【インタビュー・明日を語る2016】(01) 命救う技術革新、対“感染症”日本の貢献――『ビル&メリンダ・ゲイツ財団』共同議長 ビル・ゲイツ氏

2016年が幕を開けた。頻発するテロや、出口の見えない中東・南シナ海情勢等、戦後の秩序が大きく揺らぐ中で、融和と結束に向けた国際社会の知恵と実行力が問われる1年になる。世界と日本は、どう進むべきなのか。政治・経済・科学技術・スポーツ等の各分野について、内外の識者や関係者が語った。

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大村智博士が2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。彼の仕事が広く世に知られるようになったことは、とても素晴らしいことだ。博士の発見に依り開発された抗寄生虫薬『イベルメクチン』は、熱帯で流行する多くの寄生虫病に威力を発揮する。特に、失明に繋がる『オンコセルカ症(河川盲目症)』は、この薬に依って激減した。私と妻が設立した『ビル&メリンダ・ゲイツ財団』は、この薬がアフリカの感染国に届くよう援助をしている。薬は製薬会社から無償提供されており、2030年までには、この感染症を地球上から無くすことができると思っている。ノーベル賞受賞後に大村博士と直接話したが、今もマラリアに関する仕事を続けているという。発展途上国を苦しめる感染症は、未だ多く残されている。話を聞いて、大変嬉しく思った。日本が世界に発信する科学技術のイノベーション(革新)は、医療分野以外でも途上国の人々の暮らしに大きく役立つ可能性を秘めている。二酸化炭素を排出しない安価な新エネルギーの開発は、途上国に大きな問題を引き起こす気候変動への影響を軽減するだろう。私は若い頃、世界を塗りかえていくソフトウェアの仕事に没頭してきた。今の私が魅せられているのは、途上国の人々の健康や生活を変える科学技術のイノベーションだ。例えば、人工衛星から送られる高解像度の地上画像を使えば、地図にも載っていない集落を見つけることができる。私たちは、この画像を手足の麻痺を起こすポリオのワクチン配布で使い、津々浦々の集落に配ることに成功した。1988年に国際的なポリオキャンペーンが始まった時、100ヵ国以上あった感染国は、ワクチンの浸透で今や2ヵ国だけに抑えられた。注目しているのが、途上国で普及が進む携帯電話だ。アフリカでは、食料自給率の向上が大きな課題となっているが、携帯で耕作地の写真を撮って専門家に送ることで、情報が届き難い農民も、きめ細かい農業指導が受けられる可能性がある。一部の国では、携帯電話を使って口座を開設する“モバイルバンキング”も始まった。人々は携帯で貯金をしたり、ものを買ったりしている。財団は、この普及の後押しも重要なテーマとして力を入れている。1990年には、世界で10%の子供が5歳未満で死亡していた。ワクチンの配布等で5%に半減した。科学技術を正しく活用し、途上国の人々に届けることで、今後3年で更に半減したいと思っている。栄養状態も改善し、多くの貧しい人々がモバイルバンキングで資産を管理し、生活を劇的に向上できるだろう。課題は山積しているが、状況は年々改善している。

究極のゴールは、途上国の国々が経済的に自立することだ。だが、多くの国では未だエイズやマラリア等の感染症が流行し、死は日常にある。人々は、貧困から抜け出せないでいる。私たちは未だ投資する必要がある。全ての命は平等なのだから。今から300年ほど前、平均寿命は現代の半分以下で、3分の1の子供が5歳未満で亡くなっていた。電気や交通等の多くの発明のおかげで、日本やアメリカでは当たり前のように暖房やエアコンを使っている。夜でも読書ができ、水を汲む為に遠くに行く必要もない。衛生環境も向上し、健康な生活を送ることができる。科学技術の発展は更に加速している。日本がリードする分野の1つは『iPS細胞(人工多能性幹細胞)』だ。様々な健康問題への応用が期待できる。日本が今後も影響力を維持する為には、科学技術――特に医療・エネルギー・材料・情報技術(IT)の分野で優秀な学生を育てることが重要だ。十分に教えるだけでなく、興味の追求を楽しめる環境にも配慮する。政府の研究開発への投資、大学の役割…。他の国同様、科学技術政策が更に有効に機能するよう、常に見直していくことも必要だ。国際的な科学コミュニティーに参加できるよう、英語力の向上も課題になる。そして、維持した国力でグローバルへルスの分野でも力を発揮してほしい。日本政府は、ジュネーブに本部を置く国際民間財団『世界エイズ・結核・マラリア対策基金』(グローバルファンド)に多額の資金を拠出し続けている。今年5月に日本で開かれる主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でも、感染症対策等の保健分野を優先議題として取り上げると聞いている。途上国向けの医薬品開発に投資する官民連携組織もある。日本の製薬会社が熱帯病の治療薬を無償供与している例もある。こうした官民の貢献を高く評価している。国民1人ひとりには、地球規模で何が起きているかにも目を向けてほしい。日本は、地域の支え合いの充実した国だ。遠い途上国での出来事を身近に感じられれば、「助けたい」という強い感情が起きる筈だ。個人の寄付や政府の援助が如何に途上国を変えつつあるか、発信していきたい。日本は今、興味深い時期に差し掛かっていると思う。日本は多くの強みを持っている。だが今後、科学技術を含め、グローバルな課題に関わる若者をどう育てていくのか。中国の台頭が日米にどう影響するのか。我々は中国の発展から何を学び、どんな協力関係を構築するのか。世界が日本のリーダーシップに期待している。 (聞き手/医療部 館林牧子)


≡読売新聞 2016年1月3日付掲載≡


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テーマ : 国際問題
ジャンル : 政治・経済

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