の神秘を解き明かす為に国際的な取り組みを率いていく。その決意の固さは、火星に取り残された宇宙飛行士のワトニーにも負けない。私たちの努力は、サイエンスフィクションをサイエンスノンフィクションに変えるだろう。 (NASAチーフサイエンティスト エレン・ストファン)


キャプチャ  2015年12月29日・2016年1月5日号掲載
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