【2016年の世界経済を読み解く】(01) 2016年の世界経済は“継続”か“前進”か――中国の減速や日本の停滞で足踏み状態だった1年を経て待ち望まれる一歩を踏み出すことはできるか?

21世紀に入って早15年。過ぎし年を顧みれば、世界経済は驚くほどに停滞していた。しかし、2016年は何らかのサプライズがあるかもしれない。この先の世界経済を左右しそうな要因の幾つかを検討してみよう。

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①原油市場
原油価格は、2016年も低水準で推移するだろう。一過性の政策変更や混乱はあっても、構造的要因に依って需要が抑制され、供給過剰が続く可能性が高い為だ。需要が減る理由としては、中国経済の一段の減速や、日本経済の相も変わらぬ停滞、そしてヨーロッパ経済の低成長が挙げられる。技術革新に依り、とりわけ自動車部門で脱化石燃料の動きが(徐々にだが)進み、渋滞の激しい都市部で電車や地下鉄の利用増が見込まれ、在宅勤務の普及で通勤者が減るといった要因もある。地球温暖化に対する懸念の高まりも、各国で化石燃料離れを加速させるだろう。供給面について言えば、中東の盟主であるサウジアラビアは高水準の産出量を維持するだろう。先進国市場でのシェアを維持するのが基本戦略だし、敵対的な産油国(イラン、イラク、ロシア)に対抗する意味もある。実際、イランとイラクは地政学的な情勢が改善すれば増産に動く。アラブ首長国連邦も、石油が出ない首長国のドバイをいざという時に救済する必要から、容易には減産に踏み切れない。一方で、アメリカ、カナダ、メキシコは原油の潤沢な供給国であり続けるだろう。尤も、原油価格が今のような低水準のままであれば、特にアメリカのシェールガス・石油業界では、小規模で非効率な業者の倒産や整理統合が続くことだろう。供給サイドには“ワイルドカード”的な国もある。2015年12月の議会選挙で与党が惨敗し、真の経済改革に向けて期待が高まるベネズエラや、2015年末に統一政府樹立の動きが始まった北アフリカのリビア等だ。

②日本
世界3位の経済大国である日本は、2015年の第3四半期にどうにか経済の縮小を免れた。GDPの成長率(年率換算)は速報値でマイナス0.8%とされていたが、その後の改訂値ではプラス1%に上方修正された。辛うじて景気後退は免れた訳だが、日本経済の成長は依然として粗止まっている。このままだと、“失われた20年”に“ゼロ成長の10年”が続くことになりかねない。安倍晋三首相は矢継ぎ早に野心的な経済政策を打ち出してきたが、打つ手は限られているし、その手が正しい保証も無い。大規模な公共事業や大胆な金融緩和に頼るばかりだと、何れどこかでツケが回ってくる。安倍政権の対策は伝統的な処方の域を出ず、近視眼的だ。労働市場の改革については一定の前進が見られるものの、日本の硬直した経済構造に根本的な変化を齎す改革には尻込みしているように見受けられる。




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③金利
7年間も事実上のゼロ金利(実質ではマイナス金利となることが多かった)政策を続けてきたアメリカの『連邦準備理事会(FRB)』が、2015年12月の『連邦公開市場委員会(FOMC)』で政策金利の引き上げに踏み切ることくらい、エコノミストでなくても予想できた筈だ。そして利上げの幅も、大方の予想通りミクロの世界の0.25%だった。但し、今回の利上げに関する限り、上げ幅は関係ない。FRBにとって最も重要なのは、アメリカだけでなく世界中の金融市場に対して、「もうゼロ金利の時代は終わりだ」というメッセージを送ることだった。また、今回の利上げはFRBが自らを追い込んだ結果とも言える。抑々、2015年12月のFOMCのずっと以前から利上げの実施は既定事項であり、「問題は時期だけだ」というシグナルを発していた。その為、FOMCの投票は、FRBがアメリカ経済の復活に確信を抱いたか否かの投票と化していた。投票結果が「否」――つまり利上げ見送りとなれば、世界経済が大混乱に陥る危険さえあった。それは危険なゲームだった。中央銀行は本来、政治から独立して金融政策を決めるべきで、日々の政治論争を超越した存在でなければならないし、そう見せなければならない。ところが、2015年9月には『国際通貨基金(IMF)』と世界銀行が新興国経済の失速を懸念して、同月のFOMCでの利上げを強く牽制した。そして実際、FRBは利上げを見送った。その後、10月のFOMCを前に、アメリカ経済の予想外の弱さを示す新たなデータが発表された。FRBにとっては利上げに向けた勢いを削がれた格好だったが、もっと重要だったのは、このデータがFRBの9月の判断を正当化する助けになったことだった。それでも、FRBの独立性に対する信頼がいくらか損なわれたのは確かだ。信頼を取り戻す為に、FRBが2016年1月のFOMCまで利上げを遅らせる可能性も十分にあった。若しそうなっていたら、2015年末のFOMC決定に伴う公式声明(この声明こそ市場が最も重視するものだ)でも、これまでと殆ど代わり映えのしない文言をFRBは使っていたことだろう。即ち、「アメリカ経済についての自信は回復したが、潜在的なインフレ圧力について、より確信的な見通しが得られるのを待ちたい」という文言だ。

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④中国
2016年も、中国経済の減速は世界経済の成長の大きなリスク要因になるだろう。実際、中国経済は悪化の一途を辿りそうだ。苦境に立たされた中国政府は様々な政策を打ってはいるが、矛盾した結果を招いている。世間の注目は、主要な経済統計とその月別変動に集まり易い。それだけ見ても冴えない数字ばかりなのだが、中国経済の実態はもっと酷い。政府は大幅な金融緩和を行い(1年間に利下げ6回と銀行の預金準備率の引き下げ)、多数の新規インフラ投資を承認してきた。だが、工業生産の伸び率は5~6%に留まっている。国内の建設需要の縮小を考えれば当然だが、特に製鉄業界のダメージは大きい。それ以外で政府のインフラ増強策の対象になっている分野(水道・農業・公共住宅等)に関しても、公式の監査報告に依れば、予算のうち142億元(約22.3億ドル)は未消化だという。これは、「政策の実施能力に問題がある」という確かな証拠だ。対照的に、小売り部門の売り上げは10~11%のペースで伸びている。どこの国でもそうだが、一般的に小売り部門の伸びは良い兆候と解釈できる。中国政府も長年、「内需拡大に努めている」と主張してきた。しかし、現実の中国経済は個人消費よりも産業部門に過度に依存しており、その基本的な構造は大して変わっていない。だから、少なくとも短期的には、中国は欲しい持ち札(個人消費)ではなく、現にある持ち札(産業部門の投資)で勝負するしかない。但し、中国の工場の過剰設備は深刻で、不動産部門でも供給のだぶつきが酷い。輸出は減り、デフレ懸念が広がり始めている。その上、国内には膨大な債務が積み上がっている。中国経済の中核である巨大な国有企業は、中国共産党の庇護の下で肥大化するばかりだし、4大国有銀行からの借金を滅多に返済しないでいる。結果、この国の設備投資は未だに10%を超えるペースで増えている。中国政府は、対象を絞り込んだ景気刺激策も用いている。例えば、(内需主導型経済への移行という政策目標とは矛盾するが)取り敢えず輸出部門の成長を促す為に、海外での稼ぎに対する課税を減らしている。これでは、国内の過剰生産を外国に輸出しているに等しい。また、国内での小型乗用車購入に対する10%の減税も発表している。当然、自動車の販売台数は伸びているが、大気汚染を悪化させる結果を招いてもいる。現状でも大気汚染はあまりに深刻で、一部の大都市では自動車の使用を制限している。2015年末には政府が警報を発し、市民に外出を控えるよう呼び掛ける事態もあった。あれやこれやの矛盾した政策は今後も続き、中国の長期的な成長を阻む構造的な障害となるだろう。不幸なことに、中国経済の構造改革が最も必要な時期に、中国は成長の減速期に入ってしまった。この状況で政府が国民に“変化を受け入れる”よう求めるのは難しい。

⑤ヨーロッパ連合(EU)
EU各国の景気動向にはバラつきがあるが、取り敢えずギリシャがユーロ圏の緊縮策を(仮令一時的にでも)受け入れたことで、ユーロ圏は辛うじて崩壊の危機を回避できた。しかし、今年は遂に危機が現実となるかもしれない。現在のところ、ユーロ圏19ヵ国の2016年の成長率は、平均して1.5%程度と予想されている。ドイツは平均を若干上回ると見られる。一方、今後何年も破綻回避に取り組むことになりそうなギリシャの経済は、2016年も1%超減のマイナス成長になりそうだ。ユーロ加盟国は、財政赤字をGDPの3%以内に抑えなければならないことになっている。しかし、特にイタリアやスペイン、そしてフランスさえも、財政赤字額の対GDP比は3%を超えている。現在のところは、『ヨーロッパ中央銀行(ECB)』に依る大胆な金融緩和と原油価格の低迷で何とか生き延びているが、時間切れは近い。根本的な財政再建策が実行されない限り、ユーロ圏経済の見通しは暗いままだ。 (ジョンズ・ホプキンズ大学上席研究員 ハリー・ブロードマン)(※筆者は『世界銀行』『アメリカ大統領経済諮問委員会』等で要職を務めた)


キャプチャ  2016年1月12日号掲載


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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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