【2016年の世界経済を読み解く】(10) 長期停滞する世界経済――先進国は最早資産バブルに頼る以外経済成長を維持する方法が無い、新たな局面で求められる立て直し策とは?

20160111 09
世界経済にとって2015年は、“長期停滞”という慢性疾患が、単なる仮説から明白な現実的脅威として浮上した年だった。それに依れば、先進国は通常の政策的対応では治療できない経済成長の鈍化に“感染”している。具体的な症状は、人口の高齢化・所得格差・生産性向上の縮小・雇用創出の鈍化・巨額の債務等だ。これらの要因に依って、欧米だけでなく中国の経済成長も、1年前の予測に比べて大きく落ち込んだ。今や先進国も途上国も、新たな世界経済の減速に脅えている。世界は“失われた20年”を経験した日本と同じ病に罹ったのか? 両者の病状は益々似てきている。中国の株バブルとその崩壊、昨年6月以降の当局に依る強引な株価下支え策は、同国の金融システムの深刻な不調を示唆する最新の事例に他ならない。一部の推定に依れば、現在の中国の経済成長率は3%を下回っている(公式統計は決して認めないが)。アメリカも経済成長のペースは緩慢なままで、企業収益の伸びには急ブレーキがかかった。アメリカ以外では、「“連邦準備理事会(FRB)”の利上げが新興国からの資金流出に拍車を掛け、これらの国々の財政状況を更に悪化させるのではないか」と懸念されている。以上の診断から、日本は今や全ての主要な資本主義国を脅かしている慢性疾患の“患者第1号”と見做されている。

長期停滞論の主唱者は、クリントン政権の財務長官を務めたローレンス・サマーズだ。「先進国は深刻な需要不足の為、資産バブルに頼る以外、経済成長を維持できない」と、サマーズは2013年末に『国際通貨基金(IMF)』での講演で警告した。「事実上のゼロ金利が6年以上も続いているにも拘らず、先進国の民間投資は弱いままで、完全雇用を維持できない」と、サマーズは指摘する。その結果、実質GDPと潜在GDPとの間に恒常的なギャップが生じているというのだ。この状態を、経済学者は“長期停滞”と呼ぶ。サマーズは2015年の論文集『長期停滞 事実、原因、対策』で、こう述べている。「(長期停滞論は)先進国の弱い景気回復ペースと、ますます大きな懸念となっている金融の安定性問題を説明できる可能性がある」。更に、各国の指導者が世界経済の新たな立て直し戦略を模索している今、長期停滞論は日本側からの視点が重要だということを浮き彫りにするものでもある。多くの日本人の目には、この修正主義的立場は新鮮に映るだろう。外国の識者は長い間、力強い成長を実現できない日本を嘲笑してきた。多くの経済学者は、日本を経済的衰退の危機に対する無策と失敗の典型例と位置付けた。アメリカを中心とするネオリベラル(新自由主義)派のエコノミストは、日本に叱責を加え、規制緩和・金融市場の自由化・“ゾンビ企業”の退出を説いた。ネオリベラルから見れば、“創造的破壊”の必要性はあらゆる社会的副作用を上回るものだった。だが、2007~2008年にアメリカでサブプライムロー(信用度の低い個人向け住宅融資)危機が発生し、それが世界金融危機に発展すると、この主張の信頼性に疑問符が付いた。何とも皮肉な話だが、2008~2009年には自由市場経済の権化とも言うべきアメリカの大手金融機関が、次々と破綻や公的資金注入に追い込まれた。アメリカ最大の自動車メーカーも同様だ。ヨーロッパも、アメリカと似たような救済措置を取った。




欧米の当局者は嘗て、日本政府の無策を嘲笑したが、いざ自分たちが危機に直面すると、同じようになす術が無いことを露呈したのだ。現在から過去を振り返る時、多くの外国人専門家は日本が経験した苦悩にもっと共感を寄せるようになった。逆に現在から未来を考える時、“患者第1号”は世界に多くのことを教えられる筈だ。世界は日本の失われた20年から、主要先進国が直面している課題に応用できる有益な教訓を引き出せないか調べている。確かに、日本は未だ病気が完治した訳ではない。依然としてGDPの伸びは細やかで、それさえも公的債務を急増させることで何とか維持しているのが実情だ。安倍晋三首相は就任から4年目に入ったが、アベノミクスの“第3の矢”――つまり、日本経済の構造改革は未だ進んでいない。それでも、日本は称賛に値する実績を幾つか挙げている。先ず、日本は1990年代以降、現在のヨーロッパに匹敵するような失業危機に直面していない。デトロイトのような財政破綻に見舞われた主要都市も無い。日本の当局者は、教育システムと社会保障のセーフティーネットを維持することで、無数の若年層と高齢者を保護している。「日本が経験した経済の下降トレンドはあまりに大規模で、流れを反転させるのは困難だ」と専門家は警告する。『野村総合研究所』のリチャード・クーは、「政府の大型財政政策が唯一の対策だが、その効果はゆっくりとしたもので、政策の継続は政治的に難しい」と指摘する。「残念ながら民主主義は、この種の景気後退に対処するのには向いていない」とクーは言う。理由は、あまりにも早い段階で公的支出の削減を求める強い圧力が政府に伸し掛かるからだ。対照的に独裁体制の中国では、2008年後半のような大型の景気刺激策が可能であり、おかげで中国は世界経済が縮小している時期に、8%以上の経済成長を続けることができたという。長期停滞を巡る議論は過熱しているが、日本にとって慰めとなる事実が1つある。最早、問題を抱えているのは日本だけではないということだ。 (本誌元北京支局長・元東京支局長 ジョージ・ウェアフリッツ&本誌編集長 横田孝) =おわり

               ◇

2015年末、アメリカは遂に政策金利の引き上げに踏み切り、2008年から続いた実質的なゼロ金利政策を解除しました。長く続いた、緩和マネーが経済秩序を保つ時代は終わろうとしています。先進国のみならず、中国までもが人口減や格差拡大に起因する“長期停滞”という構造的な問題に直面しつつ、この大きな転換点を迎える世界は今後どうなるのか? 2016年の経済の論点とトレンドを展望しました。 (本誌 藤田岳人)


キャプチャ  2016年1月12日号掲載


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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

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