【ヒーローたちの戦い】(下) 日本人横綱は「欲しい」が「必要ではない」

20160121 02
正直に先に書くと、この原稿は「“日本人横綱は必要か”というテーマで書いてほしい」と言われたが、私は大相撲ファンとして、このテーマに興味が無い。日本人横綱がいなくなって、もう12年も経っている。私が大相撲を好きになってから二十数年も経つけれど、その半分以上の期間に亘って日本人横綱はいないのである。それでも私は大相撲に興味を失わず見続けているし、抑々最近は世間で“相撲女子(=スージョ)”等という言葉まで誕生し(この単語はどうかと思うが)、大相撲全体の人気は上がっている。つまり、「日本人横綱は、いたほうが盛り上がるかもしれないが、いなくても人気が復活してしまったし、この状況のせいで大相撲が崩壊している訳でもない。結果として、必要ではない」――冒頭の問いに対しては、この結論以外に無いのである。“日本人横綱必要論”の話をしたがるのは、大相撲を大鵬時代辺りから見てきている古参のファンか、若しくは根本的には大相撲に興味の無い人か、どちらかである。前者は、まあ仕方がないとも言える。高見山に始まって、小錦・曙・武蔵丸と来て、モンゴル勢全盛の今の時代に至り、自分の見てきた“古き良き日本人だけの大相撲”を侵されたような気分になるのだろう。現代にあっては排外主義的で遅れた考え方と言わざるを得ないが、心情的には理解できる。ただ、後者の“大相撲に興味が無い人”が厄介である。八百長報道があれば報道の上辺だけを掘って「けしからん」と言い、今は「ニュースで何となく見知った遠藤と逸ノ城だけ名前を覚えている」というような人たち。彼らみたいなマジョリティが、浅い知識で「今はモンゴル人しか強くないんでしょ? 日本人が強くないと面白くないよ」等と知ったような口調で話すのが、大方の世論となってしまうのである。

「必要かどうか?」ではなく、仮に「日本人横綱が欲しいか?」という問いだとしたら、私としては欲しい。自分は日本人だからオリンピックでは基本的に日本人を応援するし、やはり大相撲でもどちらかといえば日本人を応援してしまう。とは言え、「大相撲は国技である」「大相撲は日本の伝統文化である」という背景を過剰に意識すると、日本人を応援する気持ちが偶に「日本人以外の活躍は認めない」とする考えに転じそうになることがある。世論で言う“日本人横綱必要論”は、少し掘り返せば直ぐに単純な排外主義にぶち当たるように思う。単なる希望・欲望を“必要”という言い方で、如何にも正義であるかのようにする愚かしさ。危険な摩り替えである。そして、必死で心も“日本人”になろうとする外国出身の力士たちの気持ちに対して失礼である。しかし残念ながら、世論(特に大相撲に興味の無い人たち)の大勢は「日本人横綱は必要」なのであろう。その考えはあまり良くないものだとした上で、取り敢えず現時点で日本人横綱誕生の可能性について探ってみようと思う。この手の話題であれば、先ず若手の頃から期待をかけられ続けてきた稀勢の里について語るところだが、彼も昭和61年生まれなのでもう29歳。横綱で言えば朝青龍や若乃花(3代)が引退した年齢と同じで、ベテランの域と言ってもよい。他の日本人大関である琴奨菊や豪栄道も全員が昭和生まれで、若手とは言えない。だからいっそのこと、ここでは昭和生まれに見切りをつけ、平成生まれの日本人力士のみについて考えることにする。2015年秋場所現在、幕内に在位する平成生まれの日本人力士を列挙すると、高安・遠藤・琴勇輝・千代鳳・大栄翔・英乃海。平成生まれは現在26歳以下だが、このくらいの年齢の日本人の幕内力士がたった6名というのは、あまりに若手不足で淋しい。因みに、外国出身力士を含めても平成生まれの幕内力士はたった9名(幕内42人中)であり、ここのところ若手が育つのは遅い傾向にある。




先述した6名のうち、現時点で三役に手が届いたのは高安・千代鳳のたった2名。両者とも魅力的な力士ではあるが、幕内昇進後は一進一退が続いており、三役経験も1~2場所しかなく、横綱の可能性は厳しいと言わざるを得ない。人気先行型の遠藤は、確かに技術はあるものの、他の上位陣に比べると体格で劣り、膝の大怪我というハンディキャップも加わってしまった。大相撲人気への貢献は凄まじいが、三役も未経験では現時点で横綱昇進を想像できる状況にない。1つ下の地位である十両に目を向けると、平成生まれの日本人力士は13人(十両28人中)と、割と多く控えている。御嶽海・正代・阿武咲(最年少関取・19歳)等、今まさに破竹の勢いで成長を続ける力士もいる。ただ、この3人とも身長が180㎝前後で、体格的に恵まれているとは言えない。今の上位陣の身長を挙げると、白鵬が192㎝、日馬富士が185㎝、鶴竜が186㎝で、恐らく横綱になるであろう照ノ富士は192㎝である。稀勢の里も187㎝。一概に身長が全てを決める訳ではないが、上位で活躍できる力士は身長に恵まれた力士が多く、かなり不利ではある。10代の頃から期待されている輝(身長193㎝・21歳)が十両で伸び悩んでいる現状は、非常に残念である。こう見てくると、現段階の日本人関取で横綱昇進の可能性を考えられる力士はいない。「日本人横綱は必要」等と排外主義じみた言葉で自らを慰めても詮無い話で、やはり長い目で見るしかないのである。無敵の横綱である白鵬も、入門から幕下昇進の頃まではロクに注目もされていなかった訳で、誰も目をつけていない力士が急成長することは珍しいことではないのだ。


能町みね子(のうまち・みねこ) エッセイスト・イラストレーター。1979年、北海道生まれ。多くの雑誌でコラムやイラストを連載中。『オカマだけどOLやってます。』(竹書房)・『お家賃ですけど』(東京書籍)・『ひとりごはんの背中』(講談社)等著書多数。

               ◇

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■横綱はどこから来た?
1999年に昇進した武蔵丸から現役の3力士に至るまで、ここ5代の横綱は全て外国出身であり、日本人横綱は1998年の若乃花以来、実に17年間現れていない。現在の状況を思えば、嘗て外国人横綱の是非が議論されたという事実には隔世の感がある。これは、ハワイ出身の小錦の横綱昇進が取り沙汰されていた1992年に起こったもので、当時、『横綱審議委員会』の委員を務めていた作家の児島襄氏が『“外人横綱”は要らない』と題する論文を発表したのを始め、当の小錦が「自分が横綱になれないのは人種差別があるからだ」と国内外の新聞で発言したことで更に過熱した。だが、小錦の発言に対して『日本相撲協会』側は、「外国人とか日本人とか区別した覚えは無い。ただ、勝ち星が満たなかっただけだ」と表明。それを証明するように、翌1993年に同じくハワイ出身の曙が横綱に昇進する。外国人横綱の是非はその後、「何故、日本人力士は横綱になれないのか?」という議論へと移った。2010年にはモンゴル出身の横綱・朝青龍が問題行動から引退に追いこまれたが、これについても外国人だからではなく、個人の資質の問題として大方には受け止められた。


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