【ヒーローたちの戦い】(上) “包囲網”を乗り越えろ! 錦織圭に今必要なもの

20160121 01
2014年の全米オープンテニスで準優勝し、同年11月には、年間成績の上位8人で争うシーズン最終戦のATPワールドツアーファイナルズにアジア男子として初めてシングルスで出場し、4強入りした。「愈々、次は4大大会初制覇か」と大きな期待を背負って、錦織圭の2015年シーズンは幕を開けた。最初の4大大会である全豪オープンはベスト8。準々決勝で前年覇者のスタン・バブリンカ(スイス)に敗れた。次の4大大会である全仏オープンも8強止まり。強風が吹く悪コンディションにも邪魔され、地元フランスのジョーウィルフリード・ツォンガに惜敗した。ウィンブルドンでは、前哨戦で痛めた左脹脛が回復せず、2回戦棄権の結果に終わる。そして、シーズン最後の4大大会である全米オープンは、“伏兵”ブノワ・ ペア(フランス)にまさかの1回戦負け。相手の変則的なテニスにリズムを崩され、マッチポイントを握りながら逆転を許した。メジャー初優勝の期待は2016年以降に持ち越しとなった。4大大会で2度の8強入り、メンフィス(アメリカ)とバルセロナ(スペイン)で連覇を飾る等、ツアー3勝の成績は十分合格点と言える。年間を通して世界ランキング10位以内を保ったことは特筆すべきだろう。しかし、2015年に世論調査機関の『中央調査社』が発表した『最も好きなスポーツ選手』に初めて選ばれる等、国民的ヒーローになりつつある錦織には、より大きな“勲章”が期待されている。世界の頂点を極める為に、今の課題はどこにあるのか?

錦織は2014年シーズン、ネットに近い攻撃的なポジションからの“速攻”でテニス界を驚かせた。速い攻めで相手から時間を奪い、守備を崩す。そうすることで決定打のチャンスが増えるのだ。2014年全米の準決勝で世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)を下したのも、その攻めが相手の守備網を切り裂いたからだ。178㎝と小兵の錦織が、パワーテニスが優勢の男子ツアーを制する為にコーチのマイケル・チャン等と編み出した戦術である。錦織の父親で、コーチやトレーナー等からなる“チーム錦織”の舵取り役を務める清志氏は、その攻め方を“未来が見えるテニス”と表現した。これまで誰も試みることが無かった超速攻型のテニスであり、錦織がこの戦術で自ら未来を切り開くとの期待も込められているのだろう。全米準優勝でツアーに旋風を巻き起こした錦織は、必然的にライバルたちにマークされ、研究対象となった。弱点とされるセカンドサーブを攻めるのは対戦相手の常套手段となり、武器のサービスリターンを封じる為に対戦相手はサーブを工夫した。そして、錦織と同じように速い攻めを取り入れる選手も増えている。「男子テニス界全体が速い展開を目指している」というのは清志氏の分析。様子を見ながらの打ち合いを短縮し、ラリーの2本目・3本目の早い段階から仕掛けていく。しかも、コートの後陣深く守るのではなく、ポジションを前にして速攻を挑む――謂わば“錦織スタイル”の速攻が浸透し始めているというのだ。「速い攻めを取り入れる選手が目立つ」という見方は、清志氏だけのものではない。どちらかと言えば守備型で仕掛けの遅いラファエル・ナダル(スペイン)の不振は、「男子ツアーのトレンドに乗り遅れたから」という見方は既に一般的なものになりつつある。包囲網が張り巡らされ、磨き上げた戦術が一般化していく中で、錦織はどう進むべきなのか。清志氏は、「今の方向性を貫く」と断言する。超速攻はリスクを伴う。より堅実な戦いを目指すなら、チャンスボールをじっくり待ち、攻められる時だけ攻める策を取るべきだろう。速攻は一歩間違えば自滅に繋がり、一本調子になって相手に対応されてしまう恐れもある。




それでも、「後戻りはできない」と清志氏は言う。「当然、いい面・悪い面はあると思う。でも、(ミスの)リスクはどっちみちあって、いつもショットが入る訳じゃない。それなら、速い展開に持っていくのがいいと思う」。身長190㎝超で、時速200kmのサーブを連発できる選手なら、無難な戦術を選ぶこともできる。しかし、「軽量級で、サーブが大きな武器にならない錦織だからこそ、リスクを伴う速攻に活路を見い出すのが最善」という見方である。そこには、“未来が見えるテニス”を真っ先に実践し、男子テニスにトレンドを持ち込んだ“先駆者”としての自負もあるのかもしれない。ただ、元々錦織は相手との駆け引きを楽しみながら、頭を使ってあの手この手を繰り出して戦う選手だ。速攻を指向するあまり、その最大の長所が薄れてしまう恐れはないのか? 実際、押せ押せだけになってしまい、引いたり躱したりという彼の最良の部分が後ろに引っ込む傾向も見られる。清志氏が、独特の表現でその疑問に答える。「今の方向性を貫きながら、駆け引きや頭を使うところも融合させていく。それが無いと面白くないし、勝てない。その部分が、これから成熟していくと思う」。サーブの確率やショットの安定性等、課題を挙げていけば限が無いが、「技術的にはかなり完成されてきた」と清志氏は見ている。ここ一番での集中力や土壇場で見せる精神力は、他に類を見ない錦織の長所だ。その土台の上に“未来が見えるテニス”を推し進め、プレーの剛柔が上手く融合していけば…。その時こそ、彼の「勝てない相手ももういない」の言葉が現実のものになる筈だ。


秋山英宏(あきやま・ひでひろ) スポーツジャーナリスト・『日本テニス協会』広報委員会副委員長。1961年、千葉県生まれ。大学卒業後にフリーライターとしてスポーツを中心に雑誌・新聞で執筆。1987年よりテニスの取材を始め、4大大会や国内外の主要トーナメントを広くカバー。テニス専門誌やスポーツ誌等に多くの試合レポート・インタビュー等を寄稿する他、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。


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