【2016年の世界経済を読み解く】(04) “大いなる不調”への処方箋――世界的な経済停滞の本質は格差と緊縮策に依る需要不足、金融改革と政府支出で眠れる需要を呼び起こせ

20160110 07
2015年は厳しい年だった。40年近く急成長を続けた中国経済が初めて大幅に減速し、ブラジルは景気後退に陥った。ユーロ圏はギリシャ問題を巡るメルトダウンを回避できたものの、経済停滞に近い状態が続き、“失われた10年”に突入している。アメリカは昨年、2008年金融危機以降の大規模景気後退(グレートリセッション)に漸くピリオドを打てる筈だった。だが、経済回復は月並みなレベルに留まっている。『国際通貨基金(IMF)』のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、グローバル経済の現状を「新たな凡庸」と呼んでいる。専門家の間には、「世界経済は少なくとも長期停滞に、悪くすれば不況に落ち込みかねない」と危惧する悲観的な声もある。私は、2010年に発表した著書『フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか』(邦訳は徳間書店)で、「適切な対応をしなければ、世界は“大いなる不調(グレートマレーズ)”に陥るリスクがある」と警告した。残念なことに、私は正しかった。打つべき手を打たなかったせいで、世界経済は恐れた通りの状態になっている。

怠情が生んだ現状を理解するのは容易く、治療法は簡単に見つかる。今の世界は総需要不足に直面している。こうした事態を齎したのは、格差拡大と緊縮財政への妄信だ。総体的に言えば、富裕層の支出は貧困層より遥かに少ない。つまり、金持ちに集まるカネが増えるほど需要は減る。同時に、ドイツ等の国際収支黒字を維持する国の構造が、需要不足という大問題の原因になっている。ヨーロッパに吹き荒れる財政緊縮の嵐は、より穏やかな形ながら、アメリカにも襲い掛かっている。アメリカの公的部門雇用者数は、金融危機以前と比べて50万人減少。2008年以降、公共機関が通常のペースで雇用を行っていたら、その数は“200万人増”になっていた筈だ。更に、世界の多くの国が構造改革の必要性に直面している。欧米は製造業からサービス業へのシフト、中国は輸出主導型から国内消費主導型の経済への転換を迫られている。天然資源に依存するアフリカや中南米諸国は、中国の台頭に支えられた1次産品の高騰を生かせず、価格の下落に悩んでいる。世界には膨大な需要が眠っている。それに応えることができれば、成長を促進することも夢ではない。例えば、インフラ分野だけでも数兆ドル規模の投資の余地がある(途上国のみならず、長らく中核インフラに十分な投資をしていないアメリカも有力な市場になるだろう)。加えて、地球温暖化に対応する為、全世界が設備等をアップデートする必要に駆られている。金融機関は健全性を取り戻しつつあるが、相変わらずその本分を忘れがちだ。利益獲得や市場操作は得意でも、金融仲介という本来の機能は果たせないまま。近視眼的で機能不全の金融部門こそ、定年後に備える人々の長期預金や政府系ファンドをインフラへの長期投資に生かす道を阻む張本人だ。




『アメリカ連邦準備理事会(FRB)』のベン・バーナンキ前議長曰く、世界は“貯蓄過剰”に悩んでいる。誰も住まない砂漠に住宅を建設する事業しか投資先が存在しないなら、貯蓄が過剰になるのもわかる。だが現実には、世界には資金が不足しており、社会的投資収益率が高いプロジェクトですら融資を受けられないことが多い。世界経済の不調を治す唯一の方法は、総需要を増やすこと。その為には、富を広く再分配するべきだ。金融システムの抜本的改革も必要だ。金融機関の行動が人々の生活を脅かす事態を防くだけでなく、長期投資の資金需要に応える仕組みを作るべきだ。但し、最も重要な問題の幾つかは、政府投資無しには解決できない。インフラ・教育・テクノロジー・環境分野に資金を投じ、構造改革を促すことが各国政府には求められている。グローバル経済に立ちはだかる障害の根本原因は、経済そのものではなく、政治とイデオロギーにある。民間部門の強欲や利益重視姿勢に依った格差や地球環境の悪化は、最早否定できないレベルに達している。市場は自力では問題を解決することも、繁栄を回復させることもできない。求められているのは積極的な政策だ。言い換えれば、政府は極度の“赤字嫌悪”を克服しなければならない。実質マイナス金利になっているアメリカやドイツは、必要な投資を行う為に借金しても構わない筈だ。その他の国も、多くの場合は公共投資収益率が資本コストを遥かに上回っている。借り入れ制約下にある国も、諦めることはない。政府支出を増大させ、同じ分だけ租税収入を増加させれば、国民所得も支出増大分だけ増加する。にも拘らず、多くの国は均衡予算要求に捉われている。楽観主義者は、「今年は昨年よりいい年になる」と言う。正しい予測だとしても、改善の規模は実感できない程度に留まるだろう。総需要不足を解決しない限り、“大いなる不調”は続く。 (コロンビア大学教授 ジョセフ・スティグリッツ)


キャプチャ  2016年1月12日号掲載
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