【2016年の世界経済を読み解く】(02) IMFトップが語る世界経済の行方――中国とアメリカの経済モデル転換の影響を如何に管理するかが鍵だ

20160110 05
昨年、パリで起きた同時多発テロとヨーロッパの難民流入は、北アフリカと中東の政治的・経済的緊張が表面化した最新の例に過ぎない。ヨーロッパ特有の出来事でもない。紛争は世界中で起きていて、故郷を追われた人は世界で6000万人に上る。アメリカの利上げ観測と中国の景気減速は、世界経済に不透明感と乱高下を齎した。原油や鉄鉱石等の資源安は、これらの輸出に頼る国々に問題を突き付けると共に、世界貿易の伸びを大幅に鈍化させた。世界経済がこれほど停滞している理由の1つは、世界金融危機から7年経っても金融システムが安定していないことだ。今や、新興国でも金融リスクが高まっている。こうしたこと全てを考え合わせると、2016年の世界経済は成長にバラつきがあり、全体としては不本意なものになるだろう。生産性の低下や少子高齢化、そして世界金融危機の遺産に足を引っ張られて、中期的な成長の見通しも弱くなっている。一部の先進国――とりわけヨーロッパ諸国では、巨額の財政赤字や低調な投資体力の無い銀行が引き続き重荷になるだろう。多くの新興国では、金融危機後の借金や投資頼みの成長に対する調整が続く筈だ。こうした見通しに大きな影響を与えるのは、経済モデルの転換が世界に齎すスピルオーバー(波及効果)とスピルバック(跳ね返り効果)だ。特に大きな転換は、中国の新たな成長モデルへの脱皮と、アメリカの金融政策の正常化だろう。こうした変更は必要且つ健全なものであり、中国にもアメリカにも世界にもいいことだ。問題は、それをどうやって効率的且つスムーズに進めるかだ。

中国はこれまでよりもペースを落とし、より安定した持続的な成長を実現するべく、資源集約型産業に偏重した経済モデルから、サービスと消費主導の経済への脱皮を図っている。中国の政治家は改革を実行しつつ、需要と金融の安定を維持するという難しい舵取りを迫られている。中国の経済モデルの転換は昨年、世界に大きなスピルオーバーを齎した。「中国の成長減速が加速する」との不安から、資源市場で下げ圧力が高まり(中国は世界の鉄鉱石生産の60%を消費している)、資源輸出国が通貨安に見舞われたのだ。今年も中国の設備投資は縮小して、資源安は長期化する可能性がある。オーストラリアやブラジルといった資源輸出国の政策当局は、慎重な管理を求められるだろう。もう1つの大きなモデル転換は、『アメリカ連邦準備理事会(FRB)』の利上げと関係している。事実上のゼロ金利解除はアメリカ経済の環境改善を反映したもので、それ自体は健全だ。ただ、これまでのゼロ金利は投資マネーをリスクの高い株や債券に向けさせ、これらの市場の上昇を支えてきた。だから、FRBも金利を正常化すると同時に、金融市場の混乱を最小限に抑える難しい舵取りを迫られている。このアメリカの利上げも、世界へのスピルオーバーの可能性がある。利上げの観測だけで、新興国や途上国の資金調達コストは高まっていた。それ自体は世界経済に必要な調整だが、そのプロセスは、流動性が低下している国債市場の構造変化に依って複雑になる可能性がある。「新興国や途上国は、これまでよりはアメリカの利上げに対する準備ができている」と言えるだろう。それでも不安はある。これらの国の多くは2008年の金融危機以降、大胆な財政出動や金融政策に依って世界経済の成長を牽引してきた。しかし、その政策は政府にも民間にも莫大な借金を生んだ。その多くがドル建てだ。だから、アメリカの利上げとドル高は通貨のミスマッチを引き起こし、企業の経営破綻、更には銀行の経営や財政を悪化させる恐れがある。




経済モデルの転換が齎すリスクは、需要を下支えし、財政を安定させ、構造改革を実施することで管理できる。アメリカと(恐らく)イギリスを除く殆どの先進国は、引き続き緩和的な金融政策を取る必要があるだろう。ただ、全ての先進国はスピルオーバーの危険を考慮し、市場に明確なメッセージを送ることを心掛けるべきだ。ユーロ圏は、約9000億ユーロの不良債権処理に全力で取り組めば、経済の見通しは明るくなるだろう。そうなれば銀行は融資を拡大し、市場は自信を取り戻せる。新興国は、大手企業の外貨取引に伴うリスクの監視を強化すると共に、個々の金融機関の健全性だけでなく、金融システム全体の安定を確保すべきだ。ノンバンクの透明性確保と監視強化は、新興国だけでなく世界的に規制が必要な領域だ。財政面では、各国はできるだけ柔軟な成長政策を取る必要がある。『国際通貨基金(IMF)』は引き続き、財政刺激策を取る余裕のある先進国には公共投資(特に質の高いインフラ整備)を推奨している。しっかりした中期的財政計画の立案も、特にアメリカと日本にとっては重要課題だ。財政に余裕がある資源輸出国は、資源安に適応するような投資をするべきだ。余裕が無い国は、税の改革やエネルギー価格の改定、歳出の見直し等、成長重視の財政改革を進める必要がある。資源高の時代に、将来に備えて財政の枠組みを強化したチリ、ノルウェー、ボツワナ等の資源輸出国は、現在も成長を維持している。そこから学ぶことは多い。最後に、全ての国が労働市場・製品市場・インフラ・教育&医療システム、そして通商政策を改革する必要がある。それには当然、優れた政治手腕と政策が必要だ。気候変動・貿易・金融・移民といった問題のグローバルな性格を考えると、緊急且つ幅広い国際協力は不可欠だ。 昨年9月の国連総会で採択された『持続可能な開発目標』や、気候変動に関する12月の『パリ協定』は、こうした国際協力が結実したもので、私は非常に嬉しく思っている。同様に、中東とヨーロッパの難民危機は単なる人道問題ではない。私たち全員に影響を与える経済問題であり、私たち全員が手を差し伸べる義務がある。2016年に世界が直面する問題は巨大だ。しかし、正しい政策とリーダーシップと協力があれば、私たちは問題に対処し、万人に恩恵を齎すことができる。 (国際通貨基金専務理事 クリスティーヌ・ラガルド)


キャプチャ  2016年1月12日号掲載


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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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