【2016年の世界経済を読み解く】(03) 新シルクロードの果てしない夢――今年も続く“一帯一路”構想、自国の影響力強化の他に周辺国への経済的な恩恵も見込める

20160110 06
2015年は中国経済の減速と、中国が改革を継続して内需・サービス拡大に基づく新成長モデルへ移行できるかが、世界の注目を浴びた。しかし、中国国内では「長期的に安定した経済成長が続く」という自信は揺らいでいない。指導部は景気減速を間違いなく意識しているが、引き続き習近平国家主席の新シルクロード戦略構想“一帯一路”を確実に実現することを重視している。それは、2016年も変わらない筈だ。鄧小平が“改革開放”政策を打ち出してから40年足らずで、中国は高中所得国の仲間入りを果たした。今ではモノの貿易総額は世界最大で、GDPは世界第2位(購買力平価ベースでは第1位)だ。とは言え、中国指導部が承知している通り、習の言う“中華民族の偉大なる復興”を実現するには、それだけでは不十分だ。世界の高所得国と肩を並べるには、国の内外で市場とリソースをより有効に使う必要がある。同時に、国際社会でより責任を負い、影響力を強めなければならない。現在の国際秩序は、紛れもなくアメリカとその同盟国に有利にできている。第2次世界大戦後に国際秩序が確立された当時は、それで理に適っていた。しかし、世界の勢力均衡は変わった。中国は、国際情勢の“責任ある利害関係者”になるよう期待されている。その為には、国際的な意思決定に中国がより積極的に関与する必要がある。

とは言え、この国際的合意を行動に移すのは中々難しいようだ。2009年の『20ヵ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)』で、中国の胡錦濤国家主席(当時)とアメリカのバラク・オバマ大統領は、『国際通貨基金(IMF)』における中国の議決権を拡大することで合意。しかし翌年、アメリカ議会の猛反発に遭って実現せず仕舞いだった。「中国は国際的責任を負うべきだ」と口では言いながら、アメリカは長年、アジアにおいてすら中国の影響力を封じ込めようとするかのように振る舞っている。実際、それこそがオバマがアジアへの“リバランス(再均衡)”に踏み切った最大の動機だ。アメリカ主導に依る中国抜きの『環太平洋経済連携協定(TPP)』も、アジア太平洋地域におけるアメリカの戦略的優位を維持し、地政学的・経済的利害を守るのが狙いだと思える。要するに、中国が然るべき影響力を確保できるかは中国次第。そこで登場するのが、習の“一帯一路”構想だ。これは読んで字の如く、古代の交易路であるシルクロードをヒントに、陸の“シルクロード経済ベルト”(一帯)と海の“21世紀の海上シルクロード”(一路)で、中国をアジアとアフリカ、最終的にはヨーロッパを結ぶという戦略。道路や鉄道から港や資源パイプラインまで、旧シルクロード全域におけるインフラ整備に依って、「共通の利益と運命と責任で結ばれた共同体を確立しよう」という訳だ。




インフラ整備なら、中国はお手のものだ。国内向けの巨額のインフラ投資が経済成長の原動力になってきた面もあり、様々な建材産業は言うまでもなく、インフラ投資分野での経験が豊富だ。しかも、費用は潤沢な外貨準備で賄える。中国は既に、自ら設立を主導した『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』に外貨準備の一部を出資。5大陸57ヵ国が参加する(イギリス、フランス、ドイツ等といったアメリカの同盟国の一部もアメリカの反対を押し切って参加)AIIBは、特にアジア太平洋地域でインフラ整備の資金を必要とする途上国に融資する初の国際金融機関だ。こうした投資の見返りは大きい。第2次世界大戦以降の流れが示すように、(労働力に依る業務の割合が大きい)労働集約型産業の生産の海外移転の波に巧く乗れれば、途上国は20~30年に亘る高度経済成長も夢ではない。そうなれば、より発展した中国等の国々にとっては待望の新興市場が生まれ、中国国内ではより付加価値の高い産業が根付く余地ができる。人件費の上昇で中国の労働集約型製造業の競争力が低下している今、より所得の低い国は魅力を増している。インフラが整備されれば、労働集約型の中国企業の生産移転先に一層相応しくなる筈だ。中国企業の進出には、大きな雇用創出効果が期待できる。日本の労働集約型産業が海外生産移転を始めた1960年代、日本の製造業は970万人を雇用していた。1980年代に同じ道を辿った“アジアの虎”(香港・シンガポール・韓国・台湾)の場合は530万人。これに対し、中国の製造業界では1億2500万人が働き、8500万人が単純労働に従事している。新シルクロード地域の全ての途上国が一斉に工業化・近代化を成し遂げられるくらいの数だ。中国の成長鈍化と株価や為替レートの下方修正を世界が懸念する中、当の中国はグローバル経済全体に計り知れない恩恵を齎すイニシアティブを推進している。一帯一路は、他の途上国にとって絶好のチャンスとなるばかりではない。中国も国内外の市場とリソースをこれまで以上に有効活用し、グローバル経済の牽引役であり続けることができる筈だ。 (世界銀行元チーフエコノミスト 林毅夫)


キャプチャ  2016年1月12日号掲載


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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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