【インタビュー・明日を語る2016】(02) 未来変える科学力、産業育成に国の戦略必要――名古屋大学教授 天野浩氏

病気の予防や治療から、コンピューターや自動車の製造まで、現代社会の全てを科学技術が支える。2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授に、科学技術が社会に与える影響について聞いた。 (聞き手/科学部 山田哲朗)

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私が名古屋大学の学生だった頃でも、「赤と緑の“発光ダイオード(LED)”は既にあり、後は青が揃えば、どんな色でも出せるようになる」という知識はあった。また、浜松出身なので、ブラウン管に初めて画像を映し出した地元の高柳健次郎先生の話は、子供の頃から聞いていた。それで学生時代、まだ“マイコン”と呼ばれていたパソコンに夢中になっていた時、「青色LEDができれば、(パソコンの)大きなプラウン管をもっと薄いディスプレーにできる」と思った。実は、それが学部4年で赤崎勇先生(86)の研究室に入った理由だった。「ブラウン管に勝つ」という単純な動機だったので、当時、「何れLEDが蛍光灯を超え、一般照明にまで用途が広がる」とは正直、思ってもいなかった。今でも、LEDの普及のスピードや用途の広がりには驚く。ノーベル賞を受賞した後、モンゴルの教育科学大臣が大学を訪れ、「モンゴルの伝統文化を守ってくれた」と感謝された。太陽電池とLEDを組み合わせたランタンで、遊牧民の子供らが、伝統的な移動式住居のゲルで暮らしながら、夜、勉強できるようになったという。「自分の開発したLEDが人の役に立っているんだ」という実感が湧いた。ただ、安心して教育を受ける為には、明かりの確保は第一歩に過ぎないだろう。食べ物や健康等、様々な条件が整って初めて勉強できる。こうした社会的な問題の解決にも、科学技術が役立つ可能性がある。LED光を使った植物工場なら、北極・南極・宇宙等の極限環境でも作物を育てられる。未だ経済的に見合わない為、食料間を解決するという規模にはなっていないが、上手く利用すれば、食料問題や飢餓の解決に少しは役立てられるのではないか。

より短い波長の紫外線を出す“深紫外線LED”は、青色より作るのが難しいが、改良のアイデアは色々あり、効率を上げようと研究中だ。紫外線には殺菌作用があり、上下水道が整っていない地域で、こうしたLEDを家庭の水道管に取り付けて殺菌できれば、恩恵は大きい。先進国でも、治り難い乾癬や、皮膚が白く抜ける白斑等の皮膚病治療に深紫外線が使える見込みだ。青色LEDを作るのに使った材料の窒化ガリウム(GaN)は、電気のオン・オフを素早く切り替えられる性質があり、照明やディスプレイのみならず、省電力や電気機器の小型化等でまだまだ可能性を秘めている。光を発するのが目的ではなく、電力(パワー)の制御が目的の素子は“パワー半導体”と呼ばれる。パワー半導体を活用すれば、エアコンや冷蔵庫等を少ない電力で効率的に動かすことが可能となり、省エネルギーに繋がる。名古屋大学の研究者の試算では、LEDの省エネ効果とパワー半導体に依る電力利用効率アップを組み合わせることで、日本の電気の使用量を16~17%節約できる。新しい技術ができれば新しい開途を見つけるのが人間の性で、消費量の水準を切り下げられる訳ではないものの、途上国で急上昇する消費量増加のペースを緩和できる。パワー半導体のコストをもっと安くして、エネルギー消費が多いアメリカや中国にも使ってもらいたい。日本のエレクトロニクス産業に、技術のシーズ(種)はある。個々の企業は、イノベーション(技術革新)に繋がる面白い技術を持っている。ところが、新しい商品・システムを売り出す段階になると、殆ど外国に負けてしまう。技術は“当たるも八掛、当たらぬも八掛”という側面はあるのだが、もっと国としての戦略を真剣に考え、「この技術はモノになる」という判断ができる“目利き”の人材を育てなければならない。




■地道な研究、合わさり進化
天野教授は元々、青色LEDの開発を狙っていた。現在は、青色LEDに使った窒化ガリウムで“パワー半導体”を作り、様々な電気部品の小型化や省電力化を目指す。例えば、既に殆どのクーラーは省電力の為の“インバーター”でパワー半導体を使っている。LEDのように直接、私たちの目には触れないが、“縁の下の力持ち”としてベース電力の削減の為に働く。北里大学の大村智特別栄誉教授は、家畜用の抗寄生虫薬の開発を狙った。後に、この薬は人間にも効くことがわかり、アフリカ等で大勢の人を失明等の不幸から救うことになった。若き日のビル・ゲイツ氏も、最初は自分の興味からパソコン弄りを始めただけかもしれない。だが、今やインターネットやデジタル技術は社会の隅々にまで浸透し、我々のライフスタイルや意識をも変えつつある。科学技術は、時に本人も予想しないほど大きく育つ。細々とした取り組みから出発しても、その芽を他の研究者・技術者が引き継ぎ発展させていく。軈て、幾つもの流れが合わさって、途上国の生活水準の向上や、感染症の予防等の複雑な問題にも取り組めるようになる。貧困の根絶や社会の安定は、延いては紛争やテロの抑止にも繋がる。単に日本の経済を引っ張るというだけに止まらず、人類全体の幸福に貢献するという大きな視野を持って、地道な基礎研究を支援する必要がある。 (科学部 山田哲朗)


≡読売新聞 2016年1月3日付掲載≡


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